働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

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文具卸から職場環境のプロデュースへ 働く場の姿を問い続けたウエダ本社

京都流議定書の狙いは、京都流の考え方を広めること

2008年から毎年、各分野の第一線で活躍する方々の講演や議論を行い、京都の価値について考えるイベント「京都流議定書」を開催されています。

「働く場」だけでなく、地元の「京都」に目を向けられたのはどうしてですか?

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2008年より開催されている「京都流議定書」の様子。各分野のパイオニアが登壇し、京都ならではの考え方を発信する機会になっている。2020年よりオンラインで開催されている。

岡村

2008年は、ちょうどウエダ本社創業70周年。その周年記念イベントとして、「将来、京都がこうあってくれたらいいな」という思いを込めて開催しました。

京都流議定書の目的は、自社の価値の発信。ウエダ本社でコンセプト決定や登壇者の選定、イベント開催費用の負担をしています。 大切にしているのは「京都の数値化されない価値を再認識していただきたい」という気持ちです。

数値化されない価値、ですか。

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岡村

京都に元気な老舗企業や店が多いのには、理由があります。

それは、京都という町が、企業や店に対して外形的成長より内面的成長を認めているから。つまり、売り上げの最大化や利益の追求による事業規模の拡大よりも、数値化されない価値を評価する土地柄なのです。

外的成長には限界があります。しかし、今の日本企業の多くが、そこを追求したがります。本当に必要なのは、目先の数字を追い求める短期的思考ではなく、長い目で見た、数字に表れない価値を評価することでしょう。

京都には内面的成長を認める社会が形成され、根付いています。目に見えない、数字以外が持つ価値を高めていく考え方。参加者はその考え方を学び、ご自身の経営に生かしてもらいたいと思っています。

これらは、私も京都でビジネスをするようになって初めて見えてきた、京都の生き方です。

登壇者は、どのようにキャスティングされているのでしょうか。

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岡村

「未来はこうあるべきだ」「こんな未来が理想的だ」と考えている第一人者の皆さんに登場いただいています。

私だけが「未来はこうあるべき」と語っても、意味がありません。さまざまな分野に見識の深い方々に登場していただくことで、参加者の学びや実践の役に立てられたら、と思っています。

例えば、今では知っている人も多い「ティール組織」について、第一人者の嘉村賢州さんに講演をお願いしたことがあります。当時はティール組織の知名度は低く、「何それ?」と思った人も多かったはずです。

ティール組織の認知度が上がった今、「そういえば京都流議定書で講演されていたな」と思い出して、自社の組織づくりに役立ててもらえたらうれしいですね。

京都流ビジネスの学びの場なんですね。

WORK MILL

岡村

はい。実はもう一つ、「京都のビジネスを一枚岩にしたい」という思いもありました。

老舗や重鎮といわれる人たちと、ソーシャルビジネスやソーシャルイノベーターといわれる人たち。違う層にいる彼らが交われば、何かおもしろいものが生まれそうでしょう?

これまで京都議定書を15年続けていくなかで、何か変化はありましたか?

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岡村

さまざまな方との関係ができ、以前では考えられなかった会社ともお仕事をご一緒する機会が生まれました。

この15年で、京都流議定書はそれなりの価値を帯びてきたと思っています。メディアで紹介いただきましたし、登壇者としてお呼びした若手がテレビのコメンテーターとして出演されるなど、各方面で活躍されています。そういう人たちとの繋がりは大きな価値です。

しかし今や、似た方向性で、より大規模なイベントが全国で開催されるようになりました。その中で京都流議定書をどのような形で運営していくかが、最近の悩みどころです。

ある人には「京都流議定書は、5年後に内容の価値がわかるような、先見性のあるものでなければ」と言われました。

まだその未来の絵は描けていませんが、期待していただけるのはうれしいこと。しっかりと応えていきたいと思っています。

これまでウエダ本社の従業員の皆さんは、京都流議定書をどのようにとらえているのでしょうか。

WORK MILL

岡村

実はウエダ本社にとって、京都流議定書は社員研修の意味合いを含んでいます。

会場はハイアットリージェンシーホテル。一流のスタッフの立ち居振る舞いや気遣いを、じかに勉強できる貴重な場です。また講演を聞いたり、打ち合わせに参加してもらったり、他の一流企業の社員研修と同等の価値があると思います。

しかし、開始当初は一度だけの記念イベントで、続けるつもりはなかったと伺いました。なぜ、続けることにしたのでしょうか?

WORK MILL

岡村

それは、私の京都に対する見方に変化が起きたからです。

私は生まれも育ちも京都ですが、実はこの町が好きではありませんでした。「京都の人は笑顔でいても、腹の中では何を考えているかわからない」なんて思ったり……(笑)。

しかし、京都でビジネスをするようになり、考えが変わりました。

例えば京都には、「一見さんお断り」という店があります。かつて何もビジネスを理解していなかった私は、「意地悪ではないか」と思っていました。しかし、これは顧客に最高のおもてなしを提供するシステムで、知恵なのだと気づいたのです。

そこから、「数字ばかりではない、内面の成長を重視する」という京都らしさを知り、影響を受けました。もちろん事業拡大もしますが、他の都市と比べると、京都は短期的な成長を求めませんから。

そもそも「成長」に対する考え方が違うのですね。

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岡村

豊かに、強くしなやかに。息の長い成長を遂げていきます。人間の成長も似ています。背が伸びたら、今度は豊かな教養を身に着けるというふうに、内面を充実させる。

このスタイルは、日本の企業が参考にするべきモデルだと思っています。そんな京都の生き方を伝えたい、という思いがベースにあるため、これまで続けてこられたのだと思っています。

「会社にオフィスは必要か」の問いから始まった

ウエダ本社は、今後どのような展開を目指していますか。

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岡村

私はウエダ本社に入った当時から、「そもそもオフィスは必要なのか」と問い続けてきました。「我々はオフィス屋ではない」、「オフィスはいずれなくなるかもしれない。そうなれば仕事もなくなるよ」と、社員にも言い続けてきました。

しかし、たとえオフィスでなくとも、働く場所は必要です。決まりきった「オフィス」を提供しないのならば、ウエダ本社は何を提供するべきなのか。

20年余り問い続け、現在の「働く環境の総合商社」にたどり着きました。オフィスだけではなく、さまざまな「働く環境」をつくると考えれば、今後も私たちの仕事は無くならないでしょう。

これからも社員一丸で、アイデアを出し合いながら進んでいかれますね。

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岡村

最近、リーダー社員らに10年後のウエダ本社について考えてもらいました。その結果、自由度の高さが当社の特徴に挙がったのです。

ウエダ本社は、昔のような没個性ではなく、各々の個性を発揮させる自由度の高い会社を目指してきました。

ただし、ポイントは方向性を同じにすることです。全員がウエダ本社の目指す、ゴールという名の北極星に向かう。それさえ間違えなければ、たどる道筋は自由です。

そして、働く場はもちろん、働き方、ひいては生き方まで、たくさんの選択肢を提供したい。強くしなやかな京都の生き方にならって、より良い環境づくりに貢献していきたいですね。

2022年6月取材

取材・執筆:國松珠実
写真:楠本涼
編集:桒田萌(ノオト)

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