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遠い町のお祭りを「自分ごと」にする! 一つの記事から始まった「EXPO酒場 鹿児島店」イベントリポート

2025年に開催を予定されている大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまで、650日を切りました。

しかし「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人ごと」に捉えてしまう人が多いのでは?

その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出している企業・人々がいます。

本連載では、大阪・関西万博に向けて「勝手に」生み出されたムーブメントに着目し、その仕掛け人たちの胸の内を取材していきます。

大阪・関西万博について、勝手に考えるプロデューサー&クリエーター集団「demo!expo」。

彼らとともに、企業も立場も関係なく、万博を楽しみたい人たちが自由に集い語り合うイベント「EXPO酒場」は、2022年春の旗揚げからすでに20以上の場所で開催。関西、東京、そして全国各地へとエリアが拡大しています。

2023年6月2日は「EXPO酒場 鹿児島店」が開催され、九州地域にも初上陸。ぜひ鹿児島でやりたい! と手を挙げたのは、鹿児島観光コンベンション協会でした。

鹿児島市と、万博会場・大阪府夢洲の距離は約880km。物理的な距離はあるけれど、EXPOに対する思いはいかに――。EXPO酒場 鹿児島店開催に至るまでの運営メンバーの熱い想いと、当日の様子をリポートします。

一つの記事から感じた「大きな動きになる予感」

鹿児島市の観光の活性化に取り組む、公益財団法人鹿児島観光コンベンション協会。なかでも、コンベンション誘致部に所属する4人が、この 「EXPO酒場 鹿児島店」を企画しました。

鹿児島観光コンベンション協会コンベンション誘致部の皆さん。左から、EXPO酒場 鹿児島店のマスター・古木雄介(こぎ・ゆうすけ)さん、ママ・本山友子(もとやま・ともこ)さん、店長・吉永麻衣子(よしなが・まいこ)さん、発起人(自称 黒幕)・冨岡哲也(とみおか・てつや)さん

普段はどのような仕事をしているのでしょうか?

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古木

企業や団体の会議、研修旅行、スポーツ大会など、ビジネスイベントの総称をMICE(マイス)といいます。僕たちはMICEを国内外から鹿児島へ誘致する営業部隊です。あらゆる業種の皆さんと一緒に受け入れ体制を整え、機運醸成を行うのも仕事の一つです。

そこからなぜ「EXPO酒場」につながったのでしょうか?

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冨岡

きっかけは、たまたま目にした「EXPO酒場 東京店」のリポート記事でした。大阪・関西万博の話題はいろいろあるけれど、結局会場から遠い地方にとっては「遠い場所のお祭り」みたいな感覚なんです。でも、このEXPO酒場の記事の「47都道府県につながっていく」という一文が目を引きました。「みんなでこの機会に乗っかって、何かやりませんか」という考えに、これはデカいことになりそうだと直感しました。

万博に来るといわれている約2,800万人のうち、1%でも鹿児島を訪れてくれたらって考えるとすごいチャンス! 私たちがEXPO酒場をやるべき意味を感じました。

冨岡さんの思いを受け、すぐに動きだしたのが、今回鹿児島店の店長も務めた吉永さん。記事の情報を手がかりに、demo!expoのメンバーであり、株式会社オカムラで、社内外の人をつなぎコミュニティを創造する「共創空間 bee(Open Innovation Biotope “bee”)」の運営に携わる岡本栄理(おかもと・えり)さんに辿り着きました。

吉永さんは「とにかく1度会ってほしい」と電話し、岡本さんが働く大阪のオフィスまで冨岡さんと2人で会いにいった

吉永

私たちも、市電を活用したユニークベニューの開発、鹿児島らしいeスポーツの大会についてなど、鹿児島の観光やMICE誘致のアイデアを語り合う「テーマ別座談会」を2年ほど続けてきました。そのなかで、業種をまたいだつながりをつくる役割が必要だと感じていたので、岡本さんの共創やつながりを生み出す場所づくりの仕事に、すごく興味が湧きました。

さらに「誰でも、どこでも、勝手に盛り上がれる」というEXPO酒場の考え方に触れて、遠いと思っていた万博が少し身近になり、鹿児島県民の皆さんの声も聞いてみたいと思いました。

岡本さんと初めて会ったその場で「EXPO酒場 鹿児島店、やります!」と宣言してから約4カ月間。これまでの座談会関係者を中心に、企画の趣旨説明を丁寧に行いながら参加者を募り、準備を進めていきました。

EXPO酒場 鹿児島店スタート。万博と鹿児島のつながりは予測不可能!?

