町工場からライフスタイルカンパニーへ。「Colors circle」を社内から醸成し世界を目指す友安製作所の挑戦
2019年4月発行のビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE04」では、世界中の「愛される会社」を巻頭特集としました。しかし、日本にも多くの「愛される会社」が存在しています。今回は伝統・文化が根付き、商業の街としても栄える関西エリアに注目。全6回の取材とトークイベントを通して、顧客や社員、地域社会との強い関係性をつくりだしている「愛される会社」を探求していきます。
多くのメーカーが集まる「ものづくりのまち」として知られる大阪府八尾市。この地に本社を構える株式会社友安製作所は、小さな町工場としてスタートし、現在はインテリア商品の製造・販売を軸に、空間プロデュースやカフェ運営など、さまざまな事業を手がけています。
それらの事業だけでなく、従業員全員を巻き込んだコアバリューの策定、ニックネーム制をはじめとする独創的な社内制度など、数々のユニークな人事的取り組みを実施。そんな友安製作所は、どのようにして独自の企業文化を育んできたのでしょうか。
代表取締役の友安啓則さん、執行役員の松尾泰貴さんにお話を伺いました。
―友安啓則(ともやす・ひろのり)
株式会社友安製作所代表取締役社長。アメリカの大学院を修了後、現地の商社で勤務。帰国後、父親が代表を務めていた友安製作所に入社し、2004年に自社ブランド「Colors」を設立。2016年に社長に就任し、ライフスタイルカンパニーへと舵を切る。
―松尾泰貴(まつお・やすき)
株式会社友安製作所 執行役員。入社前は八尾市役所に勤め、中小企業の支援や産業政策に携わった。当時の通称は「スーパー公務員」。2021年に友安製作所に入社し、前職時代に培った地域との関係性づくりの知見を生かしている。
町工場からスタートし、インテリアを軸に事業を多角化
友安製作所のこれまでの歩みについて教えてください。
WORK MILL
友安
友安製作所は、私の祖父が1948年にネジの製造会社として創業した会社です。現会長であり2代目の父が、カーテンフックなどの線材加工品の製造・販売を主力にし、事業を成長させました。
友安
私自身は高校から大学、大学院までをアメリカで過ごし、卒業後は現地の商社で働いていましたが、父が病気になったと連絡を受け、家業を継ぐ決意をして帰国しました。
2004年に入社してインテリア事業を発足させ、自社ブランド「Colors」を立ち上げました。現在は、暮らしだけでなく、快適で豊かな人生を提案するライフスタイルカンパニーとして、さまざまな事業を手がけています。
ものづくりだけでなく、ライフスタイルまで手がける会社へ。舵を切ったきっかけは何だったのでしょうか?
WORK MILL
友安
実は、父は私が家業を継ぐことに大反対だったんです。当時は海外製の安価な製品が市場に出回り、カーテンフックの価格が下落していたので、苦労させたくないという気持ちがあったみたいで。
そこで、「新規事業で半年以内に結果を出せなければ辞める」という条件付きで、なんとか入社を許してもらいました。
それで自社ブランド「Colors」をスタートし、インテリア商材の販売を始めたんですね。
WORK MILL
友安
当時のインテリア業界は中間業者が多かったため、「自分たちで物を作るか、メーカーから直接買い付けて販売することで中間マージンを削れば、より良いものを安く提供できるのではないか」と考えたのが、自社ブランド発足へのアイデアになりました。
また、帰国した時、「日本の人たちの生活は画一化されているな」という印象を受けました。もっと一人ひとりのカラー、個性を引き出して、自分の好きなインテリアに囲まれて生活してほしい。
そんな思いで、ブランド名の「Colors」には、「色とりどり」「色々な側面を持つ」という意味を込めました。
現在は、インテリアだけでなく、さまざまな事業を展開されていますね。
WORK MILL
友安
インテリアやDIY商材などを扱うECサイト運営をはじめ、商品のショールームも兼ねたカフェ事業、空間づくりを手がける工務店など、主に6つの事業を展開しています。
私たちは、この6つの事業が循環する「Colors circle」という一種の経済圏を作っていくことを目指しています。
経済圏とはどんなものでしょうか?
