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運営コミュニティは10個以上! 達人に聞く、面白いコミュニティを楽しく続ける「好き」の力(広告プロデューサー・朝倉道宏さん)

ビジネスでもプライベートでもコミュニティの大切さが語られるようになりました。なかには、仕事としてコミュニティ運営をしている人もいるはず。しかし、よい関係を継続する難しさや、イベント開催につかれてしまった人もいるのではないでしょうか。

そこで、今回はコミュニティ運営の達人にインタビュー。それが、昼は広告プロデューサーとして働く傍ら、数々のコミュニティを企画・運営している朝倉道宏さんです。その行動力の源泉や、人の縁をつむぐコミュニケーション術について、伺いました。

朝倉道宏(あさくら・みちひろ)
1972年生まれ。株式会社オーエスエル取締役執行役員副社長。イベント会社でイベントプランナーを経て、 広告デザイン会社ライトパブリシティに入社。プロデューサーとして外食、食品、化粧品、化学会社などの多くのクライアントを担当。また、プロデューサー業務に加え、2005年メディアプロデューサー、2015年クリエイティブディレクターを兼任。 現在、複雑化するクライアントの課題に対して、幅広いコミュニケーションプランを実現している。個人活動として、クリエイターが集まるビジネスマッチングイベントやアナログゲームなど、多彩なコミュニティの立ち上げや運営に携わっている。

ビジネスと遊びの境界を越える。朝倉さんのクリエイティブな日常

朝倉さんは、様々なコミュニティ活動を企画・運営されています。

まずは現在のお仕事と運営しているコミュニティについて教えて下さい。

朝倉

本業では広告プロデューサーとして、企業の課題を解決する仕事をしています。広告に限らず、企業のECサイト運営の支援もしますし、色々な発想や手法でクライアントのお手伝いをしている感じですね。

肩書きこそ役員ですが、完全にプレイヤーです。あとは、自社の新規ビジネス開発にも携わっています。

初歩的な質問で恐縮ですが、広告プロデューサーとは、具体的にどんな仕事をするのでしょうか?

朝倉

大きく2つあって、一つはクライアントの窓口として企画を提案する営業的な仕事で、もう一つはクリエイティブのチームを作って全体管理をする仕事です。

僕は結構特殊で、これまでに新規営業からクリエイティブまで経験してきたので、広告まわりの仕事は横ぐしを刺して担当できるんです。だから、案件ごとに役割が変わります。

企画から制作まで幅広い業務に携わることができるのは楽しそうですね。

朝倉

はい、すごく楽しいですね。たとえば、午前は食品メーカー、午後は化粧品メーカーのようにまったく異なる業界の仕事をする日々を送っています。好奇心が刺激されるので、飽きることがありません。

多忙な毎日を送られているかと思いますが、夜は「遊びのコミュニティプロデューサー」という肩書きで活動されていますよね。

朝倉

遊びと言っていいのか分かりませんが、個人の活動として、色々なコミュニティの企画や運営をしています。

正直、仕事もコミュニケーションがメインなので、コミュニティ活動と重なることも多く、分けて考えていないですね。

何をきっかけにその活動を?

朝倉

はじまりは、約10年前にクリエイターのビジネスマッチングのイベント「クリエイティブ夜会」を発案したことです。

仕事柄、たくさんのクリエイターと知り合う中で、ビジネスのつながりを創出する機会をつくりたいなと思うようになりました。

クリエイティブ夜会の様子(提供写真)

朝倉

クリエイターの皆さんって自分を売り込もうにも、なかなか機会がないよな、と。

それならクリエイターが集える場をつくって、お互いに自分の作品を見せ合いながら、「今度一緒に仕事しよう」みたいな縁が生まれるといいなと思ったんです。

イベントのアイデアはあっても、なかなか行動に移せないものですが、すごいですね……! 

クリエイティブ夜会は今でも続いているんですか?

朝倉

はい、コロナで一時中断しましたが、最近復活して、年3回くらいのペースで開催しています。

デザイナー、映像クリエイター、カメラマン、モデル、ヘアメイク……など多種多様なクリエイターが、多いときで約150人集まります。ありがたいことに、イベントにスポンサーがつくこともあります。

ボードゲームからバチェラーまで。無限の好奇心がコミュニティの起点

他にはどのようなコミュニティを運営しているのでしょうか?

朝倉

クリエイティブ夜会がビジネス寄りだとすると、プライベートに近いコミュニティもあります。オフラインとオンラインあわせて、10個くらい運営しているんですよね。

そんなに……!?

