会議を設定するときはサービス精神を込めて。座談の帝王が語る“いい会議”をつくるためのコツ(工藤郁子さん)
文芸評論家の三宅香帆さんから、トークイベントでの共演をきっかけに「座談の帝王」と評された、情報法研究者の工藤郁子さん。
複数人での会話を盛り上げ、実りある議論へと導くその手腕は、コンサルティング会社での実務経験や、世界のリーダーが集う「ダボス会議」の運営に携わった異色のキャリアに裏打ちされています。
工藤さんが国内外のリーダーたちの振る舞いから学んだミーティングの回し方、そして「流されてきた」と語るユニークなキャリア形成について伺いました。

工藤郁子(くどう・ふみこ)
大阪大学 社会技術共創研究センター 特任准教授。専門は情報法政策。民間のコンサルティング会社などを経て、世界経済フォーラム 第四次産業革命日本センター プロジェクト戦略責任者を務め、現職。共著に、『ELSI入門:先端科学技術と社会の諸相』(丸善出版)、『尊厳とAI・ロボット』(法政大学出版局)など。TBSラジオ「文化系トークラジオLife」番外編ポッドキャスト「働き者ラジオ」では、山本ぽてとさんとパーソナリティを務める。
国際会議にみるコミュニケーション術
工藤さんはAIと法に関する研究者ですが、前職は世界経済フォーラムに所属し、「ダボス会議」の運営に携わっておられたんですよね。
ダボス会議といえば、世界から各国の首脳や大企業のトップなど、グローバルリーダーが集まる、「会議の頂点」というイメージがあります。
どのようなお仕事をされていたのですか。

※ダボス会議:年に1度、スイスで行われる世界経済フォーラムの年次総会のこと。経済、政治、市民社会、学問などのリーダーや、アーティストやジャーナリストたちが集い、経済や技術、環境、国際課題などについて議論する。

工藤
議題となるアジェンダを作成したり、レポートや白書をまとめたり、ほかには若手の論客を探してきて登壇を提案するといった、裏方の仕事をしていました。
2026年のダボス会議では、トランプ大統領の出席や、カナダのカーニー首相の演説も話題になりました。世界のリーダーを間近で見られて、どのような印象を受けましたか。


工藤
グローバルリーダーと呼ばれる方々は、思った以上に「自分の言葉」で話されているということです。
裏方として、司会者には想定質問を、登壇者には構成案のようなものを事前に用意します。ただ、そこから外れた質問が飛んでくることもあります。
そんなときも慌てることなく、ご自分の意見を話される。リーダーとは自分の言葉で語れるものであり、そのトレーニングを日頃から積み重ねているのだなと感じました。

国際会議で「上手いな」と感じたコミュニケーションのとり方はありましたか。


工藤
欧米の方に多い話法として、「相手を否定しない」というのがあります。
反論をするときでも、「あなたの意見には100%賛成です」と言ったうえで、「でも違うアプローチもあって、私はそちらを選んでいます」と言ってマウントをとるわけです。
気づかないうちに急所をつかれているような感じですね。


工藤
これはあくまでコミュニケーションのスタイルの違いなので、日本の会議では率直に反対意見から入っても問題ないことが多いと思います。
ただ、国際的な場でいきなり「私はそう思いません」と切り返すとひかれてしまうことがある。登壇される方には、事前にその点をお伝えしてアドバイスしました。
ほかにアドバイスされていたことはありますか。


工藤
相手の質問に引っ張られすぎず、自分のキーメッセージはしっかり伝えてきてくださいということですね。
少しひねった質問をする司会者もいますが、本来自分が伝えたかった話題にできるだけうまくつなぎ、多少強引でもいいのでキーメッセージは残してきましょうとお伝えしていました。
国際会議では、その前後の非公式な会話が実は重要だったりしますよね。


工藤
その通りです。「ダボス会議」の目的は、セッションでお話しいただくことだけではなく、参加者同士の交流にも大きな価値があるんですよね。
セッションでおもしろいと思った人に声をかけて、交流が始まる。そうしたつながりが生まれることをすごく大切にしています。
参加者の記憶にも、セッションそのものよりも、そうした出会いのほうが残るように思います。


工藤
まさに参加者の満足度は、その後の交流で上がります。自分がイベントなどの場づくりを行うときにも、その点は気をつけたいと思っています。
どのような工夫をされているんですか。


工藤
登壇後にどうすれば登壇者と参加者がコミュニケーションをとりやすいかを考えて設計しています。
たとえば、コーヒーをどこに置くか、話し声が次のセッションの妨げにならないようにどれくらい距離をとって交流スペースを設けるか、など。そういったことに気を配っています。
ミーティングを上手く回すには
話を一般企業のミーティングに移したいと思います。私自身もミーティングの進行役を務めることがあるのですが、ファシリテーターが意識するとよいことはありますか。


工藤
褒めることと、感謝すること。
どんな会議でも意見は出た方がいいので、委縮せずに話してもらいたいですよね。あと、疲れていてぼんやりしている人もきっといるので、意識を向けてもらうためにも有効だと思います。
褒められたり、感謝の言葉をかけられたりすると、心が浮きたって、ちょっと頑張ろうという気持ちになりますよね。
では、参加者のほうは、どのようなことを心掛けるとよいでしょうか。