待ちに待ったEXPO酒場 鹿児島店当日は、なんと台風接近中につき、天気は大荒れ。関西から参加するdemo!expoメンバーは飛行機の欠航が心配されるなかでの鹿児島入りとなりました。

司会・進行役を務めた店長の吉永さんとマスターの古木さん

会場となったのは「Jazz Spot Lileth(ジャズスポット・リレット)」。鹿児島の繁華街・天文館で30年続く、ジャズライブとお酒が楽しめるスポットです。サックスとピアノの生演奏で、ムードたっぷりに参加者たちをお出迎え。

集まったのは、観光、通信、メディア、イベント、食品など多種多様な業種の企業に加え、観光やPR関係の行政職員など、総勢33人。全員がそろったところで、お酒を片手に乾杯! 初対面の参加者が多く、まずは互いに自己紹介からスタートです。

鹿児島観光コンベンション協会を代表して、専務理事の池田哲也(いけだ・てつや)さんが挨拶。「このEXPO酒場が鹿児島の未来を考えるきっかけとなり、この出会いがつながっていきますように」と語った
demo!expoのメンバーと酒場運営メンバーも加わった交流タイム

各テーブルには「あなたにとって万博とは?」「万博と鹿児島、どうつなげる?」などのトークテーマを用意。しかし「万博はよく知らないけれど、誘われたので来てみた」「万博と自分が関わるなんて想像がつかない」という声も。

テーブルに置かれたトークテーマ
テーブルの上に並んだのは地鶏の炭火焼きに芋焼酎など、九州らしいラインナップ。関西出身のdemo!expoメンバーからも好評

それぞれの町から万博をつくる。ヒントは身近な課題解決

少し食事やお酒が進んだところで、ディスカッションへ。

demo!expoから、代表理事である株式会社人間の花岡(はなおか)さん、岡本栄理さん、作家のしまだあやさん、 そしてEXPO酒場 鹿児島店店長の吉永さん、マスターの古木さんの5人が登壇しました。

酒場運営メンバーが「大阪・関西万博って何?」を知ることから始まり、demo!expoが掲げる「勝手にやる」「非公式だからできること」の理念や、現在展開している多彩なプロジェクトが紹介され、参加者は興味津々

demo!expo代表理事の花岡さんは、今日の目的について、「万博は大阪の夢洲会場だけのものじゃなくて、どこでも、いつからでも、誰でも主役になって、それぞれの町から万博をつくっていい。demo!expoはその伴走者で、EXPO酒場はプラットフォームの一つ。この万博をきっかけにして、関西と鹿児島でつながりましょう! みんなでやりたいことをやりましょう」と呼びかけました。

demo!expo代表理事の花岡さん

ここで、マスターの古木さんが質問。

古木

これまでは「万博は鹿児島には関係ない」と思っていたけれど、このEXPO酒場に出合って万博を知るなかで、冨岡さんのように大きなビジネスチャンスを感じ始めました。

しかも、5年先だとイメージがつきにくいけど「残り2年間」の今なら具体策を描きやすいタイミング。アイデアをつくるヒントがあれば教えてください。

しまだ

「万博だから大きなことをしなきゃ」と気負う必要はないと思う。例えば人と人がつながって、お互いの好きなことや得意なことを組み合わせるだけで、プロジェクトが一つ生まれる。

demo!expoメンバーで作家のしまだあやさん

花岡

そう。さらに、社会の小さな課題をクリアするという条件が加わると、他の人の協力も得やすいから、実現しやすくなる。1人だけが儲かって得する仕組みはたぶん応援されにくい。町の小さな悩みや課題に目を向けてみるのもいいと思います。

岡本さんはEXPO酒場 鹿児島店開催のきっかけが、鹿児島観光コンベンション協会の冨岡さん・吉永さんからの熱烈なアプローチだったというエピソードを紹介し、「ネットで調べて大阪まで来てくれて、すごく嬉しかったです。お話しした熱量からも、距離は関係なく一緒になって何かできそうだと、すごく可能性を感じています。ぜひこれからの時間、皆さんとももっと語り合いたいです」と締めくくりました。

demo!expoメンバーの岡本さん(中央)

万博をテーマにアイデアが飛び交い、一体感を高めたジャズライブで大団円!

demo!expoメンバーの活動や「勝手にやる」精神に刺激を受け、後半は意見交換がヒートアップ。

「万博で日本に来る外国人観光客の宿泊先は、関西だけじゃなく日本全土に広げたっていいんじゃない? 鹿児島に目を向けてもらう方法は?」
「万博をきっかけに、自分の職場や業界で、都道府県の垣根を越えたアクションを起こしてみたい」
「鹿児島と大阪で共通点のある町同士をつなげて、双方でイベントをやって、鹿児島にも人を呼びたい」

