365日、違う人が店長? 「週間マガリ」が日替わり企画を10年続けられる理由
毎日違う人が店長になり、その人の趣味や個性を活かした企画を行う「日替わり店長の店」。大阪の天神橋筋商店街を南に抜けたところにある喫茶バー「週間マガリ」も、そんなお店の一つです。
オーナーは小西亮さん。2013年、大学を卒業した24歳の時に「週間マガリ」を始め、毎日欠かさず違う店長を立てて、約10年にわたり営業を続けてきました。日替わり店長の個性に合わせ、映画、音楽、お悩み相談、恋バナ、占い、蘭学……あらゆるテーマの日を設けています。
しかし、毎日違った企画を実行していくのは大変なこと。どうやって10年もの間、継続してきたのでしょうか。そして、そこに集う人々の輪をいかにつくってきたのでしょうか。継続と共創のヒントを、小西亮さんに伺いました。
―小西亮(こにし・りょう)
『週間マガリ』オーナー。1988年、大阪生まれ。新卒で広告代理店に勤め、2ヶ月で退社。2013年、24歳で「いろんなお店連載中!」をテーマに 毎日店長が変わるカフェバー「週間マガリ」を立ち上げる。
就活の失敗がきっかけで、自ら起業する道へ
思わず家のようにくつろいでしまう、素敵なお店ですね! 改めて、「週間マガリ」がどんなお店なのかを教えてもらえますか?
WORK MILL
小西
「週間マガリ」は「ヘンな出会いがきっとある」をコンセプトにした喫茶バーです。毎日違う人が店長を務めるお店として、2013年12月にオープンしました。
約2000冊の本があるブックバー、平成レトロなBGMや雑貨が楽しめるバーという側面もありますが、それは後から増えた要素ですね。「日替わり店長の店」というコンセプトは、開業の時から一貫しています。
なぜ日替わり店長のお店をやろうと思ったんですか?
WORK MILL
小西
学生時代に、日替わり店長のスタイルで運営されていた大阪・中崎町の「コモンカフェ」を知り、面白いなと思って。
23歳の時に、天満にも日替わり店長のお店があることをたまたま知って、そこで週1回店長を務めていました。その後、24歳の時に自分で運営しようと「週間マガリ」をオープンしました。
自分で運営しようと思ったのはどうしてですか?
WORK MILL
小西
実は僕、就活に失敗したんですよ。就職氷河期だったというのもあるんですけど、150社くらい落ちて。
当時、ビジネスやボランティアをする学生団体に入って活動しているような、いわゆる「意識高い系」の学生だったんです。意識は高いのに、就職が全然決まらない。そんな状況で、いろいろこじらせた結果、じゃあ自分で起業しようと(笑)。
そこで方向転換したんですね。もともと自分でお店を運営することに興味があったんですか?
WORK MILL
小西
学生団体の活動で、他大学の学生や社会人たちと関わって、「外の世界にはいろんな人がおるんやな」と知りました。
いろんな人が集まる場所、それがコワーキングスペースなのかシェアハウスなのか、お店なのかはわからないけど、漠然とスペース運営をしてみたいという気持ちがあったんです。
日替わり店長の店って、いろんな職業やバックグラウンドの人が店長を務めるから、「こんな生き方や働き方があるんだ」と知れる場になる。そういう一つのコミュニティの枠組みに収まらない場所を作りたいと思いました。
実際にお店を始めてみて、毎日違う人に店長をお願いするのは大変じゃなかったですか?
WORK MILL
小西
僕はあんまり友達がいないんですけど、知り合いの数だけは多くて。
学生団体やサークルに50個近く入っていたので、キャンパスでちょっと挨拶したり、「店長をやってみない?」と声をかけたりできる距離感の知り合いはめっちゃ多かったんですよ。それで成り立っていたのかもしれないですね。
最初はとにかく知り合いに声をかけていったんですね。引き受けてくれる人は多かったですか?
WORK MILL
小西
そうですね。皆さん、ノリが良くて。有名な人を呼ぶとなると大変ですが、マガリは「面白い一般人に任せる」というカジュアルさがあるから、すぐ人が集まったのかもしれないですね。
テーマや企画はどうやって決めていますか?