工藤
私は今、研究者なのですが、研究会などではシャイであまり質問をできないので(笑)。自戒を込めて言いますが、あまり気負わずに質問したりコメントしたりしたほうがいいです。
鋭い意見を言おうとしなくていいんですね。


工藤
皆知っているかもしれないけれど一応聞いておくというような、その場のハードルを下げる質問などもそうですね。
あとは、セッションやパネルディスカッションの場合は、ファシリテーター側が「振れば話してくれる人」をあらかじめ探しておくという手もあります。
司会に慣れていない人は、困ったときに話を振れる人がいるだけで、場を回しやすくなります。

あえて悪役になってみる
以前、工藤さんが参加されたトークイベントで、「あえてヒールを買って出る」というテクニックを使われていました。どのような狙いがあったのですか。


工藤
プロレスに「アングルをつける」という言葉があります。対決の角度をつける、という意味です。
私はプロレスに詳しくないのですが、ベビーフェイスといわれるヒーローと、それに挑むヒールという基本構造があると有識者に教えてもらいました。ヒールは、主役の魅力を引き出す役割を担っているそうです。
トークイベントでも同様に、主役となる人の魅力をより引き出せるよう、あえて対立する立場をとってアングルをつけたわけです。
そのために、自分の本来の考えとは違う発言をされるということもありますか。


工藤
虚構性が高くなるのもよくないので、自分の感覚と全く違うことはさすがに言いません。
でも、思っていることを極論として言うことはあります。「あえて極論を言いますが」とか「強調して言いますが」と前置きをして。
そうすると、出演者の立場や見解の違いがどこにあり、何が論点なのかがわかりやすくなると思います。
98%は同じ意見でも、2%の違いを強調して「でもここは違う」という話をすると、そこから話が膨んで回り出します。
なかなかに高度なテクニックで、日ごろの会議で実践するのは難しそうですが……。


工藤
普段の会議でも、たとえばプレゼンテーションを聞いていて、ほとんど賛成なんだけど、ちょっと違和感があるときってありますよね。そこを「あえて言いますが」と取り上げてみるといいと思います。
小さな認識の齟齬だと思っていたものが、実は根本的な違いだったと気づくこともあります。あえて反対の立場で意見してみるというのは大切なことだと思っています。
「キレ芸」や「顔芸」も大事
会議を進行するうえで、ほかに心がけていることはありますか。


工藤
日常の会議では、ぼんやり聞いている人や内職をしている人もいて、「何の話だったっけ?」となることがあります。だから、クッションとしてそれまでの話を簡単に要約することは意識しています。
少し高度なテクニックですが、たとえば久しぶりに定例会に参加した偉い人が、それまでの経緯を踏まえずに言いたいことを言い出したような場合に、「これは補足ですが」と言いつつ、そのズレた内容を無視して、過去の経緯と合致した内容にまとめ直すことも大切です。
置き換えて軌道修正するわけですね(笑)。


工藤
はい、それで元に戻しておきます(笑)。とくに議事録が残り、それによって意思決定を重ねていくタイプの会議では重要だと思います。
それから、誰かに「キレ芸」をお願いすることもあります。

キレ芸ですか?!


工藤
たとえば、相手企業のミスで問題が起きたとき。今後も一緒に仕事は続けたいけれど、一度はきちんと遺憾の意を伝えなければならない場面ってありますよね。
そういうとき、上司に「すいません、この会議で怒ってもらわないといけなくて」とお願いする。「今後も気持ちよく仕事を続けていくために、言うべきことは言って、いいところで拳を下ろしてください」と。
そこで禊を済ませるわけですね。


工藤
そうです。いわば上司にヒール役をお願いしているわけですから、「実はいい人です」と相手にフォローしたり、改めて会食の場を設けたりという配慮はしていました。
舞台の演技や演出のような話ですが、意外に効きますよ。
演出力、大事かもしれません。


工藤
そうですね。イギリスの伝統的な寄宿学校では、リーダーシップ教育の一環として演劇を取り入れているところがあると聞いたことがあります。
リーダーには、感情をコントロールしたり、場にふさわしい表情をつくったりする力も求められます。いわば「顔芸」ですね(笑)。
そうした基本的なロールプレイを、演劇を通して学ぶということだと思います。
ケアの話でもある
いわゆる仕込みも含めて、場を綿密にセッティングされていることに驚きます。一つひとつの会議について、目的から逆算して準備されているのですか。


工藤
理想論としてはそうですね。
私はもともとコンサルティングをしていて、自分だけでなく、さらにアワリーフィー(労働単価)の高い上司の時間を使って会議を設定するからには、「この会議で何を成果とするのか」は事前に決めておかないともったいないという気持ちがあります。
一方で、製造業の方々と仕事をしたときには、2時間くらいかけてゆるやかに話し続ける会議に同席することになり、カルチャーショックを受けましたね。
いわゆる「ワイガヤ」と呼ばれるようなスタイルですね。


