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ワーケーションとコワーキングの理想的な連携とは?「北九州コワーキングウィーク」トークセッションレポート

異なる企業、職種のビジネスパーソンが同じ場所で仕事をすることで、アイデアや経験などを共有する「コワーキング」。

その新しい可能性を探るヒントになるイベントが2023年11月20日(月)から27日(月)にかけて開催されました。それが、北九州市内のコワーキング施設が連携したイベント「北九州コワーキングウィーク」です。今回は、その一部をレポートします。

利用者に新たな価値を提供するために、北九州市内8カ所の施設が連携

「北九州コワーキングウィーク」を立案したのは、小倉北区京町で会員制シェアオフィス「Future Studio」を運営する岡浩平さんです。

岡浩平。Future Studio株式会社代表取締役。映像制作やコワーキングスペースの運営に従事。『北九州コワーキングウィーク』発起人。

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岡浩平

コロナ禍前と比較すると、コワーキングスペースでのビジネス交流が減ってきていると感じています。

そんな状況の中で、コワーキングスペース運営者が連携することにより、利用者さんに新たな価値を提供できるのではないかと考え、この『北九州コワーキングウィーク』を開催しました。

「北九州コワーキングウィーク」に参加したのは、コワーキングスペース秘密基地、COMPASS小倉、ホットミルク、ATOMica北九州、DISCOVERY coworking、Tanga Table、TOMOSUBA 福岡小倉店(以上小倉北区)とダイヤモンドシェア(八幡東区)の8施設。

期間内にそれぞれの施設の特徴を生かしたワークショップやトークセッションを開催しました。

ワーケーション経験者の4分の3は無意識で経験者になった

トークセッションが行われたJR西日本 小倉駅構内にあるコワーキングスペース「DISCOVERY coworking」

11月25日(土)、に開催されたのがトークセッション「観光×ワーケーション×コワーキング」です。スピーカーは、一般社団法人 日本ワーケーション協会の入江真太郎代表理事と、会場である「DISCOVERY coworking」代表の岡秀樹さん。

現在、インバウンド需要で大いに盛り上がっている北九州エリア。その中で、「ワーケーションのトレンド」「新しい観光」などをテーマに、参加者も交えてのトークセッションが行われました。

入江真太郎。一般社団法人日本ワーケーション協会 代表理事。ワーケーションを通じた地域振興や豊かなライフスタイルを自らも実践している。

日本ワーケーション協会は、2020年7月に入江さんが設立した「リモートワークやワーケーションを豊かなワーク&ライフスタイル実現の一環へ」「新たなワーク&ライフスタイルを通した地域共創と輪作り」をミッションとする団体です。

イベントの冒頭、入江さんが参加者に2つ質問を投げかけました。

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入江

1回以上ワーケーションをやったことがあると思っている人はどのくらいいますか?

今、自分がお住まいの地域と違う場所でパソコンを使って仕事をしたことがある人はどのくらいいますか?

会場では、1つ目の質問では2人、2つ目の質問では8人が挙手しました。

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入江

日本においては、ワーケーションは「働き方」「ライフスタイル」のあり方としてクローズアップされることが増えてきました。

でも最近分かったことなんですが、ワーケーションのようなライフスタイル経験者のうち、4分の3の人が「無意識のうちにワーケーションを経験している」んです。

2つ目の質問で挙手した人数が増えたように、実はいつの間にかやっているワーケーションがあり、それが見えづらいのが現状です。

岡秀樹。株式会社HOA代表取締役。DISCOVERY coworking代表。北九州市でさまざまなまちづくりに従事し、2022年からは小倉城エリアの指定管理事業を受託。観光振興に注力している。

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岡秀樹

私は、今のワーケーションでポイントになるのが、観光だと考えています。滞在先地域をよく知ることができるだけでも、ワーケーションの価値が変わっていく。

例えば、先ほど入江さんは「北九州は魚がおいしいんですよね」という話をしてくれたんです。でも、地元の人はそのおいしさが普通だと思っているので、そもそも口に出しません。

住民にとっては当たり前の情報が、外から来た人にとってはすごく価値がある。こういう情報の差を感じられることも、ワーケーションの面白さの一つですよね。

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入江

静岡県内のとある自治体で行われた調査によると、「観光客よりも、ワーケーション目的の滞在者の方のほうが地域での消費額が多い傾向にある」とわかりました。

その理由は、観光客は1泊で帰る方が多い一方、ワーケーションは4~5泊が平均だから。宿泊費の平均額を超えますし、飲食に使うお金も増える。コワーキングや飲食系の事業にもチャンスがあると感じました。

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岡秀樹

今は、デジタルノマド(長期で旅をしながらIT関連の仕事で収入を得ている人)が増えていますが、彼らも同じように滞在日数が長いんですよね。

海外では、滞在国以外から収入を得ることが条件の「ノマドビザ」が発行されている国があります。その人たちは食事などにより滞在国でお金を落とす、という構造です。

もし日本でもノマドビザが日本で発行されたら、長めに滞在する人向けのサービスが増えていくんじゃないでしょうか。

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入江

民泊サービスAirbnbは、コロナ禍前に比べると1カ月以上宿泊する方が増えたと公表しています。

これが世界的な流れで、日本における宿泊の平均日数も増えているそうなので、今後は旅が長期化していくのだろうと感じています。

夜の開催ということで、ビールを片手にリラックスしながら話を聞いていた参加者も。

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岡秀樹

旅の長期化に向けたサービスの整備や、それを見越した経済の設計が日本ではまだできていません。

日本でのノマドビザの開放は少し先になるかもしれませんが、それまでに準備を整えておくことが今後の課題だと思います。

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入江

ワーケーションとコワーキング、観光は掛け合わせられるものだと思っています。

デジタルノマド用に1カ月、5日間のプランなど、ちょっと長めのプランを作るコワーキングスペースも出てきました。

ワーケーションとコワーキングの連携の理想は「コリビング」

後半では、参加者からの質問に答えていきます。参加者からは、自身の職業とワーケーションを絡めた質問が多く出ました。

Q.ワーケーションのスタイルはどのように変化してきているのでしょうか?

