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「ややこしい人」と子どもたちが初対面で交流する方法とは? 万博に向けたワークショップ「ヤヤコシ荘の届かないおくりもの」リポート

2025年に開催を予定されている大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまであと1年を切りました。

「万博って、結局なにをするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人ごと」に捉える人が多いのでは?

その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出しているのが、有志団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女らが生み出すムーブメントを取材していきます。

2024年3月20日にパナソニックグループとdemo!expoが共同で、子ども向けの体験型ワークショップ「ヤヤコシ荘の届かないおくりもの」を開催しました。大阪・関西万博に出展するパナソニックグループパビリオン「ノモの国」の出展に向けたワークショップで、子どもたちが体験を通して生み出したコミュニケーションの工夫やアイデアは、パビリオンでの実装も検討されます。

「ノモの国」は子どもたちが「自分を信じるチカラと一歩踏み出す勇気」を持つきっかけを生み出すパビリオンです。子どもたちが楽しめるような意見を、子どもたちから取り入れるためにワークショップが企画されました。

普段とは違うコミュニケーションをとらなければならないシーンで、どう考えて工夫して行動するか……大人にはない、子どもならではの視点と発想が生まれます。

本記事では、当日のワークショップに参加した子どもたちの様子をリポート。そして、パナソニックグループパビリオン運営・イベント担当者と、今回の企画に携わったdemo!expoの思いをお届けします。

配達員になって、ちょっと変わった住人たちを訪ねる宅配ミッション!

今回のワークショップの舞台は架空のアパート「ヤヤコシ荘」。ここに住んでいるのは、ちょっと変わった特徴を持ったヘンテコで「ややこしそう」な住人ばかり。

参加する子どもたちには、住人に荷物を届けるミッションが与えられます。「荷物を届ける」「受け取ってもらう」という、よく知った簡単なやりとりでも、コミュニケーションの方法に工夫が必要なようです。

チームのメンバーと協力しながら自由にコミュニケーションの方法を考えて、配達ミッションのクリアを目指し、後半に振り返り会議をするというワークショップです。

さて、一体どんな出会いと体験が待っているのでしょうか?

新しい大家さんがやってくるヤヤコシ荘。廊下の張り紙には住人から大家さんあてにメッセージが寄せられています。読みづらい文字やイラストもあるようですが……?

受付で自分がどのチームに入るのかを告げられ、アイテムが入ったバッグと帽子が手渡されます。

ワークショップの缶バッジ付き!

建物の2階に上がると、「ヤヤコシ荘」というネーミングがピッタリな趣たっぷりの造り。廊下からはいくつかの部屋があるのが分かります。

会場として借りたのは個室カフェ「癒し空間邸」で、建物は築70年以上

まずは広間で最初の説明を聞きます。

集まった子どもたちに向かって話し始めたのはヤヤコシ荘の新しい「大家さん」です。

大家さんとして今日からヤヤコシ荘にやってきたのだとか。この部屋で住人たちの荷物を預かっていて届けないといけないそうですが、まだ来たばかりで慣れていないので、1人では大変なんだそう。「みんなに手伝ってほしい!」と大家さんは言います。

3〜4人で構成したチームごとに座っているものの、まだ同じチームのメンバーとは打ち解けておらず緊張している人もちらほら。

名札をつくったり、同じチームメンバーの共通点を探すアイスブレーキングをしたり、自己紹介。その際に「学年はワークショップが終わるまで秘密にする」というルールが伝えられました。

みんなで目をつむって「眠い人は手をあげてみて」「実は緊張しているっていう人は?」と質問

子どもたちのおしゃべりの声がだんだん大きくなり、場があたたまってきたところで、誰にどうやって届けものをするのか詳しいミッションについて説明があります。

①宅配リストを見て、荷物をえらぶ
②あて先に書かれた部屋へ行く
③中の住人に「お届けものです」と伝える
④中に入って、荷物をわたす
⑤伝票に、サインかハンコをもらう
⑥届け終わったら、ドアを閉めて、広間に戻る
⑦サインかハンコをもらった伝票を大家さんに見せて、配達完了のスタンプを押してもらう

それでは配達ミッション開始です!

