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世界的建築家・藤本壮介さんに聞く! 大阪・関西万博会場デザインプロデューサーの目から見た大阪とは? 藤本流プロジェクトチームづくりを探る

開催を予定されている2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)。各国の英知やアイデアが集結する世界的イベントの幕開きが目前に迫っています。

「万博って、結局何をするの?」「自分には関係なさそう」「興味はあるけど、どうやって関わればいいのかわからない……」と、どこか「他人ごと」に捉える人が多いのでは?

その万博に向けて「勝手に」盛り上がり、続々とたくさんの人を巻き込み、共創の渦を生み出している団体「demo!expo」。本連載では、彼・彼女らが生み出すムーブメントを取材していきます。

開催が近づいてきた大阪・関西万博。各国からたくさんの人やモノが集結するこのビッグイベントで、会場デザインプロデューサーを務めるのが、今世界が注目する建築家・藤本壮介(ふじもと・そうすけ)さんです。万博会場を公式にデザインする藤本さんに、非公式に万博を盛り上げる一般社団法人「demoexpo(デモエキスポ」の理事であり、WORK MILLコミュニティマネジャー(株式会社オカムラ)の岡本栄理(おかもと・えり)さんが、突撃インタビューしました。

東京・江東区越中島の倉庫を改修した事務所にて、藤本さんは終始笑顔で、万博にかける思いや、藤本流チームづくり、アイデアのまとめかた、創造性の発揮のしかたなどを話してくれました。

藤本壮介(ふじもと・そうすけ)
1971年、北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年に藤本壮介建築設計事務所を設立。2014年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞に続き、2015、2017、2018年にもヨーロッパ各国の国際設計競技にて最優秀賞など、国内外での受賞多数。主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013(2013)、武蔵野美術大学 美術館・図書館(2010)、白井屋ホテル(2020)、ハンガリーのHouse of Music(2021)。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場デザインプロデューサーを務める。

大阪は道端でもコミュニケーションが生まれる町

先日はわたしたちが大阪府内で開催した「まちごと万博 2023」の大作戦会議にご参加くださり、ありがとうございました。藤本さんにとって、大阪はどのような町ですか?

岡本

藤本

最初に訪れたとき、僕が生まれた北海道の都市部と同じく、がっちりとした「碁盤の目」の町という印象を持ちました。(日本人の)歴史の浅い北海道では、新しく整備された町に人間が従わされている感じが強いので、実は「碁盤の目」状の町には(人間を支配するような、強い町という)偏見を持っていました。

ところが、大阪人はパワフル! まっすぐな道や町から人間の活力があふれ出ていて、町と人間がいい意味で拮抗して、力強い「場」をつくっていますね。

「水都大阪」※プロジェクトも進んでいて、ほかにはない魅力的な町が生まれていると思います。

※水都大阪:2001年に内閣官房都市再生本部が水都大阪の取り組みを都市再生プロジェクトに指定したことを契機に、水辺の生活を活気ある賑やかな場へと再生するため、大阪府ではさまざまな試みが展開している

藤本さんは大阪や大阪人を、日本的ではなくヨーロッパ的だとも話してくれました。たとえば藤本さんの事務所があるパリと大阪の共通点は、「道端でもコミュニケーションが活性化する」ことだといいます。

近著『地球の景色』(A.D.A. EDITA Tokyo)のなかで、藤本さんはパリのことをこう書いています。「歩き疲れれば目の前にカフェが現れる。その椅子とテーブルはぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、周囲の余裕のある町並みとの対比がなんだか可笑しい。しかしパリの人たちはそのぎゅうぎゅうの場所に座って楽しく会話している」――藤本さんはこう語ります。パリのように大阪でも、町のあちこちで会話が生まれている。だから、ヨーロッパ的な活力を持つ大阪人は、大阪という町をより面白くしている、と。

