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オンラインに拡大する「連」が個の価値を発見できる場に ― アドリブワークス・山岡健人

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE07 EDOlogy Thinking 江戸×令和の『持続可能な働き方』」(2022/06)からの転載です。

何かを実現したい人、参加したい人、応援したい人をつなぐ。「triven」が示すのは、新しい起業と副業の形。オンラインで続々と生み出される「連」が、個の力に火を付ける。

ー山岡健人(やまおか・けんと)
1986年生まれ。早稲田大学を卒業後、ITの世界でキャリアを積み、アクセンチュアへ。その後、地方起業に可能性を見いだし、2018年にアドリブワークス創業。

日本には起業・副業を志す人が150万人いるとされ、そのうちの約90%が実現に至っていない(総務省「就業構造基本調査」)。多様な働き方が推進される現代にあっても、依然として起業のハードルは高いままのようだ。 

アドリブワークスが運営する共創コミュニティ「triven(トリブン)」は、事を起こしたい「チャレンジャー」が思いついたアイデアを気軽に投稿できる仕組みを提供する。さまざまなスキルを持つ「サポーター」と、寄付や製品購入でプロジェクトを応援する「ファンダー」をオンライン上のプラットフォームで募ることができ、夢の実現に向けた第一歩を踏み出すきっかけとなる。 

2022年6月にリニューアルした。

同社CEOの山岡健人は、「trivenを通じて誰もが好きなことを、好きな場所で仕事にできる日本にしていきたい」と思いを語る。

しまなみ海道を結ぶ大三島にある、オーガニッククラフトコーラ専門店。アドリブワークスの藤原弘樹が運営し、trivenで店を活用した“アソビバ”づくりプロジェクトを進める。

しまなみ海道を結ぶ大三島にある、オーガニッククラフトコーラ専門店。アドリブワークスの藤原弘樹が運営し、trivenで店を活用した“アソビバ”づくりプロジェクトを進める。

「優秀な人ばかりに仕事が集中する日本では、行動したくても身動きが取れないでいる人がとても多い。つまり90%の人たちの中に、日本の未来を変えていく可能性が、まだまだ眠っていると考えています」 

実際にtrivenユーザーの属性をひもとくと、やはり“くすぶっていた人”が集まっているという。「ITやクリエイティブ職だけでなく、ヨガ講師やゲーム音楽の作曲家など、本当に多彩なバックグラウンドを持った方々が登録されています。共通するのは、現代の会社の仕組みや従来の働き方に疑問を感じている人たち、ということです」 

特にチームメンバーやサポーターで目立つのが、誰もが知るような大企業に勤める30~40代の管理職だという。競争社会でもまれ、定年までの道筋がある程度見えた。人生を見つめ直したとき、新しいチャレンジがしたくなった。だが、家庭もある。そんなときに本業と違う基準で自分を生かせるtrivenに金銭ではない価値を求め、集まってきているのだという。

埼玉県と共同し、長瀞町でのアウトドアテレワークプロジェクトも。

新しい指標を生み出す“取り分”制度

“お金ではない”という価値観は、ソーシャルグッドのプロジェクトが多く集まるtrivenにおいて重要な指標となる。単価や納期優先の受発注関係ではなく、シェアリングエコノミーの考え方を取り入れたチームづくりをサポートするため、trivenは独自の制度設計を取り入れている。 

それを象徴するのが、今年6月から導入された“取り分”制度というポイントシステムだ。ユーザーはアカウント登録時に100trivenが付与され、プロジェクトの立ち上げやチーム参加、応援など行動を起こすために使用する。多くのポイントが集まるほどに、社会注目度の高いプロジェクトとなるわけだ。そして、投下したポイントの量により、チーム内で責任や報酬の割合が自動的に決まることになる。

「そうした中で人々がつながり合うことで、本当の意味でのチームが生まれていく。それがtrivenの面白いところなんですよね」

同社運営の起業志望者を支援する官民連携のプラットフォーム「NOROSI スタートアップハブ」は、trivenから起業を目指す道筋にもなる。

アイデアが面白ければ人は集まる

現在、trivenで進行中のプロジェクトは、シェアリング、DX、スマートシティなどジャンルは多岐にわたる。ここからは、その事例を紹介しよう。 

循環葬(森林散骨) を終着点として森を整える活動を広げる「RETURN TO NATURE」は、神戸に住むクリエイティブディレクターが立ち上げた。森林保全などのノウハウは当然なかったが、どうしても実現したいとtrivenに登録した。チームメンバーとして手を挙げたのが福井の林業企業。いわばエンジンとなる重要なマッチングが実現した。プロジェクトは約半年で起業に至り、現在はひとつ目の森の準備に奔走している。

RETURN TO NATURE
植樹や伐採で森を整え、森林浴などで森に親しみ、最期には循環葬(森林散骨)をすることで森に還る。自然と共生できる新しい仕組みを生み出そうとしている。

「アヒル発電」も注目のプロジェクトのひとつ。クリーンエネルギーの重要性が高まる昨今、実現が難しいとされる波力発電にチャレンジしている。発案者は士業がなりわいで、もともと電気や工学は門外漢。風力発電のバードストライク問題などに心を痛め、その被害を減らせるようにと創案された。10年かけて個人資金で開発してきた中、trivenをきっかけに行政や銀行とつながり、推進力になっているそうだ。

アヒル発電
次世代の発電技術として期待されている波力発電を利用。現在は大型の3号機を製作するため、資金調達に邁進している。

「アイデアは間違いなく面白い。でも、こうしたプロジェクトはすぐにマネタイズできないので、既存のビジネスコンテストではまず残らない。そこにスポットを当てられていることが、trivenの価値だと思います」

個の力は、やがて世界を救う

少子高齢化や地方衰退などの社会課題は、多くの先進国が抱える問題となっている。課題先進国として、最先端を走り続ける日本が進むべきは、従来のタスク型の働き方ではなく、個を生かしたプロジェクト型にあると山岡は考える。

「『あなたは今まで何をやってきたか?』『あなたは何ができるのか?』を問われる時代は、すでに始まっています。その中で、自身のスキルを確かめたり、趣味がスキルになる、ということに気づかせてくれるところにtrivenの役割がある思っています」 

ひいては、個の力を集めて社会課題を解決する多様な働き方を日本が実現できれば、世界に対して強烈なインパクトになると目を輝かせる。

「それが本当にできるのかと問われたら、もともと日本はそういう国だったんじゃないかと思うんです。個人商店が多く、それぞれが協力しながら地域の課題を解決してきた。回帰というわけではなく、これからは個の力を生かして新しい価値を生み出していける時代。それこそが日本という国が生き残るための道だと、僕は信じています」

2022年5月取材

テキスト:石井良
編集:中村大輔