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どんな仕事も、好きな形に少し変えてみる。テレビ局員・漫画家・母親の真船佳奈さんが模索する「好き」を見失わない働き方

2012年、テレビ東京に入社し、AD(アシスタントディレクター)などを経験した真船佳奈さん。書き溜めていたテレビ局員の日常をコミカルに描いたエッセイ漫画がSNSで人気になり、この夏には漫画家として4冊目の著作を出版しました。

副業や複業が当たり前になった昨今ですが、真船さんは「漫画家の仕事も、テレビ局員の仕事と同じくらい大切にしている」と語ります。そんな真船さんの生活に、2022年より育児が加わりました。

いくつものタスクをこなすために、真船さんが徹底している仕事術や生活スタイルとは。「好き」を見失わないために大事にしているマインドを伺いました。

真船佳奈(まふね・かな)
テレビ東京の社員として勤務する傍ら、漫画家としても活動を展開。著書に『オンエアできない!〜女ADまふねこ、テレビ番組作ってます』(朝日新聞出版)、『今日もわたしをひとり占め』(サンマーク出版)がある。2023年8月に発売された『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるの、スマホだけ?!』(オーバーラップ)は、発売直後よりベストセラーとなる。

漫画家の活動で培われたことが、今の仕事に生きている

真船さんは現在、テレビ東京内でどんなお仕事をされているのでしょうか。

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真船

2023年4月に育休から復帰し、今はマーケティング局プロモーション部で番組宣伝の仕事をしています。

メインの業務は、その名の通り番組を宣伝するため、地上波やSNS・街頭ビジョンなど様々な媒体を使った宣伝企画を考えたり、宣伝番組のプロデューサー業務をしたりしています。

さらに並行して、精力的に漫画の執筆にも励まれています。漫画家を目指したきっかけは?

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真船

そもそも「漫画家になろう」と思っていたわけではなかったんです。でも、絵は好きだったのでバラエティ番組のAD時代に、「テレビの仕事って変だな〜」と思ったことを、絵日記的に書き溜めていたんですね。

それを、当時の上司だったテレビプロデューサーの佐久間宣行さんが「面白い」とご自身のSNSで紹介してくださって……。それを機に、2017年に初めての単行本を出版することが決まり、あれよあれよと漫画家デビューが決まりました。

急展開ですね……!

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真船

はい。でも実は、せっかく描いたものはできれば多くの人に読んでもらいたかったので、インフルエンサーでもあった佐久間さんに「ぜひSNSで紹介してください!」と勇気を出してお願いしに行きました。

ハングリー精神が旺盛だったのですね。

いまでも毎日欠かさずSNSで投稿されている姿を見て、漫画への気持ちの強さが垣間見られるなと感じます。

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真船

ありがとうございます。最近、総フォロワー数が11万人まで到達しました。今まで、「漫画を多くの人に読んでほしい」という一心で頑張ってきたんです。

でも、「気持ちだけ」ではなく、私なりにさまざまな工夫や実験を重ねてきました。たとえば、ほぼ毎日欠かさずSNSに投稿しフォロワーさんと積極的にコミュニケーションを取る、とか。

そこで培われた知見は、いまの仕事とリンクしているのでは?

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真船

いま携わっている番組宣伝の仕事では、まさに私が6年間漫画を描く上で続けてきたことをそのまま生かせていると感じています。

これまでの部署とはまったく違う仕事ですが、いまの状況は本当に恵まれているし楽しいです。最近では、ドラマの現場レポート漫画を描かせてもらったりもしています。

2023年に放送されているドラマ『初恋、ざらり』の現場レポート(提供)

自分が面白くないと感じたものは、絶対に発信しない

そんな真船さんが、自分の強みだと感じていることはありますか?

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真船

う〜ん、「やるからには、絶対に面白いと思われたい!」という強い気持ちですかね。

なんとなく惰性で描いた漫画ってやっぱりSNSで跳ねないし、「今回、すべったな……」と感じるんです。そういう作品をなるべく出したくない、出すなら爆笑をかっさらいたい!と常に思っています。

その感覚、テレビ局員らしいですね。

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真船

今の時代、SNSの反応は数字としてすぐ可視化されてしまう。せっかく描いたのに、指ですぐにスワイプされてしまうのはすごく悔しいです。

それは漫画じゃなくてテレビ局の仕事も一緒だし、まったく別の仕事をされている方もそうだと思います。やるからには少しでも自分が面白いほうがいいし、まわりの反応が大きいほうがやりがいにつながるじゃないですか。

