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話し上手が、会議の本音を潰している? 業界トップのコピーライターが見つけた「聞き出す」から言葉を循環させる共創へ(電通・荒木俊哉さん)

会議でなめらかに話せる。積極的に意見を主張する。沈黙があればすかさず埋める……。いわゆる「コミュ力が高い人」は、どんな職場でも頼りにされる存在です。けれど、そんな人こそ、会議で誰かの本音を潰している可能性があるとしたら……?

実のところ、仕事の成果を分けるのは「話す力」よりも、「聞き出す力」。そう指摘するのが、国内外で数多くのアワードを受賞している電通のコピーライター・荒木俊哉さんです。

「聞く」と「聞き出す」の違い、話し上手な人ほど陥りやすい落とし穴、会議や共創の場を実り豊かなものにするための所作とは? 明日からすぐに使える「聞き出し」スキルについてお聞きしました。

荒木俊哉(あらき・しゅんや)
株式会社電通 コピーライター。1980年、宮崎県生まれ。一橋大学卒業後、2005年に電通入社。コピーライターとしてさまざまな商品・企業・団体のブランディングに従事。Cannes Lions、The One Showのダブル入賞をはじめ、国内外で20以上のアワードを受賞。著書に『聞き出せる人が、うまくいく。』(祥伝社)など。2023年に国家資格・キャリアコンサルタントを取得。

電通のコピーライターが言語化の前に、していたこと

コピーライターであり、「言語化」に関する本も多数出版されている荒木さんですが、「聞き出す」ことの重要性に気づいたきっかけは何だったのでしょうか。

Evoto

荒木

執筆のきっかけは、「言語化をテーマに本を書いてほしい」と出版社からの依頼を受けたことです。

「コピーライター=言葉のプロ」と思われての依頼だったのですが、当時は「言語化」という言葉自体が今ほど広まっていませんでしたし、僕としても「言語化って何ですか?」と聞き返したくらいで。

でも、せっかく声をかけていただいたのだから、自分は普段、どうやってコピーを作ったり仕事をしたりしているのかをあらためて振り返ったんですね。

Evoto

荒木

そうしたら、自分は書いたり話したりする前に、「実はめちゃめちゃ聞いているな」と気づきました。ただ受け身で「聞く」のではなく、相手の頭の中を引き出す、能動的に「聞き出す」んです。

僕が考える「言語化」には、2つの種類があります。ひとつは、自分の頭の中を言語化すること。もうひとつは、他人の頭の中を言語化することです。「聞き出す」は、この後者の「言語化」と結びついているんです。

それが『聞き出せる人が、うまくいく。』という本の執筆につながりました。

荒木さんの著書『聞き出せる人が、うまくいく。』(祥伝社)

Evoto

荒木

僕の経験上、コミュニケーションが得意だと感じている人ほど、相手から「聞き出す」ことに重きを置かない傾向があるように思います。

僕はこれまで、「言語化」に関する本を何冊か出してきましたが、実は電通の社内ではそこまで反響がなかったんですね。

でも、『聞き出せる人が、うまくいく。』の刊行後だけは、「この本の内容を紹介したいので社内セミナーを開催してほしい」と社員に頼まれて。実際、本で紹介したメソッドをロールプレイ形式で実践したところ、「なるほど!」と納得や驚きの声が多くあがりました。

どうして反応に差があったんでしょう?

Evoto

荒木

おそらく電通の社員はコミュニケーションスキルに自信がある人が多いんですよ(笑)。だから、「言語化」がどうこう言われても「自分はすでにできている」とあまり響かない。

ところが、「『聞き出すこと』に意識を向けたことはなかった」とハッとした人が多かったのだと思います。

会議で話せないのは、その人のせいじゃない

では、「話す」と「聞く」が行き交う会議の場は、どんな形が理想的だと思われますか?

Evoto

荒木

参加者がしっかり自分の意見を述べられることです。そのためには「話す」と同じくらい「聞き出す」ことが重要です。

大人数が集まると、どうしても「話すのが得意な人」が会議を進めていきがちですよね。そのこと自体はいいことだし、頼りになる側面もあります。

一方で、特定の人だけで場が回ってしまうと、そのぶん「発言しなくて済む人」も必ず出てしまいます。皆で意見を出し合って、よりよい成果を生み出すことが目的ならば、やっぱり多様な意見を出し、混ぜ合わせていくほうがいい。

確かに、定例会議のような場だと特定の発言者に偏ったり、若手社員が意見を出しづらい空気があったり、というケースもよく聞きます。

Evoto

荒木

そうならないために、まずは話しやすい環境をつくることが大切です。

そもそも、「自分は話すのが苦手」「言語化が下手」だと思い込んでいる人は多いですが、それは本人のせいではなく、周りのせいだったりします。

Evoto

荒木

自分が考えていることを話しづらい時って、「間違うんじゃないか」「言っても軽くスルーされるんじゃないか」という怖さが前提にあるんですよね。

だとしたら、それは周囲が話しやすい環境をつくれていないということ。参加者である上司と部下同士の関係性だったり、会議に臨む全員のスタンスだったりに原因があると考えたほうがいい。

