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淡路島から万博を考える2日間。出会いと共創に溢れた「EXPO酒場 淡路島店」を体験レポート

2025年に開催を予定している大阪・関西万博。各国の叡智やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまで、1000日を切りました。

しかし、「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人事」に捉えてしまう人が多いのでは?

その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出している企業・人々がいます。

本連載では、大阪・関西万博に向けて「勝手に」生み出されたムーブメントに着目し、その仕掛け人たちの胸の内を取材していきます。

「大阪・関西万博で会場外を盛り上げたい!」という思いを持つ有志団体「demo!expo」。その活動の一つとして、万博やまちづくりへの想いがある方が語り合うイベント「EXPO酒場」を関西各地を中心に開催しています。

そんな「EXPO酒場」が、2022年10月に淡路島に上陸しました。兵庫県初の「TEAM EXPO 2025」(※)共創パートナーである「淡路ラボ」とコラボレーション。「万博をきっかけに、淡路島からも一緒におもしろい未来をつくりたい」と熱い想いをもつ人々が集まり、お酒を片手に語り合い、島の自然や文化を体験できる1泊2日のツアーが行われました。

淡路島という場所で、万博を通してどんな出会いや共創が生まれたのでしょうか? 淡路島出身ライターの吉野舞が、実際にツアーに参加してきた様子をお届けします。

※「TEAM EXPO 2025」:2025年日本国際博覧会協会が立ち上げた、大阪・関西万博に向けて多彩なチームと手を取り合うための参加型プログラム。現在、関西をはじめとする全国の企業や団体が参画している。

淡路島から考える「万博」とは

「淡路ラボ」は、高校生〜30代の全国の若者と島内事業者をつなぎ、地域と若者の可能性を広げるプロジェクトを生み出す共創型プラットフォームです。「本音のチャレンジから、若者と地域が互いに焚きつけ合う機会を創り、本来の自分で在れる景色を生みたい」と目標を掲げています。

その達成のために、大阪・関西万博にも積極的。2025年までに「地域と若者が混ざり合い、挑戦するプロジェクト」100件の立ち上げや、島の魅力を伝える非公式の「裏万博」の開催を計画しています。

淡路ラボメンバー(提供写真)

そこで新たに取り組んだのが、「EXPO酒場」とのコラボレーション。広報担当の齊藤美結さんが「一日店長」となり、ファシリテーターの役割を担いました。

齊藤美結さん。

「EXPO酒場」淡路島店の開催を決めた理由について、「自然のパワーや精神的な豊かさに溢れた淡路島で、普段とは違った角度から万博について考えられる機会を作りたかったから」と齊藤さんは言います。

齊藤

元々、日本国際博覧会協会が進めるTEAM EXPO 2025に登録し活動している同志である『demo!expo』と淡路ラボで、何かできたらいいなと思っていて。

世界中から多くの人が集まるであろう万博を、テレビを観ながら『何かやってるな〜』と他人事で済ますのではなく、せっかくならば、一緒になって私自身もおもしろがりたいと思ったんです。

今回のコラボは、淡路ラボにとって必然的なことだったのかもしれません。

また、EXPO酒場の開催に向けての期待について、次のように語ります。

齊藤

イベントをきっかけに、ひとりでも多くの人に『淡路島っておもしろい!』と感じてもらい、想像できないネクストアクションを起こしたい。

すでにある島の一体感を取り入れながら、万博をきっかけに個人同士が結びつき、誰でも自分らしく生きていけるような舞台を淡路島からつくっていきたいと思っています。

トークショーにブレスト大会も! EXPO酒場が開幕

「EXPO酒場」が開催されたのは、1日目の夜。前半は、神戸市で数多くの官民連携事業を企画してきた神戸市経済政策課担当係長の長井伸晃さんをゲストに迎えました。トークテーマは、「地域が抱える課題をどうやって官民連携でアプローチしているのか」。「demo!expo」が万博を通して行っている「官民を超えたコラボレーション」や、淡路ラボの目指す「100のプロジェクト創出」にも通じる内容です。

左:花岡さん(株式会社人間代表取締役)、右:長井伸晃さん

「官」と「民」のように立場が違う人同士が一緒に問題を解決するには、何が必要になってくるのでしょうか。長井さんが挙げたポイントは3つ。「想像力を働かせること」と「ワクワク感を持つこと」、そして「内側からの発信力」です。

長井

何かプロジェクトを始める時は、相手の心に寄り添う思いやりをもち、想像力を働かせることを大切にしています。

そのためには、日頃から知識を蓄えることが必要。また、プロジェクトを通じてどのような課題を持った人に価値を届けられるのか、そしてその価値が世に出た時のことを想像する。『自分もワクワクできるものなのか』といった感覚的なところにも重点を置いています。

行政や民間などの所属先に関係なく、ゴールを生み出すひとつのチームとして信頼関係を持つこと。そうすると、想定外のことが起こっても楽しむ気持ちにつながっていき、チーム間の結びつきも強まります。

長井

もう一つ欠かせないのが、内側からの発信力です。

携わっている本人がいろんな角度から積極的に発信することで、応援してくれる人が増え、新しい可能性が見えてきます。

イベント中、食品自給率100%を超える淡路島の食もたっぷり堪能しました。地元飲食店のケータリングやインターン生が運営する居酒屋の出張出店も。玉ねぎが有名な淡路島ですが、実は海や山の食材に恵まれた場所。会場近くの「魚佐太」から地元で獲れた新鮮なお刺身や、明治8年創業の島の酒蔵「千年一酒造」の日本酒など、淡路島の食が詰まったメニューが振る舞われ、大満足!

