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自分らしく働き心理的成功を目指すには? 「変化し続けるキャリア」の専門家に聞く

長い間、「キャリアを積むこと」=「会社で昇進すること」と考えられてきました。しかし最近では、会社内での昇進以外にも、自分らしさや働きやすさを重視するキャリアに対する多様な考え方を受け入れられるようになってきました。

では、自分らしく働くことを目指す場合、どのようにキャリアを築いていけば良いのでしょうか。

現代社会は急速に変化しており、現状を維持すること自体に不安を感じる中、将来に向けてどのようにキャリアを構築していけば良いのか、一般社団法人 プロティアン・キャリア協会の栗原和也さんにお話をうかがいました。

栗原和也(くりはら・かずや)
一般社団法人プロティアン・キャリア協会/4designs株式会社CGO(最高事業成長責任者)、CX&Harmony代表。2011年外資系総合ITサービス企業にシステムエンジニアとして新卒入社。総合商社向けの基幹システム開発、業務変革(BPR)プロジェクト等に参画。2017年に人事部へ異動し、新卒採用担当として、年間50~300名のエンジニア採用をリード。延べ5,000名を超える学生との対話を実施し、企業・学生双方が納得できる採用の形を探求している。企業の垣根を超え、キャリアについて気軽に越境対話できる『越境キャリアカフェバー』を運営。組織と個人がシナジーを生み、誰もが自分らしいキャリアを築ける世の中を目指す。

社会や環境の変化に応じて変えていく「プロティアン・キャリア」

私たちが働くうえで選択肢が多く、迷いが生じがちです。今、キャリア形成に迷う理由にはどのようなものがあるのでしょうか?

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栗原

グローバル化やAIの進化などの外的要因や、日本の労働環境の影響も大きいと思いますが、根本的な原因の一つとして「キャリアオーナーシップの欠如」が挙げられます。

キャリアオーナーシップ?

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栗原

キャリアオーナーシップとは、自分自身がキャリアを主体的に形成していく行動のことです。

従来の日本の雇用スタイルでは、キャリアは組織に委ねるものとされ、組織から与えられる仕事をこなして能力やスキルを磨くことが一般的でした。その結果、組織内での昇進が「キャリア」と呼ばれてきました。

しかし、本来キャリアは組織ではなく個人が積み上げるものなのです。ここで重要になるのが「プロティアン・キャリア」という考え方です。

「プロティアン・キャリア」とはどのようなものでしょうか?

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栗原

プロティアン・キャリアは、社会や環境の変化に応じて柔軟に変わることのできるキャリアのことを指します

アメリカのボストン大学経営大学院で組織行動学や心理学の教鞭を執るダグラス・ホール博士が1976年に提唱した概念です。

プロティアンという言葉は、「変化に応じて自由に姿を変えられるギリシャ神話の神・プロテウス」を語源としています。

(提供画像)

なぜキャリアオーナーシップを持つために、「プロティアン・キャリア」という考え方が重要なのでしょうか?

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栗原

キャリアを組織に委ねていた時代は、キャリアに関する目的や目標は組織側で用意することが大半で、社会や環境の変化にもさほど気を配る必要はありませんでした。

しかし、キャリアオーナーシップを持つためには、「自分がどうありたいか」を考え、「目的や目標を自ら掲げたうえで」社会や環境の変化にも適応しなければなりません。

そのために必要なのが、社会や環境の変化に応じて柔軟に姿を変える「プロティアン・キャリア」という考え方なんです。

昇進ではない、「心理的成功」とは?

ある意味、昇進はわかりやすいゴールだったと言えます。それがなくなった今、目指すものがわからなくなっている人もいそうです。

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栗原

そうですよね。プロティアン・キャリアでは、会社の中での昇進といった結果ではなく、「心理的成功」を大切にしているんです。

「心理的成功」とはどういった状態を指すのでしょうか?

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栗原

プロティアン・キャリア提唱者のダグラス・ホール教授は「自らのやりがいや目的を達成したことで得る心理的な成功」と述べています。

外的な基準ではなく、内的な基準により、自分自身が幸せだと感じられている。つまり、「自ら目的や目標を掲げて、達成感や満足感を得ること」が大切なんです。

例えば、ある人が地域に貢献したいと考え、ボランティア活動を通して地域の問題点を解決したとします。自分の取り組みによって実際に地域に貢献できたという達成感や満足感を味わえれば、それが「心理的成功」な状態と言えます。

何を「成功」と捉えるかは、それぞれがどういう目標や目的を立てたのかによるんですね。

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自分らしく働くために必要なアイデンティティとアダプタビリティ

それでは、プロティアン・キャリアを築くときに何を考えればいいのでしょうか?

