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仕事中の昼寝は「サボり」じゃない! ワークパフォーマンスを上げるための効果的な眠りとは

忙しい日々を過ごしていると、どれだけしっかり寝たつもりでも、ふと仕事中に眠くなってしまうことがあります。

今は仮眠室を設ける企業も登場している一方で、職場で寝てしまうと周囲から「サボっている」と見られてしまうことも……。

しかし、睡眠は人間にとって、食事と同じく欠かせないものです。だからこそ、日々忙しく働く人にとって、仮眠をとることは仕事のパフォーマンス向上につながるのではないでしょうか? 横浜市立大学客員教授/医療法人みなとみらい理事長の田中俊一さんに、仮眠の効果ついて伺いました。

―田中俊一(たなか・しゅんいち)
医学博士。横浜市立大学大学院客員教授。日本糖尿病学会糖尿病専門医、研修指導医。毎月5000人以上の糖尿病、3000人以上の睡眠時無呼吸の患者が通院する医療法人みなとみらいの理事長を務め、睡眠と代謝で健康を目指すための取り組みを行っている。また首都圏で9つのクリニックを運営し、東京・中央区「銀座クリニック」では会員制の予防医療も提供する。

仮眠は睡眠負債の解消と頭のリフレッシュに効果的

夜きちんと寝たはずなのに、仕事をしているとつい眠くなってしまう……というワーカーは多いかと思います。そんな時、「仮眠」は効果的なのでしょうか。

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田中

はい、効果的ですよ。そもそも仮眠とは、空いた時間に睡眠をとり、いつでも起きられる状態を指します。

仮眠をとることで、脳と自律神経を休ませることができるんです。

ほかの臓器に比べると、脳はブドウ糖や酸素の消費量が10倍くらい多く、疲れやすいんです。そして自律神経も疲れやすく、夜になると眠くなってしまう。 疲れをとって元の状態に戻すには、「十分な睡眠」が必要とされているのです。

「十分な睡眠」というのは、どれくらいの時間ですか?

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田中

体質や生活スタイルによりますが、1日7時間半が理想の睡眠時間だと思います。

そのため、仮に1日7時間睡眠の生活を続けるとすると、1日あたり30分が寝たりないということになります。1週間あたり210分、つまり3時間半の睡眠不足、いわゆる「睡眠負債」がたまってしまうのです。

また、短時間しか寝られていなかったり、長時間寝ても睡眠時無呼吸症候群などが原因で十分な睡眠がとれていなかったりする場合にも、「睡眠負債」がたまります。

では、その「睡眠負債」を解消するためにも、仮眠は効果的だということですね。

もし睡眠負債がたまっていなかったり、脳が疲れていなかったりすれば、仮眠は不要ですか?

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田中

はい、絶対に必要ということはありません。

例えば、「昼に仮眠を取ったから夜眠れない」という方もいるかと思います。そういう人は睡眠負債がたまっていないといえるでしょう。

ですが、仮眠をとることは睡眠負債の解消だけでなく、神経細胞の疲労を取り、判断力や記憶機能、運動機能もアップさせることもできるんです。

そのため、20分程度の仮眠は働いている人全員におすすめしたいですね。

20分だけなら、昼休憩を利用してできそうですね。

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田中

ちなみに、仮眠時はしっかり入眠しなければいけないというわけではありません。

外からの刺激の3分の2は、目から入ってくると言われます。眠りに落ちなくても目を閉じてボーッとしているだけで、脳が処理する情報を3分の1まで減らすことができます。

例えば、3時間集中したら、10分。足を下ろすのではなく、可能ならば寝転んだり、足置きを使ったりできる体勢がベターですね。目を瞑っているだけで楽になりますよ。

パソコンを再起動するイメージですか?