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入江

新型コロナウイルス感染症が「5類」になって以降、ワーケーションが会社の指示で行うものから、主体的なものへ変わってきたという印象を受けています。

以前はワーケーションやテレワークを「コロナ対策」と捉えていた自治体や企業もありました。しかし現在は、その形ででは参加者が集まらなくなったと聞きます。

ワーケーションも旅と一緒で100人いたら100通りのやり方がある。これからは、多様なあり方を受け入れられることが評価されていくのかなと感じています。

Q.ワーケーションをする方は、会社員、経営者、フリーランスの中でどの層が多いですか?

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入江

ワーケーション人口の比率に対して割合が高いのは経営者やフリーランスですが、コロナ禍を経て一番増えたのは会社員です。このあたりは、会社がワーケーションをどう認めるかによって変わってくるのではないでしょうか。

ちなみに、多拠点居住サービスADDressの場合、会社員が利用者全体の約40%を占めており、経営者とフリーランスを合わせた40%とほぼ同じ割合になっているそうです。

Q.企業のワーケーションの事例で良いものがあれば教えてください。

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入江

ワーケーション先の地域の会社と何かしらの関係を作ってきたら経費を増額する、という成果主義の仕組みを取り入れている企業があります。

Q.スタートアップ企業が好むワーケーションのシチュエーションがあれば教えてください。

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入江

スタートアップの方は、新しいビジネスアイデアを作りたいという方が多いんじゃないでしょうか。

都市部では繋がりを強めたり、新しい街を開拓したりしながら、景勝地では籠ってオフサイトミーティングをする……という両方を求めているんじゃないかと思います。

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岡秀樹

行く側からすると、都会的なところも景勝地も両方ほしいですよ。中長期経営計画は、ゆっくり温泉につかりながら考えたい(笑)。

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入江

ワーケーション先で仕事を作り、近場でゆるっと休めるところがあるといいですね。

僕らだったら都市部で講演をして、1時間くらい離れたところで気分を変えて仕事ができる場所があれば最高です。

Q.ワーケーションが一般的になるとどんな世界が待っているんでしょうか?

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入江

世界の考え方が多様化している中で、ワーケーションはその一つとして、取り組む人が増えている程度だと捉えています。

ワーケーションをやりたい人が今後増えていくことは十分考えられます。ただ、どんな世界が待っているか、という質問に答えるのは難しいですね。

参加者からのさまざまな質問に対して入江さんは、自らの体験を交えながら答えてくれました。

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入江

ただ、ワーケーション人口が半数を超えることはないと思っています。じゃらんリサーチセンターが行った調査によると、ワーケーションに興味がありますか?」という質問に対して、だいたい3〜4割が「ない」という回答をするんです。その層を「はい」に変えようとも思っていません。

現在、いわゆる「ワーケーション」を経験済みの人が4%で、ワーケーションをやってみたいと考えている人が26%だと言われています。僕たちはどちらかというと、この26%の人たちにワーケーションを経験してもらえる社会にしたいと考えています。

Q.子連れで観光×ワーケーションしている方はいますか?

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入江

最近、子連れワーケーションの記事が増えている印象があります。

今、僕には5歳と3歳の子どもがいて、ときどき子連れでワーケーションをしていて。子育てしている3家族ぐらいで一緒に出かけ、順番で子どもの面倒を見る、という方法でやっています。

子どもを連れて、47都道府県全部をワーケーションで巡ったという方もいますね。

Q.ワーケーションであったらいいなと思うサービスはありますか?

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入江

今は、コワーキングスペースと長期滞在しやすい宿泊施設を別々に探しているので、それらが一緒に探せるといいなって思います。

今、いちばんワーケーションで人が集まっているのは、2階がゲストハウスで1階がコワーキングスペースといった、泊まる場所と仕事をする場所がセットになっているところで。加えて、地域のコミュニティがそこにあれば申し分ないですね。

例えば、神奈川県逗子エリア。ここは主に夏しか人が来ない街で、年間の宿泊者(人泊数)が1万8000人程度なんです。でも、泊まる場所と仕事をする場所が一緒になっている施設を作ったら、80泊する人が出てきたそう。

これが一番の理想の形で、いわゆる「コリビング」と呼ばれるものですね。

街に飛び出し北九州の観光スポット小倉城周辺を見学

プロジェクションマッピングが施された小倉城天守閣などを見学しました

イベント終了後、入江さんや岡さん、参加者の一部は、ライトアップやプロジェクションマッピングが施された小倉城エリアを見学しました。

座学として話を聞くだけではなく、北九州で実際に行われている「観光」を自分自身が体験することで、この日学んだ「新しい観光」や「地域を知る」ことへの理解がより深まる時間になりました。

2023年11月取材

取材・撮影・執筆:成重 敏夫
編集:鬼頭佳代(ノオト)