働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

WORK MILL

EN JP

週休3日で個人と組織が得るものは? 永井宏明さんに聞く、「+1日」のある生活

今年始め、パナソニックが導入を目指すと発表し、話題となった「選択的週休3日制」。「働き方の幅が広がって良い」など賛成の声がある一方、「単に人件費削減のためでは?」といった疑問の声も数多くありました。

そんな中、10年以上前から週休3日を実践する人がいます。それが「株式会社週休3日」代表取締役の永井宏明さん。永井さんは一時期週休3日で勤め、休日のうち1日は専門学校の非常勤講師として働いていました。またその後、自身が施設長を務めた介護施設では週休3日正社員制度の導入も。そうした経験をもとに、同社では週休3日の選択肢を広げる活動をしています。

今回は永井さんの実体験をもとに、「+1日」のある生活が個人と組織に与える影響について伺います。

―永井宏明(ながい・ひろあき)
株式会社週休3日代表取締役。印刷広告代理店営業、WEBコンサルを経て、静岡県の地域密着企業で人事・総務として10年勤務。当初2年間は週休3日で勤務。+1日のお休みは育児と静岡市の専門学校非常勤講師を務める。3年目からは介護施設の施設長を兼任し、介護施設で週休3日制導入。その経験から、株式会社週休3日を創業し、2017年から事業開始。2022年から、プライベートの時間の使い方を応援・共感する企業を検索できる+1日マッチングを実装した「週休3日.com」を本格始動。週休3日正社員という働き方の選択肢を広げる活動を続ける。子ども4人、共働き、育児パパ。ライフワークは演劇(主に作・演出)

子育てに趣味の演劇……週休3日だから仕事と両立できている

「株式会社週休3日」の代表として「週休3日」という選択肢を広げる活動をされている永井さんですが、ご自身も週休3日で働いているのですか?

特に会社を設立してからは、週休3日でないと回らない状況なんですよね。

どういうことでしょう?

子どもが小学生から高校生まで4人いて妻とは共働きなので、学校や塾、習い事の送り迎えや食事づくりなんかをやっていると、週休3日にせざるを得ないんです。

なるほど。それに加えて趣味の演劇も続けていらっしゃるとか。

そうなんです。お芝居の世界って、とにかく時間をかけて稽古すべきだという考え方があるんですよね。だから続けられる人が少なくて、どこの劇団も少数精鋭でがんばっています。

それはそれとして魅力的なスタイルですが、僕は多数の“制限付き”精鋭をイメージしてやっています。練習は効率的にやり、ときにはダブルキャスト(二人一役)にして「出たい」という人に出てもらうスタイルです。それぞれが練習にかける時間が少なくても、大勢の「やりたい」という気持ちをつなぎ合わせれば全体としては十分に成立すると思っています。

仕事におけるワークシェアリングみたいですね。週休3日の考え方に通じるところがありそうです。

そうそう。仕事でもプライベートでもいろいろなインプットとアウトプットをしてきて、結果として今のお芝居のスタイルにたどり着いたし、「週休3日正社員」という働き方を提案するようにもなったのだと思います。

「週休3日正社員」のオファーに、労働時間でなく個人の存在価値を認められたと感じた

前職の地元企業で正社員として週休3日という働き方を始めたのは、十数年も前だそうですね。どのような経緯だったのでしょうか?

その会社に入る前、僕はかなりきつい職場にいたんです。第一子の子育てをしながら朝から晩まで働いていて、これを共働きで続けるのは無理だと思ったんですよね。

それで、フリーランスでやっていこうと決意したのが30歳くらいのときです。まず専門学校の非常勤講師の仕事を水曜日に2コマ入れました。それ以外の日をどう埋めていこうかと考えていたら、第二子が生まれることになって。「そんなタイミングで仕事が不安定なのはどうなんだろう」と漠然とした不安を抱えていたところ、前職の社長さんが「うちに来い」と言ってくださいました。

水曜日の仕事が決まっていたので「厳しいです」と断ろうとしたら、「月、火、木、金があるじゃないか」と。「でも、パートタイマーとして時給で働きたくはない」と話したら、「正社員で来ればいい。5日のうち4日来るんだったら、給与は5分の4でいい」とおっしゃってくださって。それなら両立できると思い、週休3日の総務として勤め始めました。

理解のある社長さんだったんですね。

はい。僕に「週5日、40時間の労働力」を期待したのではなく、個人としての存在価値を認めてくれたんだと感じました。働き方の価値観を根本から変えていただいたこともあり、感謝してもしきれません。

周りの社員の方々の反応はどんなものでしたか?

やりづらかったと思います。でも、僕に求められていたことは、皆さんと仲良くなって溶け込むことではなかったと認識しています。だから割とドライに自分の役割を遂行していました。そんな働き方が周囲にもそれなりに認めてもらえたのは、2年くらい経ってからだと思います。

「私も週休3日にしたいです」という人はいませんでしたか?

とにかく僕が異質な存在だと見られていたと思います。でも、それは悪いことではなくて、新しいやり方で刺激を与える存在は必要だと思うんですよ。社長がどこまで意図されていたかは分かりませんが、組織に刺激を与えてかき混ぜるという意味では、異質性はポジティブに捉えて良いはずです。

週休3日となって結果的に、家族との時間は十分に取れたのでしょうか。

専門学校で教える日はいつもより遅めに出て早めに帰ってこられるので、保育園の送り迎えができました。前の会社にいたときは年に1回できるかどうかという感じだったので、随分と変わりましたよ。それ以外の日も比較的早く帰れるようになって、本当に助かりました。大変感謝しています。

ある週の永井さんのスケジュール。木曜・土曜・日曜を休日とし、育児や自身の趣味の時間を確保している