WORK MILL
友安
例えば、工務店は自社商品を販売する際に、設置作業などをサポートするために始めた事業です。そこから広がって、現在は空間デザインからフルリノベーションまで、トータルで手がけるほどに成長しました。
またレンタルスペース事業は、スペースを時間単位で貸したいオーナーさまと利用したいユーザーさまをWEB上でマッチングするサービスです。
実は、スペースを持っているオーナーさまは、私たちのECサイトの潜在顧客。そこで、サービスを使ってくださった方にはECサイトで使えるクーポンを発行しているんです。
このように「Colors circle」の経済圏の中で、一人のお客さまの要望に対して、さまざまなサービスをワンストップで提供しています。
新たなステージに進むためのアップデート
インテリアや暮らしだけでなく、カフェやレンタルスペースなど他の領域へと事業が広がっていくなかで、2022年に企業ミッションやコアバリューを刷新したそうですね。
WORK MILL
友安
はい。ちょうど会社設立60周年を迎えたこともあり、アップデートしました。
今の企業理念は「Add Colors to everyone’s life」です。「Colors」には、「彩り」と、自社ブランド「Colors」という意味を込めました。
つまり、この言葉は「全世界の人々の人生を彩り豊かにする」というビジョンであり、「全世界の人々の人生の一部にColorsブランドを届ける」というミッションでもあります。
松尾
実はこの企業理念は、刷新前は「Add Colors to everyone’s home」という言葉でした。「life」ではなく「home」だったんです。
近年は、カフェや工務店、まちづくり事業なども手がけるようになり、「暮らし」という枠組みを越えるようになってきていました。 「暮らしだけでなく、人生に影響を与えられるような会社になりたい」という代表の思いもあったので、「home」から「life」へと変更しました。
コアバリューを刷新したのはどうしてですか?
WORK MILL
友安
この10数年、従業員がまだ20名ほどだった頃に私が考えた3つのコアバリューに基づいて走ってきました。
でも、今は従業員数も100名以上になり、同じコアバリューのままで良いのかなと疑問を感じるようになって。会社のコアとなる部分を、社員のみんなと一緒に考え直す時期なんじゃないかと思ったんです。
松尾
今の時代、価値観がすごく多様化していますよね。それなのに、「会社が決めた価値基準に従うしかない」という状態で、自分のカラーを抑えつけて働いていたら、モチベーションも上がりません。
どうせなら、価値基準や判断軸をスタッフが自分たちで作ったほうが良い。そこで、全スタッフが集まって話し合う場を設けて、策定を進めることにしました。
100名以上の社員全員で、ですか!?
WORK MILL
松尾
そうです。仕事や人生において何を大切にしているのか、私たちのスローガンで「生きるをあそぶ」を体現するためにはどう行動すれば良いのか、みんなで意見を出し合いました。
8時間ほど会議をして、何百枚もの付箋にアイデアを書き出して、最終的には「Tomoyasu way of life」という10個のコアバリューにまとめ上げました。
実際にコアバリューを策定したとしても、日々の仕事に活かすことこそが難しいのではないかと思います。浸透させるために、何か工夫はしていますか?
WORK MILL
友安
自分たちで決めたコアバリューなんだから、自分たちがしっかり体現できていないと意味がないですよね。そこで、10個のコアバリューに基づいた新しい人事評価制度を作りました。
半年に1回の査定で、コアバリューをどれだけ体現しているか自己評価してもらい、全員と1on1面談を行っています。
松尾
自分がコアバリューに即した行動ができているか、いわば半年に1回のメンテナンスですね。今は評価制度をはじめ、いろいろなところにコアバリューを染み込ませているところです。
ユニークな社内制度でコミュニケーションを活性化
ほかにも、友安製作所にはユニークな社内制度がたくさんあるそうですね。
WORK MILL
友安
最も特徴的なのが、ニックネーム制度です。例えば、私は「ボス」、松尾は「ウィル」。社長や部長といった役職や「さん付け」で呼ぶのは禁止です。ニックネームで呼び合うことで自然に距離が縮まるし、話すきっかけにもなります。
松尾
強いてデメリットを挙げるなら、取引先から本名宛ての電話がかかってきた時に、誰かわからなくなることでしょうか(笑)。
そういった時のために、本名とニックネームをまとめたシートもちゃんと用意してあります。それくらい、ニックネームが社内に浸透しているんです。
社員さん同士の距離も近そうですね。
WORK MILL
友安
ただ、うちの会社はいろんな業種が入り混じっているので、隣の席の人がどんな仕事をしているのかわからないことがよくあるんです。
そのため、Workplaceというツールで、全員の日報を共有しています。特に、「何をしたか」よりも「どう思ったか」という所感を書いてもらっていますね。
例えば、「こんなことで悩んでいる」という日報に対して、アドバイスをするコメントが入ったり、大変な仕事を終えた人の日報に多くの「いいね」が付いたり。所感を書くことによって、さまざまなコミュニケーションが生まれているんですよ。
友安
あと、うちにはTOMOYASU AWARDという半年に1度の表彰制度があって。
まず、専用のアプリを使って、全員が半年の目標や日々の進捗率を書いてシェアするんです。
