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コーヒーにはどんな効果がある? 仕事のパフォーマンスを高めるための3つのコツ

朝に一杯、昼に一杯。コーヒーを仕事のお供にしている人も多いのではないでしょうか。

眠気覚ましに効果的なイメージのあるコーヒーには、もっと秘めたパワーがある。マブチメディカルクリニック院長で学校法人食糧学院副学院長の馬渕知子先生は、コーヒーのさらなる効果を提唱しています。

コーヒーの隠れた効果をうまく活用することで、仕事の生産性をアップすることができるのではないか。『朝のコーヒー、夜のビールがよい仕事をつくる』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でもある馬渕先生に、コーヒーを使ったパフォーマンス向上術を伺いました。

―馬渕知子(まぶち・ともこ)
マブチメディカルクリニック院長、学校法人食糧学院副学院長。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院を経て、マブチメディカルクリニックを開院。専門は内科・皮膚科学、アンチエイジング医療、分子整合栄養学。栄養学や食文化にも詳しく、カフェインやアルコール摂取時の人体への影響について、独自に調査を重ねている。

コーヒー=覚醒ではもったいない。秘めたパワーを知る

コーヒーと聞くと、「覚醒」「眠気覚まし」のイメージが思い浮かびますが、実際にそのような効果はあるのでしょうか。

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馬渕

もちろん覚醒効果はあります。でも、コーヒーの持つ可能性はそれだけに限りません。

私が考えるコーヒーは、生活のあらゆる場面で活躍してくれる潤滑油のような存在。自分の体が本来持っているいいものを引き出すためのアイテムみたいなイメージです。

だから、「コーヒー=覚醒」と単純化して捉えてしまうのは、少しもったいない気がするんです。

それでは、他にどのような効果があると考えられますか?

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馬渕

覚醒効果に加えて、集中力と記憶力向上、リラックス効果が期待できます

これらは、コーヒーの持つ香りと成分によるものです。

香りも影響があるのですね。

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馬渕

コーヒーの匂いは、脳がリラックスした時に出る電気信号「アルファ波」を増やすとされているんですね。

また、人間は高度な生き物で、鼻から入った香りと舌からの味覚が脳に到達する過程で重なり合って、その信号が脳に伝わる仕組みになっています。

風邪を引いたり花粉症になったりすると、鼻が詰まってしまい、食事をしても十分に味を感じられませんよね。

それと同じように、コーヒーも味覚と香りがセットになってはじめて、本来の味わいが感じられるのです。

コーヒーの成分にはどんなものが含まれていますか?

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馬渕

大きく分けて2つあります。

1つ目はポリフェノールの一種である「クロロゲン酸」。抗酸化作用もあるため、アンチエイジングの観点でも注目されています。

もう1つの成分はどんなものですか?

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馬渕

2つ目は、おなじみのカフェインです。

カフェインと聞くと、皆さん「カフェイン=頭がシャキッとする」といったイメージを持つと思います。これは、興奮状態をもよおす交感神経を刺激することから起きる作用ですね。

でも、カフェインは交感神経だけでなく、リラックス状態を引き出す副交感神経も刺激するんです。

交感神経と副交感神経は、互いに相反する働きをします。

ひと口、コーヒーを飲むと交感神経が刺激され興奮作用をもたらすのですが、これに対する抵抗・排泄反射が起きることで、副交感神経が優位になりリラックスすると考えられているのです。

コーヒーは飲み物なので、胃に到達するのに30秒もかかりません。

胃での消化吸収にかかる時間は、飲み物で5分程度、食べ物だと4時間前後と言われていて、食べ物に比べて、飲み物は約50倍の速さで消化吸収されるんです。

意外と早く変化が起きるのですね。

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コーヒーは朝イチでなく朝9時半に飲むのが吉

それでは、コーヒーを仕事のパフォーマンス向上につなげるために、適した飲み方を教えてください。

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馬渕

押さえたいポイントは3つあります。飲む時間、量、コーヒーの種類です。

まず、時間についてです。皆さん、朝イチでコーヒーを飲んでいませんか?

はい……。朝、起きてすぐにコーヒーを飲んでいます。

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馬渕

朝のコーヒーはおいしいですよね。実はこのタイミングでコーヒーを飲むのは、少しもったいないんです。

もったいない……?

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馬渕

体内では、さまざまなホルモンが分泌されています。中でも目覚めや覚醒に大きく関わるのが、「コルチゾール」というホルモンです。

「コルチゾール」は、朝6時頃から分泌量が増え、8〜9時にピークを迎えます。この時間に「コルチゾール」がしっかり分泌されると、体が目覚めて覚醒し、自然とやる気のスイッチも入ります。

ただ、この「コルチゾール」が分泌される時間にコーヒーを飲むと、体は「カフェインで覚醒しているから、わざわざコルチゾールを出さなくてもいいや」と誤解してしまうんです。

コーヒーを飲むことで、体ががんばらなくなってしまうんですね。

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馬渕

そうです。自然と目覚めようとしているのに、コーヒーを飲むことで、余計な刺激が体に入ってしまっている。だから、目覚めのコーヒーはもったいないんです。

では、どのタイミングがコーヒータイムとして適しているのでしょうか?ね。

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馬渕

コルチゾールの分泌量は、午前9時にピークを迎えると再び減少して、次に正午から午後1時、そして午後5時半から6時半にもまた増えていきます。

そのため、ベストなコーヒータイムは、起床から少し経った9時半〜11時半頃。その次は、お昼休みの後にあたる午後2時〜5時。そして、夜7時〜8時です。

覚醒効果は約3〜4時間なので、飲むと眠れなくなる体質の方は夜7時までに飲んでおくといいと思います。

次は量についてです。仕事をしていると、無意識にエンドレスでコーヒーを飲んでいる方は多いかと思います。実際のところ、適量はどれくらいでしょうか?

