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建てて壊すだけじゃない。永山祐子さんと若手建築家たちが語る「万博終了後の建築物のゆくえ」

2025年に開催が予定されている大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開けまで400日を切りました。

しかし「万博って結局何するの?」「関わり方がわからない」と、どこか他人事に捉えてしまう人が多いのでは?

一方で万博に向けてたくさんの人を巻き込みながら「勝手に」盛り上がり、共創の渦を生み出しているのが、有志団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女たちが生み出すムーブメントを取材していきます。

大阪・関西万博について、勝手に考えるプロデューサー&クリエーター集団・demo!expo。そんなdemo!expoの取り組みの一つに、「万博お引越しプロジェクト」があります。

これは、「何もしなければ会期後に行き場を失ってしまう万博の建築物を、なんとかして移設・再利用できないか」を考えるプロジェクト。建築家がその建物に託したメッセージを尊重する、万博の建築物をまるごと生かすチャレンジです。

今回は建築物の移設や再活用について考えを深めるために、大阪・関西万博に参加する3人の建築家にお話を伺いました。テーマは「建築とリユース・リサイクル」です。

左から、ファシリテーターの花岡さん(demo!expo/株式会社人間)、竹村優里佳さん(Yurica Design & Architecture)、佐々木慧さん(axonometric株式会社)、永山祐子さん(有限会社永山祐子建築設計)

ドバイ万博から大阪・関西万博へ。未来へつなげる移築

大阪・関西万博で「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」のデザインを担当する建築家の永山祐子(ながやま・ゆうこ)さん。永山さんは、2020年に開催されたドバイ万博で、日本館ファサードのデザインを手掛けました。来年の万博で担当しているウーマンズパビリオンは、ドバイ万博の日本館ファサードの建材を再利用・再構築して建てられます。

建材リユースの構想は設計段階からあり、解体・再構築をしやすいボールジョイント式を採用。しかし万博は、建物を建てて壊すところまでしか建築予算がつきません。解体や運送、移設といったプロジェクトは対象外のため、建築家自身で進める必要があり、もちろん予算もつかないため、ほとんどの場合は実現が難しいのだそう。

ボールジョイントとは、金属球に丸棒を付けたボールスタッドと、それに球面接触するソケットから構成されたジョイントのこと。写真は金属球。鉄製なので重い。

それでも、永山さんは「日本館ファサードを解体して日本に持ち帰りたい」と思い、実現に向けて奔走しました。

「時間をかけて一生懸命に作った日本館ファサードを半年後に壊すと思うと、たまらなくなって。気づいたら、『私、これを日本に持って帰りたいです!』と口に出していました」

このときはまだ、永山さんが大阪・関西万博でウーマンズパビリオンを継承することは決まっていませんでした。日本館ファサードを移築するとしても、受け入れ先も何もかもが未定。そんな中、永山さんは「とりあえず持って帰れば何かに使える」と施工者の大林組と経産省を説得し、運送に協力してくれる会社も見つけてきたのです。

「空気を読んでお利口にしていたら希望は叶わない。叶う確率がたった数%でも、空気を読めない奴だと思われても、『やりたい』と言いつづけることが大切だと思います」

そのあと、永山さんは大阪・関西万博のウーマンズパビリオンを手がけることが決定。ドバイから持ち帰ってきた日本館ファサードの建材は、ウーマンズパビリオンに生まれ変わることになったのです。

大阪・関西万博が終わったあと、ウーマンズパビリオンの建物がどうなるのかはまだ決まっていません。しかし、「なんらかの方法で未来につなげていきたい」と永山さんは考えています。

リユースをよりクリエイティブな方法で

大阪・関西万博で「ポップアップステージ(北)」を担当する建築家の佐々木慧(ささき・けい)さん。ポップアップステージ(北)は、ステージよりも観客の集まりやすい「広場」がメイン。大量の丸太がワイヤーによって浮かぶ空間はとても独創的です。

「建材のリユースというと移築を想像する人が多いですが、これは移築ではない新しいリユースの形。万博が開催される6ヶ月間、ここに丸太を置いて乾燥させて、万博終了後にそれを角材として流通させる計画です」

