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ネコとイヌでは違うサービスが必要 「Catlog」開発者・伊豫愉芸子に聞く「ネコと起業」 「TWDW2021」6日目レポート

毎年11月の「勤労感謝の日」に合わせ、7日間にわたって開催される働き方の祭典「Tokyo Work Design Week(以下、TWDW)」。9年目を迎えた今年は「ネコに学ぶ働き方」をテーマに、オンライン開催されました。

6日目は「ネコと起業」と題し、聞き役にはイベントアクセラレーター西舘聖哉さんを、ゲストには「すべては、猫様のために。」を掲げる株式会社RABOのPresident&CEO 伊豫愉芸子さんを迎え、オンライン対談を実施しました。

<イベント概要>
Tokyo Work Design Week 2021
11/22(日)
6日目「ネコと起業」

■登壇者(敬称略)
ゲスト:伊豫愉芸子(いよ・ゆきこ)|株式会社RABO President & CEO
聞き手:西舘聖哉(にしだて・せいや)|イベントアクセラレーター

伊豫 愉芸子(いよ・ゆきこ)株式会社RABO President & CEO
東京海洋大学大学院博士前期課程修了。東京大学大気海洋研究所 佐藤克文教授のもと、ペンギンやオオミズナギドリに小型センサーをつけ行動生態を調査するバイオロギング研究に従事。大学院修了後、株式会社リクルートに新卒入社し、インターネットサービスの企画やプロダクトの設計、新規事業開発を担当。2018年2月22日の猫の日に、株式会社RABOを創業。猫様と20年以上一緒におり、ショートヘアソマリ♂のブリ丸とベンガル♂のおでんと暮らしている。一般社団法人日本ペット技能検定協会認定キャットケアスペシャリスト/キャットシッター資格所有。

西舘 聖哉(にしだて・せいや)
イベントアクセラレーター、株式会社なないろのはな 取締役
1992年生まれ。ベンガル猫のモカと生活中。富士通グループにてエンジニアを経験後、独立。現在は、オンラインイベント・ライブ配信・オンラインコミュニティ支援といったありとあらゆるオンライン活動をサポートしており、年間100件を超えるイベントに関わる。配信機材一式を持ち歩きどこでも配信ができる「一人オンライン配信局」をワンオペ運営しており、全国のオンライン配信を盛り上げるべく活動中。

猫専用IoTサービス「Catlog(キャトログ)」は、猫の行動を24時間365日記録する首輪型デバイスです。機械学習とバイオロギング【※】を用いて、記録したデータから猫が普段何をしているか、さらにその行動や健康に変化がないかをアプリで確認できます。

現在は、猫のトイレの下に置くだけで体重と排泄量などを確認するボード型のデバイス「Catlog Board」も販売しています。伊豫さんの会社では猫を呼ぶ時、「お客様は猫様である」と敬意を表して「猫様」と呼ぶそうです。

【※】動物に行動記録計やGPS装置などの機器をとりつけ、動物自身の生態や周囲の環境情報などを記録する手法

伊豫:大学院の専攻はバイオロギングです。無人島に住み込んで、動物のデータを取得して、陸に戻ってアルゴリズムを書いて解析するみたいな生活を3年間ぐらい送っていました。

この研究が本当に愉しかったので、博士課程に進むかどうか非常に迷ったのですが、一度は社会に出ようと就職を決意し、リクルートに新卒で入社しました。リクルートでは主にインターネットサービスの企画やプロダクトの企画設計、新規事業開発、あとはホールディングス広報もやりましたね。

西舘:研究者だった伊豫さんが、リクルートを選んだのはなぜですか?

伊豫:人の価値観や選択肢の幅を広げる仕事がしたいと思ったんです。バイオロギングは動物行動学の一種ですが、その対象を動物から人間に置き換えることで学んだことを活かせるんじゃないかという仮説が生まれて、それを一番できそうだったのがリクルートでした。

西舘:伊豫さんには、何でも乗り越えていけそうな強さを感じますね。

伊豫:弊社のバリューとして「Do, Or do not. There is no try.」を掲げていまして、意味は、「物事を『やってみる』じゃなくて、『やるかやらないか』」。これは、映画『スター・ウォーズ』で、マスター・ヨーダが主人公のルーク・スカイウォーカーに向かって言った台詞なんです。この言葉が示すように、私はやると決めたらできると、ずっと信じ切っているのかもしれません。

西舘:リクルートを退社後、スタートアップ企業を経て起業されました。そのきっかけは何だったんですか?