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栗原

プロティアン・キャリアを形成する際に重要なのが、
・アイデンティティ
・アダプタビリティ
という2つのポイントです。

それぞれどのようなものでしょうか?

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栗原

アイデンティティとは「自分は何者であるのか」ということです。強み・弱み・価値観・ありたい姿などです。仕事をする上では「ビジネスパーソンとしての自分らしさは何か」と表現してもいいかもしれません。

理想は、市場や組織から自分のアイデンティティが求められている状態です。

なるほど。では、アダプタビリティとは?

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栗原

アダプタビリティは、自らを環境や社会の変化に適応させるための力です。

アイデンティティが市場や組織のニーズとマッチしていなければ、仕事で満足することは難しいんです。そこで、アダプタビリティを使って適応・反応学習するイメージですね。

また、自らの望む環境を得るために、主体的に周囲に働きかけたり行動したりする力もアダプタビリティの特徴です。

仕事にやりがいを感じ、集中できている人はアイデンティティとアダプタビリティのバランスが取れている状態だといえるでしょう。

自分らしく過ごせて、それが社会からも求められていたら理想的ですよね。どちらから身につけるほうがいいのでしょうか?

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栗原

まずはアイデンティティの確立に取り組みましょう。自分がどういう人間で、どのような価値観や強み、弱みを持っているのかを明らかにすることが必要です。

変化適応力を測るには、私たちの協会が実施しているプロティアン・キャリア診断もヒントになります。もし何をすればいいのか迷ったらぜひやってみてください。

日々の行動の状態を把握するために行う「プロティアン・キャリア診断」。自分を客観的に評価し、現在地がどこなのかを知るヒントになる。(提供画像)

栗原

チェック数が12個を超えれば、自分でキャリアを形成し、変化にも対応できる状態です。

4個~11個だと、キャリアは形成できているものの、変化への対応力が弱いといえます。

3個以下だと、現状では変化への対応は難しいでしょう。

なるほど。ほかに、自分を客観的に評価するための良い方法はありますか?

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栗原

自分がこれまでに積み上げてきたキャリア資本を

・「ビジネス資本」(ビジネスのキャリア形成を通じて得られる知識や技能、立ち振る舞い、その人の身体に刻み込まれたもの)

・「社会関係資本」(ビジネスパーソン同士の信頼関係からなる、ネットワークの集積のこと)

「経済資本」(金銭や諸々の財産など、経済的な資源のこと)

に分解して書き出す方法があります。

このとき、それぞれのキャリア形成期でどのような資本を蓄積してきたのかを把握し、今後は何を蓄積していくのかを考えてみることが大切です。


『キャリアの悩みを解決する13のシンプルな方法キャリア・ワークアウト』より(提供画像)

栗原

また、自分自身のキャリア満足度を自分で採点して定量化するのもひとつの方法です。

採点して100点をつけられない場合、足りない部分を考えて自分自身の外側に取り出して見ることで、客観的な評価が可能になります。

「社会関係資本」とうまくつながるには

自分を客観的に評価するのが苦手な人もいますよね。周りの人に聞いてみるのはどうでしょうか?

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栗原

もちろん大丈夫です。ひとりで考え込まずに、周囲と会話をすることは重要です。相手に質問をされたり、互いの経験に感想を出し合ったりすることで自分の今の状態が見えてくることもあります。周囲と共有してお互いを磨き合っていきましょう。

このときの「周囲」とはどこを指しているのでしょうか?

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栗原

文字通り、周りにいる人々です。「社会関係資本」と呼ばれるこのつながりは、大きく2種類に分けられます。

一つは「結束型」と呼ばれる、家族や親しい友人、職場の同僚など、同じような人々との結びつきです。

短期的なキャリア構築に関しては、結束型の人々との繋がりが重要です。短期的にキャリアの現状を改善したい場合には、結束型の人々との関係性を良好にしていくことをおすすめします。

もう一つのタイプは何でしょうか?

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栗原

もう一つは「橋渡し型」と呼ばれる地域のボランティア活動やPTA、SNSのつながりなど、立場の異なる人々とのゆるいつながりを指します。

彼らとの会話は、自分自身のキャリアを客観的に見たり、新しい価値観を取り入れたりする機会になります。同質性の高い結束型コミュニティだけで新たな情報を得ることは難しいので、中長期的なキャリア展望を描く上では、橋渡し型の社会関係資本も重要です。

特に都市部だと、地域のつながりが薄いこともあります。そういうとき、「橋渡し型」の人々とうまくつながる方法にはどのようなものがありますか?