建材となる角材は、森から木を伐採し、時間をかけて乾燥させたのちに製材されるものです。佐々木さんのアイデアは、製材する前の丸太を広場に使用することで、万博開催期間中に「乾燥」の工程を行うというもの。

「そもそも一度使用した角材の再流通は現実的じゃありません。風雨にさらされることで劣化するし、金物で留めたりもするからです。だから、削る前の生の丸太をそのまま使うことにしました」

生の丸太は一つひとつに個体差があるため、建築に使用するのは難しいそう。しかし佐々木さんは、ワイヤーを使って宙に浮かせる構造にすることで丸太の個体差を生かしたと言います。この構造は、上下の金物の部分を切れば残ったところを再利用できるというメリットも。

このアイデアに、竹村さんからは「乾燥のプロセスをこんなにクリエイティブに転換できるんだ!」、永山さんからは「浮かせることで全体を乾燥させられるのがいいね」という声が上がりました。

「僕はステージの設計をすることになったんですけど、ステージそのものはプレハブなんです。ステージで催されるイベントって、ステージの上に立つ人よりも観客のものだと思うので、ステージ自体というよりは観客が集まる広場に重点をおいて計画したいと考えました」

たしかに、リサイクルという観点から見たとき、プレハブ建築はとても効率的でコスト的にも優秀といえるでしょう。

「『リユース』や『リサイクル』って言葉は正しすぎて、つまらなかったとしても正しく作れちゃうので、別の言葉を与えてあげたい。リユースやリサイクルの概念をうまく使いつつ、遊ぶような視点で新しいものが作れたら面白いですね」

「建てて壊す」だけではない、時間を超える建築

竹村優里佳(たけむら・ゆりか)さんは大野宏(おおの・ひろし)さん、小林広美(こばやし・ひろみ)さんと共に、「残念石(残石)」と呼ばれる巨石を用いた施設を設計中です。残念石とは、江戸時代初期、大阪城の石垣を再建するために切り出されたものの、運搬中に落下するなどして使われなかった石のこと。竹村さんたちは、京都の木津川から運んできた残念石を加工せずに“いのち”として扱うことにしました。建築の中心に据えて屋根を乗せ、“いのちある庭”を表現する計画を進めています。

「石は何億年もかけてできるもの。そういったものを建築の中心に据えることで、建てて壊すだけではない、タイムスパンを超えた強度を建築に持たせたいと思いました。約400年前に山から切り出された石を利用して、万博終了後もそれがありつづけるという、その文化自体に価値があるなと」

石を建築物に使う場合、人間が扱いやすいサイズのものを使ったり、希望するサイズに加工したりすることが一般的です。しかし今回はすべての石を3Dスキャンし、その石の大きさや形、表情に合わせて設計を行ったそうです。そのため、残念石を加工したり傷つけたりすることはありません。

「なんで残念石の存在を知ったの?」と質問する永山さん。竹村さんは「石を運んでいる風景を描いた図屏風を大阪城で見つけたんです」と答えます。

残念石は、バイパス工事によって全部埋められてしまう予定だったところを、NPOや木津川市によって保存方法などが検討されてきました。コンクリートの下に埋まるはずだった石に、竹村さんたちは新しい使命を与えるのです。この計画によって残念石の存在を知った人も多いことでしょう。

大阪・関西万博では、トイレの機能を持つ空間とは別の、施設全体の屋根を支える空間の中心として残念石を活用しますが、万博終了後はトイレ機能を取り払うことも可能です。万博終了後の使い道はまだ決まっていませんが、竹村さんは「できれば大阪城公園の中に置いてもらえたらうれしい」と話します。

「残念石は、もともと大阪城の再建に使われる予定だった石。これらの石にはとても価値があります。だから、できれば大阪・関西万博を経て大阪城が見えるところに置き、石や木津川の歴史を万博の記憶と共に残したいです」

