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素直で真面目、だけど本心がつかみにくい……「いい子症候群」の特徴をもつ若手社員とうまく働くためのヒントとは?

デジタルに強く身軽に活躍するキラキラしたイメージをもたれやすい「Z世代」。しかし、一部のメディアに取り上げられるようなZ世代は多数派ではないのかもしれません。

素直でいい子、真面目でいい子、なのに主体性も積極性も感じられず、何を考えているのかわからない――。そんなつかみどころのない特徴をもつ若者世代を「いい子症候群」と定義したのが金沢大学や東京大学など複数の大学で教鞭をとる金間大介さん。

そんな「いい子症候群」の特徴をもつ20代前半の若手社員と、どうコミュニケーションし、どうサポートすればお互いにとってよい形になるのかを、一緒に考えていきます。

金間大介(かなま・だいすけ)
金沢大学融合研究域融合科学系 教授、東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授、LFOR 共同創業者・取締役。
北海道生まれ。横浜国立大学卒業。同大学大学院工学研究科物理情報工学専攻修了。博士(工学)。バージニア工科大学大学院Visiting Scholar、文部科学省科学技術・学術政策研究所研究員、北海道情報大学准教授、東京農業大学准教授などを経て、2021年より現職。専門はイノベーション論、マーケティング論、モチベーション論など。著書に『先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)、『イノベーションの動機づけ』(丸善出版)など。

大学生~20代前半の過半数があてはまる「いい子症候群」とは?

「いい子症候群」という言葉は、インパクトがありますよね。どういう特徴のある人のことを指すのでしょうか?

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金間

「素直」「真面目」と評されながらも、同時に「何を考えているのかよくわからない」「自らの意思を感じない」と言われる。これが、いい子症候群の典型的な特徴です。

協調性があり、受け答えもしっかりしていて、話もよく聞き、言われたことには真面目に取り組む。それなのに、主張したり、言われた以上のことをしたりはしない。

今の大学生から20代半ばまでの過半数がこうした特徴を持っていると考えられます。

何を考えているかわからないというと、最初はちょっと付き合いにくさを感じるかもしれませんね。

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金間

いえいえ、実はここ数年、春先から夏頃までは、人事部の人たちから「今年の新人は優秀で驚いた」という話をよく聞くんです。

ただ、どの年もその評価は長続きしない。秋ごろになると「何を考えているのかわからない」という困惑の声が挙がり始めます。これを毎年繰り返しているんですよ。

なぜ評価が変わるのですか?

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金間

きっかけは、部署への配属です。

彼ら、彼女らは、目立つことに恐怖心があり、常に集団に埋没していたいと考えています。横並びで平等意識が強く、競争が嫌い。自分に自信がなくて、自分では物事を決めらない。

そういった特徴があるからこそ、大事なシーンほど空気を読み、周囲を模倣しながら、100人のうちの1人でいようとします。

入社後の研修中は同期とお互いをコピーしあい、それなりのリアクションを取ることができます。しかし、一人きりで部署に配属されると、状況は一転。多くは、コピーする相手を失ってどうしていいかわからなくなり、メンタルバランスを崩してしまいがち。退職を考え出す人も少なくありません。

一方で、少数ながら“同世代村”の空気や同調圧力から解放され、自由になる人たちも存在します。どちらにしても、配属は人生で初めての転換期なのです。

若者が就活で見せる「いい子像」に企業が戸惑う理由

「Z世代」と聞くとネットやSNSを使いこなし、積極的に情報発信をする若者像が浮びますが、それはごく一部なのですね。

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金間

メディアで取り上げられるような主体性、積極性を持ち合わせた若者は、全体の1割程度というのが私の肌感です。

コロナ禍で大学の授業もオンライン化が進みました。こういった個々の顔が見えにくい環境は、いい子症候群の若者たちにとっては居心地がいいはずですよ。ちなみに、私がZoomで授業をすると、全員が映像も音声もオフにしていることはよくあります。