だから、そもそも「話す」ことに過剰な苦手意識を持たなくていい、ということは知っておいてほしいですね。

逆に、「若手の意見も聞こう」と、積極的に若手社員に話を振る上司もいますよね。

Evoto

荒木

上司は良かれと思っていても、残念ながら部下にとっては逆にプレッシャーになる場面もあります。

うちの若手社員も真面目で優秀な人ばかりですが、「自分の意見にどんな反応が返ってくるかわからなくて怖いから、今日も何も言えませんでした」と会議後に落ち込んでいるのを見たことがあって。

役に立ちたいという気持ちはあるけれど、怖い。同様のことは、どの組織でも起きていると思います。

「でも」は使わない、「ちなみに」は効果的に使う

「話しやすい場」をつくるために、まずは何から手をつければいいのでしょうか。

Evoto

荒木

僕は3年ほど前にキャリアコンサルタントの資格を取ったのですが、そこで学んだことが「話しやすい場づくり」を考える上で役立っています。

まずは、「相手の言葉を100%受け入れる」姿勢が大事です。内容について思うところがあっても、否定せず、ジャッジせず、いったん最後までしっかり聞く。当たり前のようでいて、これが意外と難しいんですよ。

なぜ難しいのでしょう?

Evoto

荒木

同じ組織内であれば、普段の関係性があるからです。「この人はこういうことを言いがちだな」と知っている状態で聞くと、聞きながら頭の中で別のことを考え始めることってありますよね? それは100%で聞いている状態とは言えません。

だから、まずは「ちゃんと聞く」ことに集中して、相手の言葉を受け入れてみてください。すると、相手は「この人になら話せる」「もっと話しても大丈夫かもしれない」という安心感を抱きやすくなるんですね。

確かに、「この人になら話せそうだ」と思える瞬間があれば、以降も発言することの怖さは薄れる気がします。

Evoto

荒木

「まずは100%受け入れる」は社内の会議だけでなく、クライアントとの交渉、顧客のヒアリング、上司と部下との1on1など、あらゆる対話の場で有効ですので、ぜひ実践してみてください。

Evoto

荒木

もうひとつ、すぐにでも使えるメソッドとして、「でも」は使わないのもおすすめです。

「でも」「だけど」「ですが」といった逆説の接続詞には、その一言が出た瞬間に場の空気がピリッとするくらいの威力があります。

相手の言葉を100%受け止めたとしても、悪気なく無意識に「でも、それって現実的には~」と即座に否定してしまっては、せっかく生まれかけた安心感もスッと消えてしまいます。

気軽に使いがちな「でも」にそんな恐ろしい否定の力があったとは……!

Evoto

荒木

とはいえ、「共感も納得もできない意見が出たらどう反応すれば?」と思われる人もいるでしょう。そんなときは、相手の言葉を否定するのではなく、相手の意見に乗っかって、自分の考えを添える言葉「ちなみに」の出番です。

たとえば、「ちなみに、どういった経緯で、先程のアイデアが出てきたのでしょうか?」などですね。

確かに、そこまで圧の強さは感じませんね。

ちなみに(笑)、日によって発言内容が食い違う上司に振り回される部下、という構図もよく見聞きします。そんな上司にはどう対応すれば?

Evoto

荒木

昨日は「A案でいくぞ」と言っていた上司が、翌日は「やっぱりB案だ」と言い出すようなことですよね。

そういう場面では、「何か変更の事情があったのですかと、プロセスを探る聞き方をおすすめします。そうすると、「実は上司のさらに上からの指示だった」などの変更の背景が見えてくる。納得できる部分が見つかれば、そこから前向きな議論ができるはずです。

確かに大きな組織ほど、社内の込み入った事情が意志決定に影響を及ぼすところも大きそうです。

上司の本音を聞き出すためのテクニックとして役立ちそうですね。

Evoto

荒木

もうひとつ、本音を引き出すための聞き方として、「正直なところ、どうでしたか?」というフレーズもあります。

たとえば、社外のクライアントとのブレストや交渉の場で、相手が本音を言い淀んでいる空気を感じたら、さらっとこのフレーズを投げかけてみる。そうすると、人って「それなら、ちょっと言ってみようかな」という気持ちになるんですよ。

誰しも議論の場では、自分のアイデアが可愛いし、相手の意見も否定しづらいですよね。そんなときに「正直に言ってもらえたらうれしい」と言われたら、「だったら言おうかな」と思えてくる。つまり、本音を聞き出しやすくなるんです。

沈黙は、相手が言葉を探している時間

「間」の取り方も気になります。沈黙は「怖い」と感じる気持ちには、どう向き合えばいいでしょうか。

Evoto

荒木

話し上手な人ほど、場をつなごうとして沈黙を素早く埋めがちですが、無理に埋めようとしなくていいんですよ。

僕は、沈黙=相手が何かを言葉にしようと考えている時間、と捉えています。ほとんどの人は、自分が考えていることを何とか言葉にしようと頑張ってくれているはず。だからこそ、その時間も大切にしてはどうでしょうか?

