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民主主義は雑談から | 八木橋パチの #混ぜなきゃ危険

コラボレーション・エナジャイザーのパチです。こんにちは。COVID-19によるいろいろな活動規制が続いていますが、皆さんはどうやって精神的、そして身体的なウェルビーイングを保つ工夫をしていますか?  

私パチは、ほぼ毎日、家の近所の川沿いを1〜2時間ウォーキングしています。雨や風が強くない日はランチも川沿いのベンチで。家からお昼ごはんと、それから粉末スープやインスタント味噌汁とお湯と持参し、ぐるぐるかき混ぜて飲んでいます。この時期、サイッコーに気持ちいいですよ!

さて、前回の連載第一回目『納豆300回とイノベーション』では、なぜ <#混ぜなきゃ危険> かを、「企業や組織にイノベーションが起きなくなってしまうから」だと説明しました。イノベーション不足で自らが所属している組織や業界が壊滅する…困りますよね? 大ごとですよね!? とってもホラーな話です。でも個人的には、人が混ざらないがゆえに引き起こされるホラーは、企業や組織だけでは済まず、社会そのものを大きな危機にさらすと思うのです。

フィルターバブルとエコーチェンバー

ところで、あなたはここ1週間で誰か知らない人と雑談しましたか?

−−  覚えていますか? これは前回冒頭でした質問のうちの1つでした。私パチは <#混ぜなきゃ危険> の他にもいくつか念仏のように唱え続けている言葉があります。そのうちの1つが <#民主主義は雑談から> というものです。「ずいぶん大袈裟な言葉だな」と感じる人もいると思うのですが、まあ、ちょっと話を聞いてください。

ここ10年ほどのスマートフォンとオンラインメディアの隆盛により注目されるようになった言葉に、「フィルターバブル」と「エコーチェンバー」という言葉があります(フィルターバブルには前回も少しだけ触れました)。

さまざまな識者やニュースメディアが、昨年のアメリカ大統領選とその後の大騒動について、この2つのキーワードを用いて解説していましたが、まだ日本ではあまり日常的には用いられることは少ない言葉です。ものすごく簡単に説明すると、それぞれ以下のようなものになります。

フィルターバブル

インターネットやソーシャルメディアのアルゴリズムが、ユーザーの過去の行動履歴をベースに表示コンテンツを決めていくため、似たような情報や視点に囲い込まれてしまうこと。

エコーチェンバー

同質性が高く自分と似た意見や考え方を持つ人びとばかりの狭いコミュニティ内だけで活動することにより、意見が反響・増幅されていき、先鋭性や排他性を高めてしまうこと。

※もう少し詳しく確認したい方は、ソーシャルグッドなアイデアを集めたオンラインマガジ「IDEAS FOR GOOD」の以下ページが分かりやすくてオススメです。-フィルターバブルとは-エコーチェンバーとは 

アメリカ大統領選後の騒動を例に取れば、フィルターバブルの中でフェイクニュースを信じ込んだトランプ元大統領支持者が、エコーチェンバーの中で先鋭性を高め、自らが信じる正義のために暴徒化してしまった、あるいは煽動者にうまいこと絡めとられてしまったということですね。

こうしたことに自分自身が巻き込まれないように、そしてそもそも起こってしまわないように、日常の中で、もっと積極的に格差の拡大と人の分断を止めようというアクションが <#民主主義は雑談から> なのです。

対話でも会話でも議論でも討論でもありません。「雑談」です。

#民主主義は雑談から

知らない人と雑談すると、自分がまったく知らない世界の話を聞かせてもらえる可能性が高いです。あるいは知っているつもりだった話でも、自分や周囲で語られている見方や切り口とは違うものを教えてもらえることも多いです。そしてそれは、気づかぬうちにフィルターが自分の周りに作り出していたバブルを、指でつついてパチンと破裂させる行為なのです。

とは言え、なかなか「完全に知らない人」と雑談する機会を見つけるのはハードルが高いかもしれません。あるいは、せっかくそうした機会を手にしても、まったく自分が興味を持てない世界の話しかしてもらえなかったり、または当たり障りのない表層的な話しかしてくれなかったりなんてこともあるかもしれません。

そんなリスクをグッと小さくするのが、オンラインイベントの活用です。

COVID-19により、実際に同じ場所にみんなが集まって行われる勉強会やイベントはぐっと減りましたが、その代わりにオンラインでのイベントが星の数ほど開催されるようになりました。そしてその多くは、無料、あるいは少額で参加できるものが多いのも特長です。

そんな中から、自分の興味に合うテーマのものに参加してみるんです。そしてイベント中に、興味深い発言をする人を見つけたら、「おもしろい着眼点ですね。もう少し話を聞かせてもらいたいんで、今度オンラインで雑談しませんか?」と声をかけてみましょう。

最近のオンラインイベントツールにはチャットツールが付いているものがほとんどです。なのでイベント中に相手の人に声をかけるのもよいですし、イベント終了後にソーシャルメディアで相手を探してメッセージを送るのも良いでしょう。

この方法の良いところは、まず、同じイベントに参加しているという点で、あなたと相手にはなんらかの共通の話題がすでにあるということ。そして、あなたが声をかけた相手の方は、そのテーマに関して何らかの意見や考えを持っていて、それについて話をすることに抵抗がおそらくないだろうということです(イベント中に何か発信しているくらいですから)。

イベントを探す際に気をつけた方がいいことが1つ2つあります。それはディスカッションやQ&Aなどの時間がしっかりと取られているイベントかどうかを確認すること。「登壇者の話を聞いてそれでおしまい」という講演のみのものもあり、それだと新たな出会いは起きません。

もう1つは、参加者があまり多過ぎないこと。「ブレイクアウト」と呼ばれる少人数に分かれての「分科会」のようなものが行われるタイプのイベントであれば問題ないのですが、そうじゃないと、どうしても話をするのは登壇者ばかりとなってしまい、声をかけやすい参加者を見つけるのが難しくなってしまいます。

「変な勧誘とかおかしな行動をする人に当たってしまったらどうしよう…」。

そんな心配をされる方は、声をかける前にFacebookなどで共通の知人がいるか、身元をどれくらい明らかにしているかなどを確認してから声をかけるのがいいかもしれません。また、主催元がはっきりしているイベントの方が、トラブルにつながる可能性は比較的少ないと言えそうです。例えばこんなところが主催しているのはいかがですか?

実はすべて、この記事を掲載しているWORK MILLが主催する全国4カ所の共創空間です。私パチもちょくちょく参加させてもらっています。

以前は東京のSeaでのイベントにしか参加できませんでした。しかしオンライン開催が中心となってくれたおかげで、名古屋のCueや福岡のTie、大阪のbeeでのイベントにも気軽に参加できるようになりました! そしてこちらで開催されているオンラインイベントには、参加者同士が一緒に何かをするワークショップタイプのものや、本編終了後に「オンライン交流会」などを設けているものも少なくないですよ。

結論よりもプロセスを

「雑談でそんなに深い話ができるものですか? 必要なのは雑談ではなく議論や対話ではないでしょうか。」 

−− 雑談を勧めていると、よくこう言われます。実際にその通りなのですが、議論や対話って、相手も自分も肩肘張ってしまいがちなんですよね。

特に「よく知らない人」と議論や対話をするのは、案外難しいものです…。なので、少なくともお誘いするときは「結果として対話に成ればラッキー!」くらいのつもりで「雑談」として声をかけ、自分が知らない話を聞かせてもらえたり、新しい世界を少しだけでも覗かせてもらえれば成功と考えて、気楽に話すのがいいのではないでしょうか(そしてそれくらいの心構えだからこそ、断られてもなんとも思わずに済みます)。

「雑談から対話へとつながっても、最終的にはお互いの溝は埋まりません。だから多数決という仕組みがあるのです」

−− こう言われることもあります。そしてこれも間違いなく一理あると思います。ただ、ゆっくりと雑談や対話を繰り返すプロセスを通じて、お互いが「急いで白黒はっきり付けなくて良い」という結論につながることが多いのも事実です。

ここでもポイントは「雑談」です。議論というフォーマットでは、テーマから外れることは良くないことという認識がセットされてしまいます。その結果、お互いの思考の一部だけが強調され過ぎてしまい、同じくらい、あるいはもっと大切な「心や考えのやりとり」がしづらくなってしまうのです。だから、やっぱり「雑談」です。違いがはっきりするテーマだけではなく、その周辺やまったく異なるテーマも混ぜて話をすること、そのプロセスを通じてお互いに対する理解が深まります。

白と黒という、何か一つのことにおいてはまったく異なる意見を持ったもの同士でも、雑談と対話を行き来しつつ話している2人の間には、薄い灰色や濃い灰色が混ざり合ったマーブル模様が浮かび上がってくるでしょう。そして案外、その模様が心地よく眺められることが多いものです。

どうでしょう。<#民主主義は雑談から>って、まんざらでもないなって思ってきたんじゃないですか? どうにもピンと来ないなぁ… という方は … 良かったら、私パチと一度雑談しませんか?

あ、変な勧誘はお断りですからね〜!

次回は「コラボレーション・エナジャイザー って一体なに?」なんて話をさせていただくつもりです。

Happy Collaboration!

著者プロフィール

八木橋パチ(やぎはしぱち)
日本アイ・ビー・エム株式会社にて先進テクノロジーの社会実装を推進するコラボレーション・エナジャイザー。<#混ぜなきゃ危険> をキーワードに、人や組織をつなぎ、混ぜ合わせている。2017年、日本IBM創立80周年記念プログラム「Wild Duck Campaign - 野鴨社員 総選挙(日本で最もワイルドなIBM社員選出コンテスト)」にて優勝。2018年まで社内IT部門にて日本におけるソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。 twitter.com/dubbedpachi

2021年6月10日更新