WORK MILL
小西
ほぼ店長にお任せですね。こちらから提案してお願いすることもあるんですけど、基本的には持ち込み企画が多いです。
あと、こちらから雑に振ることも多々あります(笑)。でも、その雑さが良いのかもしれない。例えば、「店長を希望する場合は企画書を用意してください」と言うと、難しさを感じてしまう人が多いと思うんですよ。
最近はシェアスペースやレンタルキッチンが増えていますが、どこもきっちりとハコと仕組みを作っていますよね。マガリではあえて、手さえ挙げれば何でもできるようなハードルの低さにしています。それが「ヘンな出会い」につながるのかなと。
「ヘンな出会い」が生まれる、コミュニティの交差点
「ヘンな出会いがきっとある」というコンセプトは、最初からずっと変わらないんですか。
WORK MILL
小西
最初からですね。これはわりと気に入っていて。僕自身、マガリっていうコミュニティは作りたくなくて、「コミュニティの交差点」みたいな場所にしたいんです。
一つのコミュニティとして固まってしまうと、内輪ノリっぽくなるじゃないですか。そうじゃなくて、「こんなコミュニティがあるんや」と知るきっかけを作りたいんです。 例えば、明日は「オカルト怪談BAR」をやるんですけど、怪談業界っていうのがあるんですよ。ご存じですか?
知らないです(笑)。
WORK MILL
小西
知らない方、少なくないと思います。でも怪談業界って結構な規模で、テレビで怪談番組もよくやっているし、怪談タレントもめっちゃいるんです。
怪談業界の人は、全く詳しくない僕のことを「カタギの方ですよね」って呼ぶんですよ(笑)。怪談業界の人から見たら、業界外の人はカタギだそうです。
そういうのってほんまに全てのジャンルであるんですよね。他に、マンホール業界もあるらしいです。
マンホール業界も知らないです(笑)。
怪談BARの日には“カタギ”のお客さんも来るんですか?
WORK MILL
小西
“カタギ”の人とそうでない人、半々くらいですね。いわゆる怪談イベントだと、怪談好きの人しか来ないから、「誰が一番怖い怪談を言えるか」みたいな空気で、なかには疲れてしまう人もいるらしいんですよ。
でもマガリでは業界外の人もいるから、「こわーい」と普通に反応してくれるじゃないですか。それが業界の人にとっては逆に新鮮らしくて(笑)。
業界外の人がいることで、新しい風が吹くんですね。
WORK MILL
小西
怪談でもマンホールでも、業界の人たちを一つのコミュニティとするなら、コミュニティの外の人たちと混じり合う、かち合うような場所にできればいいなと思うんです。それが「ヘンな出会いがきっとある」なのかなって。
それが「ヘンな出会い」であり「コミュニティの交差点」なんですね。違うバックグラウンドの人たちが混じり合う中で、何か気を付けていることはありますか。
WORK MILL
小西
違うコミュニティの人をいきなり混ぜないようにはしていますね。うちの店には、カウンター席、ソファ席、掘りごたつ席の3つの区画があって。
例えば、怪談BARだったら、怪談に興味がある人は真ん中のソファ席。ちょっとだけ興味がある人は、その隣のカウンター席。全く興味がない人は掘りごたつ席に座ってもらいます。
最初から無理に交流させようとせずに、エリアで参加者を分けるんですね。
WORK MILL
小西
最初は分けて、様子を見て徐々に混ぜていきます。怪談BARの日にたまたま来ただけの人も、怪談が聞こえてきたらちょっと興味を持ったりするんですよね。
なんとなく興味がありそうだったら、「なんか怪談ないっすかね」と話を振ってみて。そしたら、たまたま来た人の話が実は一番怖かったりするんですよ。
様子を見て声をかけてくれるのは良いですね。
WORK MILL
小西
「みんなで喋りましょう」みたいな感じで、すぐ混ぜようとしてくるお店は僕が苦手なんですよ。だから、興味がなかったら無理に参加しなくて良いですし。
ソファ席でめちゃくちゃ怖い話をしているのに、掘りごたつ席でカップルが2人だけの世界に入っていることもあります(笑)。その日のテーマに全く興味がない人も、普通に過ごしてもらえる場所なので。
小西さんは常に冷静に全体の様子を見ているんですね。
WORK MILL
小西
そうですね。プールの監視員みたいな感じです。だから、営業中はお酒も一切飲まないです。
いつもシラフなんですか?
