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自宅作業日のランチ、もっとじっくり楽しむには? 自炊料理家・山口祐加さんに聞くハイブリッドワークの自炊術

リモートワークが導入されたことにより、自宅でランチを食べる機会が増えました。しかし、昼休みの60分でメニュー決めから調理、食事、片付けまでをすると、なんだかゆっくりできず、慌ただしくなりがちです。

さらに、自宅作業日と出社を使い分ける「ハイブリッドワーク」が始まってからは、急に出社の予定が入ることで外食になり、食材管理が難しくなったという声も……。

ハイブリッドワーク時代の今、どうしたらさっと昼食を作って、ゆったりとした気持ちで昼休みを過ごせるのでしょうか? 自炊料理家の山口祐加さんに、ヒントを伺います。

ー山口祐加(やまぐち・ゆか)
1992年生まれ、東京都出身。多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しみはじめる。出版社、食のPR会社を経て自炊料理家として独立。料理初心者に向けた「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通して、自炊する人を増やそうと活動中。著書に『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』(エクスナレッジ)、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』(実業之日本社)など。

慌ただしい平日は、「ちゃんとした料理」の呪縛から抜け出そう

自宅作業の日、できればお昼ごはんを自炊したいなと思っています。でも、料理をすると昼休みがあっという間にバタバタとすぎてしまって……。

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山口

リモートワークのお昼の慌ただしさ、よくわかります。60分の休憩だとしたら、きっと次のような時間配分になりますよね。

作る:20分
食べる:20分
片付け:5分
休憩:15分

こうやって考えると、それぞれの時間は結構短いですよね。そもそも20分で、ちゃんとした料理を作るのってかなり難しいような……。

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山口

「ちゃんとした料理」という言葉、私が開いている自炊料理教室でもよく聞きます。でも、「ちゃんとした料理って何ですか?」とみなさんに尋ねると、大体答えられないんですよね(笑)。

確かに。たくさんの品物があって栄養があるとか、一汁三菜とか……?

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山口

20分で一汁三菜を用意しないといけないのはしんどすぎますよね。

平日のランチは、あくまでもほっと一息つきつつ、午後の仕事を頑張るための時間。手間のかかった料理を作るのは、時間と心とお金に余裕がある日だけ。そんなふうに割り切ってみてもいいと思いますよ。

迷わないために、まずは「型」を決めておく

20分で作る場合、メニュー選びに悩んだらあっという間に時間がなくなりますよね。何を作るかは、どうやって考えればいいのでしょうか?

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山口

おすすめなのは、事前に作る料理の「型」を決めてしまうことです。

具体的な型としては、
・白米+具沢山の汁もの
・麺類+スープ
・サラダ+スープ
などですね。

いくつか、私が作ったものをご紹介します。

【白米と具沢山の汁もの】

●納豆ご飯となめこの味噌汁

大定番の組み合わせでハマると週に2〜3回食べてしまう。なめこは冷凍できるので、安い時に買って冷凍庫にストック。

【麺類+スープ】

●ブロッコリーとしらすのパスタ、市販のコーンポタージュ

ブロッコリーをズグズグにすると口当たりがなめらかでおいしい。市販の冷凍ブロッコリーを使えば、ひと手間楽に。

【サラダ+スープ】

●ニース風サラダとコンソメースープ

レタスにツナ、オリーブペースト、じゃがいも、ゆで卵をのせたニース風サラダ。オリーブオイルと柑橘果汁と塩をかけるだけでおいしい。ツナ缶に入っていたスープがもったいなかったので、油はできるだけ取り除いてからカップに入れて水で伸ばしてレンチン。コンソメと塩を入れて味を調整。野菜をたっぷりとりたいときに。

どれもすごくおいしそう……! でも、どうして型が大切なんですか?

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山口

仕事で頭がいっぱいになる平日の昼休みはとにかく、考えなければならない項目の数を減らすのが大切です。

ちなみに、自分の型を選ぶ時のイメージは、「自分がいつでも歓迎できる組み合わせ」。いつ食べても、おいしいなと思えるものです。

【型の応用編:パン+スープ】

●トーストのオリーブオイルがけ、レンズ豆と野菜、ウインナーのスープ

レンズ豆のスープは冷凍もできるし、飽きない味なのでよく作る。今日はバターの代わりにオリーブオイルをトーストにかけた。

組み合わせを覚えて、積極的に手間を省く

自分は麺料理が好きなのですが、決めておいたら買い物も楽ですね。型が決まったら、食材はどう決めればいいのでしょうか?

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山口

食品の組み合わせは沢山ありますが、季節の野菜と肉類を3種類ずつ(鶏もも肉、豚バラ肉、ベーコンなど)用意しておけば、それだけで9パターン作れますよね。まずは、自分が飽きない程度の組み合わせを覚えて、使ってみましょう。

そうすると、冷蔵庫の中で、「お世話をしなきゃいけない食材」を減らすと、かかるお金も手間も減りますよ。

私の場合、1つの料理に使うのは野菜とタンパク質を1つずつと決めています。

自分の中で「余らせがちな食材」ってありますよね。あるメニューで使った残りの野菜を冷蔵庫に入れていたら、いつのまにかカラカラに乾いて、最後は捨てることになってしまったり。

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山口

そうなんです。冷蔵庫は乾燥していますから、特に葉物野菜はすぐしなしなになってしまう。それで罪悪感を抱いて、自炊のモチベーションが下がってしまう方もたくさんいます。

そうならないためにも、とにかく「引き算」の発想で選択肢を増やさないようにしてみてはどうでしょうか。

シンプルですが、工夫の余地がありますね! ほかに、平日の昼食作りの慌ただしさを減らすポイントはありますか?

