会社員で夜間MBAに通いつつ、収納アドバイザーも。米田まりなさんに聞く、働きながら学びつづけるために取り入れたい「片付けの考え方」
社会人になってからの学び直しが大事なのはわかっている……。でも、忙しい毎日の中で勉強時間を捻出するのはたやすいことではありません。
とりあえず取りたい資格の参考書を買ったはいいけれど、手つかずのまま部屋の中で山積みに。あれもこれもと好奇心があることばかりで、結局どれから手をつければいいのかわからない……。
そのお悩み、もしかすると「部屋を片付ける」技術を応用して改善できるのかもしれません。
今回は、会社員としてフルタイムで働きつつ、整理収納コンサルタントとしても著書を出し、さらに2022年3月には、一橋大学で夜間MBAを取得した米田まりなさんに、「学び続けるために使える片付けの考え方」を教えてもらいました。
―米田まりな(こめだ・まりな)
2014年に東京大学経済学部卒業後、住友商事に入社し、Eコマース領域の事業投資を担当。2017年より株式会社サマリーに出向、資金調達とデータ解析業務に従事。現在は、大手不動産ディベロッパーで都市開発の業務に従事する。個人としては、「捨てない整理収納アドバイザー」として、作家やデザイナー、起業家など、”モノを愛してやまない人”を対象に片づけをサポートする活動を行っている。
働きながら副業、そしてMBAを取得。両立のために時間割をつくる
米田さんは企業で働きながら、副業で整理収納アドバイザーや書籍の執筆をされていて、そのうえMBAも取得されたと聞きました。
WORK MILL
米田
はい、2020年4月から一橋大学大学院の夜間MBAに通い、2022年3月に経営学修士号を取得しています。
入学時は総合商社で働いていたのですが、在学中に転職しました。
かなりご多忙だと思うのですが、一体どのようなスケジュールで働きながら学んでいたのでしょうか?
WORK MILL
米田
1日、1週間の中で勉強の時間割を決めています。私の場合、ちょうどコロナ禍だったこともあり、基本的に授業も仕事もフルリモートで進みました。
大学院に通っていたころは、平日8〜9時は朝の準備をしながら録画された授業動画を視聴。9時〜19時は仕事を行い、その後30分ほど夕食の時間に。食後に1コマ動画授業を受けて、さらに1.5〜2時間ほど勉強していました。
週末も勉強はしますが、土日のどちらかはリラックスする日と決めていました。好きなお笑いの動画を見たりして。
かなりしっかりとルーティンを作って、メリハリをつけていたのですね。
すでに大学院はご卒業されたとのことですが、今はなにか勉強をされていますか?
WORK MILL
米田
少し前は宅建の勉強をしていました。今はもっと掃除分野を深めたいと思い、「クリンネスト1級」という資格取得を目指しています。
あとは、週1日の英会話ですね。毎週土曜9〜10時で授業を受けると固定していて、その後も12時までは勉強するという時間割にしています。
勉強が習慣になると、強いですね……!
WORK MILL
勉強内容によって場所を使い分け 人間の集中力に合わせて「ながら」で学ぶ
仕事も授業もリモートだと、ずっと家にいる状態ですよね。
米田さんは整理収納アドバイザーとして空間づくりにもこだわっていると思うのですが、やはりご自宅には勉強用スペースがあるのでしょうか?
WORK MILL
米田
今は二人暮らしなのですが、勉強できる場所は家の中に5カ所あります。
・ダイニング
・リビング
・キッチン
・お風呂
・自分の部屋
軽い作業はダイニングで、リビングでは家事をしながら、しっかり集中したい時は自分の部屋のデスクを利用する……など使い分けていますね。
湯船に30分ほど浸かりつつYouTubeの勉強動画を観ることもありますが、お風呂の中は意外とはかどりますよ。
場所を使い分けつつ、ながら勉強もされているのですね!
WORK MILL
米田
人間が座って何かに集中できるのは、1日に3〜4時間が限界なんです。だから、他の作業をしながら勉強するのは効率的と思っていて。
たとえば、洗濯物を片付けるときって手を動かしていますが、目と耳は空いているので動画で授業を受けるのに向いている時間なんです。
講義を聴きながら、ヨガやトレーニングもできますね。ソファに寝っ転がってリラックスしながら、スマホで勉強することも……(笑)。
あと、昇降デスクを使い、立ったまま動画を観ることもありますね。
昇降デスクを導入しているのはなぜですか。
WORK MILL
米田
パソコンを使う作業と書き物では、推奨されている机の高さが8〜10センチほど異なるんです。高すぎると肩が凝るし、低すぎると使いにくい。
でも、昇降デスクなら用途に合わせて高さを調整できるので、仕事と勉強の両方にあった環境を作れる。すごくおすすめのアイテムです。
勉強をしたいなと思っていても、家だとダラダラしてしまうこともあり……。何か自分のやる気を高めるための工夫はありますか?
WORK MILL
米田
最初にお伝えした時間割を決めること以外だと、基本的にそれぞれの机の上には、常に何も置かないようにしています。
家の中にある勉強場所は、会社のフリーアドレスデスクのように、その時に必要なものだけを持ち込むようにしています。
それは何か意図があるのですか?
WORK MILL
米田
たとえば、まっさらなノートを初めて使うときって、やる気が出ますよね。同じように何もない空間だからこそワクワク感を保つことができるんです。
同時に読める本は5〜6冊 米田さん流・本との付き合い方
勉強をするとなると、教科書や参考書籍などもたくさんあると思うのですが、そういった資料はどうされているのですか?
WORK MILL
米田
固定の本棚はもっていなくて。家のいろいろな場所に3段のカラーボックスを置いて、分散して本を入れるようにしています。
具体的には、お湯を沸かす10分のスキマ時間に読むために、キッチンに2冊。これはミトンの隣に立てかけています。他にも洗面所に2冊、枕元に2冊……といった感じで、ちょっと手を伸ばせる場所に本を置いています。
なぜ、家の中に分散して置くのでしょうか?
WORK MILL
米田
本をたくさん持っていても、人間が1カ月に同時に読めるのは5〜6冊だなと感じていて。
なので、すぐに読まない本は衣装ケースに入れておいて、いま手に取りたいものだけを厳選しているんです。
確かに、本棚にいれて満足している本ってあります……。
WORK MILL
米田
本棚って、ついつい本を集めたくなる形をしていますよね。一説には中世ヨーロッパで本を買わせるためのプロモーションとして本棚が生まれたという説もあるくらいで。
選んだ本はどれくらいのペースで入れ替えるのでしょうか。
WORK MILL
米田
衣替えのように、月1回は本を入れ替えています。常に同じ本が並んでいると視覚的にも新鮮味がなくなってしまいますから。
もし2週間手に取らなかったら、「今の自分にとっては旬の本ではなかったんだな」と思い、衣装ケースに戻して他の本を取り出すようにしています。
狭い空間でも1畳あれば大丈夫
現在、米田さんは二人暮らしとのことですが、ワンルームや1Kで一人暮らしをしている場合、どうやって勉強スペースを確保すればいいと思いますか?
WORK MILL
米田
何をするにもまず1畳あれば、最初の一歩を十分踏み出せます。
その部分だけきれいにして、他のスペースは散らかしてもOKとすれば、取り組みやすいのではないでしょうか。
たとえば、6畳の部屋に、ベッドとソファがあると1畳でも捻出するのが難しそうです。
WORK MILL
米田
使っていない家具がないか、一度見直してみてはどうでしょうか? 年に数度の来客のために、普段はあまり使わない大型テレビやソファを置いている人が結構いるんです。
日常のほとんどの時間で来客はありません。自分のペースを第一に部屋づくりをすれば、1畳は捻出できると思いますよ。
来客よりも、自分が普段からやりたいことの優先順位を上げる、ということですね。
WORK MILL
米田
あと、1Kやワンルームの場合、同じテーブルで勉強も食事もしたりしますよね。定期的にリセットができるように、片付けの定位置を決めていくことも大切です。
たとえば、デスクの横にカラーボックスを置いて食事の時はその上にディスプレイをよけておく。食事をしたらキッチンに下げ膳をしてから、仕事や勉強に戻る。
そうやって簡易的にリセットするだけでも、狭い空間でメリハリをつけることができます。
なるほど。
WORK MILL
米田
もし可能なら、机は壁向きに設置して、後ろ側に空間をつくり椅子を後ろに引ける状態にするとゆったりできるのでおすすめです。
目の前の壁はあれこれ情報があるのはNG。ベストは真っ白な壁です。窓がある人は白いカーテンを引いて外を隠した方が集中できると思います。
ワンルームだと同じ部屋に机もベッドもありますよね、疲れているとついごろんと寝たくなることもあります。誘惑と戦うコツはありますか?