気まずさに耐えられない場合はどうすればよいでしょうか?

Evoto

荒木

それは質問自体が答えづらいからかもしれません。誰も答えがわからないことを「どう思う?」と聞かれると、相手も戸惑ってしまいますよね。

そんなときは、「これはどうしたらいいかなぁ?」と会議室全体に、もしくは独り言のように宙に投げてみてはどうでしょうか。

みんなで宙を見上げるような沈黙であれば、意外と耐えられます。そこから「私だったらこうするかも」と発言も生まれやすくなります。

特定の個人ではなく、場全体に投げることで、誰かしらから意見が出てくる、ということですね。

Evoto

荒木

特にリーダーが実践すると効果的です。

「自分もわからないけど、一緒に考えたいんだ」という姿勢が伝わると、チーム全体に話しやすい空気が生まれますから。

ここで根本的な問いに立ち戻りますが、「しっかり聞けている」とは、どのような状態でしょうか。

自分では「聞いている」つもりでも、それがどこまで本当に「聞けている」のかの判断は難しい気がします。

Evoto

荒木

僕は、自分が聞けているかどうかではなく、「相手がどれだけ喋っているか」に置き換えて考えています。

「ちょっと話しづらそうだな」「まだ何か思っていそうだな」と感じたら、それは聞けていないことの裏返しだな、と。

それに、相手が言っていることをすぐに100%理解する必要もない、とも思っています。話の中に気になったキーワードがひとつでもあれば、次の質問はできますよね。

すべてを理解しようとすると、そちらに脳のリソースが使われて、かえって話を聞けなくなることもありますから。

言葉が循環するとき、共創がはじまる

会議自体は盛り上がっても、振り返ってみれば「全員が言いたいことをただ言っただけ」で明確な結論は出ていなかった、ということもあります。

そんなときは次の会議でどう改善すればいいでしょう?

Evoto

荒木

一通り喋ってもらうこと自体は、安心して話せる場づくりという意味ではすごくいいことです。

その上で、次回は「ちなみに、○○さんのあれってどういう意味ですか」と深掘りする時間を意識的に加えると、もっと本質的な話ができるようになるはずです。

相手の言葉のキーワードを追いかけて、その意味を追いかけて深掘りする聞き方を、僕は「追い聞き」と呼んでいます。何を聞けばいいかわからないという人は、まずは「追い聞き」をしてみる。これだけでずいぶん楽になります。

Evoto

荒木

ただ、いずれの聞き出し方も急にできるものではないですよね。そこはやっぱり普段からの信頼の積み重ねも大事です。

最初から「腹を割って話す」ことはハードルが高くても、「腹を割って聞く」ことはできると思うんです。事情や利害関係があって、人には言えないこともある。

でも、「聞く」ことに関しては、本当は「ここは聞いちゃいけない」ということはないはずですから。

そう考えると、「聞き出す」ことは、共創においても大きな役割を果たしてくれそうです。

Evoto

荒木

共創って、そもそも会社も部署も違う人たちが一カ所に集まりますよね。だったら、意見も違って当たり前。

でも、「まずは聞く」から入ると、聞くことで自分の意見も少し変わってくるはずです。相手の話を聞き、自分の頭の中も言語化し、それをテーブルに置いて、「どう思いますか」と相手に渡す。相手の言葉を受けて、また自分の中に新しい意見が言語化される。それをまた渡す。

この言語化の循環をつくることが、共創の場ではものすごく大事だと思っています。意見を変えずに自分の主張だけを繰り返していたら、結局は平行線で何も生まれませんから。

宮野 玖瑠実
宮野 玖瑠実

【編集後記】
今回のテーマ、企画会議の時から「まさに私のことじゃん……」と思い、どんなグサグサくることを言われるのだろうかと、なかば怯えながら取材場所に向かったのを覚えています(笑)。ついつい喋りすぎてしまう私は、頭の中に次から次へと言葉が浮かんでくるタイプ。話すことに苦手意識のある相手に対して、「私ばかりが聞き出す姿勢を持つのって、なんだか損なんじゃ……?」と一瞬思ってしまいました。
でも、そうではなく。私が相手から話を聞き出すことで、相手の頭の中が言語化される。そうしたら今度は、相手が私からも話を聞き出してくれて、私の頭の中も言語化される。これって、まさにWin-Winのコミュニケーションではないか!「しゃべったもん勝ち、手を挙げたもん勝ち」の弱肉強食の世界ではないんだ!と、ハッとしました。取材後から、さっそく少しずつ「聞き出す」姿勢を実践してみている今日この頃です。
(株式会社オカムラ WORK MILL 編集員 / 共創ディレクター 宮野 玖瑠実)

2026年8月取材

取材・執筆:阿部花恵
撮影:栃久保誠
編集:鬼頭佳代(ノオト)