まちの魅力がパビリオンになって電車内にやってきた! 食・体験・エンタメを貸切車両で楽しむ「EXPO TRAIN 近鉄号」をリポート
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2025年に開催を予定されている大阪・関西万博。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きまで600日を切りました。
「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人ごと」に捉える人が多いのでは?
その一方、万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出しているのが、有志団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女らが生み出すムーブメントを取材していきます。
2025年開催の大阪・関西万博に向けて、近鉄沿線の魅力を届ける移動型イベント「EXPO TRAIN 近鉄号」が、2023年7月8日に開催されました。
「万博の会場となる大阪。その魅力は、まちの中にこそあるはず」そんな思いを込めて、demo!expoのメンバーによって開催された電車イベントです。
普段は電車に乗って通り過ぎてしまうまちにも、魅力的なお店やスポット、その場所に縁ある個性あふれる人々がいます。そんな食・お買い物・ワークショップ・パフォーマンスを、電車を降りることなく車内で楽しめるように企画されたのが「EXPO TRAIN 近鉄号」。3両編成の貸切車両を会場に、沿線のまちの魅力が「パビリオン」となって、車内に乗り込んできます。
複数の体験イベントを、電車の中で同時進行で開催。会場は近鉄の観光列車「つどい」、普段はなかなか乗ることができない貸切電車です。さらに車掌体験など、電車にまつわる体験イベントにも参加できることから、チケットはなんと発売後3日間で完売という注目っぷりでした。
大人も子どもも一緒になって楽しみながら、大阪と奈良をぐるっとめぐる3時間。当日の様子とイベント発案者の思いをお届けします。
観光列車「つどい」にパビリオンが集結
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「EXPO TRAIN 近鉄号」の出発駅は近鉄 大阪上本町駅。ホームで待っていると、本日の会場である観光列車「つどい」がやってきました。
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コースは大阪上本町駅から近鉄八尾駅、橿原神宮前(かしはらじんぐうまえ)駅、大和西大寺駅までぐるっとまわって、再び大阪上本町駅まで戻ってくるという3時間の電車の旅。
それでは「EXPO TRAIN 近鉄号」出発です!
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当日のスペシャル車内放送を届けてくれるのは、FM802のラジオDJ・田中麻希(たなか・まき)さん。ご自身も近鉄沿線生まれとのことで、思い出エピソードを織り混ぜながらお話ししてくれました。
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イベントがスタートしたのは13時。お昼どきということで、最初のお楽しみはおいしいオリジナル駅弁です。各席に、奈良を拠点にする飲食店「まるかつ」のとんかつ弁当が用意されていました。
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まるかつは、値引き分をスポンサーが請け負うという「コロッケスポンサー制度」や、子ども向けの「まるかつ無料食堂」など、ユニークな取り組みを行うお店で、それらの取り組みを発信するSNSも話題になっている人気店。
味もボリュームも大満足のお弁当でした。
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ここからはお弁当タイムと同時進行で、お楽しみコンテンツがスタート。
「ふしぎな車掌さん」がみなさんのもとを訪れます。
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最初はちょっとこわごわ見ていた子どもたちですが、車掌さんが近くに来ると興味津々。一緒に写真を撮ったり、思い思いにコミュニケーションを取ったりしています。
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乗車日時がプリントされた「つどい記念乗車証」を見せると、「ふしぎな」動きでチェック。さらに、配られたパンフレットにもちょっとしたクイズがあり、答えを車掌さんに伝えると「いいもの」がもらえるのだとか。
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揺れる電車の中でパフォーマンス! みなさん大注目でした。
各車両を移動して、体験ワークショップに挑戦
電車が出発して30分ほどの間に、いろんなコンテンツが進行! 近鉄八尾駅に着いたころ、各車両でショップパビリオンやキッズ向けワークショップがオープンしました。
それでは車両を移動して見に行ってみましょう!
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早くも子どもたちが積極的にトライしていたのは、幅広い国際協力活動を行う「JICA関西」のスタンプラリー。車内にはエジプトやインドなど、各国をイメージした衣装に身を包んだスタッフがいて、その国の言葉で「こんにちは」と挨拶するとスタンプがゲットできるそう。スタンプを集めるとプレゼントがもらえるので、「Chào(チャオ/ベトナム語)!」「Sälemetsiz be(サレメツズ ベ/カザフ語)!」など、さまざまな国の言葉が飛び交っていました。
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また、JICA関西ではアフリカ布のはぎれを使った「くるみボタン」作りのワークショップも。参加者が好きな布を選び、自分だけのボタン作りに取り組みました。
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簡単だけどちょっと力も必要で、完成したら「できたできた!」と喜びの声が上がっていました。
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お次は、可愛らしい雑貨ショップ? ……かと思ったら、なんと科学ワークショップ。
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奈良市大宮町にある小〜中学生向けの教室「放課後研究室ナンデヤ?」から、教室の児童や生徒たちが開発した商品の販売と、科学技術を生かしたハーバリウム作りのワークショップです。
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また、ヒノキのウッドブロックが入った羊毛フェルトや、石ころを6時間磨いてぴかぴかにして作った箸置きの販売も。思わず手に取りたくなる品ばかり。
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お次は、子ども向けのロボットプログラミング教室「プログラボ上本町」。
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タブレット上の操作だけで、モノレール型ロボットを動かすプログラミングを体験できます。
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早く動かしたり遅く動かしたり、ループしたり、ゲーム感覚でプログラミングに触れられるので子どもたちにも大人気でした。
さらに移動した先の1号車では、ユニークな楽器を開発する「世界ゆるミュージック協会」から、ゆる楽器「電車ベース」の体験が。
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電車ベースは名前の通り、電車のかたちをした楽器。今回のイベントでは触って遊ぶことができました。
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ベースの「ネック」にあたる部分がレールになっていて、電車のおもちゃをレールの上でスライドさせると音階が変化します。音は画面に触れるだけで鳴るので簡単! この楽器は、発達障がいの傾向がある1人の男の子のために開発されたそうで「外に意識が向きづらい子が、どうやったら周囲への興味が出るか、合奏に参加して楽しめるか」を考えて作られたのだとか。思わず触ってみたくなる作りで、みんな夢中になって音を鳴らしていました。
ショップパビリオンで沿線のおいしいものをお買い物
みんなが各車両を行き来して賑わいだしたところで、ショップパビリオンを訪れてみました。
まずは、大阪でクラフトビールを製造する「ブリューパブスタンダード」。今日のために、EXPO TRAINオリジナルビールを作ってきてくれました!
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もちろんラベルも完全オリジナル。デザインが好評で、その場で飲む以外に、お土産に購入する人も多かったようです。
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おいしそうにビールを喉に流し込む、スタンプラリーのエジプト担当スタッフ。お味の感想は「ホップがきいて、深みがあります。気持ちいい味わい!」とのことでした。
お隣は、奈良県橿原市今井町で唯一現存する酒蔵「河合酒造」。
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カウンターには代表銘柄「出世男」などの日本酒や、可愛らしいおちょこがならんでいます。
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カウンターに立つ河合酒造株式会社 営業部の井口彰(いぐち・あきら)さんは「催事の経験はありますが、電車内での販売は初めてです。私も隣のビール買いましたよ」とにこやかに話してくれました。カウンター内では、いい感じの一体感が生まれているようです。
そして、1号車にいるパフォーマー……かと思ったら、なんと端壮薬品工業株式会社の社長 中村康之也(なかむら・やすのり)さん。
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橿原市で、発売開始から100年以上の歴史がある伝統の風邪薬「おにみみ」を製造している端壮薬品工業株式会社は、コーラがアメリカ人の薬剤師によって作られたという歴史をもとに、クラフトコーラ「おにみみコーラ」を販売中。
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そのPRのために今日は社長自ら、バルーンアートと似顔絵のパフォーマンスをしていました。
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お話を聞いてみると「社長になって20年くらいですが、こんなことは初めて。(今日の似顔絵描きは)プロではないですが、楽しんでもらいたい」とコメントをいただきました。
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大人気! 車掌さんの業務を体験できるブース
いろいろなパビリオンがあるなか、時間いっぱいまでお客さんで賑わっていたのが「こども運転台」と「車内アナウンス体験」。
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3号車の「こども運転台」では、近鉄の制服と帽子を身につけて車掌体験ができます。体験した子たちは、実際の電車に乗って行う操作に大満足の様子。
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そして真ん中の2号車では「車内アナウンス体験」が。
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みなさん、めちゃくちゃ上手! アナウンスする内容は用意されていますが、だんだんと上級編にトライしたりオリジナルを試してみたり……え、本当に初めてですか?
電車は休憩のため、橿原神宮前駅に停車。
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電車を降りると、橿原市のマスコットキャラクター「こだいちゃん」がお出迎え!
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ばっちりポーズを決めて、橿原市をアピールしてくれました。
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参加型のパフォーマンスでフィナーレへ
休憩が終わると、電車の旅も折り返し。後半は紙芝居や音楽など、ライブパフォーマンスを楽しみたいと思います。
1号車では、全国のイベントなどでオリジナルの紙芝居を披露し、紙芝居を通じて国際交流や社会貢献を行う「紙芝居屋のガンチャン」がオリジナル紙芝居を上演中。
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電車を題材にしたオリジナル紙芝居で、ストーリーに登場するクイズに子どもたちは次々と手を上げて元気よく答えていきます。紙芝居がめくられるたびに、「わーっ!」「あー!」と声を上げて展開に大盛り上がり。
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EXPO TRAIN 近鉄号も、いよいよ終点に近づきます。
ミュージックセッションでは、近鉄のヘビーユーザーでもある、全盲高校生ドラマー 酒井響希(さかい・ひびき)さんが登場。
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1回目のステージでは、電車をイメージして作ってきたという音源に乗せてドラム演奏。近鉄電車のアナウンスがサンプリングされた、オリジナリティと近鉄愛あふれる楽曲を披露してくれました。
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そのあとは、アーティストとして活躍しているベースのグルーヴ先生とヴォーカルのAquvi(あくび)さんを加えてのセッション演奏へ。
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オリジナル曲を交えて演奏したのち、ラストは「オー・シャンゼリゼ」で締めくくります。
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お客さんたちもカスタネットやタンバリン、コーラスで思い思いに参加。景色が流れていく車窓をバックに楽しげな音楽が車内に響きます。
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電車の中でライブを楽しむ……それだけでもスペシャルなことですが、さらにお客さんたちも音や声を出して参加するという、まさにこの日しかできない体験。みんなの笑顔が印象的でした。
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ラストはドラムソロでフィナーレ!
「楽しい電車の旅をありがとう!」と締めくくられ、EXPO TRAIN 近鉄号は再び大阪上本町駅に到着したのです。
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お客さんたちの楽しそうな笑顔を見送るのは、demo!expoのメンバーであり今日の企画を担当した、しまだあやさん。
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「車内販売、ワークショップ、ライブ……限られた時間と空間に詰め込んで、イベンターみたいな方々からするとハチャメチャな企画だったはず(笑)。それでもみなさん、『ええやん、やってみましょ!』と私たちの手を取ってくれました。難しいかもしれない、どうなるかわからない、『でも、やる』というdemo!expoらしさがあったと思います」
まちの魅力が電車の中で混ざり合い、特別な時間と新しい縁を生み出すイベントになったEXPO TRAIN 近鉄号。まさに万博のパビリオンを自由に見てまわるような、そんな気軽さと楽しさがある1日でした。
EXPO TRAIN 近鉄号でのつながりから、万博に向けてのムーブメントを起こしていきたい
「EXPO TRAIN 近鉄号」の発案者は、株式会社アド近鉄の長尾あみり(ながお・あみり)さん。近鉄グループの一員として、万博を沿線から盛り上げたいという思いがあったそうです。
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2022年末からdemo!expoに関わりはじめた長尾さんは、今年1月に「近鉄沿線で万博を盛り上げるイベントを開催したい」と働きかけ、近鉄側から主催・企画を任せてもらったそう。「自分たちができること、やるべきことを勝手に考え、万博をきっかけに1人でも多くの人の目的や願望、野望が実現するように活動する」というdemo!expoの理念から、メンバーの協力もあり、今回の開催に至りました。
「開催前日までは、とにかく『大変』の一言です」と長尾さん。鉄道会社が行うイベントとしては安全運行が大前提なので、さまざまな出演者や出店者の要望と企画を叶えるために、ギリギリまで各所とのやりとりや調整をしていたそうです。
「EXPO TRAIN 近鉄号でさまざまな事業者同士の交わりが作れたのは、良い機会だったと思います。今日はこれまで関わりがなかった事業者、アーティスト、お客さんたちが、3車両の中に集いました。それぞれの垣根をこえることで、ここから共創が生まれるはず。今回のつながりを大切にして、万博に向けて身近なところから盛り上げるムーブメントを起こしていけたらと思います」と話してくれました。
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出展側も参加側も一緒になって盛り上がった1日。この日はとにかく目をキラキラ輝かせている子どもたちが印象的で、それを大人も一緒になって楽しんでいる素敵な光景が広がっていました。ここから未来につながる新たな動きが生まれる予感も。近鉄沿線で万博を身近に感じることができる楽しいイベントでした!
2023年7月取材
取材・執筆:狸山みほたん
撮影:西島本元
編集:かとうちあき(人間編集部)