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栗原

一つは結束型のつながりのある者同士で一緒に行動することです。相談しやすい人や人脈の広い人との会話を積極的に行って情報を集め、自分に合っていそうなコミュニティにまず入ってみましょう。

また、自分を応援してくれる仲間に相談してみると、相性のいいコミュニティを見つけることができるかもしれません。

もう一つは?

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栗原

自分がどうありたいかということに向き合い、キャリアの目標を立てることです。それによって、自分に合った情報を得られるコミュニティが見えてきます。

ただ参加するだけではなく、参加した結果から得られる情報に納得できるのか、できないのかを評価していくことも重要です。 

このときに注意すべき点はありますか?

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栗原

新たなつながりを得たい場合は、自分から行動することがとても重要です。自らコミュニティに積極的に参加し発言したり、情報を集めたりすることで、より多くの「自分にとって意味のある」情報を得ることができます。

先が見えないからこそ、キャリアを考える時間をとる

そもそもの話になってしまうのですが、今は変化が激しく将来が見えにくいですよね。そういう時代に、中長期的なキャリアを考えることは難しいのではないでしょうか?

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栗原

そうですよね。だからこそ、未来は変化することを前提に、何を蓄積するかを慎重に考える必要があります。将来、予測できない変化が起こったとしても、これまでの蓄積は無駄になりません。

そういう時代からこそ、自分がどんな資本をもっているのかを意識して、キャリアを戦略的に積み重ねていく大切さが高まっていると感じます。

とはいえ、目の前のことで精一杯で、将来に投資する余裕が持てないときもあります。

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栗原

そうですよね。残業があまりに多い場合はそこを減らすことから始めることも大事だと思います。そうすると「一生時間ができない!」、ということにもなりかねませんので、まず一日5分だけアイデンティティを深める時間を取ってみてはどうでしょうか?

昇進や転職といったキャリアではなく、自分はどうありたいか。漠然とでもいいので、自分が思い描く理想的な生活を考えてみましょう。まずは1日5分だけ情報収集をする……などでもOKです。

なるほど。

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栗原

TikTokやYouTubeを見ている時間のうち、5分でも自分のキャリアを考える時間を作ってみると、気づきが得られると思います。

また、家族との会話の時間を作ったり、会社の先輩にキャリアについて尋ねてみたりするのも良いアプローチです。

実は自己理解を深めることは、他者理解につながります。自分を知ることで周囲との価値観の違いを知ることができます。不思議なことですが、自分の価値観を整理することが、豊かな人間関係を築くカギになるのです。

行動を習慣化してキャリアを積み重ねることで「心理的成功」へ

人生の目標が見つかった後も、キャリア資本を積み重ねていくためには、勉強などのいい習慣を作っていくことが大切です。でも、毎日続けるのは大変だなと感じてしまって。

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栗原

新しい習慣を始めると、残業や家族の都合などできない理由がいろいろと浮かび、ついにはやめてしまうことってありますよね。

ついつい欲張りになってしまいますが、時間は有限なのでうまく配分しましょう。習慣化して、続くことのほうが大切ですから。

よい習慣を続けるコツはありますか?

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栗原

2つあります。まず、自分がいつも必ず見る場所に物理的に書きとめておくこと。

そして、もう一つは「1人でやらない」ことでしょうか。仲間を巻き込み、お互いにフィードバックをするのが大切です。一緒に行動できる仲間を見つけましょう。

この記事を読み終えたら、会社の同期など近しい立場の方とこの記事を共有してみてください。自分自身の強みや弱みを把握した上でどんな行動ができるかを周囲の方と一緒に話し合ってみるといいでしょう。

自分のほしいキャリアに向かう行動を習慣化して積み重ねることが、自分らしい生き方につながるんですね。

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栗原

その通りです。もしキャリアに関する行動をすぐにとることが難しければ、もっと小さなことから始めてもかまいません。

例えば、自分の大好きなキャラクターグッズを仕事机の上に置いたり、あえて大好きな飲みものを用意したり。

そんなことでもいいんですか?

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栗原

はい。「本当はこうしたいけど、なんとなくやってないこと」や、「こうしたほうが楽しく働けるのに」と思いつつモヤモヤしていることって、誰しもが何か抱えていると思うんです。

まずはちょっとした小さなことでも、「自分がこうしたい」と思うほうに向かって行動すること。それがファーストステップです。そういう積み重ねをしていくと、次のやりたいことも見えてきます。組織からの指示も大きな予算も必要ありません笑。

キャリア開発は今、この瞬間から始められるもの。ぜひ、小さなことでもいいので取り組んでみてください。

2023年5月取材

取材・執筆=成重敏夫
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト