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人に合わせてワークルールは変えられる? 新たな働き方の仕掛け人・古市邦人さんに聞く、「働きたいのに働けない」をなくす個性軸の職場づくり

多くの企業にある、就業時間や服装などのさまざまなルール。雇用されている場合、人々はそのルールに合わせて働く必要があります。

では、本来の特性やライフスタイルが原因となりルールに従うのが難しい場合、その会社で働くのは難しいのでしょうか? 「人がルールに合わせる」のではなく、「人に合わせて働き方のルールを変える」こともできるのでは……?

そんな考えをもとに、新しい働き方づくりに挑戦しているのが、一般社団法人NIMO ALCAMOの代表理事・古市邦人さんです。

「アルバイトとボランティアのあいだ」で働ける「しごとの間借りプロジェクト」、シフトフリー制度やアバター接客を取り入れたチャイ専門店「Talk with _」運営など、次々と新たなワークルールを生み出す古市さんに、これらの取り組みに挑む理由や、活動を通して見えてきたことを伺います。

人の個性がデメリットにならない働き方を作る

「人に合わせて働き方のルールを変える」という「人」を軸にした環境づくりに取り組むことになったきっかけを教えてください。

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古市

僕はもともとNPO法人職員として就労支援に携わり、その後、「人の個性がデメリットにならない働き方を作りたい」という思いで独立しました。

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古市

前職の頃から趣味でカレー屋をやっていたんですけど、僕は多動の傾向があって。同じ店で同じことをし続けるのが苦痛だったんですよ。

料理人は同じ場所でコツコツと研究する職人気質のほうが強みになる。だから、僕の多動で飽き性なところはデメリットだと感じていました。では、それがデメリットにならない働き方はどうやったら作れるだろう、と。

そこで考えたのが、農山村や過疎地域など料理人が少ない場所に行って、その日だけのレストランをオープンする「サーカスキッチン」です。

さまざまな地域に出向く、非常設の移動式レストラン(提供写真)
(提供写真)

反響はどうでしたか?

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古市

自分の力を生かせて料理人もうれしいし、地域の人たちも喜んでくれるので、すごく良いマッチングでしたね。

でも、移動コストがかかりすぎてビジネスとして成り立たせるのが難しくて。継続的な事業化には至りませんでした。

そのあと、少し方向性を変えて始めたのが「しごとの間借りプロジェクト」です。

どんなプロジェクトですか?

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古市

仕事を辞めてエネルギーが少し落ちてしまっている状態の人が、ゆっくりと働く自信を取り戻していけるような、中間的なステップを作りたいと思って始めたプロジェクトです。

僕が運営しているカレー屋や近所のカフェスペースの空いている時間帯で実施しました。

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古市

「アルバイトとボランティアのあいだ」という形で、4カ月間、週1回のペースで仕事を試すことができる仕組みです。

「アルバイトとボランティアのあいだ」というと?

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古市

例えば、うちのカレー屋は9席しかないので、ワンオペじゃないと赤字になるんですよ。

でも、実際にお店を1人で回すのはハードだし、よっぽど能力の高い人にしかできない、難しい仕事なんです。

この1人分の仕事を3人で分担するのが、「アルバイトとボランティアのあいだ」であるワークシェア制度です。1人分の人件費を3人で割るので、報酬も業務負担も3分の1になります。

この発想はどうやって生まれたんですか?

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古市

引きこもっている大学生の子と話したのがきっかけです。彼は以前に一度アルバイトに行った時に、めっちゃ怒られたらしくて。

「せっかく頑張ろうと思ったのに、世の中厳しすぎませんか? 俺はタバコとか吸いながら、3割くらいの力で働きたいのに……」って言うんですよ。それは確かに怒られるだろうなと(笑)。

怒られますよね……(笑)。

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古市

でも、彼の話を聞いて、「3割の力で働きたい状態の人がいるんだな」と気づいたんです。

引きこもっているとかメンタルの不調で退職したとか、事情があって今は万全の状態ではなくて、3割でしか働けない人がいるんですね。

それがなぜ怒られるかというと、最低賃金が設定されているからです。雇い主からすると1,000円払わないといけないのに、300円分の働きでは最低賃金には届かない。だから、3割の力で働くことは許されないのが今の世の中です。

では、「アルバイトとボランティアのあいだ」であるワークシェア制度では、最低賃金についてどのように考えているのでしょうか。

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古市

この制度では、あくまでも3割の力で働いてもいいという前提の上で、最低賃金の取り決めがない業務委託契約の形を取りました。

3割の力で働きたいという人は、そんなにたくさんいるのですか?

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古市

2022年の1年間で、応募自体は40人以上、実際に参加してくれたのは12人でした。こんなにもニーズがあるんだと手ごたえを感じましたね。

その12人は、「アルバイトとボランティアのあいだ」という中間ステップを経て、今はそれぞれが次の仕事に就いています。 それで、ワークシェアがいつでもできる場所を作ろうと思って、新たにチャイ専門店「Talk with _」をオープンしたんです。

チャイ専門店「Talk with _」の商品にはすべて「言葉」がパッケージされている

当事者の声から生まれる、新たなワークルール

「Talk with _」のワークルールについて教えてください。

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古市

ワークシェア制度の他に、シフトフリー制度とアバター接客を取り入れています。どちらも当事者の声から生まれた仕組みです。

シフトフリーとはどんな制度でしょうか。

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古市

シフトフリーは、24時間のうちいつでも出勤・退勤をしていい制度です。販売用のチャイを作る製造部門で取り入れています。

ここでもスタッフと業務委託契約を結び、時給制ではなく納品制という形を取り入れ、納期だけを設定して働いてもらっています。

この働き方は、当事者のどのような声から生まれたのでしょうか。

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古市

きっかけは、僕のカレー屋さんに職場体験にやって来たソムリエの方です。彼は、それはもう素晴らしい接客をするんですよ。

テキパキと仕事をしているものだから、不思議に思い働けない理由を尋ねてみました。すると「前職で精神的に体調を崩し、今でも1カ月のうち2~3日ベッドから起き上がれない日がある。シフトに穴を開けてしまうから働けない」と言うんです。

それを聞いて、これは社会の損失だなと思いました。こんなに完璧な接客をする人が、たった2~3日のために持続的に働けないなんて、もったいないと。

急に休む可能性があると、シフト制の職場ではなかなか働きづらいですよね。

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古市

シフトって、未来の自分を約束しなきゃいけない働き方なんですよ。メンタルの不調、子育てや介護といった家庭の事情で、約束が難しい人は、シフトという働き方とすごく相性が悪いんです。

だから、1カ月のうち28日は仕事ができる人が働けないという、おかしなことが起こる。

そこで、未来の自分を約束しなくてもいい働き方を作りたいと思って考えたのが、シフトフリーの製造業でした。これが接客業だと営業時間に誰かがいる必要があって、どうしてもシフト制になってしまうので。

店内の裏に、チャイの葉を製造する部屋がある

だから「Talk with _」では製造部門も設けたんですね。では、アバター接客はどのような働き方なのでしょうか?

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古市

そもそも取り入れたきっかけは、アトピーや摂食障害といった問題を抱えていて、もともと接客の仕事が好きだったのに、人と対面で接することが辛くなってしまったという人たちに出会ったことでした。

彼らが働ける環境を整えるにはどうすればいいのか。そう考えていた時に、外出困難な人が分身ロボットで遠隔で接客するカフェがあることを知って、これだ!と思いました。

ロボットまでは導入できなくても、タブレットを使ってアバターで接客できるようにすればいいんだ、と。

店内に設置されたタブレットを通して、アバター接客を行う

アバターなら自分の姿を見られることなく接客ができますね。

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古市

特徴的な外見を持つ人が学校や職場などで苦労する問題を「見た目問題」と呼ぶんですが、見た目のハンディキャップを抱えている人は日本に100万人ほどいると言われています。