伊豫:私たち夫婦は2匹の猫様と暮らしています。共働きなこともあって家を空ける時間が長いのですが、普段の猫様の様子や体調の変化などがわからないことに不安を感じました。カメラを設置しても映らない場所もあったので。

でも、人間と比較するとネコは寿命が短い動物だし、一秒でも長く一緒にいられるためにどうすればいいのだろう。その課題を解決したいと考えた時に、バイオロギングで動物の見えない時間を見えるようにするという研究をしていたことを思い出したんです。

バイオロギング、リクルートでのプロダクトやサービス開発経験、動物の中でも猫様が一番好きといった、自分のバックグラウンドともいえる3つの点が一気に繋がった瞬間、起業の鐘が鳴りました。本当に「やるかやらないか」だと思ったので、やると決めて進んでいった感じですね。

伊豫さんは20年以上前、保護猫の譲渡抽選会でキジトラ猫に出会い、父親に反対されることを織り込んだ上で、ネコの名前には父の名前の一部をとったそうです。以後、すっかりネコに虜になり、ついにネコ×起業を実現しました。会社設立は2018年2月22日、そう猫の日です。

西舘:すべてがつながって、「ネコ×起業」がたどり着いた答えだとよくわかりました。そこから発展して、新しく学んだことは何でしょうか?

伊豫:プロダクトを手がけてきたとはいえ、ハードウェアの開発については一切知識がありませんでした。そこは周りの人に話を聞きまくりながら、工場に直接に伺ってみたりしましたね。あとは、これまで特に起業の準備をしていたわけではなかったので、ファイナンスなどは実際にやりながら教わりながら、といった感じでした。

西舘:自らも行動し、足りないところは周りを巻き込んで、やってやっての繰り返しで突破してきたのですね。

伊豫:周りの人を巻き込みまくってきましたね。これは起業する前から、いや今でもそうですけど、頼りにできるなら誰にでも頼るスタンスでいます。自分ひとりでできることは限られているので、誰か得意な人がいればお願いをする。私自身は強い交渉といいますか、一枚壁を突破することに力を注いで、突破した後は周りの方にサポートをお願いしながらやっていく感じです。

西舘:他人にうまく頼るポイントは何ですか?

伊豫:全然関係ない人に頼っても仕方がないので、何に困っていて、それに対して誰がもっとも適切に応えてくれそうかを考えた上で頼ることですね。その人からすれば、自分の得意分野で頼られているので、よっぽどのことがない限りはちゃんと応えてくれます。

また、困ったときだけに頼るんじゃなくて、何かあればすぐに共有し、連絡することも重要だと思います。頼られて嫌がる人はそこまでいないと思うので(笑)。あとは、丸投げじゃなくて、自分の中で一度考えた上で、「あなたはどう考えますか?」みたいな頼り方は大事かな、と。

「世の中にないような概念のプロダクトで私たちが切り開いていった場所は、まさに市場そのものを作っていくことでした」と自らの起業を振り返る伊豫さん。会社員時代のプロダクト開発で培ってきた経験を最大限に活かして、ターゲットとなり得るネコと暮らす人へのアンケートや直接インタビューを繰り返すことによって、スタートから事業としての確度を上げることを意識したそうです。

西舘:実は私も、ユーザーとして「Catlog」を愛用しているのですが、猫様のためのツールを作りたいという企業の思いをとても強く感じるプロダクトですよね。

伊豫:イヌもネコも同じペットと一つに括られやすい世界ですが、当たり前の話としてイヌとネコはまったく違う動物です。また、飼い主さんのユースケースも異なります。「ペット向け」のウェアラブルデバイスはすでに世に存在していますが、「ペット」と括っているがために中途半端なニーズやターゲットのプロダクトとなっていることが多いなと感じていました。

一点突破じゃないですが、特化したものをつくる必要がある、それが勝ち筋であると考えました。猫様に寄り添ったサービスであり、一緒に暮らす飼い主さんに寄り添ったものであるべきだというのが、私たちの思いです。

西舘:そもそも、起業については昔からぼんやりとでも想像されていたのですか?

伊豫:起業するとはまったく想像していなかったですね。ただ、好きなものはずっと終始一貫しています。動物がずっと大好きで、いつか動物に関する仕事をしたいと思っていました。

それに、バイオロギングという研究も非常に面白かったし、もっと知られるべき研究だという思いもあったので、研究に戻る日が来るんじゃないかなっていう予感はあったのかもしれません。起業は具体的にイメージしていませんでしたが、振り返るとしかるべき未来になったというのはあります。

西舘:具体的なイメージはなかったものの、自分の心の中に常にあったものが、徐々に合わさって具現化していったみたいな感じでしょうか。

伊豫:サービスやプロダクトの開発はものすごく好きで、この仕事は一生携わっていきたいと考えています。それが、動物に関わりたいと感じたときの答えだったというか、Catlogを世の中に広めていくことが私の生まれてきた意味だったんだな、と。起業そのものは目的ではなく、あくまで手段ですから。

西舘:目的ではなく手段、まさにそうですね。今回のお話が、これから踏み出していく多くの方の背中を押してくれるものになるのではないかと思いました。ありがとうございました。


Tokyo Work Design Week 2021 レポート

2021年11月取材
2022年1月18日更新

執筆:黒宮丈治
編集:有限会社ノオト
グラフィックレコーディング:湯朝かりん