最近は大学の授業だけでなく就職活動もオンライン化していますね。

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金間

就活のオンライン化は、場所や時間の制限を受けにくいなど、自分のやりたいことが明確で、積極的な学生たちにとってはメリットが大きいようです。

ただ、いい子症候群の特徴をもつ人は、かなり困ったはず。例えば、インターンシップをいつ始めるか? エントリーシートをどのように書くか? 学校に行きさえすれば耳にしていたであろう情報が入らなくなり、誰かの真似ができなくなってしまったからです。

友達にLINEをしたり、先生にメールをしたりもしないのですか?

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金間

自らアクションをすることは、あまりありません。ただ、「不安だ」とは言っていますね。そのため、就活エージェントに頼りきってしまう学生も増えています。月に1回ほどエージェントと面談をして、言われるがまま就活をしている。

エントリーシートも自分で書かないで、ネットの情報をコピーするか、エージェントの下書きを清書するんです。

一人で臨む面接はどうするのでしょう。

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金間

面接は、むしろ彼らの得意分野です。中学生ぐらいから面談など一対一で大人と話す経験を重ねているので、どういうリアクションをすれば大人が満足し、評価してくれるかをよく理解し、演じられますから。

最近、導入する企業が多い1on1でも、その能力を発揮していると想像できます。

そうなると、企業側はどうやって本心をつかめばいいのか……。迷いますね。

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金間

例えば、有名広告代理店など本気で主体性の高い人材を求めている企業は、演技をすぐさま見抜くでしょう。

一方で、多くの企業が、結局は「いい子」を求めている。「主体性のある人材がほしい」「個性を発揮してほしい」と言いながらも、それが意味するのは「自分たちが理解できるちょっと変わった人」なんですよ。

「実際に扱えないほど個性の強い人に来てもらっては困る」という大人たちの本音を、いい子症候群の若者たちは見抜いているのです。

真面目で言われたことをきっちりやるけれどハメを外さない。そんな新入社員像は、まさに企業が求めているものだ、と。

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金間

そうです。就活生ではなく、すでに日本企業で働いている人たちも同様にルールを逸脱することのできない「いい子」化する傾向があると考えています。

自分に自信がなく、「どんな選択をしても自分なら大丈夫だ」と思えずに、同調圧力に屈して、他者に依存したテンプレートで物事を進める――。

日本の大人たちが「いい子化」しているから、下の世代もそれをコピーするようになったのです。

先輩、上司にできるのは、失敗から立ち直る姿を見せること

……ということは、まず私たち先輩世代が変わる必要がありますね。新入社員をサポートする前に。

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金間

そう、サポートするなんて上から目線、とんでもないんですよ。まず、先輩たちこそ、いい子の殻を破らないといけません。企業の中でも「個性を発揮して挑戦した方がいい」というのは一般論ですよね。

イノベーションは、挑戦、つまりトライアンドエラーを何回も繰り返した先に待っているもの。だからこそ、社会の一員として、次の世代に挑戦を楽しみ、失敗する姿をオープンに見せてあげてほしいと思っています。

もし自分が関わる新入社員に「いい子症候群」の特徴があると感じたら、具体的にはどんな接し方をすればいいのでしょう。

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金間

例えば、40代のベテラン社員と20代の若手社員がいたとします。二人で話しているときに、ベテラン社員が「俺、若い時もうちょっとあれをやっておけばよかったって思うんだよ」と話すシーンを想像してみましょう。

この後、続く言葉はおそらく「お前は俺のようにならないようがんばれよ」か「だから、もう一回やり直そうと思ってる」の二択なんですよ。

今、先輩や上司、もっといえば企業や社会全体が、後者の台詞を言えるかどうかを問われている。「やり直すために本を10冊買ってきたんだよ。これ面白かったよ」「それを生かしてこんな企画を作ったんだよ」という先輩像を見せてあげてほしいんです。