WORK MILL
小西
シラフじゃないとやってられないです。もちろん店長さんは飲んでもらっていいんですけど、僕は飲まないです。自分のことをバーテンダーではなく、監視員だと思っています(笑)。
お店の運営はもはや「家事」。だからずっと続けられる
小西さんは24歳の時にマガリを始めて、今年10年目。
毎日企画が変わる日替わり店長のお店を10年続けるのは大変なことだと思いますが、どうして続けられたのだと思いますか?
WORK MILL
小西
最初は「意識高い系」で始まったので、「起業したんだぜ」みたいな気概があったんですよね。「ゆとり起業家」とか自分で名乗ったりして、今思うと恥ずかしい黒歴史なんですけど(笑)。
でも、そんなテンションは長くは持たなくて、周りにいた「意識高い系」の人たちもどんどん大人になっていく。このままではお店をずっと続けられないなと気づいて、もっと趣味寄りの店にしようと思ったんです。
それでブックバーや平成レトロの要素が増えたんですね。
WORK MILL
小西
本や雑貨、CDを並べて、自分の趣味部屋をお客さんに公開していくみたいな感じで、「起業フェーズ」から「趣味フェーズ」に移行していきました。そこから本好きや平成レトロ好きのお客さんも来てくれるようになりましたね。
小西
でも、最近は趣味フェーズも終わって、今は店の運営を「家事」くらいにしか思ってないですね。
家事?
WORK MILL
小西
お店をやることも、掃除や洗濯をするのと同じルーティンとして見ているので。
昔は「店=自分のアイデンティティ」だと思っていたんです。だから「俺はこんなにフォロワーがいるんだぜ」とか、「俺はこんなハイセンスな趣味なんだぜ」とか、そういう自我が邪魔していたんですけど。
今は家事の一つくらいに思っているので、変な自意識で苦しむことがなくなりましたね。
小西さんの気持ちの変化と共に、お店も起業→趣味→家事と捉え方が変わっていったんですね。
WORK MILL
小西
それぞれのフェーズの楽しさがあったから、ずっと続けられたのかもしれません。それに、ずっと同じ世界観だとやっぱり飽きられるし、時代も変わっていきますからね。
ひとつのことを継続するためには、変化し続けないといけないんだなと感じました。
WORK MILL
小西
僕は節操がないんで(笑)。続けるコツでも何でもなくて、結果論なんですけどね。
これまでにお店を辞めたいと思ったことはありますか?
WORK MILL
小西
ないですね。選択肢にありません。これを定年まで続けなあかんっていう絶望もある。いい絶望なんですけどね(笑)。
家事って終わらないじゃないですか、死ぬまで。生活の一部にしてしまったら、続ける・続けないとかじゃなくて、やらざるを得ないから。
家事フェーズの次はどうなっていくんでしょうか。
WORK MILL
小西
まだ家事フェーズに入ったばっかりなので、家事を極めたいですね。自我を消すというか。その先はどうなっていくんでしょうね。
お店を始めた20代の頃は、30代、40代のお客さんが多かったんですけど、今は自分よりひとまわり下の20代の人もたくさん来てくれている。そうやってマガリに関わる人たちを後にも引き継いでいきたいですね。
家事の次は子育てフェーズみたいな。今思いついたんですけど(笑)。
子育てフェーズも楽しみですね(笑)。
小西さんは、「何か新しいことを始めたり、人とのつながりを作ったりするのが難しい」と感じている方はどうすればいいと思いますか?
WORK MILL
小西
いま、「出会いはあるけど、共創には至っていない」ケースが多い気がするんですよね。
その点、マガリの「ヘンな出会い」はある意味、共創なのかもしれません。日替わり店長をやると、いろんな人が集まって、そこから仕事や趣味のつながりができたりして、プチコミュニティやプチ共創が発生するので。
だから、「みんな、日替わり店長をやったらいいのに」って思いますね。マガリでも他の場所でもいいので。「間借りのススメ」みたいな感じでどうでしょうか。
「間借りのススメ」、いいですね。今日はどうもありがとうございました!
WORK MILL
2023年4月取材
取材・執筆:藤原朋
写真:橋本隼佑
編集:桒田萌(ノオト)