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山口

時間に余裕のあるときに、野菜はカットしておいたり、お肉は100グラムに分けておいたり、あとは「入れるだけ」という状態にしておくといいですよ。

カット野菜や冷凍野菜、ウインナー、シラス、ちりめんじゃこ、ツナや鯖の缶詰などすぐに使える食材もぜひ活用してください。

なんなら、まな板を使うのをやめて、キッチンばさみでカットできる食材だけを使うと決めてもいいのではないでしょうか。

ハイブリッドワークになってからは、急に出社するスケジュールに変わる日も増えました。急いで使わなくてもいい食材を中心にすると、気が楽になりそうですね。

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食べたいものがわからない時こそ、セルフインタビューが大切

ちょっと違う悩みも相談させてください。いろいろな食材を用意しているつもりなのに、結局「冷蔵庫のありものを消化しただけだな」と思う日があって。

うまく作れたはずなのに、なんとなく心が満足しないんです。

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山口

それは、もしかしたら「セルフインタビュー」が足りていないのかもしれません。

セルフインタビュー?

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山口

「何が食べたいかわからない」という人は、そもそも「何が食べたいか?」を自分に尋ねていないことが多いんです。

具体的なメニューが浮かばなくてもいいんです。例えば、「がっつりとさっぱりなら、どっち?」「熱いものと冷たいものなら、どっち?」とか簡単な問いかけでもOK。

そうやって自分の中から出てきたヒントと、さっきの型と冷蔵庫にある食材を組み合わせてみてください。

なるほど! だいぶ絞れますね。

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山口

それでも迷うならば、レシピを検索してみましょう。

もちろん「ランチ 食材名」と調べればたくさん情報が出てくるのですが、人間って選択肢が多すぎると選べませんから。自分の中から出てきたキーワードを使って、情報を絞ってみるといいと思います。

●豚ときのこのつけそば

ひき肉やきのこを炒めてめんつゆと水で伸ばしたら濃いつゆができる。鶏肉とごぼうの組み合わせもおいしい。つゆが残ったら炊き込みご飯にしても良い。

山口

慣れないうちは、セルフインタビューをするのを難しく感じるかもしれませんが、繰り返すことでだんだん感覚が鍛えられていきますよ。私も毎食、その時の自分に「どういうものが食べたいか?」を問いかけています。

でも、セルフインタビューってじっくりやるほど、迷ってしまいそうです。

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山口

難しく考えずに、ぱっと感じたことを大切にしていいと思いますよ。私自身も、作りながら味付けを考えているくらいですから。醤油味がいいかな、塩それとも味噌がいいかな、とか。

毎日問いかけてみると、自分の頭と体は答えを返してくれるようになるはずです。

セルフインタビュー、やってみようと思います!

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ちょっと慌てても、仕事の状況は変わらない

ちなみに、昼休みはお腹を満たすだけではなくて「リフレッシュできたな」という満足感も得たいのですが、山口さんは何か意識されていますか?

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山口

私は昼休みになったら、頭の中で「仕事のスイッチを切るよ。仕事のことは後で考えよう」と言っていますね。

時には、大好きな音楽を掛けたりして、仕事のことを強制的に考えられないモードに持っていくこともあります。

一旦仕事から離れて、料理だけに集中した後はリセットボタンを押されているような……リフレッシュしている感覚があります。

ご飯を作って味わって、「おいしいな」とか「今日は前回の失敗を活かしたら上手にできた!」と考える。そうやって気分転換をした方が、午後のやる気につながりますね。

もちろん時間や気持ちに余裕がない日だったら、買ってくるのがいい選択だと思います。

いわゆるデスク飯のように、自宅のパソコンで資料を見ながらランチを食べる……というのも避けたほうが良さそうですね。

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山口

そうですね。私も実験的にパソコンを見ながら食事をしたことがあるのですが、食べている実感が半減してしまって。せっかく作ったのがもったいないなと思うんですよね。

それに、食べる時間ってせいぜい15〜20分じゃないですか。よっぽどの緊急事態じゃない限り、仕事に大きな影響はないと思うんですよね(笑)

時間節約をしているつもりでしたが、その分、別の何かをすり減らしているのかもしれませんね……!

ちなみに、1時間で片付けまでやるとバタバタになっちゃうこともあるのですが、どうしますか? 残しておくのもちょっと罪悪感があって。

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山口

もちろん、お皿を洗って拭いて片付けるところまでできれば、一番スッキリしますよね。

でも、水切りラックに置いておいて、15時の休憩あたりで片付けたりしてもいいのではないでしょうか? 私も洗うところまでやって引き出しに戻すのは後回しにすることが多いです。

また気が楽になりました(笑)。あらためて、自炊の魅力ってなんだと思いますか?

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山口

自炊ができれば、外食できるお店やコンビニがなくても、外国に移住しても、収入が大きく減っても、自分の食事は工夫すればなんとかできる。社会の先がわからないからこそ、自炊は自分自身の安定感や安心感につながると思っています。

生きる強さですね。

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山口

そうだと思います。自分が食べたいものを作って、食べる。これで、不幸になる人はいないと思っていて。

毎日の食事をポジティブな気持ちで迎えられたら、人生の総合的な幸福度はきっと上がるはず。私自身、「どうやってやったら楽しくなれるんだろう?」と常々考えてやっていますよ。

「ちゃんとしなきゃ」みたいなルールに、閉じ込められるのはもったいないですね。 次のお昼ごはんから、さっそく楽しみたいと思います!

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2022年9月取材

取材・執筆=鬼頭佳代/ノオト
編集=関あやか/ノオト