後半には、イベント参加者約25名を4つのグループに分け、淡路島の事業者が抱える課題の解決策を一緒に考えるブレスト大会を行いました。ディスカッションには、島内事業者が実際に参加。シェアハウス事業を立ち上げ予定の株式会社たかべホームズや、淡路の土の可能性を探る近畿壁材工業株式会社、玉ねぎの残渣から事業立案を企てる全淡建設株式会社、そして特別養護老人ホームあわじ荘からはインターン生も混じり、さまざまな業種や人々が混ざり、熱く語り合う時間となりました。

各チームでの悩みを掘り下げていくにつれて、島外からの参加者による予想外の解決方法がポロポロと出てきたことに、島内事業者はびっくり。それぞれが持つ新しい視点を共有することで、斬新なアイデアにつながると分かり、どのグループからも思わず笑みがこぼれていました。

トレッキング&街歩きしながら淡路島を堪能

今回、淡路ラボの「おもしろいプロジェクトが生まれる土壌のベースにある自然も、五感で感じてほしい」という思いから、酒場イベントに加えてトレッキングや淡路島の下町を体験できるツアーが開催されました。

トレッキングの舞台となったのは、興隆寺(こうりゅうじ)地区。開発が進む淡路島の北部・淡路市の中でも、今も手付かずの自然が残っている地域です。観光ではなかなか入れない秘密のエリアを、「淡路島リトリート」のムーサさんがガイドとして案内してくれました。

木漏れ日を浴びながら、道をさえぎる木の枝や草木をかき分けていきます。急斜面を上り下りすると、ゴール地点の「ぜんざの滝」が見えてきました。落差15mと小ぶりながらも、せり出した岩を分岐しながら水が流れ落ちていくのが印象的。山の中で、忙しない都市生活で忘れかけてしまっている自然とのつながりを感じました。

滝の前でハイチーズ!

自然を楽しんだ次の日は、淡路島の中心部にある洲本市街地エリアを散歩。江戸時代そのままの小さな路地に、明治から昭和初期の町屋が残る街並みは島の観光スポットの一つ。ここ最近、「洲本レトロこみち」と名付けられました。

イベントに参加した方々とともに(撮影:長井健一さん)

ちょうどこの日は「レトロこみち」でイベントが開催されており、メダカすくいや、野菜や花の直売、手作り雑貨の販売など多彩な出店を見てまわり、買い物や食事を楽しみました。

島の人たちとも交流し、ついつい時間を忘れて話に花が咲いてしまいました。

レトロこみちにある布小物のお店「PURARE:」の店主、徳重正恵さん。

散策の最後は、大浜海水浴場へ。市街地に隣接するこの海水浴場は、白い砂浜と青い海が美しく、夏季には多くの観光客が訪れます。瀬戸内海の穏やかな海を見ていると、また明日から仕事を頑張ろうと思えました。

山と海、島のビュースポットをめぐって、淡路島の魅力をたっぷり堪能するアクティビティが終了しました。

淡路島での2日間を振り返って

筆者自身、万博への取り組みには興味があったのですが、国際的な一大イベントでもあることからずっと雲の上のような存在でした。今回初めて、EXPO酒場に参加してみると、「自分も万博への想いを語って良いんだ!」と気づき、2025年に向けて将来の夢や社会像について熱く語っている自分に驚きました。

印象的だったのが、淡路ラボのメンバーの一人が話してくれた、「淡路島に住んでいる人たちは、街に対する思いがしっかりと蓄積されていて、新しいものを受け入れられる素直さがあります。この街の古いものと新しいものが混在しているところが好きなんですよ」という言葉。

変化を恐れない淡路島が「demo!expo」や「万博」と出会ったことで、分野や世代を超えた出会いや万博や島の未来に関する新しいアイデアなど、これまでにない価値が生まれたのだと思います。どんな人も主人公になれる「demo!expo」の取り組みは、「万博」という枠組みに収まりきらないほどの可能性を秘めていると感じました。


万博やWORK MILLのキーワードのひとつである「共創」。社会に出てみると、他人と同じ価値観や考えを共有するのはとても難しく、自分の意見を発言しないことが習慣になってしまうこともあります。

今回のツアーを通して、学んだことがあります。それは、「もし何かすぐに行動に移したいときは、仲間がいると心強いのだ」ということ。ひとりで挑戦するのが早いこともあるかもしれません。それでも、とてつもなく大きな目標を立てて行動する時は、たくさんのパートナーとともに挑戦する。淡路島で「万博」というビッグイベントを通じて自然発生的に生まれた「共創」を見つめながら、それこそがベストなのだと気づきました。

取材・執筆・撮影:吉野舞
編集:桒田萌(ノオト)