コミュニケーションの取り方がちょっと違う? ヤヤコシ荘の住人たち

それではここで、ヤヤコシ荘の住人たちをご紹介しましょう。

ヘンテコでちょっとクセがありそうな住人たち。どんな特徴があって、どんなコミュニケーションをとるかは部屋のドアを開けて会ってみないとわかりません。

あるチームが最初に訪ねたのは、207号室に住むブリタニカ。

ノックをしてみると、大柄な住人が「お゛お゛お゛う」と部屋に招き入れてくれました。ブリタニカの大きな動きと低い声に、子どもたちは少しおっかなびっくり。

お届けものは……あら、可愛らしいぬいぐるみ。

伝票に受け取りのサインを求めるも、ペンを持って「ん?」「ん?」と思ったようにいきません。どうやらブリタニカはこれまで別のところに住んでいたのか、日本語を勉強中のようです。

子どもたちは部屋に散らばる50音表や持っているミッションカードから文字を拾って、「ブ・リ・タ・ニ・カ」の書き方を教えます。

一緒に文字をゆっくり書いて、無事伝票にサインをゲット。大家さんのいる広間に戻って、報告してチェックリストにスタンプをもらいます。

この調子でどんどんお届けしていきましょう!

お次は202号室に住む、ユルケ。

部屋に入るとパントマイムでお出迎え。

「サインください」「サイン!」と言っても、伝わらない様子。「Name!(名前、書いて!)」と英語でトライしてみるも、違うみたい。

どうやら、なにも聞こえていないようです。子どもたちは荷物と伝票を見せたり、ジェスチャーで伝えようとしたり、いろいろチャレンジ。最後は子どもたちが代わりにサインを書きました。

荷物の送り主はブリタニカで、お水と新しいジョウロ。

前のジョウロが壊れてしまったから、新しいのをプレゼントしてくれたみたいです

ユルケからお菓子を渡され、ブリタニカにお礼のお花を届けてほしいとジェスチャーで伝えられます。実は、チェックリストにある配達だけでなく、その途中に発生するサブミッションも遊び要素として入っているのです。

続いて訪れたのは、201号室のカイの部屋。

しかし表に張り紙があり、電話番号と一緒に「今はるすにしてます。ご用のある方は電話ください!」と書かれています。

大家さんにスマホを借りにいって電話をかけるとつながった! 「お届けものでーす!」と元気よく伝えると、電話の向こうからも元気に「えー! ありがとー!」と返ってきました。

カイは外国にいるようですが、部屋に入ってもいいと言われます。

ここでは電話での指示を聞いて荷物を開封するだけでなく、部屋を片付けたり、写真を廊下の掲示板に貼りに行ったりします。

その次は、205号室に住むツーテン。

今度はちゃんと在宅しているし、自分たちと同じ言語もしゃべるし、気さくに招き入れてくれましたが、彼にはどんな特徴があるのでしょう?

「何人いるん?」「なんて書いてあるか読んでもらっていい?」と、どうやら視覚から情報を取り入れないタイプのようです。

部屋からハンコを探して一緒に押印、そうやって届けたのはレコードでした。ツーテンに教えてもらいながらレコードをプレイヤーにかけてみます。

無事に音楽が流れ始めました。「これ、DJみたいにキュッキュッてできる?」「いや、違うタイプかな」というやりとりも

次の203号室は真っ暗。暗闇からヌッと顔を出したのは住人のアサクレです。

控えめな小さな声で、初めて会う子どもたちに少し怯えている様子。

その手はまるで映画「シザーハンズ」の主人公。これでは荷物も開けられないと言うので、子どもたちが代わりに開けると、お届けものは「電球」でした。なるほど、部屋が暗かったわけです。これまた電球も取り扱えないということで、アサクレに代わってみんなで電球の取り替えをすることに。

「電球取り替えたい人〜?」「まだレコードとかなにも触ってない人いたっけ?」「じゃあお願いします!」とチーム内の連携もバッチリ

無事に電球を替え終わると、ビカッと明かりがつきました。

部屋が明るくなり気持ちも明るくなったアサクレ。子どもたちとの距離も近づき、「みんなに配達のお願いをしてもいいかな……? 隣の女の子にこれを届けてほしいんだ……。僕、彼女のことがちょっと気になっていて……」と打ち明けます。

アサクレから預かった小さな包みを持って、一度大家さんのところに戻る子どもたち

ラストミッションはアサクレからお隣へのお届け物です。

送り先は204号室のニコ。

「アサクレさんからのお届けものでーす!」

お届け物の中身はシャボン玉でした。しかし、どうやらニコはシャボン玉を知らない様子。遊び方を教えてあげながら一緒に遊びます。

「これ洗剤でできてるから、当たったら濡れる」「上に向けてゆっくり吹いたら大きいのつくれる!」「でも口に入ったら苦いで」とそれぞれ知っていることも口々に伝えていきます。

ちなみにアサクレの気持ちを秘密にしてあげるチームもいれば、「あなたのことが気になっているみたいだよ!」とストレートに伝えるチームも

無事、すべての配達ミッションが完了しました!

