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怒りを生み出すのは自分の「べき」 「イライラする」のをやめよう(澤円)

仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。

イライラを生むものの正体とは?

皆さんは、イライラしがちな方ですか?それとも、日々わりとご機嫌に過ごす方ですか? そして、なにに対してイライラしますか? それを自分で考えたことってありますか?

ボクは、昔からふとしたことでイライラするタイプでした。そして、イライラしている自分にめちゃくちゃイライラするという、見事なまでの負のループを作り出す名人でした。

ボクがイライラする対象は、大抵の場合自分自身に対してでした。ちょっとした失敗や、自分の計画通りにいかないときに、自分の見通しの甘さに腹を立てたりしていたものでした。

今でもその傾向は顕著にあり、かみさん曰く「今まであった中で一番自分に対して極端に厳しい」人間だそうです。自分に厳しいことは、ボクとしては悪いことではなくてむしろポジティブに受け入れているのですが、イライラすることで生産性が下がってしまうのは自覚しています。

そんな自分を分析するために、知人の運営している協会で学んだことがあります。

それは「日本アンガーマネジメント協会」で、親しい友人である安藤俊介さんと戸田久実さんというお二方が代表を務めておられます。

安藤さんがアメリカ発祥の「アンガーマネジメント」のメソッドを日本に持ち込み、今や数万人を超える人々が協会の考え方を学んでいると聞いています。

アンガーマネジメントという言葉そのものは、お聞きになったことがある方もいらっしゃると思います。

ただ、実際にどんなものかをご存知の方は必ずしも多くはないかもしれません。アンガーマネジメントに対するもっとも多い誤解が「アンガーマネジメント=怒らなくなること」というものです。

アンガーマネジメントは、怒らなくなるメソッドではなく、「怒りの感情を正しく理解し、後悔をしないようにすること」だと協会では教えてくれています。

イライラする、つまりは「怒りの感情」というのは、人間にナチュラルに備わっているものであり、切り離すことはできないというのが前提になります。その上で、「怒りによって後悔しないようにする」というのが、アンガーマネジメントの目的になっています。イライラしたことで後悔するなんて、イライラの再生産にしかならないですよね。

では、どのようにイライラと付き合えばいいのでしょうか?

まず自分の「べき」をメタ認知する

イライラすなわち怒りの感情を生み出すものの正体は「べき」という考え方である、とアンガーマネジメントの世界では定義しています。イライラの原因追及のためには、まずは自分にどんな「べき」があるのかをメタ認知することが大事です。

人は「こうあるべき」という考え方をするようにできていると言っても過言ではありません。それが自分の物事の選択基準になり、行動指針になるからです。ただ、この「べき」が強固になり過ぎてしまうと、排他的な考え方に繋がってしまって、イライラを引き起こすことになります。

自分がイライラした記憶をちょっと呼び起こしてみて、自分にどんな「べき」があるかを認識してみましょう。

例えば、職場の若手が待ち合わせ場所に遅れて現れたことにイライラしたことを思い出した方は、「時間は守るべきである」という「べき」を持っている認識ができますね。

さらには「連絡をくれたらイライラしなかったかも?」と思えるなら、裏側には「遅れるなら連絡をするべき」という「べき」が隠れていることが認識できます。さらには、「もし相手が年上だったら腹立たないかも?」って思ったならば「年下なら時間を守るべき」と言い「べき」があることが分かります。

この「べき」は誰しも持っているもので、「べき論を振りかざすのはけしからん」というのは、ちと的外れの批判と言ってもいいでしょう。「べき」は程度の差はあれ誰でも持っているもので、そのこと自体は悪いことでもなんでもないのです。

ただ、この「べき」とどう向き合うかが非常に重要になってくるわけです。

日々の言動に意識を向ける

では、自分の「べき」とどんな風に付き合えばいいのでしょう?

まず大事なことは、「相手と自分のべきは違う」というのを前提にすること。そして、「『常識』で括らない」ことが大事です。

前述の「若手が時間に遅れてイライラした」という例を分析すると、「若手が年上の人間を待たせるのは非常識である」と脳内で処理されていることがイライラの原因であるとも言えます。

この裏側には「年下は年上を敬うのが常識」と考えている可能性があります。でも、ボク自身はそんなもの常識だとは思っていません。年齢で区切る考え方そのものが時代遅れだと思いますし、生物として生命活動を営んだ年月だけで敬われるとか、ちょっと図々しくないか?とさえ思います。この時点で「べき」に差がありますよね。

アインシュタイン曰く「常識とは、18歳までに蓄積された偏見の塊である」とのことです。これが絶対的正解だというつもりはありませんが、常識が偏見と強い関係があるという意見には賛成です。

そんな「常識」に振り回されてイライラするくらいなら、もっと気楽に生きられるような工夫をした方が、幸せになれそうな気がしませんか?

ということで、まずは言葉使いを変えてみてはどうでしょう。ちょっとした言葉の使い方でも、日々の生活は大きく変わります。例えば「べき」という言葉そのものについて、ボクは言い方を変えることにしています。

「XXすべきである!」ではなくて「ボクならこうする」と自分を主語にするのです。「普通〇〇と思うのが常識だろう!」ではなくて、「他の人は知らないけれど、ボクはこう考えます」とあくまで自分の意見としてアウトプットするのです。

こうすると何が起きるかというと、他人との考え方の違いをそのまま受け入れられるようになりますし、線を引くことができます。「その考えは私と少し違うけれど、受け入れられそうです」とか、「その行動は自分のルールとどうしても合わないので、ボクはパスします」とか。

もし「会社の命令なんだから絶対にやれ」と言われたら、「意見が合わないので、別の人をアサインしてください」とか「それが今後も続くなら、退職します」という選択ができます。そうすることで、「嫌なことをする」というイライラを劇的に減らすことができると考えています。

自分のイライラを解像度高く認識することが、イライラとうまく付き合うための最初の一歩です。

あ、イライラしてるときに考えるのはお勧めしません。人間、イライラしている時はかなりアホになっています。その時の判断は、極端だったり抜け漏れが多過ぎたりして、ロクなことになりません。イライラしてるなって思ったら、じっとしておくことが大事です。イライラの原因を自分で作るのは避けましょうね。

もっとアンガーマネジメントに詳しくなりたい方は、たくさん書籍が出ているので読んでみてくださいね。

・『自分の「怒り」タイプを知ってコントロールする はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(安藤俊介著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

・『アンガーマネジメント』(戸田久実著/日本経済新聞出版)

アイキャッチ制作:サンノ
編集:ノオト