朝倉

クリエイティブ夜会が軌道に乗り始めた頃に、「他にもコミュニティを企画・運営してみたいな」とスイッチが入っちゃったんですよね。

それからすぐに、ボードゲームで遊んだり作ったりするコミュニティ「Anaguma(アナグマ)」を立ち上げたんです。

もともとボードゲームがお好きだったんですか?

朝倉

いえ。まったく興味はなかったんですが、友人のパートナーがボードゲームマスターで、家に遊びに行ったときに初めて体験したんです。

そしたら、これはめちゃくちゃ面白い、普及させたいなって思ったんですよね。

Anagumaの活動風景(提供写真)

朝倉

現在、Anagumaは約100名のコミュニティに育っています。

参加メンバーの趣味から派生して、謎解きや麻雀、ポーカー、ゴルフ、グルメ、サウナ……など挙げはじめたらきりがないくらい、いわゆる「部活動」が生まれました。

アメーバみたいに、コミュニティが増えていったわけですね。

朝倉

そうですね。コミュニティって思いもよらない人が参加するから面白いじゃないですか。

だから、コミュニティを立ち上げるときには、自分と活動領域や価値観が同じ誰かとではなく、少し距離がある誰かと一緒に組むようにしているんです。

そうすると、単純に色々な人材が交わって、コミュニティ自体が面白くなる感覚があります。

自分が面白いかどうかだけではなくて、コミュニティ全体が面白くなるかどうかに目を配っているんですね。

朝倉

はい。クリエイティブ夜会はイベントの開催が活動の中心ですが、普段はチャットでゆるく会話してたまに飲み会をするみたいなコミュニティもあります。

もっと柔軟にコミュニティの概念を捉えてもいいんですね。

ちなみに、コミュニティはどのようなプラットフォームをベースに運営しているんですか?

朝倉

クリエイティブ夜会は、Facebookグループです。参加者の属性や素性が分かりやすいので、ビジネス系のコミュニティと相性がいいですね。

Anagumaはコミュニティ専用オウンドプラットフォームOSIRO(オシロ)を活用しています。あとは、メッセンジャーやLINEなどですね。

お仕事もされている中で、それぞれのコミュニティに毎日気を配るのは大変そうです……。どんなスケジュールで過ごされているのでしょうか?

朝倉

平日の昼は主に仕事の打ち合わせが多く、夜はイベントや飲み会などコミュニティ活動をしていますね。週末は家族と過ごします。一人の時間はほとんどないかもしれません。

平日は帰宅後もインプットのために映画やドラマを観ます。

映画やドラマは息抜きのためと言うよりインプットなんですね!

朝倉

そうですね。コミュニティで話題になっていたり薦められたりしたら観ます。

たとえば、バチェラーが好きな人が集まるコミュニティ「バチェ研」も運営していて、Amazonプライムは、チャットをしながら見ることができる機能があるので、皆で視聴しながらチャットしたり。たまにチャットの方が面白すぎて、バチェラーをもう1回観るときもあります(笑)。

これはインプットというより、娯楽かもしれないですね。

自己開示が生み出す信頼がコミュニティづくりの鍵になる

人との交流をきっかけにインプットする方がお好きなんですね。

朝倉

そうかもしれません。あと、インプットだけではなくて、アウトプットすることで「世の中に何がウケるのか」を探っているところがあります。

たとえば、地域ならではのクラフトコーラにハマったことがあるんです。そういうときは、SNSにクラフトコーラのことを投稿して、フォロワーの皆さんの反応を見る。

朝倉

せっかく楽しむならコンテンツにした方がもっと楽しいんじゃないかなって。

それは、コミュニティでも同じで。「皆、どんな反応をするんだろう?」「どんな人が集まるんだろう」という好奇心がわくんですね。

世の中の反応を知るためにも、まずは自分が何を好きだと思うか、自己開示することがコミュニティづくりのポイントになりそうですね。

朝倉

そうですね。僕は自分が何を好きか、今何に夢中になっているか、かなり言葉にして伝える方だと思います。

ちなみに「バチェ研」はバチェラーの出演者と一緒に飲みに行くこともあるんですけど、それも「バチェラーにハマってるんだ」って公言しまくっていたら、「出演者と知り合いだから、今度一緒にご飯食べよう」というお誘いをいただいたんです。

すごい縁……!

朝倉

自分の愛がすごく強いジャンルだと、どれだけ好きかって話せるじゃないですか。

すごくマニアックな「あのときのあのシーンって……」みたいな話ができるので、関係性が深まるんですよね。

確かに、相手が「そこまで観てくれているんだ、知ってくれているんだ」と感じることが、信頼関係の構築につながりますよね。

ただ、コミュニティを継続するのは一筋縄ではいかない、大変なこともありそうです。

朝倉

うーん、大変だとは思わないかな。ただ、僕自身が楽しいと思わないと続かないですね。

あとは、人に感謝されることがモチベーションになるので、大変というよりは仕掛け人としてのやりがいを感じることの方が多いです。

やりがいとは?