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馬渕

先ほど、朝に体を覚醒させるコルチゾールの話をしましたが、コーヒーを続けて飲んでいると、体内ホルモンの働きや神経バランスを阻害してしまいます。過度なコーヒーは、体にとってストレスになるからです。

私たちが思っている以上に、コーヒーの覚醒効果は強いのです。カフェインは、やる気や集中力をみなぎらせるアドレナリンやコルチゾールの分泌を促しますから。でも、これらのホルモンが増えすぎると、疲労の原因にもなってしまう可能性があるのです。

なので、目安は250ccほどのマグカップで1日3杯程度140ccほどのコーヒーカップなら、1日に4杯が目安です。

これくらいの量なら、健康に気を使いつつパフォーマンスの向上に繋げられるのではないでしょうか。

焙煎度合いや種類など、パフォーマンスの向上に適したコーヒーはありますか?

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馬渕

おすすめは、酸味のある浅煎りで、淹れたてかつ濃いめのコーヒーです。

ドリップしてから時間の経ったコーヒーは酸化しているので、できるだけ避けたいですね。

場面によってコーヒーの力を最大限に使い分ける

今日からすべての働く方が取り入れられるように、シチュエーション別のコーヒーの活用方法を伺います。

まず、1つ目。パフォーマンスを向上したい時や、集中したい時は、どんなコーヒーを飲めばいいでしょうか?

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馬渕

その日の体調にもよりますが、例えばプレゼンテーションや会議などで気合いを入れたい時は、深煎りでエスプレッソのような濃いコーヒーをクッと飲むとよいでしょう。

もちろん、淹れたてがおすすめです。10〜15分後には、体が覚醒してきます。

次に、2つ目です。仕事に疲れて心と体をリラックスさせたい時は、どんなふうに飲むとよいでしょうか。

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馬渕

大切なのは、焦ってグビグビと飲むのではなく、ゆっくり時間をかけてたっぷりコーヒーを飲むこと。

私が疲れた時に飲むのは、カプチーノ。大きめのマグカップで、牛乳の味わいを感じながら飲んでいます。

カプチーノのお供として最近気に入っているのは、デーツ、いわゆるなつめやしです。脳の幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」の材料となる「トリプトファン」が多く含まれていますし、天然の甘みにホッとさせられますね。糖分は脳の栄養にもなるんですよ。

馬渕

また、カプチーノやカフェオレで使われる牛乳にも、「トリプトファン」がたくさん入っています。

そのため、コーヒー元来のリラックス効果に、牛乳による「セロトニン」がプラスされて、ダブルでリラックスできますよ。

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最後に、3つ目。今、リモートワークをする方がたくさんいます。自宅ではなかなか集中できない、もしくはオンモードが続いて家なのに心が休まらないなど、「オンオフの切り替え」はどうすればよいでしょうか。

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馬渕

コーヒーを淹れる・飲むという行為自体を、切り替えのために使うといいと思います。

人間の集中力はもって45分、がんばっても90分と言われています。それ以上仕事を続けると、かえって非生産的になってしまいます。

大事なのは、どこかで仕事に区切りをつけること。なので、45〜90分間仕事をしたら、1度コーヒーブレイクを入れてみましょう。

今はコンビニのコーヒーもおいしいですよね。なので、外に出て、買いに行くのも気分転換に繋がります。

コンビニのコーヒーを飲む時は、カップの蓋を開けてみるといいですよ。せっかく立ったコーヒーの香りを蓋で消さないように、ゆっくり飲むとよいでしょう。

コーヒーを日々の生活の潤滑油に

馬渕先生は、コーヒーに関する著書を出されていますね。そもそも、コーヒーに興味をもったきっかけを教えてください

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馬渕知子著『朝のコーヒー、夜のビールが仕事をつくる』(クロスメディア・パブリッシング)

馬渕

小さい頃から、私の母がコーヒーを淹れていたんです。淹れたてのいい香りを嗅ぎながら、「コーヒーって飲んだらおいしいのかも。楽しいのかも」と子ども心に思っていましたね。

歳を重ねて、実際にコーヒーを飲んでみたら、やっぱり「あぁ、おいしい」と感じて。 医師になって栄養学を学び始めると、コーヒーの意外なパワーに驚きました。それで、本格的にハマったのです。

そうなんですね。馬渕先生が、コーヒー以外に仕事のパフォーマンス向上のために飲んでいる飲み物があったら、教えてください。

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馬渕

リラックス効果があって、かつ集中力を高めてくれるのは、濃いめの玉露ですね。コーヒーと同じようにカフェインが強くて、香りもよいんです。ただ、淹れるのにちょっと手がかかりますけどね。

コーヒーも玉露も、私にとって体をサポートしてくれる存在です。 基本的に、飲み物は栄養になる部分はわずかですが、とにかく吸収が早いんです。そのため、これらの飲み物は時間や量を間違えなければ、毎日のやる気を支えてくれると思いますよ。

2022年6月取材

取材・執筆:横山由希路
編集:桒田萌(ノオト)