この目標はそれぞれまったく違っていて、「これくらいの売上を目指す」という人もいれば、「整理整頓をがんばる」という人もいる。あくまでも「自分が大切にしたい目標」を定めることがポイントです。
半年に1度、投票期間があります。「この人はがんばっているな」と努力や姿勢を評価したい人に対して、1人3票ずつ持っている票を投票して、上位10名をみんなの前で発表して表彰します。選ばれた人はたいてい感極まって泣いてしまいますね。
日報やTOMOYASU AWARDをやっている理由は、モチベーションの維持だけではありません。良い意味で、お互いをちゃんと見ている、常に誰かが見てくれているという関係性を作るためです。
松尾
いろんな業種の人たちが一つの会社で働いているので、それぞれがやっている仕事を共有し承認し合うことは、とても重要だと思いますね。
日報やTOMOYASU AWARDに対して、従業員の皆さんの反応はいかがですか。
WORK MILL
友安
自分が今何をやっているのか、どの段階にいるのかを周りに知ってもらうだけで、圧倒的に仕事がしやすくなります。それが日々実感できるので、みんなが自発的に取り組んでいますね。
松尾
積極的な情報共有は、仕事のしやすさはもちろん、その人の評価にもつながります。各スタッフが発信したやりたいことが、実際に事業の中で実現した事例もたくさんあります。
日報やTOMOYASU AWARDは、それぞれが自分を表現する場になっていると思いますね。
さまざまな社内制度の根底には、どのような思いがあるのでしょうか。
WORK MILL
友安
ニックネーム制にしても、やっぱり最初は戸惑いや反発もあります。例えば、いい歳をした大人が「ウィル」「エミリー」とか呼び合うのは恥ずかしいとか(笑)。
でも、やっていくうちに「確かに社内の空気が良くなったね」「ニックネームを使ってSNSをしたら、フォロワーが増えたよね」とメリットが見えてくる。 すると、はじめは嫌々だった人でも自発的に動くようになっていくんです。実はニックネーム制は、そんな能動的な企業文化を作っていくという狙いもありました。
松尾
コアバリューを刷新したのもまさに同じで、企業文化を作るためですね。従業員が少ない頃は、トップの強力なリーダーシップで動かしていくことができましたが、100人規模になってきた今、そうはいきません。
判断軸を自分たちで作っていける組織に変えていくために、全スタッフが自ら考える場を作る必要があったんです。
地域にとって欠かせない、唯一無二の企業に
社内で実践されている「Colors circle」の考え方は、地域との関係性づくりにも生かされている印象を受けます。
WORK MILL
友安
そうですね。2015年に「トモヤスフェスタ」という社名を冠した地域住民向けのイベントを始めました。
2日間かけてインテリア雑貨やフードの販売、ミニDIY体験のワークショップなどを開催しています。
松尾
年々規模が拡大していて、今では1日の来場者数は2500人ほどに。私たちだけでなく、地域の協力会社の人たちも一緒になって地元を盛り上げるイベントに成長しています。
友安
私はいずれ友安製作所を世界で知られる企業にしたいと考えています。そのためには、まず地元で認めてもらうことが大切です。
そこで私たちが目指しているのは、地域のリーダーと言われる、地域になくてはならない企業。八尾市と聞いた時に、まず思い浮かべてもらえるような企業でありたい。トモヤスフェスタは、そのためのイベントでもあるんです。
松尾
まずは地域で認められないと、全国でも世界でも認められない。地元である八尾を実験場にして、いろいろなチャレンジを積み重ねているところですね。
今後はさらに規模を広げ、事業として空間プロデュースを行っている知見も生かして、まち全体をプロデュースできる会社にしていきたいです。
松尾さんご自身、元々は八尾市役所で勤めていらっしゃった時期があり、市のものづくり企業を盛り上げるために尽力されてきたとか。そのときの知見が生かされていますね。
WORK MILL
松尾
その通りですね。僕が思うに、日本のロードサイドは、似たような店や家ばかりが並んでいて、どこに行っても同じ風景の印象があって……。でも本来は、地域の風土や特色に合ったまちの風景があるはずだと常々考えてきました。
八尾市役所を退職したあとに友安製作所に入社したのは、ここがその思いが実現できる場所だと感じたから。これからも友安製作所で、まちのカラー、個性を引き出せるような表現の方法を模索していきたいと思っています。
最後に、これからの会社としてのビジョンを教えてください。
WORK MILL
友安
八尾には良いものづくり企業がたくさんあるのに、クリエイティブの力が足りていないと思うんです。
だからこそ、古い町並みが残る八尾市寺内町というエリアで、デザイナーやDIYのプロフェッショナルなどを集め、クリエイティブの集積拠点を作りたいと考えています。
その集積拠点を地元企業に利用してもらえば、地域全体の力も上がっていくはず。私たちがクリエイティブの面でもっと役に立つことができれば、地域に欠かせない存在になれるんじゃないかと思っています。
その上で、今社員とともに作り上げている「Colors circle」の円をどんどん大きく広げて、社外にも私たちのビジョンや価値観に共感してくれる人を増やしたい。そうすることで、地域だけでなく広く認められるブランドに育てていきたいですね。
2022年8月取材
取材・執筆:藤原朋
写真:古木絢也
編集:桒田萌(ノオト)
10/14 イベント開催!「LOVED COMPANY 愛される会社」
取材記事×イベント連動企画 第四弾
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