世界各地で綴られた藤本壮介さんの感性と思考をたどる一冊。2023年4月刊行

そんな元気な大阪人が、約半世紀ぶりに地元にやってくる万博を楽しまないはずはありません。「万博を勝手に盛り上げよう!」と、民間人がおこなっている数々の草の根活動について、岡本さんが高揚感いっぱいに藤本さんに紹介しました。

すると、藤本さんは「万博はオフィシャルにつくっている人だけではなく、地元の人のパワーもすごいですね。万博をみんなが面白がってくれれば、最高の祭典になるでしょう」と呼応してくれました。

藤本さんに伝えたい demo!expoの活動の数々

今回の取材中に岡本さんが藤本さんに紹介した、万博に向けて民間が盛り上げている催し物の一部をご紹介します。

2) 廃材でモニュメントづくり

※1) EXPO酒場
万博をテーマにした交流イベント。日本全国に「支店」を出し、企業やクリエーターをつなげ、万博成功へ向けたムーブメントを街中から起こしている

※2) 廃材でモニュメントづくり
ものづくりの町・八尾市で開催されたEXPO酒場に集まった仲間たちが、ものづくりで出た端材や廃材でモニュメントをつくって、万博会場に持ち込むプロジェクトをスタート。他府県にも賛同者が増えている

※3) ばんぱくぱく
子どもたちを対象に、万博への興味をかきたてるためのイベント。子どもたちにパビリオンの意味を教えず、単語の響きだけで、お菓子でなにかカタチをつくってもらう。完成後に意味を教えてみんなでパクパク食べると、パビリオンへの期待が爆上がり!

「多様でありながら、ひとつ」 人が集まり交差する万博に

われわれの活動により、近畿2府4県だけでなく、今や「万博をきっかけに動こう!」という勢いが全国に広がりつつあります。

岡本

藤本

いいですね。一つひとつの運動が盛り上がれば、全体につながっていきます。万博はそれこそ世界が集まるお祭りです。面白がれば面白がるほど、もっと面白くなります。

藤本さんがプロデュースする2025年大阪・関西万博会場のシンボルになる木造大屋根(リング)の部分模型

大阪・関西万博会場全景イメージ。大屋根(リング)は、完成時には建築面積(水平投影面積)約60,000㎡、高さ12m(外側は20m)、内径約615mの世界最大級の木造建築物になる予定だ

そう語る藤本さんは、新型コロナウイルスの流行を経て開催される大阪・関西万博の意義は、今までとは違うとも話します。

万博が始まった19世紀には、先進諸国が競って最先端の技術を展示していました。それが、20世紀に入ると参加国も増えて「これからの未来とは?」というテーマに焦点が移ります。そして21世紀に入ってからは、情報が瞬時に全世界を駆け巡るので、万博で「新しいもの」を見せることは難しくなっています。

情報化の時代だからこそ、「物理的に各国が一箇所に、約半年間ものあいだ集まって交流することが尊いことです」と、藤本さんは語ります。

藤本

今一番求められているのは、国や地域が集まって、人と人とが直接コミュニケーションを取ることです。それができる唯一の場が万博です。

万博の巨大リングをはじめとして、藤本さんの手がける作品は、固い無機質な建築とは違って、「建築を有機物として扱っているような気がする」と、常々感じていたという岡本さん。それは、藤本さんが自然を大切にされているからなのかを質問してみました。

藤本さんは、まさに「自然」のように複雑で多様なものを建築で表現できないかという考えを念頭に置いて、建築と向き合っていると話してくれました。それは、単に建物に木材を使うとか、植物を飾るといった表面的なエコ建築のことではありません。それよりも藤本さんは、多種多様な人びとが、自然と共存しながら、多様に活動できるような、自然のサイクルに配慮した建築をめざしていると語ります。

たとえば万博のシンボルとなる大きなリングは、万博会場内すべてのパビリオンにアクセスできる主動線となる構造物です。藤本さんは「多様でありながら、ひとつ」という、万博の理念を表現したといいます。

藤本

時間をかけて、少しずつ、複雑な条件をクリアするさまざまなアイデアを結晶化させ、最後は勇気を持って単純な丸(リング)にたどり着きました。有機的な全体像が(頭の中に)ふわっと立ち上がった瞬間を捉えてカタチにする作業は難しいですが、だからこそ面白いのです。

大屋根のリングについて、藤本さんは「リングによってひとつの空を切り取り、この空を世界中が共有していることを表現したかった」と、まちごと万博2023 大作戦会議で語り、それを聞いた岡本さんは、「空が象徴物になるんだ!」と感動して、鳥肌が立ったと言います。

藤本

自分だけで考えたのではなく、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーの宮田裕章(みやた・ひろあき)さんや河瀨直美(かわせ・なおみ)さんと大阪・夢洲に入って、いろいろな話をしているなかで浮かんだアイデアです。

ひとつの作品をつくるときに、一見関係ないことでも、クライアントや信頼できる友人、チームのみんなの発言が、だんだん統合されて、最終案がまとまっていくという感覚があります。

リングの土台となる構造部分の試作品。万博閉幕後、再利用(リユース・リサイクル)するために、解体や移設をしやすい木造の貫(ぬき)工法を採用している。京都の清水の舞台を彷彿とさせる伝統と未来とのつながりが感じられるデザインだ

意見を交わし連鎖反応が起こる 藤本流チームづくり

次に岡本さんは、藤本さんが万博だけでなく、普段の建築のお仕事においても、どのようなチームづくりをしているのか聞いてみました。

藤本

わたしたちのところに依頼される案件は、既成概念やAIでは通用しない、まったく未知なるものへの提案を要求されることが多いです。とても複雑なので、僕一人がすべてを把握してすべてをつくるのは無理です。

先程のdemo!expoの話にもつながりますが、一人ひとりのスタッフがプロジェクトを自分ごととして勝手に楽しんで、自由な発想でアイデアを出してほしいと思っています。そしてそれを見て、自分も含めてほかの人がなにか違うことを考え始める……そういう連鎖反応が起こることが理想です。とはいえ、最終的な決断はいつも僕がくだすので、完全にフラットな組織はつくれない。そこに常に葛藤があります。

藤本さんの言う葛藤とは、プロジェクトを受注した際、各スタッフに「これは自分のプロジェクトだ!」という心意気で取り組んでほしいものの、実際に決断をくだすのは藤本さんなので、「どうせ彼が決めるからそれを待とう」という姿勢が見えてしまうことだといいます。

「指示待ちはしないでほしい」とスタッフに伝えつつ、藤本さん自身も彼らが自由に仕事ができる雰囲気をつくることに腐心していると語ります。

藤本さんは若手の意見にもよく耳を傾ける。みんなが持ち寄ったアイデアをフラットに見渡しながら、一つひとつにコメントしつつ、全体の向こうに見えてくるであろう風景を模索する。この藤本流「聴く力」が、類まれな創造性を生み出す

藤本

チーム内に、僕が思いもよらないことを考える人たちがいて、その人たちが自由に意見を戦わせながらアイデアを考えてくれる状況が理想だと思っています。

言葉に表せない判断基準を見て学ぶ

ちなみに藤本さんが決断をするときの判断基準は何ですか? 判断基準となる軸はどのように育めばよいのでしょうか?

岡本

藤本

判断をくだすときには、今までの経験や建築的美意識、美しいだけでなく周囲と調和が取れているか、今の社会のなかで腑に落ちるものになっているか……などを考慮しています。しかし、最終的には言葉にできない領域のものなので、(スタッフには)僕のやることを見ながら学んでほしいと思っています。

藤本さんは、判断の軸は言語化しにくい、感覚的なものでもあるので、禅寺での修行の世界に近いかもしれないと語ります。

優秀なスタッフは受けた評価を見直す

実際に藤本さんの事務所のなかには、判断基準についてあれこれと藤本さんに指南されなくても、自分なりに理解して、メキメキと頭角を現した女性スタッフがいるそうです。言うは易く行うは難しですが、その人が取った行動パターンを教えてもらいました。

  1. プロジェクトを自分のものとして、自分で独創的なプランを描いた
  2. 自分のアイデアが通らなかった場合でも諦めなかった
  3. 決定案と自分の案との違いを洗い出し、判断基準を自分なりに解明して、その都度アップデートしていった

つまり、自分のアイデアが通らなかったときに、いきなり「ブラックボックスから決断が出てきた!」と感じて凹んでしまうのではなく、「そのボックスの中身を探求してやろう!」というくらいの気概を持って、その判断にいたるまでの過程を、自分なりにシミュレーションし直してみるとよい、と藤本さんはアドバイスしてくれました。

考えることを止めずに自分なりの判断基準を持つ

建築の世界だけでなく、いろんな業界で「創造性」を求められることが多くなっています。創造性を発揮するために重要なことは何でしょうか?

岡本

藤本

あらゆることが創造力の源になります。ずっと集中していると疲れるので、町をぶらぶらと歩いて風景を眺めたり、本を読んだり、常に(頭のなかの)回路を開いておくことが大切です。リラックスモードの時にたまたま閃(ひらめ)くことが、結構あります。

そう語る藤本さんは、ご自身の創造性を高めることだけでなく、いかに周りの多くのスタッフにも創造力を持ってもらえるかがポイントだとも語ります。そのためには「自由に発言しても立場が危うくならない環境づくり」が大切だと話します。

また若手の社員に対しては、「自分だったらこう判断する、こう考える、でも上司は今回は違う判断をした。じゃあ(考えるのを)止めた!」ではなく、「なんでだろう?」と常に自分なりの意見をつくったり、自分なりの判断を持ち続けた人が将来、判断する立場になった時に強い、とも話してくれました。

藤本

常に自分ごととして取り組んだ経験が、少しずつ蓄積されて将来、役に立つのです。

今の風潮として、「経験者を重視する」という考え方と、「経験者は頭が固いので若者をつぶしてしまう」という考えが二極分化しているように思えます。

岡本

藤本

そのような両極端な発想では捉えられないくらい、世界は多様化していると思います。確かに同じことを繰り返して成功体験を築いた人は頭も固くなるかもしれない。そんな時は、若い世代の柔軟な発想に耳を傾けてみると面白い。

今の時代、同じことをしているだけでは逆にうまくいきません。その都度、柔軟に判断したり、アイデアを出す経験を積み重ねることが重要です。これは熟練工を否定しているものではありません。熟練することで無意識でもできるようになり、異なる状況が発生したときに、的確に反応できることもあります。硬さと軟らかさ、両方が互いを引き立てる。世の中は両極端ではなく、そのあいだにいろいろあるからこそ面白いのです。

今回のインタビューで藤本さんは、万博会場のデザインから、チームづくりの極意、創造性の発揮のしかたにいたるまで、ざっくばらんに話をしてくれました。

大阪の人が勝手連的に活動し、全国に広まりつつある大阪・関西万博への機運の高まりを大歓迎してくださいました。「万博はオフィシャルに担当している人だけでなく、地元の人のパワーがすごいと思います。負けじと建築家サイドからは、強烈にインパクトのあるリングやパビリオンをつくるので、期待してほしい!」と、藤本さんの力強い語りが心に残っています。

町に呼応するように建築を生み出される藤本さんのお話に触れ、ますます「万博という機会を大切にしたい!」という想いが高まり、demo!expoの活動を通じてたくさんの方々に情報と機会を届けたい! と、気持ちを新たにしました。

岡本

2023年7月取材

取材:岡本栄理(株式会社オカムラ)
執筆:安西美樹
撮影:伊ケ崎忍
編集:かとうちあき(人間編集部)