あくまで、自分自身が興味をもっていることに取り組む、と。

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金間

そのとき、若手社員に「手伝ってくれない?」と聞いてみてもいいと思います。ベテラン社員が主、若手社員が副という関係で、しかも感謝もしてもらえますから、彼らはがんばるはずです。あと、「この本を参考にして考えてみてよ」とフォーマットを提示すると、きっちりやってくれるでしょう。

いい子症候群の特徴をもつ若者たちは積極性がない分、やることがあれば残業もあまり嫌がりません。友達との約束を断ってでも、「先輩ががんばってるから僕もやります」と言うはずです。

「挑戦について語るなんて暑苦しいって引かれないかな?」と心配になのですが……。

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金間

いえいえ、彼らにとって、挑戦すること、夢を持つこと、努力することはかっこいいこと。恥ずかしがる必要はありません。

一方、例えば40代以上の男性はイチローやキムタクをお手本として育ち、影で努力するのがクールでかっこいいという価値観を持つ傾向があります。ただ、それは今の若者にはあまり響きません。

逆に、成功しているのに努力を隠していると、「そこまでしてかっこつけたいなんてイタい」と感じるようです。だから彼ら、彼女らは頑張ったら「頑張りました」と言うし、試験勉強をすれば「昨日、めっちゃ勉強した」と話すんです。

そうなんですか。目からうろこが落ちました。

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金間

トライアンドエラーをくりかえしながら、「失敗したからこの方法じゃないな、次はあの方法でやってみよう」という姿を見せたら、「この先輩、すごい」と思われるんじゃないでしょうか。「将来、こんなことしたいんだ」と夢を語るのも、新鮮に響くと思いますよ。

同じ方向を見ながら、雑談するぐらいのスタンスでも大丈夫

先輩側が挑戦していれば、若手社員も挑戦するようになるのでしょうか。

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金間

そうした期待は厳禁です。こちらに「自分がやれば若手社員も自主的にやるようになるはず!」という気持ちがよぎった瞬間に、若手社員は自分が期待されていることを察知して、「搾取されるかもしれない!」と壁を作ってしまいます。

もし相手に変わってほしいと向き合って話せば、先輩、上司側はきっと「気持ちが伝わった」という手応えを得られるでしょう。でもそれは彼ら、彼女らのテンプレ通りの反応であって、本心ではありません。その後、何の変化も望めません。

なるほど。

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金間

オンラインでも、オフラインでも、相手に興味を持つ程度が、若手社員にとっては圧のないコミュニケーションです。同じ方向を見ながら、ぼそぼそ雑談するぐらいでちょうどいいですよ。

例えば、「俺はこれが好きなんだけど、どっちが好き?」「来月、ここに行こうと思ってるんだよね」「この映画、面白いんだよ」「この本読んだけどつまんなかったんだよね」……。「やってみなよ」は、あまり言わないほうがいい。

「自分ばかりしゃべりすぎてしまった」とは思わなくていいのですか?

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金間

彼ら、彼女らは自分からアクションを起こすのが苦手ですから、会話のときは自ずと先輩、上司側の話す割合が高くなるでしょう。でも、それは気にしなくていい。

ただひとつ、直接向き合わないことだけ気をつけてください。例えば、「この後輩にはこういうふうになってほしい」などの気持ちが芽生えた瞬間、何も話さなくても彼らに伝わり、敬遠されます。

相手ではなく、とにかく自分自身にフォーカスしてコミュニケーションするということなんですね。

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金間

助言したり、何かしてあげたくなったりしても我慢してください。若手社員たちがどうしていいのかわからなくて不安そうにしていても、正解を教えてはいけません。

失敗したら、リカバリーをする姿を見せればいい。社会人経験が長いあなた自身が、それに楽しんで挑戦してほしいと思います。

2022年9月取材

取材・執筆:有馬ゆえ
編集:鬼頭佳代(ノオト)