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田中

「仮眠」は、流れる電気が少し減る「スリープモード」程度でしょうか。再起動までできるのは、夜間の長時間の睡眠ですね。

仮眠をとったあと、頭がぼんやりしてしまいそうで心配です。

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田中

突然、覚醒モードに切り替えるのは難しいことだと思います。人間は、外的な刺激なしでは完全に活性化しにくいものです。

起きた後に少し歩いてみたり、覚醒作用のあるコーヒーなどカフェイン入り飲料を飲んだりするのもおすすめですよ。

デスクワークや肉体労働など、ワークスタイルによって仮眠の必要性は変わるのでしょうか?

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田中

あまり関係はありません。仮眠は肉体を休めるというよりは、脳や自律神経を休養させるものだからです。

それよりも気にしていただきたいのは、年齢です。歳をとるごとに、体力的に「睡眠負債」が堪えてくるもの。

45歳を超えると「睡眠負債」が増える方が多いので、私のクリニックでも、患者さんには睡眠時間を意識した生活をするようにお伝えしています。

仮眠で積もり積もった「睡眠負債」を解消

「睡眠負債」がたまると、脳の中ではどんなことが起きているのですか?

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田中

睡眠負債は、脳の疲れに直結します。そしてパフォーマンスが落ち、昼でも眠気を感じてしまう。また、睡眠不足が原因で鬱になりやすいというデータもあります。

ちなみに、昼に寝ることで、夜眠れなくなる心配はないのでしょうか。

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田中

長年に渡って「睡眠負債」をためてしまっているならば、昼に3時間寝ても、夜はちゃんと眠れます。

3時間の昼寝……! それは、仕事にならなさそうですね。

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田中

平日は現実的じゃないですね(笑)。土日など仕事がない日に、しっかり昼寝をするのがおすすめです。

例えば、平日は毎晩7時間程度寝て、1週間で3時間ほどの睡眠負債を抱えてしまっている人は、土日どちらかで2〜3時間の昼寝をとれば、負債を一旦は解消できるのではないでしょうか。

毎日睡眠時間が6時間という場合は……。

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田中

だいたい7時間半くらい足りなくなるので、土曜で3時間半、日曜で4時間と、分けて昼寝をすると、月曜にはスッキリできると思います。

とはいえ、もちろん毎日ちゃんと睡眠時間を確保できるのが理想です。

では、忙しいと分かっている時期の前に前もって寝ておく……いわゆる「寝だめ」はどうでしょうか。

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田中

睡眠は、ためようとしてもためられません。借りを返すことはできても、事前に寝てためておくことはできないんです。

そもそも睡眠負債がたまっているとはいえ、20年、30年と生きてきた中で体内時計ができあがっている大人が、昼寝で8時間も寝るのは難しいんです。 やってみても、だいたい1〜3時間で目が覚めてしまいますよ。

寝だめは意味がなかったとはショックです……。

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パフォーマンスを上げる眠りのポイント

理想の睡眠時間は7時間半とのことでしたが、どうしても一時的に忙しくなってしまう場合、最低限死守した方が良い睡眠時間はどれくらいでしょうか。

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田中

4時間半です。寝始めると、最初の4時間半で深睡眠という深い睡眠が出ます。人により3時間だったり、もっと長かったりすることもありますが、このとき、脳の神経細胞から疲労物質を排除して、リフレッシュさせるような働きをするんです。これがあるとないとでは、翌日の脳の働きに影響してしまいます。

深い眠りが最初の4時間半で訪れるということですが、7時間半ずっと深い眠りができれば、より修復が進んでパフォーマンスがあがるのでは?

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田中

野生のころを考えると、それだけ深い眠りに長時間落ちていると、かなり危険ですよね。

そこで、小刻みに深い睡眠(ノンレム睡眠)と浅い睡眠(レム睡眠)が訪れることで、危険を察知しながらパフォーマンスをあげられるように進化したのでは、という説もあります。

疲れているのに、どうしても寝られないこともあるかと思います。

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田中

通常は、疲れてくると夜に自然と眠れるものです。それができないのは、ストレスがあったり、考えなければいけないことがあったりする状況ではないでしょうか。その場合、大変かもしれませんが、その原因が解消されれば寝ることができるでしょう。

ストレスコントロールも良い睡眠をとるためには欠かせない要素なのですね。

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田中

そうですね。高齢になればなるほど、ストレスコントロールが上手な「寝る達人」が多い気がします。

では、ストレス解消で酒を飲んで寝るというのは……?

