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公務員から木彫り作家になったキボリノコンノさんが語る自分らしいキャリアを歩むためのマイルール

本物そっくりのお菓子や納豆、今にも溶けそうな氷などを木彫りで作り、SNS上で多くの人々を驚かせ、楽しませている木彫り作家のキボリノコンノさん。

家具デザイナーから公務員に転職し、その傍らで2021年9月から趣味で作成した木彫り作品を発信し続けてきました。

2023年4月、公務員を退職し、ついに作家として独立。会社員・公務員・作家と振れ幅の大きいキャリアを進むなかで、いかに自分の道を選んできたのか、当時の心境もあわせて心得を伺いました。

キボリノコンノさんの言葉から、ブレずに自分らしいキャリアを歩む秘訣を探ります。

キボリノコンノ
木彫り作家。静岡県の芸術大学でプロダクトデザインを学んだ後、家具メーカーでのデザイナーを経て県内の市役所に勤務。2023年3月に公務員を退職し、作家として独立。「あっと驚くものを作る」をポリシーに、制作や展覧会の開催など、木彫りを通して活動を展開している。

木彫りのきっかけは、日常の何気ない気付きから

キボリノコンノさんは、木彫り作家になる前は、会社員や公務員として働いた経験もあるそうですね。簡単にこれまでのキャリアを教えてください。

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キボリノコンノ

僕は静岡の芸術大学で家具や家電などのプロダクトデザインを学んだ後、新卒で家具メーカーに就職し、デザイナーとして約4年間働きました。

そこから結婚を機に公務員へ転職。仕事と並行しながら約1年間の受験勉強を経て、公務員試験に合格し、静岡県内の市役所職員として採用されました。

職員として働く一方で、コロナ禍で趣味として始めた木彫りにハマり始めたんです。2023年3月末、木彫り作家として独立するために、8年間勤めた市役所を退職し、プロ作家としての活動をスタートしました。

木彫りを始めたきっかけは何ですか?

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キボリノコンノ

2021年8月頃、コーヒーを淹れている時に「コーヒー豆って、木の素材感に似ているな」と、ふと思ったんです。すると、自分の手で再現してみたくなって。

ちょうどコロナ禍の影響で毎日のように行っていた趣味の卓球ができず、ずっと観戦していた東京2020オリンピックも閉幕し時間を持て余していたので、何かやりたくてウズウズしていたんです。

エネルギーを注げる対象を探していたのですね。もともと何かを作ることは好きだったのですか?

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キボリノコンノ

子どもの頃から木の工作が好きで、家を新築した時には、ベンチや棚などの家具をDIYしたぐらいです。初めて作った木彫りのコーヒー豆は、その端材を使いました。

いつかは木を使った仕事がしたいと思ってはいましたが、木彫りはこれが初めて。試行錯誤しながら取り組みました。

この時の僕にベストな職業は市役所職員だった

家具デザイナーからそのままクリエイティブ系の作家として独立する道もあったのではないかと思います。なぜ公務員へのキャリアチェンジを挟まれたのでしょうか。

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キボリノコンノ

きっかけは、家具デザイナーとして働いている時、静岡のナポリピッツァ店で職人さんに出会ったことです。仕事に葛藤を抱えていた僕は、なんとなく職人さんに今の仕事に就いた経緯を聞いてみたんです。

すると、「昔からピッツァ職人になりたいと思っていた一方で、まずは生活の土台づくりが大事と考えた」そうです。そのため40歳までは公務員として働き、経済面を安定させた上で退職し、イタリアで修行に励んだ、と。

それを聞いて、ハッとしました。これまで、僕は自分のやりたいことを最短で行うためにどうするかばかりを考えてきました。しかし、職人さんの話から「そうではない選択肢」があることに初めて気がついたんです。

当時、キボリノコンノさんは仕事に対し、何か葛藤を抱えていたのですか?

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キボリノコンノ

その頃の僕は家具デザイナーという仕事に誇りを持つ一方で、自分の中にモヤモヤするものを感じていました。

僕が勤めていた会社はモダン家具を扱うこともあり、デザイナーには常に新しい発想が求められていました。ただ、僕は新しいものを作り出すよりも、何かをじっくり観察しそっくりにて作り出す方が好きだったんです。

だからか、「これは僕が本当にやりたいことではないんだろうな」という思いが心のどこかにありました。

そうだったのですね。正直に言うと、公務員というある意味でカチッとした仕事は、クリエイティブ関連の仕事をする人は好まないのかなと思っていて……。

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キボリノコンノ

僕も、自分が公務員になるとは思っていませんでした(笑)。ただ、職人さんとの会話が頭から離れなくって。

試しに公務員について調べていくと、他の職業に比べ、自分の時間が作りやすく、給料も安定していることが分かりました。

ちょうどこの頃、学生時代から付き合っていたパートナー(以後、妻)との結婚を考えており、家族との時間を充実させたいとも考えていました。

僕は常にその時の自分がベストだと思う生活を行ってきましたが、趣味・ライフスタイルどちらの面から見ても、公務員はこの時の僕にピッタリな職業でした。

妻からは「本当にいいの? 夢を諦めてしまうことにならない?」と心配されましたが、素直な気持ちと理由を伝え、彼女には理解してもらいました。

作家としての手応えをつかみ、独立を決意

市役所職員としての8年間、どのようなお仕事をされましたか?

