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文具卸から職場環境のプロデュースへ 働く場の姿を問い続けたウエダ本社

2019年4月発行のビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE04」では、世界中の「愛される会社」を巻頭特集としました。しかし、日本にも多くの「愛される会社」が存在しています。今回は伝統・文化が根付き、商業の街としても栄える関西エリアに注目。全6回の取材とトークイベントを通して、顧客や社員、地域社会との強い関係性をつくりだしている「愛される会社」を探求していきます。

京都市の中心部を東西に貫く五条通り沿いにビルを構えるのが、85年目を迎えたウエダ本社。文具卸業から創業し、現在はリノベーション事業や、空間プロデュース事業といった、働く環境づくりを手掛けています。

しかし、かつては閉塞感が漂い倒産寸前に陥ったことも……。そんなウエダ本社を立て直したのが、4代目社長である岡村充泰さんです。「物の提供」から「環境のプロデュース」に舵を切り、活気を取り戻すきっかけを作りました。

「オフィスとは何か」「働く場所はどうして必要なのか」と追求するだけでなく、「京都流」の考え方を広めるために、2008年から始めたイベント「京都流議定書」を開催。近年は京都府北部の与謝野町にも新たな拠点を置き、丹後地方のイノベーションに一役買っています。

「働く環境」をつくるということは、岡村さんにとってどんな意味を持つのでしょうか。お話を伺いました。

岡村充泰(おかむら・みつやす)
株式会社ウエダ本社代表取締役社長。1963年京都市生まれ。大学卒業後に繊維専門商社に入社し、30歳で独立。赤字になっていた家業を再建するため、2000年にウエダ本社に入社。2002年、社長に就任。2003年より負債を整理し、2008年には無借金状態を達成。現在は「職場環境の総合商社」として、働く場のプロデュースや京都議定書の開催などに取り組んでいる。

文具卸業の会社が「働く環境の総合商社」になるまで

文具卸を営む「事務機のウエダ」から、現在の「働く環境の総合商社」になったいきさつを教えてください。

WORK MILL

岡村

1938年(昭和13年)に、私の祖父の上田安則が文具卸商上田商店を創業しました。

セスナ機でビラをまいたり、京都初の電動回転看板を出したりといった広報活動に積極的で同業者からも慕われたようです。

1955年には有限会社上田安則商店という社名に。文具卸店がショールームを併設したことも、当時としては画期的だった。その後、1958年から現業に綱がる事務機の部門もスタート。

そんなお祖父さまを見て、やはり岡村さん自身もいつかは経営者になるつもりだったのですか?

WORK MILL

岡村

いいえ。私は大学卒業後、繊維会社のアパレル部門で働き、30歳で独立して貿易会社を創業しました。要するに、この頃は家業であるウエダ本社の後継ぎになる気がなかったんです。

それが、なぜ4代目社長に就任することになったのですか?

WORK MILL

岡村

2002年、ウエダ本社に自分の貿易ビジネスを売り込みに来たとき、当時のウエダ本社グループの子会社の代表たちから「ウエダ本社をつぶしてください」と言われたのです。

つぶしてください?

WORK MILL

岡村

当時の社内にはやる気がないムードが蔓延していて、電話が鳴ってもどうせクレームだからと、誰も出ない。

それまで経験してきた会社の雰囲気とは、全く違いました。子会社の社長たちは「自分たちが独立したい」と思っていたようですが、自分としてはなんとか経営改善を図りたかったため、入社を決意しました。

そこから、どのようにして「働く環境の総合商社」に至ったのでしょうか。

WORK MILL

岡村

当時のウエダ本社は、極めて「日本的な企業」だと感じていました。

というのも、私はウエダ本社に入社する前、アメリカやイタリアに訪れたことがあり、個性豊かな欧米人の働き方を間近に見てきました。極めてタフに働くアメリカ人や、決して長くは働かず、プライベートの時間を大事にしているけれど、こと技術においてはこだわりが強いイタリア人――いろんな方がいるんです。

そんな経験から、「日本のオフィスは、個人の個性を生かせる場になっていない」と感じていました。

しかし当時、日本企業で人を生かすという考えは、ほとんどありません。壁に「私語厳禁」と紙を貼っている会社もあったくらい。つまり、社員の個性や特徴、強みを全く生かしていないわけです。

そこに着目した私は、「人を生かすビジネスをすれば、傾きかけたウエダ本社を立て直せる」と、活路を見出しました。そして試行錯誤の末、約10年かけて収益構造を改善することができました。

これが、ウエダ本社が「働く環境の総合商社」となった原点です。

「バザール」は、ウエダ本社が目指す「働く空間」を示した言葉。