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やりたいことが多すぎるとき、どうすればいい? 格闘家・産業医の池井佑丞さんに聞くメンタルダウンの防ぎ方

「やりたいことがない」とは逆に、暮らしを充実させたい、副業をやりたい、趣味を楽しみたいなど「やりたいことが多い」という人もいます。しかし、どれだけポジティブで前向きな気持ちで取り組んでも、時間は限られるもの。休みなく活動すれば、それだけ心身に疲労は蓄積してしまいます。

また、現在、働く人の半数近くがこころの不調を抱えているというデータがあるほど、メンタルヘルスの問題は私達にとって身近な存在です。「やりすぎ」によるメンタル不調をおこなさないためにも、疲れに対してどのように対処すれば良いのでしょうか。

そこで今回は、格闘技イベント「R.I.S.E.(現在はRISE)」などへ出場する格闘家でありながら、医師・経営者としても活動する池井佑丞さんに、やりすぎ疲れをおこさないためのヒントを聞きました。

池井佑丞(いけい・ゆうすけ)

戦う産業医。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場で活動。自己の目指すべきものは「病気にさせない医療」であると考え、産業医の道へ。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いのもと、株式会社リバランスを設立。

「違和感」からオーバーワークに気づく

池井さんも医者に経営者に格闘技と多くのことをされていますよね。忙しく働いている方の中には気づかないうちに限界がきて、メンタルダウンしてしまう人にもいます。

どうしたら、自分でオーバーワークに気づけるようになるのでしょうか?

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池井

心の調子を崩しているとき、下記のような症状がでることがあります。

オーバーワークに気づくためのチェック項目

  • よく眠れない
  • 普段はしないのに寝坊をしてしまった
  • いろんなことに対して、興味がわかない
  • 好きなことの優先順位が下がったり、気が乗らなくなってきた
  • やる気がおこらなくて、さぼってしまった
  • 意味もなく涙が出る

「なんだかいつもと違う」と感じる瞬間があれば、一度立ち止まった方がいいのですね。

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池井

はい。特に、「よく眠れない」「休みの日に動けなくなった」などの場合、メンタル不調のボーダーラインがあると感じます。

オーバーワークを防ぐ鍵は「睡眠」

不調気味だとわかった場合、休んだ方がいいですよね。ただ、「ちゃんと休む」のも難しいなと感じていて。

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池井

わかります。OFFの時間、つまり休息をとることが重要なのですが、ちゃんと休めていない人がほとんどですよ。

「ちゃんと休む」というのは具体的にどういうことなのでしょうか? 普段から意識できることがあれば、ぜひ教えてください。

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池井

まずはとにかくよく寝ることです。次に、よく遊んで、最後によく働くという順で回復していきます。

特にうつの場合は、9割は不眠の症状が出ると言われています。例えば、目が覚めてすぐ、悩み事について考えてしまうのも危ないですね。

人によってベストな時間は異なりますが、平均をとると7時間は確保した方がいいです。

早めに布団に入っても、いろいろ考えて、なかなか寝付けないこともあって……。

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池井

ベッドの中でまで考え事をしている時は、質のいい睡眠がとれていない状態だと思ったほうがいいですね。ベッドに入って数分で寝るくらいの状態を目指しましょう。

具体的に、なにかコツはありますか?

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池井

頭を空っぽにして眠るためのルーティンを見つけて、決めておくといいですよ。

よく眠るためのルーティン例

  • 食事は就寝の4時間前までに済ませる
  • 明るさを押さえた暖色系の照明を使用する
  • 寝る前には絶対にスマホを触らない
  • 寝る前に深呼吸する

池井

特にスマホは、光の刺激だけでなく、情報を見ることで考えごとをしてしまうのを避けるためにも、見ないほうがいいです。

僕自身も、アラームは事前にかけておくなど、寝る直前にスマホ画面も一切見ないようにしています。

なるほど。ちなみに、趣味は休息になりますか?

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池井

寝るのは「静的休息」です。一方、趣味を楽しんだり、外出などの「動的休息」もOFFといえますよ。

とはいえ、最初はよく寝るところから、1つずつクリアしていくことが大切です。

すぐに動こうとしてはいけないんですね。

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池井

一度体調を崩した場合、まずは休んで、次にしっかり遊んでから、仕事に復帰した方が良いでしょう。

頑張っている人ほどこういったOFFをおざなりにしがちですが、やりたいことや仕事と同じくらいの優先順位で、休息の時間も日々のルーティンに組み込んでほしいですね。

忙しい中でやりたいことを実現させるコツ

SNSを見ていると、仕事をいくつも抱えつつも、やりたいことを追求している人がたくさんいますよね。

どうしてあんなにエネルギー出せるんだろうと、自分と比べてしまうことがあります。

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池井

体力や気力などの「頑張る力」には、人によって差があるんです。

もちろん訓練で鍛えることができますが、当然、年齢とともに力は自然と下がっていきますし、限界もあります。

だから、やみくもに頑張るのではなく、自分にあった工夫が必要です。休息の取り方や時間の使い方もその一つですね。

池井さんはどうやって、予定をコントロールしていますか?

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池井

1日に稼働できる時間は限られているので、私は物事を

・やりたい

・やるべき

・やらない

の3つに分けて、生活を「やりたいこと」と「やるべきこと」の2つだけで成立するようにしています。

自分の「やりたいこと」は先にスケジュールに組み込んでいますね。

池井さんのやりたいこと・やるべきこと

●やりたいこと
・週2回以上スポーツをする
・音楽を聴く
・おいしいものを食べる
・7時間以上寝る
・週1回以上、友人と会う

●やるべきこと
・週2回トレーニングをする
・毎日1時間勉強をする
・部屋の片付けをする
・昼寝する
・日々の仕事を全力でやる

池井

「やらない」という項目は無駄な選択を減らすためにあります。

●やらないこと
・仕事着を選ばない
・ランチを選ばない
・料理をしない
・寝室で考えごとをしない
・ケチらない

池井

例えば、同じ服を着る、この曜日はこの職場に行くから、ランチはここで食べる、この曜日の夕方はバスケをする……など、あらかじめ予定を決めておくのです。

「やらない」ことやスケジュールを決めることで、ON/OFFが強制的に切り替えられます。

ちなみに他人から「急だけど、どうしても!」と頼まれたときはどうされているのですか?

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池井

私の場合は、スケジュールを関係者に公開して絶対入れてほしくない時間を提示して、予定のコントロールをしています。

私の中で週1回のバスケは絶対外したくないので、それを軸にスケジュールを組んでいます。なにより、楽しいに勝ることはないですからね。

池井

また、最終的に「やる・やらない」を選ぶのは、あくまで自分自身です。

例えば、人付き合いのための飲み会は必ず行くべきなのでしょうか? もし言われるがまま相手の都合ばかり優先して、自分のやりたいことができなかったり、体調を崩したりしたら本末転倒ですよね。

確かにそうですね。

もしスケジュールの枠を入れても、どうしても溢れてしまう、寝る時間がとれない……といった場合はどう考えていますか?

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池井

1日24時間という枠だけに囚われる必要はありません。つまり、今日じゃなくて、未来にやることも可能なんです。数年単位など、少し長い目で予定を立ててみてはどうでしょうか?

それでもやりたいことができないときは、「やらないこと」を増やして時間を作るのも一つの手だと思います。

「OFF」があるから「ON」も成り立つ

最近は自分のやりたいことを追求するために、会社内外問わず、複数のプロジェクトに関わっている方も増えています。

池井さんは、医師や経営者というお仕事をしながら、格闘技もされていますよね。

心身の健康を保ちながら、仕事とやりたいことを両立させるために心がけていることはありますか。

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池井

池井 自分の中では「両立している」というイメージはないんですよね。両方があるから、成り立っているという感覚です。

実は格闘技を始めるまでは、本当にダメな人間で……(笑)。

どういうことですか?

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池井

家業が医者だったので、学生時代は医者になりたいと思いつつ、親のレールに乗せられている感覚もあり。反抗的になって学校をサボっていたんです。

その時、格闘技に出会ったことで、医者の勉強にも身が入るようになり、格闘技の練習のために学校に行き、授業もきちんと受けられるようになりました。

勉強という「ON」、格闘技という「OFF」の両方あるからこそ、相乗効果が得られたのだと思います。

格闘技に取り組む池井さん

なるほど。ONの仕事、OFFのプライベート、どちらかがうまくいくと、もう一方もうまく回り出すことってありますよね。

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池井

そうなんです。ただ、仕事が好きで頑張っている方にも気をつけてほしいことがあって。

例えば、「好きな仕事だから頑張らなきゃ!」と考えている方もいますよね。

でも、たとえ夢の職業に就いたとしても、すべての瞬間が「やりたいこと」とは限りません。中には、自分が苦手な事務仕事などもあるでしょうし、単純に業務が多くてキャパオーバーになってしまうこともあります。

そういう時に、「やりたい仕事だから」と言ってストレスを無視していると、本人も楽しくやっているつもりだけど、病んでしまう

確かにそうですね。自分を追い詰めて、つらくなってしまったら意味がないですもんね。

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池井

だから、仕事は基本的に「やるべきこと」だと、ある程度割り切ってもいいと思うんです。もちろん、そのなかに「やりたい要素」がたくさんあればとてもラッキーです。

「好きを仕事に」というよりは、「ちょっとくらい好きな部分があることを仕事にしよう」くらいの心持ちで、仕事をゆるく捉えながら取り組んでもいいんじゃないでしょうか。

2022年12月取材

取材・執筆=ミノシマタカコ
編集=鬼頭佳代/ノオト