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キボリノコンノ

主に防災や交通安全に関する業務を担当しました。各種対応をはじめ、子どもたちや地域の皆さんへの啓蒙活動なども行いました。

趣味で木彫りをしていることやSNSに作品を投稿していることは、職場の皆さんに話していましたか?

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キボリノコンノ

はい、話していました。僕は周囲に自分の趣味や取り組みを伝えることに抵抗がなく、むしろメリットの方が大きいと考えているからです。

例えば、頭の片隅で木彫りのことをふわふわ考えていると、誰かとの何気ないやりとりからアイデアが浮かんだり、ヒントをもらったりすることがよくあるんです。

実際にTwitterで多くの方にご覧いただいたヨックモックの「シガール」というお菓子の木彫り作品は、市役所の同僚が「木彫りのシガール見てみたいです」と話していたことが作るきっかけになったんです。

ヨックモックの洋菓子「シガール」を木彫りで製作。Twitterにアップしたところ、4万を超える「いいね」が集まった。

ここまでのお話から、周囲の理解を得ながら仕事と趣味を両立されているように感じました。なぜ公務員を辞め、作家業のみに絞られたのでしょう。

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キボリノコンノ

SNSなどを通じてさまざまな人に活動を見てもらうなかで、木彫りの活動に先があるようだったら作家として独立することを考えていたからです。

2023年に入り、作家として自分がやりたいことに打ち込めているなと感じられるようになりました。そこから少し経ち、知名度が向上したことを理由に、何か起こった場合を心配した職場から作家活動の制限をかけられてしまったんです。 将来への不安もありましたが、作家として手応えを感じていたこと、ファンの方々との交流を途絶えさせたくないことから、公務員を辞め、独立することにしました。

自身の展覧会で、来場者とコミュニケーションをとるキボリノコンノさん(提供写真)

公務員を辞めることを聞いたご家族は、どのような反応でしたか?

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キボリノコンノ

実は、妻は1週間泣いてしまいました。ちょうど子どもが生まれる予定があり、将来の不安も重なってしまったからです。

後押しになったのは、義母からの応援でした。妻の家族に作家として独立する旨を話した際、「世間からここまで注目されているのは今しかないことだから頑張ってみたら」と言ってもらえたんです。

正直、「公務員をやめて作家になる」なんて怒られると思っていたので、僕としてはほっとしましたし、妻も義母の言葉を聞いて少し安心できたようでした。

キャリア選択で大事なのは自分が幸せになれるかどうか

改めて振り返ってみると、公務員との「二足のわらじ生活」はいかがでしたか?

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キボリノコンノ

もし最初から仕事として木彫りに取り組んでいたら、僕は動物やかわいいものなど、誰かが求める「よく売れそうなデザイン」を作っていたと思います。

公務員は仕事柄、一般企業に比べ、守らなければいけないルールが多く、副業も禁止とされていました。そこで、僕は純粋自分が好きなもの、面白いと感じるものだけを作ることができました。

確かに、溶けかけの氷や納豆など「えー、何これ!」と思わず言ってしまう作品ばかりですよね。

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キボリノコンノ

溶けかけの氷は、木彫りで作れなさそうなものを考え、透明感を出すのに苦労しながら作りました。

キボリノコンノ

納豆は「#誰かに刺さればそれでいい」というハッシュタグを付けて投稿したところ、さまざまな人に面白がってもらえました。

キボリノコンノ

僕は活動を通じ、自分の表現したいことを形にするアートと誰かに求められているデザイン、この2つを上手に掛け合わせた作品を作れるようになりました。これは公務員として縛られたからこその効果だと思います。

公務員の経験が作家業に活きていると感じることはありますか?

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キボリノコンノ

はい。いくつかありますが、特に活きているのは相手に寄り添う姿勢です。

SNSの向こう側には、必ず人がいます。作品を投稿する時やフォロワーの方々にコメントを返す時など、相手を意識した対応を常に心がけています。

この姿勢は、市民の方と直接お話することが多かった公務員時代に身に付けることができました。

家具デザイナーに公務員、そして作家と主体性を持ってキャリア選択を行うなかで、大事にしていたことは何でしょう。

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キボリノコンノ

一番は、自分が幸せになれること。その上で、誰が幸せになれるかを考えていました。

僕は、プレゼントやサプライズをすることが好きです。それこそ、僕の作品はファンの皆さんへのプレゼントだと思っています。

「見て、これすごいよね」と思わず周囲の人に言いたくなるような、見てくれる方に驚きと笑顔を与える作品をこれからも作り続けたいです。

2022年に制作した、生卵の木彫り作品(提供写真)

木彫り作家として、今後はどのような活動を予定していますか?

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キボリノコンノ

作品をツールとして、さまざまな人とつながりたいです。

僕は人と接するのが好きなので、展示会などを企画し、直接ファンの皆さんと関われる機会が作れたらと考えています。

作品も増えてきたので、写真集などを出したら面白いかもしれませんね。

素敵ですね。

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キボリノコンノ

僕は、決められた目標を達成しなくてもいいと思っています。こうしなきゃいけないと思うことから離れたり、諦めたりすることで見える世界もあるからです。

今いる世界を離れ、新しく見えてきた世界へ行くことは、ネガティブなことではありません。なぜなら、自分だけが見ている世界では狭いからです。

キボリノコンノさんのキャリアへの考え方は、働き方が変わりつつある今、さまざまな人への気づきにつながると思います。ありがとうございました!

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2023年3月取材

取材・執筆:スギモトアイ
編集:桒田萌(ノオト)