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どう始める? どうすれば継続できる? 社内有志活動が6年拡大継続中の東京ガス社員に聞く、社内マイプロジェクトの灯し方(山田翔吾さん・坂元洋輔さん)

部署を越えたつながりが希薄になりがちな大企業で、有志の社員が立ち上げ、6年目の今も順調に拡大しているコミュニティが東京ガスにあります。

「ともしびをきっかけに、誰もが前を向ける世界に」をコンセプトに、2019年に誕生した東京ガスの一社員が個人的な想いから立ち上げた応援プラットフォーム「Tomoshibi(燈火)」。男性育休の実体験や、キャリアに悩む社員の本音など、「生の声」に焦点を当てて、社員の自己啓発や交流の機会を生み出しています。

Tomoshibiを立ち上げた山田翔吾さん、事務局メンバーの坂元洋輔さんに、社内マイプロジェクトを軌道に乗せるための工夫、社内にもたらした変化についてお聞きしました。

寂しさから生まれた社内マイプロジェクト

東京ガスの社内コミュニティ「Tomoshibi(燈火)」はどのような経緯で生まれたのでしょう?

Evoto

山田

2011年に東京ガスに新卒入社して以来、何度か部署を異動してきたのですが、そのたびに築き上げた関係性がリセットされてつながりが途切れてしまうことに、ずっと寂しさを感じていました。

そんなとき、別の部署の同僚が営業と開発の交流を目的としたワークショップを主宰したと聞き、「自分も何かコミュニティをつくりたい」と思ったのがきっかけになりました。

山田翔吾(やまだ・しょうご)。2011年入社。東京ガス ソリューション事業創造部 新事業開発グループ 課長。複数の部署異動を経て、2019年に有志活動「Tomoshibi(燈火)」を立ち上げる。

山田さんの「寂しさ」という個人的な感情が、社内マイプロジェクトの出発点だったのですね。

Evoto

山田

ただ、それだけではなくて、同時期に感じていた「もったいない」という動機もあるんです。

ちょうどその頃、私の周囲でさまざまな理由で転職する人が続いたのですが、自社のことをよく知らないまま、他社に転職してしまう人がいることが、非常にもったいないなと感じたんです。

もったいない?

Evoto

山田

東京ガスは大きな会社ですから、面白い人がたくさんいます。

ただ、部署をまたいで知り合う機会が少ない。何かを一緒に学ぶ場を通じて、社内の交流がもっと活発になれば、「うちの会社ってこんなこともできるんだ」という発見がたくさんあるはずだと思いました。

確かに、大きな組織ではお互いのことを知る機会も少ないですよね。

Evoto

山田

それに、自社への理解を深めた上での転職ということであれば、それもまた人生にとって前向きな決断であるはず。そんな思いが重なって、2019年に社内コミュニティ「Tomoshibi」を立ち上げました。

名前の由来は「小さくても、人の心に灯る応援の火」です。暮らしを支える東京ガスで働く人たちの心にも火を灯せたらという思いを込めました。

ありがたいことに、最近は「東京ガスにTomoshibiというコミュニティがある」という認知が社外にも徐々に知られるようになりました。

最初の一歩はどんな形で動き出したのでしょう?

Evoto

山田

まずは、社内の自分の知り合いに声をかけて協力をお願いするところから始めました。

第1回は「経験をシェアする勉強会」というテーマに決め、自作した告知チラシを社内のほぼ全フロアを回り、手渡しで配ってあちこちに声をかけました。

今振り返ると、よくあんな思い切ったことができたなと恥ずかしくなります……(笑)。

ゼロイチの過程にはやはり地道な努力があったのですね。初回の手応えはいかがでしたか?

Evoto

山田

20~30人ほど集まってくれて、予想以上の反響がありました。

Evoto

坂元

当時まだ入社2年目だった私も、山田さんに声をかけられて初回の勉強会に参加したのですが、すごく新鮮でした。

まだ自分の部署しか知らなかったので、「うちにはこんな部署もあるんだ」「こういう働き方をしている人もいるんだ」という発見がたくさんありましたね。

坂元洋輔(さかもと・ようすけ)。2018年入社。東京ガス カスタマー&ビジネスソリューションカンパニー リビング営業一部 営業企画グループ。「Tomoshibi(燈火)」に初回から参加したことをきっかけに、事務局メンバーに志願する。2024年5月から約1年間の育児休職を取得。その実体験もTomoshibiで発表。

Evoto

山田

「みんな、部署の垣根を越えて話したかったし聞きたかったんだ」と確信できたことは大きかったです。

会の最後に参加者アンケートを実施したのですが、「こうした活動が社内にあることはすごくいい」「またやってほしい」という前向きな声が多くて励まされました。

軌道に乗るまでの創意工夫

順調な滑り出しだったことが伝わってきます。そこから、Tomoshibiが定着するまでには、どんな工夫がありましたか?

