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「ラフティング」で心も体も揺らす ヘルスツーリズムで神経の凍りつきを解消 ― みなかみヘルスツーリズム

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE07 EDOlogy Thinking 江戸×令和の『持続可能な働き方』」(2022/06)からの転載です。

ボディーワーカー・藤本靖との共同開発によって、群馬県みなかみ町が、その雄大な自然をウリにアクティベーションを促進するヘルスツーリズムを展開している。「休む」ではなく、「動く」の効果とは。

ーみなかみヘルスツーリズム
一般社団法人みなかみ町体験旅行が2019年にボディーワーカーの藤本靖と共同開発したサービスであり、プロジェクト。現代人の凍りついた神経系を解きほぐし、バイオリズム(=生命力)の回復をめざす。

藤本靖が提示した「アクティベーション」を促すためには、いくつかのキーアクションがある。例えば、「揺らす」「驚く」といった行為も、そのひとつだ。なかでも、藤本がそれらを起こす“好例”として挙げるのが、ラフティング。ゴムボートに複数人で乗り込み、緩急ある川を下っていくアクティビティだ。急流を一気に下ってスリルを味わったかと思えば、緩流になるとふと目の前の大自然に目を奪われる。「心も体も揺らすラフティングには、アクティベーションを促す要素が盛り込まれている」(藤本)のだという。 

そんなラフティングをメインイベントに、2016年、アクティベーションの促進を目的とした「みなかみヘルスツーリズム」はスタートした。同プロジェクトを運営するみなかみ町体験旅行の福田一樹は、「アクティビティ要素と、休める・整える要素を組み合わせることで、ツアー全体に緊張と緩和の波をつくるようプログラムしている」と話す。

「14年の法人を立ち上げ以降、役場や地域事業者と共同でヘルスツーリズムの推進を行ってきました。ただ、当初はみなかみの温泉と健康食をメインに据えた、湯治の延長線にあるようなプロジェクトだったんです。アクティブに楽しむことと、健康増進が結び付けられていませんでした」(同)

“みなかみである理由”が明確でなければ、リピーターの獲得にはつながらない。より価値のあるヘルスツーリズムをデザインしたいと立ち上がった福田は、藤本とともに「心も身体も整い健やかになり内なるバイオリズム(=生命力)が回復する」こと、そして「現代人の凍りついてしまった神経系を解き緊張とリラックスのバランスを整え、本来の身体性を取り戻す」ことを目的としたツアーづくりに着手した。

ツアーの基本要素となるのは、「休養(温泉、宿泊)」「食事(腸活食)」「運動(アクティビティ)」の3つ。1泊2日のプログラムの中で、そのすべての要素に“緩急”がつくよう工夫しているという。

「私たちのツアーは、企業や学校の研修として利用されるケースが少なくありません。そうなると、“やらされている”感覚で参加される方も少なくない。まずラフティングをしてレジャー感を強めることで、気持ちの切り替えを行なっていただくところから始めています。 

そのラフティングにおいても、急流を抜けたところで一旦ボードを止めて呼吸を整える時間を作ったり、河原でストーンバランス(石を積み上げる)をして集中する時間を差し込んだり、暑い日なら水がバシャバシャかかるように、寒い日なら水がかかりすぎないようボートを運行したりと、ガイドがその日の天候や参加者の様子を見ながら緩急のコントロールをしています。食事も冷たいものと温かいもの、硬いものと軟らかいものを交互に提供し、いろんな波を感じてもらえるように調整しました」(同)

みなかみヘルスツーリズムには、ラフティングのほかにトレッキングなどのプログラムも多数用意されている。

仕事のパフォーマンスを上げる感受性の豊かさを取り戻す

みなかみヘルスツーリズムは、アクティベーション促進のために特別なイベントを取り入れたわけではない。ただ、アクティベーションの理論を理解し、順番やガイドの方法を工夫しただけ。しかし、それによってリピーターも増えてきた。

「心身のバランスの乱れを自身で察知し、整えるためにみなかみへやってくるという人が増えてきた印象です。というのも、リピーターさんたちの動向をガイドと調査したところ、ハードリピーターさんほど、予約をしてから体験する日までの時間が短いことがわかってきました。自分の本来あるべき心身の状態を知っているからこそ、そのバランスが崩れるとすぐに体が反応して、『明日ラフティングしに行こう!』となるようです」(同) 

これまでヘルスツーリズムといえば、「疲れたから癒されに行く」「喧騒から離れて静かなところでゆっくり休みたい」など、マイナスな状態を0にするということが目的のもイメージが強かった。しかし、リピートする中で自分の0の状態を理解してもらい、利用者の心身をプラスな状態に持っていくことに挑戦していきたいと、福田はいう。

「そもそも旅行先で見た景色、食事、触れ合った人たちに対して感動できる状態というのは、神経の凍りつきがなく、感受性が豊かな状態を意味するのです。このメカニズムが理解できれば、より仕事のパフォーマンスを上げることも可能ではないでしょうか」(同) 

例えば、ワーケーションでの過ごし方も変わるだろう。朝の通勤時間を自転車で山道を走り抜ける時間に変え、自然を見ながら仕事に集中する。地域のおいしいものを食べて心を揺さぶり、温泉でリラックスする。その緩急によって感受性が豊かになれば、都会のオフィス街では思いつかないアイデアも出てくるかもしれない。

「休むのではなく、向上させる旅行を、これからも提供していきたいですね」(同)

2022年5月取材