働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

WORK MILL

EN JP

パブリック・ナラティブと社内転職 | 八木橋パチの #混ぜなきゃ危険

前回の民主主義は雑談からの最後に「次回は『コラボレーション・エナジャイザーって一体なに?』なんて話を…」と書いたのですが、ごめんなさい!気が変わりました!今回は、先日参加したオンライン・ワークショップでの話をみなさんにお伝えさせてください。(コラボレーション・エナジャイザーって一体なに? を楽しみにされていた方がいたらごめんなさい。次回こそ!)

パブリック・ナラティブとは

「パブリック・ナラティブ」とは、語り手となる自分自身の価値観と感情を組み込んだストーリーを、オープンに語ることを通じてリーダーシップを発揮し、目標達成への道へと進んでいくこと。

突然「パブリック・ナラティブ」を私なりの解釈で説明しましたが、どんなものだかイメージが湧きましたか?

一単語ずつ見ていけば、パブリック(Public)は「公の。公での」、ナラティブ(Narrative)は「語り。主体となって語ること」となり、「公の場で語ること」という意味になりますが、私が先日参加したワークショップでは、「何らかの社会課題解決に向けたコミュニティーや事業の形成に、パブリック・ナラティブの力を用いられるようになろう」という趣旨のものでした。

「ナラティブとか、普段使う言葉じゃないし…想像しにくいな…」という人は、「TEDみたいなプレゼンをして、自分のことを知ってもらい仲良くなること」くらいの理解でもOKです。今回、なぜ、このパブリック・ナラティブのワークショップについて書きたくなったかというと、そこで私がとても褒められたからです!

…というのは冗談で、このワークを通じて、参加していた方たちとの関係性がぐっと近づくのを感じたから。そして自分を知ってもらうことと知ってもらおうとすることの大切さと意味を改めて感じることができるものだったからです。

フリーターから初めての就職。そして挫折から社内SNS推進リーダーへ

私は、20代前半までバンドマンとして活動していましたが、活動を停止してからは「魂を売り渡さずに生計を立てるにはどうすればいいか?」なんてことを考えながら30代半ばまで就職せず、いわゆる「フリーター」をやっていました。その後、縁あってあるインターネット系の企業に就職したのですが、「この歳で就職したからには一目置かれる存在でなければ!」とすごく肩に力が入ってしまい、「本来の自分」とはかけ離れた状態で仕事をしていました。

その結果、いい仕事をすることができず、これまでの人生で唯一の「ウツ」に近い心理状態となってしまいました。笑えない、食べられない、眠れない…。そんな状態がバレないように必死に隠していたし、それを隠そうとする自分が嫌だった。…あのときは本当に辛かった。

そんなときに、以前、派遣社員として「本来の自分」のまま楽しく働いていた会社から、『あんたみたいな暴れん坊が必要なのよ。私の元で働かない?』と声をかけてもらい、私は1年で日本IBMに転職しました。それ以来、私はずっと「人はどうすればしあわせに働けるのか?」を自分の研究テーマとしているのですが…その話はまた別の機会に。 

その後、日本IBMで、私は社内SNS推進のリーダーを約8年間やっていました。自分で言うのもなんですが、他社で使われている社内SNSよりも活気があったし、しっかりと業務の一部にも組み込まれていて、活気ある状態でした。私自身も「自分の意見や考えをもっとオープンに発信しよう。自分らしく働こう。」というメッセージを送り続け、自分でもそれを実践することで、「上手くいっているし、自分らしさも発揮できている」と感じていました。

やりたいこと・やりたくないこと・やらないこと

ところがある日、その社内SNS製品が、社内から撤廃されることが発表されました。製品そのものが、インドを本拠地とする企業に売却されることとなったのです。私は、「自身の力不足」を目の前に提示されたように感じました。無力感で一杯で、すごく悲しかった。でも同時に「売却・撤廃とはなったものの、活動には意味があったはずだ。自分らしく働いてきたこととオープンな発信を続けてきたことは、会社にも自分にもポジティブな影響を与えていたはず」という気持ちもありました。

社内SNS撤廃発表後、当時の上司が、社内の新しい仕事を紹介してくれましたが、私はその仕事に心が動きませんでした。「申し訳ないですが、その仕事はやりません。自分がやる意味が見出せないし、しあわせに働けると思えないので」と何度か断らせてもらいました。

これは会社員としてはワガママなことなのかもしれませんが、私にとっては自分の持つ価値観や強みを大切にできないことは自分らしさを発揮できないことであり、そういう仕事につくことは「最後の手段」でしかなかったのです。

「自分が価値を感じられる仕事」を見つけるために、私は「やりたいこと・やれること・やりたくないこと・やれないこと・やらないこと」をリストにして、社内SNSのブログに書きました。まずは、そういう価値観に合う仕事が社内に存在し、私を雇いたいという採用権を持った人が社内にいるかどうかを確認することにしたのです。それで見つからなければ社外で探そう、それでも見つからなければ一度仕事から離れて、デンマークの「フォルケホイスコーレ」という大人向けの学校でしばらく過ごしてみようと考えていました。

その結果、『一緒に仕事をしよう。パチさんの筆の力と行動力を、私のチームで発揮して欲しい。』と言ってくれた上司と出会い、私は今、取材やライティングを通じて、私の所属チームのビジネスや価値観を伝え、仲間を増やしていくための仕事をしています。

これは自分自身に実力があったから望んでいた結果につながったという話ではありません。もちろん実力も必要ですが、それ以上に、自分の意思と志向を明確にして、はっきりと望んでいるものをオープンに伝えたことで、それを手にするチャンスが巡ってきたのだと思います。

できること、やりたいこと、そのために努力してきたことをオープンにして働こう」ということこそが、私が社内SNSで8年間言い続けてきたことでした。それが、自分にとって「しあわせに働く」ための最大の方法の1つだと信じてきたから。うまくいこうがいくまいが、言い続けてきたことを実践できる人でありたかったし、もう嘘つきにはなりたくなかった。

どこかで聞いた誰かの「正しい話」よりも

長々と書きましたが、これが、私がパブリック・ナラティブのワークショップで語ったストーリーでした。とは言え、実際のワークショップは、「5分間で考え、2分間で語り、その後フィードバックをもらう」というものだったので、実際にはここで書いたものの5分の1くらいの量を話しただけです。ストーリーも、細かいところはバッサリと切りました。

ただそれでも、この自分のパブリック・ナラティブを聞いてもらい、受け止めてもらい、フィードバックをもらったことで、私は他の参加者とのつながりが強くなったような気がしたのです。そして、他の方のナラティブを聞いている間も、自分の中に共感の気持ちと仲間意識が湧いてくるのを感じていました。

私が参加したワークショップは、「目標達成への道を進むためのリーダーシップの発揮として、パブリック・ナラティブを学ぶ」ためのものでした。ただ私に取ってはその目的以上に、「こうして自分のことを知ってもらう機会や、相手のことを知る機会が、今の世の中にどれだけ存在しているだろうか?」という、それが人々にもたらす意味の方が強く意識に残りました。

自分のことでも相手のことでもなく第三者のことばかり話していたり、自分の意思や考えではなく誰かの意見や判断の受け売りを語っていたり、多くの人に共感してもらえそうな話ばかり選んだり…。なんだかそんな、自分自身の中から出てくることじゃない話ばかりを耳にする機会が増えているような気がするのです。

皆さんは、自分が思っていることや感じていること、つまり意思や感情を相手に伝えようとしていますか?

「そんなの伝えられても相手だって困るでしょう!」とか、「細かいコミュニケーションは、ごく限られた相手とだけすればいいものじゃないでしょうか」とか、そんな風に思われる方もきっといらっしゃいますよね。でも、長い時間を過ごし、貴重な自分のエネルギーを注ぎ込む場所では、自分自身でいたいじゃないですか。そして自分自身を出さない限り、本当に理解してもらうことはできないですよね。相手に迷惑かも? と心配だったら、迷惑かどうか聞いてみればよいのです。

…でも、率直にそして丁寧に、自分の感情や意思を語ってくれる人を、あなたは迷惑に感じますか? きっと嬉しく感じるのでは?

 

毎日、多くの人が時間に追われて忙しく過ごしています。ほんと、時間っていつも足りないですよね。お疲れさまです。それでも、「自分のことを語る時間」「自分のことを語ってもらう時間」を、少しだけでも意識して増やしてみませんか? それって、社会と混ざることだし、自分を混ぜることだと思うのです。

パブリック・ナラティブについて、詳しく知りたい方にはこちらのnoteがオススメです。

パブリックナラティブ-公での語り-:コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン笠井成樹さん(コミュニティの教室003)

また、私の社内転職当時のブログは、こちらでお読みいただけます。

私が活躍できる仕事をIBM社内で探しています

Happy Collaboration!

著者プロフィール

八木橋パチ(やぎはしぱち)
日本アイ・ビー・エム株式会社にて先進テクノロジーの社会実装を推進するコラボレーション・エナジャイザー。<#混ぜなきゃ危険> をキーワードに、人や組織をつなぎ、混ぜ合わせている。2017年、日本IBM創立80周年記念プログラム「Wild Duck Campaign - 野鴨社員 総選挙(日本で最もワイルドなIBM社員選出コンテスト)」にて優勝。2018年まで社内IT部門にて日本におけるソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。 twitter.com/dubbedpachi

2021年7月6日更新