でもアバターを使えば、アトピーがあろうが顔に火傷があろうが、ハンディキャップなく働けるんです。

シフトフリーもアバター接客も、意欲はあるのに働けなかった人が働けるようになる仕組みですね。

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古市

ルールを一つ変えるだけで、これまで働けなかった人が働ける。そこには膨大な数の「働きたい人」がいるんです。

実際、アバター接客には全国から応募がありましたし、そこにはたくさんの優秀な人がいるわけですから、経営的な観点からみても良いと思うんですよね。

自社でも取り入れてみたいという企業が出てきそうですね。

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古市

「Talk with _」はショーケースのような位置づけです。だから、ここでの取り組みは他の企業さんにも導入していきたいと思っています。

例えば、いまインバウンド需要が回復してきて、宿泊業で人材不足が起こっていますよね。接客の一部にアバターを取り入れたら、全国から優秀な人を採用できる可能性が生まれます。

適切な労働環境さえ提供すれば広く人が集められる。僕はカフェをしたいわけじゃなくて、働き方を作っていきたいので。今後、そこには力を入れていきたいですね。

お互いの個性を理解し合うことから始める

人に合わせて働き方のルールを変えることで、非効率さや不便さは生じませんか?

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古市

そうですね。どれも一長一短ではあるんですよ。ひとつのルールを壊すと、メリットもあるけれど、デメリットも生まれる。そのデメリットをどう補うのか、新しいことをしようとするたびに考える必要があります。

例えば、業務委託契約にすると、雇用契約を結ぶ時よりも発注側の影響力が弱まり、管理もしづらくなります。

だから、ここではチームビルディングに力を入れることでデメリットを補っています。雇用契約のような指揮・命令ができなくても、良いチームであれば良い方向に進むんです。

チームビルディングはどのように行っていますか?

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古市

個性を把握するためのチェックシートを活用しています。

例えば、「一つのことに集中する人」と「複数のことを同時にやれる人」に分けるなら、あなたはどっち寄りですか?という項目があります。これは、その人の注意力の特性を知る質問です。

あえて、見える化するのですね。

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古市

他には、「曖昧なことをストレスなく受け入れられるかどうか」を「曖昧さ耐性」と呼ぶんですが、この耐性が高いか低いかという項目もあります。

このチェックシートに記入することで、まずは自分のことを言語化してもらうんです。次にその内容をシェアして、お互いのことを知る。その上で、どうすればこのチームは良いチームになれそうか、みんなで一緒に考えます。

お互いの個性を理解し合うところから始めるんですね。

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古市

はい。すべては「人には個体差がある」と理解することから始まると思っています。

本人が自分の個性に気づいていなくて、知らず知らずのうちに無理をしてしまっている場合はどうしたらいいでしょうか。

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古市

言葉を知らないと、根性論になってしまうんですよ。「根性がない、我慢が足りない」で片付けられてしまう。だから、言葉をプレゼントしてあげることが大切だと思います。

言葉をプレゼントする?

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古市

先ほどの「曖昧さ耐性」も、この言葉を知ることによって「これのせいで、自分は働きづらかったのか」とわかる場合もあるでしょう。そうした言葉を知れば自分の個性に対する解像度が上がるんです。

複数人でワークショップをするのも有効です。自分がどういう時にしんどさを感じたのかを話し合うことで、自分と他者との違いを理解できます。

チェックシートやワークショップによって、自分や周りの人たちの個性を理解し、チームづくりに生かすことは、どんな組織でも取り入れられそうです。

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古市

僕のように自ら働き方や職場を作らなくても、マネジメントの範囲内でできることはたくさんあるはずです。

まずは人にはさまざまな個体差があると理解して、対話を重ねることが最初の一歩だと思いますね。

2023年9月取材

取材・執筆:藤原朋
写真:木村華子
編集:桒田萌(ノオト)