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具体的なアクション案と環境が必須。「やる気だけに頼る」のはやめよう

仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。

「やる気」という呪い

ボクがマネージャー研修などで講師をやらせていただいた時、ちょくちょくいただく相談があります。

「部下のやる気を引き出す方法を教えてください」

気持ちはわかります。やる気をもって仕事をした方が、いいパフォーマンスにつながりそうですよね。やる気を引き出すことによって、より一層組織は強くなり、会社の業績もアップ……なんて思ったりしますよね?

でも、ボクはこう答えてます。

「直接やる気を引き出すことはできません」

……なんだか突き放した言い方に聞こえるかもしれませんが、本当にそう思っています。

このような相談をするマネージャーの頭の中には、「仕事をする上でやる気は不可欠な要素である」という考えがあるように感じています。「やる気があれば何でもできる!(ちょっと猪木さん風)」と思ってたりするのかもしれませんが、ボクはそうは思いません。

「あいつにはやる気がない」なんて言い方をして自分のチームメンバーを否定的に表現する人もいますけど、やる気がないことが問題であると何で測っているのか、とても疑問です。やる気というのは、測る単位が存在しません。なので、やる気のあるなしで人を評価するのは無理筋ではないでしょうか。

評価というのは仕事のアウトプットで測られるものであって、見えるわけでも触れるわけでもないやる気を引き合いに出すのは、おかしな話ではないかなと思うわけです。

やる気がなくてもいい結果を出しているのであれば、それはフェアに評価しなくてはならないですし、見た感じやる気に満ちていたとしても、結果がまるでダメならこれは評価に値しないわけです。

でも、「やる気は大事」という空気が流れている職場はまぁまぁ存在するようです。ある意味、これはちょっとした呪いともいえるんですよね。測る単位もなく、実在を証明するわけにもいかない、ともすれば幽霊のような存在。それが仕事における「やる気」です。

やる気が起きるメカニズム

ちょっと思い出してみてください。やる気が出る瞬間って、思い出せますでしょうか?

もちろん「この時にやる気が出たな~」っていうシーンが明確に思い出せる人もいるでしょう。

ただ、それは単体で存在するものではなく、何かしらの行動と連動していたのではなかろうかと思います。「具体的な行動」が脳内に描けた場合、やる気になって動き始めるというのが、イメージしやすい状態ではないかと思っています。

カナダ出身の心理学者であり、スタンフォード大学で長らく教授を務めたアルバート・バンデューラ氏は、「自己効力感の成立」を次のように説いています。

「自分にはできそうだ」という確信は、手順が見えているかどうかに直結します。全体像が霞んでいると脳は「脅威・面倒」と判定してブレーキをかけますが、最初の2〜3ステップが明確にイメージできた途端、制御感(コントロール感)が生まれ、前向きな感情(やる気)が生じます。

出典: アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)の「自己効力感(Self-Efficacy)」および「近接目標と制御感」の理論に基づく解説(原典: Bandura, A., 1997)

つまり、行動のイメージが脳内に描けるからこそ、前向きな感情、すなわちやる気が生まれるというわけです。

この考えに、ボクは深く賛同します。行動のイメージができない限り、人は本当のやる気を出すことはできないと思います。

これは、マネジメントにおいても非常に重要です。「やる気を出せ!」なんて言葉は指示でもなんでもなく、もはや暴力にも近いものだと思っています。

マネジメントをするなら、具体的な行動を示すか、行動に移せる環境を整えることが不可欠です。そういうアクションを抜きにして、メンバーに「やる気を出せ!」とはっぱをかけるのは、マネージャーの仕事をしているとは言い難い。そのポジションに就いていることを一度見直した方がいいレベルです。

ボクはよく「思考は抽象、行動は具体」と言っているのですが、これを裏付けてくれるような理論を確立してくれているのがヤコブ・トロープ氏とニラ・リーバーマン氏の二人の教授です。(二人はトロープ&リーバーマンとセットで呼ばれることが多いようです)

彼らの説く解釈レベル理論(Construal Level Theory)では、やる気について人は物事を遠く捉えているときは「なぜやるのか」を抽象的に考え、時間的・心理的に近づくと「どうやってやるか」を具体的に捉えると説明しています。

そして、抽象的な状態では手につかず、具体的な「最初の一手」に解釈がシフトしたときに初めて行動エネルギー(やる気)に変換されるわけです。やはり、行動が具体的でないとやる気にはつながらないようですね。ボクの考えが立派な教授と一致しているのを発見するのは、物書きとしてはなかなかいい体験です(笑)。

やる気をなくすのはとても簡単

ということで、やる気は具体的な行動がイメージできないと出しようがないという話が証明されたわけですが。「やる気をなくす」のはとても簡単だという話も合わせてしておきましょう。

他人のやる気をなくすためのキラーワードは様々ありますが、シンプルだけど破壊力抜群な超汎用的攻撃フレーズを紹介します。

「そんなことやっても意味ないよ」

これ、効きませんか?

ボクが若かったころ、そういうことを平気で言うマネージャーがいて、心の底から嫌いだったことを思い出してちょっと血圧が上がってしまいました(笑)。

もちろん場合によっては「なんだと!負けてたまるかやってやる!」と発奮する人もいるでしょう。たぶんこれはその言葉ではめげないくらいに、明確な行動の方向性、もしくは行動する気構えがすでに出来上がっている場合ではないでしょうか。

日々の仕事においては、行動の方向性が常に定まっているとは限らず、もっとふんわりした中でタスクに取り組んでいることもあるでしょう。

そんなときに「そんなことやっても意味ないよ」なんて言われたら、やる気に火をつける効果よりも、冷や水をぶっかける効果の方が高いのではないでしょうか。行動に意味がないと言われたら、やる気の持ちようがありません。やる気を削るだけの言葉に、耳を貸す必要はありません。

あるいは自分自身で「こんなこと意味ないのでは?」という疑問が頭に浮かぶと、やる気は急速にしぼんでいきますよね。そして、行動ができなくなるという悪循環に陥るわけです。

なので、むしろこのようなセリフそのものが「意味がない」と解釈しておいた方が心の健康にはいいでしょう。

今回のテーマは「やる気だけに頼るのをやめよう」です。これは、「やる気というのは抽象度が高すぎて、そのままでは行動に移せない」という意味が含まれています。

その一方で、行動がより活発に、精緻に、継続的になる裏側には、自然と湧き上がった「やる気」が存在していることでしょう。そのやる気を作るために大事なことは、行動がイメージできること。マネージャーであれば、具体的な指示を出すのも一つの方法ですし、「どんな行動でもやってOK!コケたら助けるから」と声をかけるのもアリでしょう。

自分が何かのタスクに取り組むなら、結果の測れる行動パターンをいくつか考えて実行すること。やる気は行動とペアになっていることを忘れずに、日々の仕事に取り組んでいきましょう。

アイキャッチ制作=サンノ
編集=ノオト