みんなで感想やアイデアを出し合う、振り返りタイム

配達ミッションが終わったら、広間に戻ってみんなで感想を付箋に書き出します。

楽しかったシーンを書き出したり、「アサクレは明るい朝がほしいから“朝クレ”なのでは!?」「カイは海外を飛び回ってるからカイじゃない?」など名前の由来を考察したりする子どもたちも。

書き出したあとは感想を発表。

「個性的な住人たちだと思ったけど、話したら親近感が湧いた」「グループのみんなと仲良くできてよかった」などなど、楽しかった様子です。

さらに大家さんから質問が投げかけられます。

「仲良くなるコツってなんだろう?」

「頑張る!」というパワータイプもいれば、「相手のことを知るには、まずは自分のことを伝えて知ってもらう!」という、ハッとさせられる意見も。

「思っているよりも気軽に話したら大丈夫!」「見た目と中身は違うから、優しく話せば問題ない」など、子どもたちは短い時間の中でさまざまなことを考え、学んだようです。

「みんなの部屋にまた行きたい!」という声も上がり、最後の時間は住人のもとを再び訪れることに。

また、質問を用意してインタビューする子どもたちもいました。

「なにがうれしかったですか?」「アサクレさんから荷物が届いたの、うれしかったよ」

付箋に手紙を書いて、ドアに貼り付けたり紙飛行機にして投げ入れたりするというアイデアも生まれました。

広間に戻ったあと、「みんなの今日の発見や感想を生かした取り組みや場所ができるかもしれません。楽しみにしていてね!」とワークショップは締めくくられました。

demo!expoのメンバーであり、今回のイベント企画や脚本を担当し、「大家さん」としても登場した作家のしまだあやさんにお話を聞きました。

「今回工夫したのは『余白』を入れたことです。脚本を固めて誘導するのではなく、住人たちとのコミュニケーションを自由にしてもらうことを重視しました。そうすることで子どもたちのチャレンジの幅が広がるし、なにか困りごとがあっても自分たちから解決策を提案するようになるなど、どんどん動きながら考えるようになっていくのでは、と思っています。また、登場人物の背景やストーリーを自由に想像できるよう『考える余白』も大切にしました。

今日、子どもたちは限られた時間の中で『この人はこういうことが好き』または『苦手かも?』ということを感じ取って、行動を起こしていました。住人とのやりとりだけでなく、グループ内でもお互いのことを知って、コミュニケーションの手法が増えていったのがうれしかったです。

demo!expoとしては、今後も子どもたちが自分の思考や行動を解放したり、コミュニケーションを試行錯誤したりするようなイベントをしていく予定です」

万博での体験が、子どもたちが一歩踏み出すきっかけになるように

パナソニックグループパビリオン「ノモの国」の 運営・イベント担当である、那須瑞紀(なす・みずき)さんに、万博への思いや今回のワークショップについて伺いました。

大阪・関西万博に出展する、パナソニックグループパビリオンのテーマで重視したいことはなんですか?

那須

パビリオンのコンセプトは「解き放て。こころと からだと じぶんと せかい。」です。当たり前を覆していろんなことにチャレンジしたり、ちょっとものの見方を変えることで違う発見ができたり、新しい自分に出会えるような体験をつくりたいと考えています。

今回のような体験型のワークショップを開催した理由は?

那須

体験イベントをつくる際に「子ども向けの体験」と打ち出しながら、子どもの意見が入らないということが多い気がします。彼らは想像力も発想力もとても豊かなので、子どもたちが楽しめるものをつくるために、本人たちから意見やアイデアをもらいたいと考えました。ワークショップで生まれたものを、パビリオンのスタッフから子どもたちへの接し方や、パビリオンの中で交わされるノンバーバルのやりとりの参考にできればと思います。

大阪・関西万博でどのような体験や感想を持ち帰ってほしいと思いますか?

那須

子どもたちの印象に残る体験を得てほしいです。子どものころの原体験というのは、そのあとになにかを始めたり決めたりするきっかけになることがあります。

子どもたちにとって、自分に自信を持つことや、勇気を出して一歩踏み出すきっかけにつながるのが、万博での体験だといいなと思います。

子どもたちの発想と行動を起こすスピード感にあらためて驚かされたワークショップ。demo!expoメンバーにとっても、次の試みやアクションにつなげられる1日になりました。

世界中の人が訪れる大阪・関西万博。そこで生まれる新たな出会いと体験に向けて、期待が膨らみます。

2024年3月取材

取材・執筆:狸山みほたん
撮影:後田琢磨
編集:かとうちあき(人間編集部)