真船さんは漫画の中で、ご自身を猫=「まふねこ」のキャラクターとして描いている。

おっしゃる通りですね、自分が楽しむことで、まわりの人が楽しんでくれる好循環も生まれると思います。

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真船

そうですよね。だから、もしあまり興味が持てなさそうな仕事がやってきたとしても、少しでもなんとか自分の好きな形に変えてやってみることが大事かな、と思うんです。

いま振り返ると、大学時代、気の乗らない課題のレポートこそ、自分が面白い!と思う形にして出したくて、紙芝居にしたり、クラスメイトの写真を使った漫画を作って提出したりしていましたね(笑)。

独創的ですね! どんなことでも自分なりに楽しもうとする姿勢、あらゆる場面で生きそうです。

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真船

テレビ局の仕事で言えば、やっぱり私の出せる面白みはSNSでファンと交流すること。なので、番組SNSで宣伝するときも一方的発信にとどまらず、ファンの気持ちに立った新しいコミュニケーションを取り入れています。

音楽番組の宣伝だったら、私の主観を混ぜて「このアーティストのパフォーマンスのここが、最高に推せます!」とアピールしてファンに拡散をお願いしてみたり、番組が終わった後にもファンが余韻を楽しめるように、追ってTikTokに動画をアップしたり。

こうした工夫で視聴者の方が喜んでくれるのが見えたり、自分の評価につながったりすることは、やっぱり大きなやりがいになりますよね。

家庭と仕事を両立するためにやめた、いくつかのこと

真船さんはいま、小さなお子さんの育児真っ最中とのこと。2つの仕事とのバランスを取るのは、至難の業ではないですか?

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真船

働くママ系の記事をネットで検索すると、ヒットするのは本当にスーパーウーマンばっかりだと感じます。私はその1億光年ほど遠いところにいるので……(笑)。むしろ「やめてもいいこと」を必死に考えました。

テレビ局の仕事だけでなく、私にとって大切な漫画の仕事を捨てないで生活していくためにはどうすればいいのか? 何を捨てれば続けられるのか? 育休中にそう考えて少しずつ体制を整えていきました。

何をやめると決めたのですか?

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真船

ざっくりいうと、自分だけで家事育児を背負いこむことをやめました。

2023年8月に発売の新刊『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるの、スマホだけ?!』(オーバーラップ)より ©真船佳奈/オーバーラップ
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真船

具体的には、いつでも助けてもらえるように母の家の近くに引っ越し、安心して子どもを預けられる保育園をいくつもまわって探しました。

また親以外の大人に慣れさせるために、ベビーシッターや一時保育を利用して、できるだけ子どものストレスを減らすことにも気を配りましたね。使える子育て支援制度も調べまくりました。できるだけ頼れる人を増やそう!と決めたんです。

育児だけではなく、家事に関してもあらゆることをやめました。

と、いうと?

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真船

まず料理は、子どもの分だけ週末に作って冷凍しておく。その代わり、私たち夫婦の分は一切作らず、基本的に自分の食べたいものは自分で用意します。カップラーメンの時もあるし、お惣菜を各自買ってくることもある。びっくりするくらい適当です。

洗濯は乾燥機任せで服もそのまま入れっぱなしですし、掃除も気になった時だけロボット型掃除機に任せる。掃除といえる掃除は、週に1度やればいいほうです(笑)。家に帰って苦手な家事をしている時間があったら、少しでも長く子どもと向き合う時間に充てたいと割り切っていますね。

清々しい……!

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真船

私が一番に考えているのは、「最大限余裕を持った状態で子供と向き合う」ということなんですね。家が多少散らかっていたって、危険さえなければ問題ないと思うんですよ。ご飯を作らなくたって、大人は死ぬわけでもない。

確かにそうですね。

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真船

育休中家事を頑張ってこなしていた時もあったんですが、「私ばっかり!」と思ってイライラしたり、子供が二の次になってしまっていることに気づいたり。

家のことを気にしすぎて家庭がピリピリするくらいなら、家のことはもうあきらめて、限られた時間のなかで家族が家族らしく楽しめることが大事なんじゃないかな。

子どもがいなかった頃は、何時まででも仕事ができたし、漫画も描けました。でも、いまはそういうわけにもいかないので、とにかく仕組みづくりに努めています。

マジで毎日綱渡りなので、これが何年も続くと大変かもしれませんが、子供が大きくなって少しずつ自分でできることが増えていったとき、また家事も頑張っていこうかなと思っています。

2つの仕事を楽しくやるためには、スリム化も必要

家族が増え、漫画の仕事をするうえで工夫していることはなにかありますか?