工藤
はい。話を行ったり来たりさせながら情報共有することで、安全面への小さな懸念が自然に共有されたり、品質への意識がそろったりするんですよね。
だから、「いい会議」のかたちは業界や目的によって異なります。ただし、どんな会議であっても、「今日はどういう場にしたいのか」という目的意識はあったほうがいいと思います。
「サービス精神」の話のように感じました。参加者全員にとって、今日この場を意味のある時間にするために力を尽くすという姿勢ですよね。


工藤
それに加えて「ケア」の話でもあると思います。例えば、怒る必要のあるときは別として、会議では基本的にトーンはニュートラル、あるいは少し機嫌が良いように見せるようにするのもそうです。
誰かが不機嫌そうだったり、興味がなさそうだったりすると、その場に気遣いが発生してしまいます。それはケアを一方的に搾取していることになりかねません。それを防ぐ行為もまたケアの一つですね。
機嫌よくいることも大事ですね。会議には権力勾配が生じることが多いので、なおさら。


工藤
倫理的に良くないというだけでなく、良い成果物に結び付かないように思います。遠慮が生まれ、厳しい意見が出てこなくなったりして、結果的に成果物が少し甘いものになってしまうということもあり得ます。

言ってみる、そしてやってみる
工藤さんのキャリアはとてもユニークですよね。ぜひ、キャリアの築き方についても伺いたいです。


工藤
上智大学大学院で法務博士を取得後、民間の広報代理店やコンサルティング会社などを経て、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター、そして現在は大阪大学の社会技術共創研究センターに所属しています。
会社員時代も個人で研究活動を続け、政策提言なども行ってきました。最近は、内閣府のAI制度研究会に参加するなど、政府関係の有識者もしています。
ご経歴が多彩ですが、そのときどきで「これをやりたい」と選びとってこられたのでしょうか。


工藤
選んできたというより、流されてきた感じですね(笑)。
基本的にリクエストベースなんです。「これをやってみませんか」と言われて、「じゃあ、やります」と。コンサルティング会社も、友人に「工藤さんならこの会社が合うと思う」と勧められて応募しました。
その方が工藤さんの適性を見抜いていたんですね。


工藤
世界経済フォーラムも、最初は外部コンサルタントとして仕事をしていたんですが、「工藤さんにお願いする仕事が増えすぎて、雇ったほうが安くなってきました」と言われて所属することになりました(笑)。
完全に流されています。
まさか大阪大学も……。


工藤
そうですね(笑)。
世界経済フォーラムを辞めてしばらくは無職生活を楽しんでいたんですが、「工藤さん暇してんの? 公募出るで」と言われて、「じゃあ応募しますか」と。
雑談のなかでという感じなんですね。何でも言っておくべきですね。


工藤
本当にそう思います。
2023年に主要7カ国首脳会議(G7サミット)が広島県で開催されることを知って、その2年くらい前から「G7で何かでかいことをしたいんですけど、G7ってどうやったら絡めるんですか?」といろんな人に話していたんです。
そうしたら、皆さん面白がってアドバイスをしてくれて。それを実践していった結果、G7公式の官民合同イベント「デジタル・トランスフォーメーション・サミット」の企画・運営に携わることができました。
すごすぎます。


工藤
これは私の完全な偏見ですが、人って意外と「参謀役」になりたいんですよ。「あの人は自分が育てた」と言いたい人がたくさんいる(笑)。
だから、「これをやってみたいです」と言うと、知恵を貸してくれたり、人を紹介してくれたりするものです。
「流されてきた」とおっしゃいますが、流れ着いた先々で仕事に対して考え抜き、全力で向き合ってきたからこそ、次の流れが生まれているように感じます。


工藤
たしかに。私は仕事にどんどんのめり込んでしまうタイプで、むしろ仕事から離れたり、集中しすぎたりしないためにはどうすればよいかを考えています。
仕事自体が面白いということもありますが、一番うれしい瞬間が、一緒に働いた人やクライアントが昇進するときなんです。
ご自身ではなく、ですか。


工藤
はい。プロジェクトがうまくいったから、昇進するわけじゃないですか。
昇進してその場を離れてしまうのはもちろん寂しいですが、その人の人生が前に進んでいく姿を見るのが楽しい。
だから、チームや一緒に働いている人のために力を尽くしている感じがありますね。
工藤さんは人からのアドバイスを素直に受け入れる、開かれたマインドがあるように感じます。


工藤
こだわりは強い方だと思いますが、人に勧められたら一回はやってみるというのはあるかもしれません。「この本いいよ」と言われたら読みますし。
まずは一回試してみたらいいと思いますね。私は、自分の考えと離れていること、理解できないことをやっている人からアドバイスをもらったら、逆にやってみたくなるほうです。
日々のミーティングや会議の進め方だけでなく、キャリア形成や仕事との向き合い方まで、示唆に満ちたお話でした。ありがとうございました。


2026年7月取材
取材・執筆=前田みやこ
写真=篠原豪太
編集=桒田萌(ノオト)