Evoto

山田

第2回以降は、基本的に月1回のペースで勉強会や交流会などのイベントの開催を続けてきました。繁忙期はさすがに間が空いてしまうこともありますが、現在もできるだけ月1イベントは開催できるように心がけています。

並行して社内SNS内にも、Tomoshibiに関わる人のコミュニティを開設。今も、キャリアに役立ちそうな情報提供などを定期的に行っています。

一度でも参加してくれた人は自動的に招待しているので、6年目に突入した今は登録メンバーが約700名にまで増えています。

すごい人数ですね!

2019年に立ち上がった翌年以降はコロナ禍もありましたが、運営の妨げにはなりませんでしたか?

Evoto

山田

逆に、コロナ禍のときこそTomoshibiの活動がハマった部分がありましたね。対面で集まる機会が減って人間関係が希薄になったからこそ、オンラインでの交流を強く求める空気が生まれて。

それもあって、コロナ禍でもずっとオンライン勉強会・交流会という形で継続することができました。

Evoto

坂元

事務局ができたのも、3年目に差し掛かろうとしてたそのあたりでしたよね。

私もそこから事務局メンバーの一人として運営側に回りましたが、打ち合わせはほとんどオンラインだったと記憶しています。

Evoto

山田

最初の1年くらいは基本的に私一人で運営していたのですが、他のコミュニティのメンバーと壁打ちや連携など、各所の力を借りながらなんとか続けているような状態でしたから。

事務局メンバーが増えて助かりました。

いわゆる「非公式の社内マイプロジェクト」としてスタートしたTomoshibiですが、会社の上層部の方の反応はいかがでしたか?

Evoto

山田

参加者が自由に発言できる場であることを大事にしているため、社内SNSはクローズドにして心理的安全性を保っています。

ただ、来るもの拒まずのコミュニティですから、気づけば上層部の方も参加してくれて投稿に「いいね」をしてくれたり、当時の人事部のマネージャーがわざわざ私のところに来て「君が山田くん? 組織開発の視点からもTomoshibiはすごくいい活動だね!」と応援してくださったり……。

Evoto

坂元

会社も応援してくれる、と感じられたことは心強かったですよね。

Evoto

山田

個人的な想いで自主的に始めた活動でしたが、「会社のための活動」と信じて取り組んでいました。

勝手なことをしているんじゃないかと不安になることもありましたが、何年続けてもリーダークラスの誰からも否定的な声は聞こえてこない。むしろ、喜んでくれる人がどんどん増えていく。

やはりこれは「会社のためになっている」という気持ちがどんどん強くなっているので、自分にとってはライフワークになりつつあるこの活動を今後も続けていこうと思っています。

育休、転職、複業、本音で育てるキャリア観

毎回の勉強会のテーマもどんどん広がっているそうですね。

Evoto

山田

最初の頃は私の関心領域である学びや自己啓発が中心でしたが、アンケートの声なども反映して、次第に社員の「生の声」にもフォーカスするようになりました。

最近だと、坂元さんが1年間の育休を取得したので、「男性育休」というテーマで実体験を3回にわたってシェアしてもらいました。

Evoto

坂元

私は2024年5月から第一子の育児休業を取得しました。

うちの会社では男性育休の文化が根付いていて、育休取得率はほぼ100%、平均日数は約60日と世の中とくらべても進んでいるのですが、1年間の育休を取る男性は少ないため、話せることがたくさんあり、反響も大きかったです。

Evoto

山田

育休前、育休真っ最中の半年目、育休を終えて復帰した直後と、それぞれの時期の実感や悩みをリアルタイムで語ってもらえたのがよかったですね。

育休真っ最中だった第2回は、会社の昼休みの時間帯にあわせて、坂元さんには家からオンライン参加で語ってもらいました。

育休イベントの様子(提供写真)

育休前・中・後、それぞれどんな質問が多かったですか?

Evoto

坂元

育休前はやっぱり仕事をどう引き継いだのかなどの調整についての質問がほとんどでしたね。

育休の最中は、実際の子育てについてはもちろんですが、これから部下が育休を取得する上司の方から、「連絡の頻度はどれくらいがいいのか?」といった具体的な質問もありました。

個人的にはあまり頻繁には連絡がないほうがいいですが、人にもよるので都度話し合うのがいい気がします、と答えたり。

これから育休を取得する社員だけでなく、部下の育休にどう対応すべきかを悩むマネジメント側も、当事者の本音を聞けるのはきっと貴重ですね。

Evoto

坂元

そうですね。公にはちょっと聞きづらい内々の質問がたくさん寄せられましたから。

育休後の回は、「育児と仕事をどう両立させていますか?」「1年休んでも本当に仕事に戻れますか?」などを聞かれました。

私自身も取る前は不安もありましたが、育休取得にあたって、上長としっかりと準備をしました。そして、その姿を見ていた同僚がサポートをしてくれたため、結果的には問題なく復帰できたので、その体験を他の社員にもシェアできたのがよかったなと感じました。今でも職場のメンバーにはとても感謝しています。

リアルな実体験を聞けたことで、背中を押される人も多そうです。他にはどんなテーマが好評でしたか?

Evoto

山田

キャリアについて考える回は、やはり皆さんの関心が高いですね。

最近は、「転職した元社員」「会社の留学制度を活用した方」「複業を積極的にしている方」など、多様なキャリアを歩んでいるメンバーを呼んで話を聞く企画をしたのですが、好評でした。

イベントの様子(提供写真)

え! 転職した人もゲストに呼ぶんですか?

Evoto

山田

一見タブーに思われそうですよね。でも、外に出たからこそ見えてきた東京ガスの良さや、「ここはもっとこうすればいいのに」という課題が語られるので、すごく説得力があるんですよ。

辞めて外に出た人の話を聞いたことで、自社のよさをあらためて見直したり、「今の会社でもこんなことができるかもしれない」と気づいたりすることもありますから。

なるほど。転職を検討している人や、「このままこの会社にいていいのだろうか」と迷っている人にとって、客観的に自分を見直すいい機会になりそうです。

Evoto

山田

いろんな情報を知った上で決断してほしいんです。

会社でも、アルムナイネットワークの取り組み実施しています。加えて、Tomoshibiでもイベントを実施することで、「辞めた後もつながっていられる」という関係性を見てもらうこと自体が、さらに自社への信頼を深める部分もあるのではと期待しています。

毎回、勉強会の内容は動画などをアーカイブ化して参加できなかった方々にも配信しているので、皆さんの反応からどこにどんな火が灯るのかを見るのも含めて楽しんでいます。

自由な挑戦が組織に灯りをともす

社内カルチャーにもTomoshibiは見えない変化をもたらしていそうです。勉強会の外で何か面白い動きなどはありましたか?

Evoto

山田

直近だと、ものづくりの企業が参加する某テレビ番組に応募したいという社員からの相談を受けて、「じゃあ一緒に仲間集めから始めましょう」とイベントを開催しました。何かをやりたいと考える人を応援することも、私たちのコンセプトのひとつですから。

他にも、コーポレート部門と連携して「サステナビリティについて考える機会をつくる」イベントを企画しました。あと、新入社員向け交流会の企画なども毎年の定例行事になっています。

交流イベントの様子(提供写真)

社内における相談窓口やハブの役割も果たしているのですね。

Evoto

山田

勉強会がきっかけで社外研修に応募した社員がいたのですが、派遣された地域で知り合いが増え、何度も遊びに行くうちにそのエリアが気に入って移住した例もありました。

「Tomoshibiをきっかけに自分の部署でも勉強会を始めた」「異動してもつながりがあるから安心」といった声を聞く機会が増えていることは、素直に嬉しいですね。

お二人が楽しみながら運営されてきたことが伝わってきますが、継続のために心がけてきた部分についても教えてください。

Evoto

山田

価値ある情報を提供する場であり続けたいので、「みんなが今何に関心があって、何を知りたいのか」というアンテナは常に張り巡らしていますね。そのために、私自身、外に出ていろんな情報に触れるようにしていて。

実際、参加者が少なめの回もあるんですよ。でも、「いろんな人に会える」という価値を担保するためにも、自己啓発系から時事問題まで、多岐にわたるテーマを扱うようにしています。

なるほど。ニーズを見つけるのは大変ですよね。

Evoto

山田

やはり、自分一人だと認知に限界がありますし、世代が変わると適切なコンテンツの感覚がわからなくなることもありますから。

そういう意味で、坂元さんをはじめ若手のメンバーの感覚も頼りにしています。

Evoto

坂元

Tomoshibiは山田さんが引っ張ってきたプロジェクトですが、だからこそ自分としては参加者マインドを失わない運営側でいたいという気持ちがあります。

「ああいう勉強会ってなんだかハードル高そう」と思ってためらっている社員に「いや、そうでもないですよ。一緒に行きます?」とフラットに言える役回り、ライト層の開拓が自分の役割だと思っています。

Evoto

山田

そうそう。

坂元さんが社内SNSに投稿すると反応してくれる人たちも一定数いますよね。自分とは違う目線があることは、すごくありがたいです。

いい役割分担ができているんですね。今後のTomoshibiの展望についても教えてください。

Evoto

山田

続けていくことが一番の目標です。

始めたきっかけは自分のためでしたが、いまは誰かの心に火がついていくのを見守るのがとても楽しくて。

Evoto

山田

あくまで「自発的に関わりたい人が、気軽に火を灯せる場所」として、誰もが働きやすく、居心地のいい会社になっていくのを支えるコミュニティになるのが理想です。

最後に、これから社内マイプロジェクトを立ち上げたいと考えている人にアドバイスをお願いします。

Evoto

山田

今の自分が思っていること、考えていることをぜひ誰かに話してみてください。自分をさらけ出して誰かとつながることで、見えてくる風景もあるはずです。

Evoto

坂元

とりあえず動いてみることが大事ですよね。考えすぎるとたいていマイナス思考に陥るので、「とりあえず」で一歩踏み出してみる。動いた成果がゼロなんてことはほとんどなくて、必ず何かしら得られるものがあるはずです。

2025年9月取材


取材・執筆:阿部花恵
撮影:小野奈那子 
編集:鬼頭佳代(ノオト)