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真船

なので、実は背景にはかなりフリー素材を活用しています(笑)。あとは、漫画の中のキャラクターの表情も、何パターンかスタンプをつくって、それをポンポンと押すだけの時もあったり……。カラーも、最近は3色だけしか使わないようにしています。

漫画は子どもを寝かしつけた後か土日のどちらか、あるいは昼休みなどの隙間時間を使って1時間ほどで描き上げて、通勤時間中にブログにアップしています。

作業をかなりスリム化されているんですね。

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真船

そうですね。自分が苦しくならず、できるだけ自動的に作業が完了できるように、仕組み化しました。漫画は好きで描いているもの。それで大変な思いをするようになってしまったら、本末転倒ですからね。

あとは、優先順位を意識しています。読者の方は「毎日の更新」そのものを楽しみにしてくださっているはず。だったら、背景を一つひとつ描き込むことより、スピードを重視する。少しスリム化されたとしても、毎日更新を続けることを一番大切に考えていますね。

なるほど。テレビ局と漫画の仕事を並行していることについて、ご家族はどのような反応なのでしょうか? 育児とのやりくりでぶつかったりすることなどはないのでしょうか。

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真船

育休中は、やっぱり夫とかなり衝突しましたよね……(苦笑)。でも、話し合いや仕組み化で、解決できたことが多かった気がしています。

今は週末に1日、私が漫画を描く日を設けていて、それも「お金をいただいているれっきとしたお仕事なのだから、時間が必要なのは当然」という認識をお互いに持っているのでストレスはないです。

むしろ、夫のことを漫画に描いたときにSNSでバズったりすると、「ネタを提供したんだから5万円ちょうだい!」なんて言ってくるほどです(笑)。

2023年8月に発売の新刊『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるの、スマホだけ?!』(オーバーラップ)より

大事なのは、「好き」の気持ちを見失わないこと

テレビ局の仕事と漫画家業を両立されている真船さん。仕事や生活のバランスに悩む方に、何かアドバイスすることがあるとすれば?

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真船

そうですね……。私が両立できているのは、漫画という仕事が本当に大好きな「趣味」でもあるからだと思うんです。だから、漫画を描く時間を私からとってしまったら、日常がとても苦しいものになってしまう。

仕事を頑張っている人のなかには、あまりに仕事に一生懸命になりすぎて、趣味時間を犠牲にしてしまう人が少なくないように思えます。あるいは、趣味時間を持つことに罪悪感を抱いてしまう人もいるかもしれない。

でも、個人的には趣味の時間は絶対に確保した上で、仕事をすることが大事だと思います。そのためには、私みたいに必要のないことを切り捨ててもいいと思います。「背景なんてフリー素材でいいや!」って(笑)。あとは、悩んだら寝る! 私はロングスリーパーで、9時間くらい寝ないとダメなタイプです。

たしかに、仕事ってやろうと思えばいくらでもできてしまいますからね。でも、趣味や睡眠時間を侵食するところまで完璧にやろうとすると苦しくなってしまいますよね。

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真船

そうなんです。自分の「好き」を見失わないことが、実は生きるエネルギーを確保する上で重要なんだと思います。

特に20代の頃は、仕事をとにかくがむしゃらにやって、「一生懸命にやっています!」という姿勢を見せることに存在価値があると思っていました。でも、30代以降はそれがあまり通用しなくなって……。

何が正解かはまだ私もわからないけれど、趣味や寝ることも忘れて泥臭くやり続けることだけが、必ずしも正しい姿勢ではない、ということは心に留めておきたいですね。

最後に、真船さんが今後やってみたいこと、広げたいキャリア像について聞かせてください。

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真船

難しいことを噛み砕いてわかりやすく形にする、学習漫画が描きたいです。テレ東にもたくさんのためになる経済番組があるけど、漫画という形でさらにポップに楽しめるエンタメとして表現してみたいです。

さらに私の描いた漫画がテレビコンテンツとしても紐付けられたら仕事としてももっと面白くなるな……、なんて妄想しています。

いま在籍している宣伝部の仕事も、AD時代とはまた違って面白い出来事が結構あるので、いつか漫画として紹介していきたいですね。漫画の知見を生かしつつ、テレビの仕事にもさらに頑張っていきたいです。

2023年7月取材

取材:鬼頭佳代(ノオト)
執筆:波多野友子
写真:品田裕美
編集:桒田萌(ノオト)