など、自身の仕事を生かしたアイデアや、知り合ったメンバーで共創のビジョンが広がっているグループもありました。

交流の輪を広げるためにメンバーチェンジも挟み、意見もさらに活発化

終了の時間が近づき、エンディングに用意されていたのはスペシャルライブ。会場オーナーのエミリーさん率いるバンドが登場しました。参加者は思い思いに体を揺らし、手を叩き、盛り上がりは最高潮! 熱い一体感に包まれました。

エミリーさん(右)は美しい歌声だけでなく、名曲を鹿児島弁にアレンジして歌う演出でも会場を沸かせた

町の歴史と文化に触れるマイクロツーリズム 薩摩金山蔵へ

demo!expoのメンバーはEXPO酒場で訪れた町の魅力を知り、発信するため、イベント翌日に古木さんと吉永さんのガイドで鹿児島観光にも出かけました。

鹿児島市街地から足を延ばし向かったのは、車で40分ほどの場所にある、いちき串木野市の「薩摩金山蔵」。かつて全国有数の金の採掘量を誇り、薩摩藩の栄華を支えた金山跡地の坑洞を、現在は焼酎の仕込み蔵、長期熟成貯蔵庫として活用する珍しい焼酎蔵で、吉永さんの推しスポットです。

「鹿児島の歴史と文化も感じられるので、ぜひ知ってもらいたくて。あえて観光では選ばれにくい場所にしました」と吉永さん
坑道へと向かうトロッコ
暗いトンネルのなかをガタゴト揺られながら進んでいく

専用のトロッコに乗って暗い坑道を進む過程はアドベンチャー映画を体感している気分。さらに迷路のような坑洞を歩いて進むと、かつて行われていた金の採掘に関する道具から、現在行われている焼酎づくりまで見ることができ、見応えたっぷりのツアーでした。

年間を通して気温などのコンディションが一定に保たれることを利用した、焼酎の長期熟成貯蔵。人の体より大きな1000Lの甕(かめ)がずらり
来館記念に熟成保存できる焼酎の販売も。「タイムカプセルのように、未来の自分に宛てたメッセージが面白い」と、足を止めるdemo!expoメンバー

最後はお土産に焼酎も買って大満足! 「地元の人に案内してもらうと、メジャーじゃない場所を知れるので面白い。いい機会になりました。今回は行けなかったので桜島フェリーにも乗ってみたい」と、町を歩き、歴史や文化に触れて、鹿児島への興味もさらに刺激された3人でした。

溜め込んでいるエネルギーを、酒場からカタチに

EXPO酒場 鹿児島店を通し印象的だったのが、大阪・関西万博は「遠い町のお祭り」で興味・関心はあまり高くなかったけれど、「万博をきっかけとして、利用して活動してもいいんだ」「勝手にやるって面白い」「楽しそう」と、どんどん刺激を受けて意識が「自分ごと」に変わっていく参加者たちの表情。

岡本

酒場でもその後の二次会でも、ずっとブレずに万博でやりたいことを語って盛り上がってました。

風は西から吹いている! 大阪よりさらに西の鹿児島から、どんどん風を巻き起こしてほしいです。

花岡

僕らみたいな「外の力」がちょっと加わることで活発化する。鹿児島の皆さんが熱い想いを溜め込んでるとわかったんで。桜島みたいに(笑)

セクショナリズムの縦割りみたいなしがらみを取っ払うとか、垣根を越えるとか、ちょっとしたきっかけでエネルギーが爆発して、大きな動きになると思います。

これからもちょくちょく刺激しに鹿児島へ来ますよ!

吉永

参加者の皆さんからたくさんの意見が聞けました。早速もっと掘り下げて聞きたいアイデアもあります! これから回を重ねて、万博と鹿児島のつながりをカタチにしたいです。

「新しいことをするきっかけがほしかった」「人と人がつながるっていいなと改めて思えた」という参加者の声もあり、コロナ禍においてビジネスも人との交流も制限されてきたからこそ、日常が戻り始めたことへの喜びや期待の高まりも感じられました。

「誰でも、どこでも、今からでも参加できる万博を」と掲げるdemo!expoのスローガンの通り、物理的な距離を越えた鹿児島の参加者の熱量に、今後の展開が楽しみになる会となりました。

店長たちが身につける 「EXPO酒場」の前掛けは、全国各地の酒場をつなぐ襷(たすき)。また次の場所へ

2023年6月取材

取材・執筆・撮影:瀬戸口奈央
編集:かとうちあき(人間編集部)