前例を作らなきゃ、世の中はつまらなくなっていく

今回の万博でリユース・リサイクルに取り組んだ3人。しかし永山さんは、「普段はあまりリユース・リサイクルのことは考えない」と言います。

「いいものを作って恒久的に使ってもらうのが建築におけるサステナブルだと思うから、普段は別に『リユースできるようにしよう』という発想はなくて。万博は期間限定だからこそ、万博ならではの新しい提案ができるんじゃないかと思い、リユースやリサイクルに取り組みました」

一般社団法人demoexpo(※)の代表理事・花岡(はなおか)さんは、「移築にせよ建材のリユースにせよ、それぞれの建築物が理想の形で残せたらいい。そのためには、建築家のみなさんが万博でサステナブルに取り組んでいることも、我々がdemo!expoで『お引越しプロジェクト』をやっていることも、もっと広く知ってもらわないと」と語ります。
※法人名は「!」なし

「この世の中、『前例がないとできません』と言われてばかりでどんどんつまらなくなっていく。demo!expoでは万博の応援を通じ、どんどん前例がないことをやって、世の中を面白くしていきたいです」(花岡さん)

「せっかくアイデアを思いついても実現しない世の中なんて絶望的じゃないですか。自分の子どもやその先の世代に、『チャレンジしたってどうせ叶わない』なんて思わせたくない。そのためにも、前を向いて挑戦しつづけたいです」(永山さん)

万博を「世の中を変えるチャンス」と前向きに捉える4人。その表情は晴れやかで、力強いものでした。

およそ100人が丸の内で語り合う「EXPO酒場」

demo!expoが開催するイベント「EXPO酒場」は、万博を楽しみたい人たちが自由に集い、語り合う場所です。2022年から始まり、全国40以上の場所で開催されているこのイベント。今回は国内最大級のファッション&デザインの祭典「Tokyo Creative Salon(東京クリエイティブサロン)」とコラボし、丸の内で開催されました。

テーマはずばり「建築」。この日は建築業界の関係者など約100名が集まりました。

第一部は、永山祐子さんと大阪・関西万博に参加している若手建築家8人によるトークセッションです。

永山祐子さんをはじめ、工藤浩平(くどう・こうへい)さん、三井嶺(みつい・れい)さん、佐々木慧さん、鈴木淳平(すずき・じゅんぺい)さん、村部塁(むらべ・るい)さん、溝端友輔(みぞばた・ゆうすけ)さん、竹村優里佳さん、三谷裕樹(みたに・ゆうき)さんが登壇。それぞれの建築物について写真や図で説明し、そこに込めた想いを語ってくれました。

司会者が今後の野望を尋ねたところ、ほぼ全員が「万博終了後の建築物の移設先を探している」と回答。まさに、「万博お引越しプロジェクト」の出番ですね。

第二部では、永山祐子さん、大阪・関西万博EXPO共創プログラムディレクターの齋藤精一(さいとう・せいいち)さん、ランドスケープデザインディレクターの忽那裕樹(くつな・ひろき)さんによるトークセッション。万博が大阪という都市にどのような影響を及ぼすのか、大阪の未来について語ります。

「万博は未来を変える道具。歌舞伎町は戦後、博覧会のパビリオンの跡地を遊技場にすることで復興を遂げました。大阪・関西万博も、大阪を盛り上げるきっかけになればと思います」(永山さん)

「万博は開催するだけではなく、跡地をどうするかが重要。跡地について考え、新しい都市像をいかに示すか。それが万博成功のカギになります」(忽那さん)

「仕事も生活も育児も介護も、『よりよくする工夫』をしていればすべてがクリエイティブです。そんな中で、一人ひとりが見ている方向を一致させる機会が万博。万博の敷地外で起きていることにこそ、目を向けていけたら」(齋藤さん)

トークセッションのあとは交流会。用意されたお酒や軽食を手に、各々が万博や建築について語り合いました。

ほとんどの建築家が、「建てて壊すのではなく、万博の建築物を未来につなげたい」と考えています。demo!expoと共に、建築のリユース・リサイクルとは何かを考えてみませんか?それはきっと、面白い世の中を作る最初の一歩になるはずです。

2024年3月取材

取材・執筆:吉玉サキ
撮影:ナカヤマフミコ
編集:かとうちあき(人間編集部)