朝倉

たとえば、「知り合った人と今度ランチに行きます」とか「クリエイティブ夜会に参加したことがきっかけで仕事につながりました」とか。

自分が企画したコミュニティがなければ起こらなかったことが起きたり、今まで存在しなかった縁が生まれたり。そこに多少なりとも貢献できたことが嬉しいですね。

特別な才能はないからこそ、面白がってもらえる自分になる

ここまでのエピソードで、すでに朝倉さんのコミュ力がすごいことを窺い知れたのですが、もとから人と一緒に何かを楽しんだり、イベントをしたりするのがお好きなんですか?

朝倉

はっきりと自覚したのは大学のときですね。

大学1年の頃から飲み会やイベントを企画するのが好きで、夏はテニス、冬はスキー、ディスコを貸し切ってダンスパーティー。まさに何でもするサークルを主催していました。

その経験もあって、人を集めたりイベントを仕切ったりするのが向いているのかもと漠然と感じて、就活はほとんどせずにイベントプランナーとして、イベント企画会社に入社しました。

朝倉

僕が入社した当時、営業に力を入れようとしていたタイミングで、テレアポもかなりしましたね。その頃のことをあまり思い出せないくらい忙しかったです。

その後、新卒3年目に差し掛かる頃、新聞で今の会社の求人を見つけて、イベントプランナーと広告は近いかもしれないと思ったのと、しっかり土日に休めそうだったので受けてみました。

そこから今の会社ひと筋で、現在に至ります。

ちなみに、仕事とコミュニティ活動の相乗効果ってありますか?

朝倉

ありますね。たとえば、コミュニティで香道(※)のイベントをしたんですけど、香道のことって普通あまり知らないじゃないですか。

(※)香りを楽しむ芸道。一定の作法のもとに、季節の香木をたき、和歌や故事、情景などを鑑賞する。

確かに……。

朝倉

なので、クライアントと雑談をしているときに、香道の話をすると、単純に面白がってくれます。

自分を売り込むほどの話ではないかもしれませんが、広告の話をするだけじゃなくて、自分が面白いと思っていることを一次情報に近いかたちで伝えると、自分の個性が出やすいと思うんです。

なるほど。実際にこんなにコミュニティ活動に精力的な方は、なかなかいらっしゃらないですよね。

自分がクライアントだったら、一緒に仕事をしたら面白そうだなって思います。

朝倉

そう思ってもらえたら嬉しいです。広告の仕事をしていると、才能あふれるクリエイターにたくさん出会うんですが、自分自身は強い才能を持っていると思ったことがないんです。

でも、コミュニケーションは好きですし、得意って言ってもいい気がしていて。コミュニティ活動で得た情報を、クライアントにも還元しながら、面白い奴だと認識してもらえたら嬉しいですね。

「好き」を伝える大切さ。朝倉さん流のコミュニケーションの心得

朝倉さんはコミュニケーションにおいて、意識されていることはありますか?

朝倉

知人が「『好き』って言えるのはスキルだ」と言っていて。確かにそうで、「俺、それめっちゃ好きだわ」とかは割と言いますね。

「好き」ってパワーワードだなと思っていて、言われて嫌な人ってあんまりないじゃないですか。「好きだからもっと話を聞かせてほしい」という気持ちを全面に出す方だと思います。

あとは、「最高」「天才」もよく言いますね。僕が褒めるのもおこがましいですが、実際、すごいなって思ったら、伝えたいじゃないですか。

以前から、そういうスタイルだったんですか?

朝倉

もしかしたら、仕事で身に着いた感覚なのかもしれません。クライアントのことを好きにならないと広告を作りにくいじゃないですか。「絶対売れないよ」と思いながら仕事をするのは、ちょっとつらいですよね。

だから、好きになれるポイントをいつも探している。それで、好きだと思ったら、ためらわずにすぐ言葉にします。

なるほど。距離を縮めたいのであれば、好意を伝えるのが大事だということですね。

朝倉

そうですね。「この人と一緒に何かするとなんか面白い未来が待ってそうだ」「出会う前と後で何か変化が起こりそうだな」って予感してもらえる自分でありたい。

その第一歩は相手に興味を持つこと、好意を伝えることが大切だと思います。

今回は、朝倉さん流のコミュニティの作り方と、その前提となるコミュニケーションの作法を知ることができました!

個人の感性や好きなことを共有し、お互いを高め合う場が、これからもたくさん増えていくといいですね。

2024年3月取材

取材・執筆=末吉陽子
撮影=栃久保誠
編集=鬼頭佳代(ノオト)