WORK MILL
米田
ベッドの上に、日中はカバーを掛けておくのはどうでしょうか?
カバーがかかっている間は、ベッドではなくソファとして使うのです。カバーをかけるだけなら、30秒でできますよ。
意志の力に頼るのではなく、環境を整えて行動を促しやすくするんですね。
WORK MILL
集中できなくなるからNG!これらは片付けよう
逆に、これをやると集中できないというのはありますか。
WORK MILL
米田
自分ができていないこと、やらなきゃいけないと思っていることを見える位置に置いておくのはやめたほうがいいですね。
片付けのお仕事で伺ったお部屋でよく見かけるのが、山積みになった自己啓発本や英語の教材です。
克服しなくてはいけないこと、自分の苦手を思いおこさせるものが部屋にたくさんあるだけで、挑戦したい気持ちがなくなったり、一歩踏み出すのがおっくうになったりしてしまいますから。
「いつかやろう」と思って残しておくのはよくないんですね……!
WORK MILL
米田
今取り組んでいるもの以外は、思い切って人に譲った方がいいです。また欲しくなったら、すぐに買い戻せますから。
気分転換に外で勉強することはないのですか?
WORK MILL
米田
外で勉強したこともありますが、基本的に動画などはソファで観る方がはかどりましたね。
雑音の中でイヤホンをすると耳への負担になりますし、耳を使う勉強はあまり効率がよくないと感じました。
とはいえ、最近はハイブリッドワークとして通勤回数が増えた人もたくさんいます。移動中のおすすめ勉強法はありますか?
WORK MILL
米田
宅建の勉強では過去問アプリを活用しましたね。3分だけといった短い時間でも取り組めますから。
移動中に勉強するなら、分厚い過去問の本を持ち歩くよりも、多少お金がかかってもアプリの方がおすすめです。
学ぶ内容によっては、アプリがないものもあるかもしれません。
WORK MILL
米田
重い本は切断して持ち歩きます。職場の裁断機を借りて切っていました。ページがばらけないように、背表紙をマスキングテープで止めておけば安心ですよ。
苦手なモノに取り組むときは周りやお金の力も借りて
私はたくさん勉強したいことがあって、何から取り組むか迷っているうちに、時間が過ぎてしまうことがあって……。
米田さんもたくさんの挑戦をされていますが、学びの優先順位づけで意識されていることはありますか?
WORK MILL
米田
私は、いつも年始にやりたいことを棚卸ししています。
正直、100個くらいすぐに出てくるのですが、人間が一度に学べることは限られています。だから、できるのは2つくらいがいいところ。3つできれば上出来ですよ。
その中でも、自分が学ぶことによって新たな価値が生み出せるか?などを意識して、優先順位をつけています。
3つで上出来と言ってもらえると、心の荷が軽くなりますね! ちなみに、必要に迫られて苦手なジャンルの勉強をする場合はどうでしょうか? 続けるコツがあれば教えてください。
WORK MILL
米田
苦手なものほど、独学でやろうとしないことでしょうか。得意な分野なら、楽しみながら自然に取り組むことができますが、苦手なことは一人だと行き詰まってしまいます。
私は大学で経営学を勉強していたのですが、組織論・リーダーシップ論などが中心で。MBAで学んだファイナンス系の領域は、実は大学時代は難しくて避けてきたんです。
それは意外です……!
WORK MILL
米田
大学院では勉強しなければ単位はもらえないし、周りの目もあるし、お金もかかる。それがペースメーカーや適度なプレッシャーになりました。
だから、苦手なモノを学ぶ時ほどお金をかけてみてはどうでしょうか。「教育訓練給付金」などの制度をうまく活用すれば、リーズナブルに学ぶことができますよ。
部屋作り含め、できるところから取り入れてみたいと思います。ありがとうございました!
WORK MILL
2023年3月取材
取材・執筆=ミノシマタカコ
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト