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組織の中と外、ネコの居心地は? 実践者たちと語る「ネコとコミュニティ」 「TWDW2021」7日目レポート

毎年11月の「勤労感謝の日」に合わせ、7日間にわたって開催される働き方の祭典「Tokyo Work Design Week(以下、TWDW)」。9年目を迎えた今年は「ネコに学ぶ働き方」をテーマに、オンライン開催されました。

最終日の7日目は勤労感謝の日。「ネコとコミュニティ」をテーマに、5名のゲストによるパネルディスカッションが行われました。

<イベント概要>
Tokyo Work Design Week 202111/23(火・祝)
7日目「ネコと起業」

■ゲスト(敬称略)
●モデレーター
河原あずさ(Azusa Kawahara)|Potage株式会社代表取締役/コミュニティ・アクセラレーター
藤田祐司(Yuji Fujita)|Peatix 共同創業者 取締役・CMO

●パネラー
辻貴之(Takayuki Tsuji)|コミュラボ 主宰・幹事長
岩本亜弓(Ayumi Iwamoto)|株式会社リクルート 
山中直子(Naoko Yamanaka)|meetalk株式会社 代表取締役

まずはモデレーターの河原さんと藤田さんによるオープニングトーク。2人は、『ファンをはぐくみ事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書』(ダイヤモンド社)を共著者であり、コミュニティづくりの専門家。河原さんは「ネコこそコミュニティ的である」と持論を展開します。

河原:ネコはわがままな性格だと言われていますが、果たして本当にそうなんでしょうか? ネコがヒトに飼われるきっかけは、ネズミを捕まえてくれたから。農作物の倉庫の前にいたら便利だからという理由で、結果的にネコとヒトは共生することになったんです。つまり、好き勝手に何かを追求することで周りの役に立てるタイプの人たちがいて、それが「ネコ的なビジネスパーソン」なんじゃないか、と。

自律的な働き方という言葉がありますが、とにかく思うがままにやってみる。そうしたら、周りに人が寄ってきて、共生状態が生まれてくる。その結果、みんなのためになり、利他が生まれるわけです。

我々の本では、コミュニティ思考について書きましたが、すべてネコのあり方とフィットしています。そして、結果的にみんなの役に立っている。ネコのあり方こそ、コミュニティ思考なんじゃないでしょうか。

河原さんは、ネコを「イエネコ」と「ノラネコ」の2タイプに分類します。組織にいながら、組織内外に自分の存在意義をきちんとアピールできるのがイエネコ。組織を飛び出して、自分のやりたいことを追求するのがノラネコです。

ここからは、そんなイエネコとノラネコの働き方や生き方の違いにフィ―チャーします。パネラーそれぞれに、自分がどんなタイプのネコであるかを話してもらいました。

TWDW2021最終日のパネリストたち。写真左から、河原さん、岩本さん、辻さん、山中さん、藤田さん。

岩本:イヌからの突然変異イエネコです。私はリクルートに所属していて、バリバリ会社員ですが、同時に個人事業主としていろいろコミュニティに関わっています。

辻:5足のわらじを履いています。1つ目は夫であり父、2つ目は会社員。3つ目は社会人として26年間、様々なコミュニティの幹事し続けてきたこと。4つ目は博士課程に所属する学生、5つ目は大学教員。どこのネコですかと問われると、ハイブリッドネコです。

山中:今年、5年間勤めたクラウドファンディングの会社を退社して独立しました。現在は、女性起業家のコミュニティを運営しております。言うならば、元イエネコ、現ノラネコでしょうか。

ここからはモデレーターの2人が用意した質問に、パネラーが答える形でセッションが展開していきます。

Q. 私がイエネコ/ノラネコになったきっかけは?

岩本:シンプルに人事異動です。オープンイノベーションという言葉が巷で流行り始めたタイミングで、リクルートとスタートアップがどう協業していけるかを考える部署に配属されました。

ネコたちがいっぱいいる中に投げ込まれて、最初はどうしようって思ったんですけど、いろんなこと聞いたり、教えていただいたりする中で、ネコになっていった感じです。

辻:小学校3つ、中学校2つと転校生でした。「ここが家だ」と思っているのに、親の都合で家が変わる体験を幼少期に何度もしているうちに、「家は自分で作るものだ」という感覚が培われてきました。

そもそも「家ってなんだったっけ?」という感じ。そのとき関わる相手によって変化するような、もっと言えば「この時間はここが家です」といった感覚かもしれません。

山中:私は前職にジョインする際、社長から「過去の慣習にとらわれず、ブルドーザーみたいに壊していくくらい新しい道を開拓していこうぜ」と言われたんです。さらに直属の上司は、「社会的に駄目なこと以外なら何やってもいいよ」みたいな人で。とにかく自由に働かせてもらっていました。

それをやり続けていたら好奇心が爆発してしまって。「自分のアイデアは、独立してやってみたらどこまでいけるかな」と思って、ノラネコになった感じです。失敗するかもしれないし、お金もなくなっちゃうかもしれない。けれど、やらないで死ぬよりいいかな、と。

河原:ネコは、隣の世界に大きなネズミがいると知ったら追いかけていきますよね。山中さんの「好奇心の爆発」はまさにそんな例かなと思います。

一方で、会社員じゃないと出会えない人もいます。会社名を活かしたキーパーソンとの関係作りは、イエネコだからこそできることかもしれないですね。

逆にノラネコは、スモールビジネスになりやすく、自分の身の回りの人間関係で成立してしまう部分もある。人間関係は、野良猫の方が限定されてしまうこともありますよね。

山中:会社の看板や組織、そのコミュニティの看板とか、主催者の人のネットワークがあったからこその出会いはあります。それにちゃんと感謝を伝えることで、循環しているように感じますね。

Q. イエネコ/ノラネコでよかったなーと思う瞬間は?

辻:24時間感じています。日々家をつくって、その家に新たな方をお招きし、家のつくり方を教示するコミュニティの幹事をしています。そこからネコが旅立ち、新たな家をつくっていく。言うならば、ネコのインキュベーターでしょうか。そんなふうに「循環」に触れているときが、ネコでよかったなと思える瞬間です。

山中:「様々な人ともののおかげで自分が生かされている環境なのだ」という自覚がないネコだと、敵を作る可能性がありますよね。自分に忠実、信念に反することをやらない特性は、組織の中でひずみになったりして。

反面、ノラネコにはそれがない。組織にいると「きれいごとを言うな」と叱られることもありますが、ノラネコはきれいごとを言い続けられる。自分が矢面に立ち、責任も負うので。そこが、ノラネコでよかったなと思う点です。

岩本:イエネコの場合は、一人だったら経験できないことをさせてもらえたり、会社の看板があるからこそ出会えた人がいたりしますよね。いいキャットフードを食べさせてもらえた感じ、というか。そんな経験があるからこそ、恩返しとして結果を出そうとする。そうすると、成果を出せる人になっていきます。

Q. 人はなぜ、イエネコ/ノラネコであるべきか

藤田:大前提として、イヌを否定しているわけではないですよね。やっぱりイヌの人が組織の中にいないと、ネコの人は活躍できない。その上で、みなさんは自分がなぜネコであるべきなんだと考えていますか?

歯を磨いている男性

低い精度で自動的に生成された説明

辻:冒頭の河原さんの話にもありましたが、ネコはわがままというより、あるがまま。なおかつ、誰かの役に立て、その状態が楽だと感じています。イエネコでもノラネコでもどっちでもよくて、ネコ的要素を持って生きていくことが楽だから、おすすめしたいですね。

岩本:自分のやりたいようにやることはとても大事だと思うので、そのきっかけとして「ネコという生き方もあるよ」と言いたいです。それで、少し気持ちが楽になれるかもしれません。

山中:ネコ単体じゃ生きられないことは大前提で、そのうえでノラネコになるのは、視座が上がったり、視野が広がったり、自分らしさを追求できていいなと思います。

藤田:最近は、ネコ的な生き方がしやすくなってきましたよね。ここ数年は特に、自然でいられるようになってきたと感じます。

Q. だって涙が出ちゃう イエネコ/ノラネコだもん(ネコでいるがゆえに、つらかったエピソードは?)

辻:理解されなくて生きづらいみたいなことはないですね。

岩本:社内に関しては全然ないです。ただ、たまに「リクルートさんっぽいよね」と言われることがあって。それがいいときもありますが、「そこじゃなくて私を見て!」と思う時もあります。

山中:イエネコには、イエネコがやるべきことがたくさんあるんですよね。前の会社に入社した直後は、それをわかっておらず、辛いことがいっぱいありました。

ネコは売り上げや目標に直結しないことでも、「大事だ!」と思ったらやっちゃうところがあって。そういうことを提案しつづけていたら、「それをやりたいのは社長とあなただけじゃないですか?」と周りに理解されなかったり……。やり方もネコの作法があるのだなと気づきました。提案方法も、事前のキーパーソンの巻き込みも大事です。

河原:組織の中でまわりを見渡すと、1部署1人ぐらいはネコがいるんですよね。会社員時代、周りに声かけて社内に仲間ができていくと、さまざまなコミュニケーションがスムーズになっていったのを思い出しました。

Q.イエネコ/ノラネコから進化したら私は○○になる

岩本:私は母猫になります。味方を増やしていくってすごく大事。イエネコだけじゃなく、ノラネコもイヌの子もそう。自分がやりたいことをやろうと思ったときに、どんなふうに味方を増やしていけるかが大事かな、と。

サラリーマンの中で、どうやって生きていくか悩んでいる人たちに相談されることも多いので、転職でもいいし、自分でやってもいい。今の会社にとどまる策もある。どうやったら自分が生きていきやすいかをシェアできる機会は多ければ多いほどいいな、と。そういう意味で、母猫のようになりたいなと思っています。

辻:僕は、ネコ界のスターであるドラえもんです。ドラえもんは、あんな夢こんな夢をいっぱい叶えているわけじゃないですか。

僕ら働く者にとっての夢は、あるがままで働く環境を手に入れること。そうした環境の作り方、動かし方、広め方を広げていく。ネコのコミュニティインキュベーションをしながら、いろいろ夢が叶えられる存在になっていければと思います。そして、そもそも夢を持っていいんだということを広めていきたいです。

山中:私はコミュニティマネージャーならぬ、コミュニティマ“ネコ”です。個人事業主や起業家というノラネコは、特定の組織に所属しなくても、何かをやり遂げるときには必ずチームとか、誰かと関与してやっていきます。

でも、最初からゴールデンチームは作れません。コミュニティマ“ネコ”であることで、自らコミュニティをマネージし、その中で教えあったり、育ててあって仲間を集めていく。そして一緒に作り上げ、発信をしていく中で、やろうとしていることや価値観がさらに広がっていくかな、と。

河原:自律や多様性が大事と言われる中で、自分がどういうコミュニティを形成して、その中で自分の掲げている旗印に邁進できるか、それを叶えるためにどんな人たちと繋がっていくか。結局、そのあたりを自分でデザインしないと、うまくいかない世の中になってきましたよね。

今日の登壇者はそれができている人で、それぞれの生き様を通じて、そのことがもっと伝えられていくといいんじゃないかな、と思いました。やっぱり、もっといろんなネコに出会いたいですね。

藤田:みなさんと話していて、なんだか楽しそうにイキイキと話すのが、ポイントだなと思いました。その姿が周りの人を巻き込んでいくんだろうな、と。

河原:猫が一番かわいいのはドヤ顔をしている時。たとえば、ネズミを捕まえた時とかに見せる、無邪気な感じですよね。同じネコ類として、目的を達成したときの爽快感とか、見習うべきところがあると思っています。

みんなが目をキラキラさせながら働ける世の中になれば、もっと面白いことが起きるんじゃないかなと感じました。


2021年11月取材
2022年1月18日更新

執筆:黒宮丈治
編集:有限会社ノオト
グラフィックレコーディング:みかん