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田中

よくないですね(笑)。多少寝つきは良くなっても、眠りも浅くなりますし、すぐ目も覚めてしまいます。

まとめて7時間半寝るのではなく、4時間ほど寝て、活動して、また4時間ほど寝て……というサイクルを繰り返すスタイルは、パフォーマンスアップに効果的でしょうか。

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田中

短時間ずつ寝ても、きちんと脳は修復できないと考えられます。仕事のパフォーマンスには良い影響は与えなさそうですね。

睡眠を十分にとってパフォーマンスが上がれば、脳のCPUのグレードも一緒に上がったりするのでしょうか!?

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田中

それはないですね(笑)。睡眠は、記憶のメモリ数を増やしたりCPUを回復したりすることはできますが、グレードまでは上げられません。

睡眠は、このCPUを劣化させないためのもの。そして、深い眠りのレム睡眠でメモリをクリアして、翌日の作業スペースを用意するためにあるのです。

睡眠+仮眠で仕事のパフォーマンスをアップさせよう

今、仮眠スペースを設けている企業が増えてきました。パフォーマンスアップのために企業主体で仮眠や睡眠を取り入れるには、どんなことが必要だと考えますか?

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田中

おすすめしたいのは、社員一人ひとりの睡眠時間を記録するモニタリングを行い、社員自身が自分の睡眠に意識を向けられるような福利厚生の導入です。

本人は「自分はちゃんと睡眠をとっているはずだ」と思いがちなので、専門家に睡眠を客観的に評価してもらうことを勧めたいですね。

また、オフィスでの仮眠室には、やはりベッドや、リクライニング・フットレスト機能付きチェアの導入がベター。通常の椅子でそのまま座って寝るよりは、横になって足を上に上げているほうが、血が全身に巡りやすくなりますしね。

一方で、「仮眠はサボり」と判断する会社もあるのが現状です。

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田中

仮眠に限らず、喫煙者に「タバコばっかり吸って」と指摘する方もいますよね。

喫煙の健康被害はさておき、タバコ休憩を取ることで、その人なりに仕事の効率が上がっているかもしれない。休憩の回数と仕事の成果は、まったくの別ものです。 仮眠も同じで、それによって効率が上がるのなら、自己管理の中で行う分には、問題ないのではないでしょうか。

「仮眠」はある種、仕事のパフォーマンスをあげるサプリメントのようですね。

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田中

そうですね。仮眠用チェアやベッドも、サプリメントだと思って取り入れた方がいいと思います。

個人的に、脳を酷使するような創造的な仕事は、稼働時間よりも仕事の内容や成果で評価していくのがいいのではないかと思っています。そうすれば、仮眠を取りたい人も自由に取れて、パフォーマンスが上がるかもしれませんよね。

田中先生は、ご自身の著書『45歳からは「眠り方」を変えなさい 闘うビジネスマンの脳と体を最高レベルにする方法』で、「睡眠の質が良い人ほど年収が高い」とおっしゃっていますね。

良い睡眠をとることは、仕事のパフォーマンスにも繋がるというデータがあるのでしょうか。

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田中

きちんとしたエビデンスを示すことはできません。しかし、睡眠をしっかり取ることで判断力や記憶力が上がると、自ずとパフォーマンスにつながりますよね。

一流のスポーツ選手も、試合の前日はきちんと眠れるよう、トレーニングしている方が多いようですね。ある種、彼らは「睡眠のプロ」なのだともいえます。

どうすれば「睡眠のプロ」になれるのでしょうか!?

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田中

「どのようにすれば眠ることができた/できなかった」と、日記や記録をつけていくのはいかがでしょうか。

それがわかれば、自分なりに寝る方法を見つけられると思います。そして睡眠時間や仮眠時間をしっかりとることで、仕事のパフォーマンスにつなげていただければと思います。

2022年7月取材

取材・執筆:ミノシマタカコ
編集:桒田萌(ノオト)