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雑談の枠組みを問い直す。元芸人の社長・中北朋宏が考える雑談とは

元お笑い芸人の中北朋宏さんが率いる株式会社 俺は、「ロジック×笑い=人を動かす」をモットーに人事コンサルティングをしています。これまでも人と人とのコミュニケーションについて自著を発表してきた中北さんが、新著『おもしろい人が無意識にしている神雑談力』を上梓しました。

芸人からコンサルティング会社に就職したときは、調べたばかりの知識をさも自分の意見のようにひけらかしたり、他人から価値のない人と思われるのがイヤで、会議でどっちつかずの玉虫色の意見を出してみたりと、中北さんは「コミュニケーションの失敗をたくさん繰り返してきた」と言います。今回は、「雑談力」について中北さんに話を伺いました。

中北 朋宏(なかきた・ともひろ)
株式会社 俺 代表取締役社長。浅井企画に所属し、お笑い芸人として6年間活動した後、人事系コンサルティング会社に入社。内定者育成から管理職育成まで、ソリューション企画提案に幅広く携わる。2018年に株式会社 俺を設立。“夢諦めたけど人生諦めていない人のために”をコンセプトに、お笑い芸人からの転職支援「芸人ネクスト」や笑いの力で組織を変える「コメディケーション」を展開中。『「ウケる」は最強のビジネススキルである。』『コンプレックスは営業の最高の武器である。』(共に日本経済新聞出版)に続き、3冊目となる著書『おもしろい人が無意識にしている神雑談力』(東洋経済新報社)も2023年に発売された。

雑談も商談も大事なのは行為じゃなくて目的

中北さんは元芸人という異色の経歴ゆえに、初対面の人からコミュニケーションの達人のように思われることはありませんか?

今回『おもしろい人が無意識にしている神雑談力』を書いた動機の1つでもあるんですが、僕はそもそもコミュニケーション能力が高くなくて、もともとものすごく人見知りなんです。

新幹線の3列シートで窓際に座っていると、トイレに行きたくても通路側の人に声をかけられなくて。新大阪から東京までトイレを我慢してしまうぐらい極度の人見知りで、なかなか自分から話しかけられず、「雑談は息苦しいものだ」と昔から思っていました。

『おもしろい人が無意識にしている神雑談力』(東洋経済新報社)

中北さんは「人に話しかけられない」というお悩みがあったそうですが、最近では初対面の他社の方と会っても「目の前の人にあまり興味が持てない」とか「雑談に前のめりになれない」といった若手社員の話も聞きます。

極論と思われるかもしれませんが、そもそも僕は「前のめりになれない人や興味が持てない人と、雑談する必要はあるの?」と、思ってしまいます。

人間のコミュニケーションは、やはりどこまでいっても「返報性」の繰り返しだと思うんです。つまり、相手が思っていることは伝播する。これがコミュニケーションの基本中の基本だと思っていて。

ポジティブな感情は人対人で伝播します。目の前の方が僕に前向きな感情を抱いていたら、おそらく僕のことを好きになっていただける。逆に相手に興味が持てないまま喋ると、それが相手にも伝播する可能性がある。

マイナスな感情は伝わってしまうので、僕なら無理に苦手な人と雑談はしないかな、と。自分にとって本当に必要な人は案外少ないと僕は思っていますし、無理にコミュニケーションを図る必要がなければ関わらなくてもいいんじゃないかなと思います。

それでは雑談でなく、商談の場合はどうでしょう?

本来、商談には目的が存在すると思うんですよ。何のためにミーティングを設定しているかという目的があるはずです。

商談の目的はたくさんあります。受注なのか、信頼獲得なのか。そのミーティングの目的から逆算して、ビジネス現場の雑談は構築していく必要があると思っています。まずは会社の信頼獲得、次に個人の信頼構築。どんな雑談をすべきなのかは、結果から逆算をするといいんですよね。

「雑談ってしたほうがいいですか? しないほうがいいですか?」だと、ある・なしの話になってしまいます。雑談にもっとも必要なのは「雑談という行為」ではなく、「目的」なのです。

御著書にも「天気やニュースの当たり障りのない雑談は、今すぐやめてください」と書いてありましたね。

「雑談のための雑談」は、僕はこの世で一番無駄だなと思っています。目的もなく天気の話をしたとしても、逆に「天気予報に詳しい人?」と思われるだけじゃないですか(笑)。

話題をニュースに変えたとしても、「ニュースに詳しい。よくニュースを見ている人だ」と、思われるだけでしかない。そうなると、その人の印象は変わらなくて、関係性もやっぱり深まらないんですよね。

会話の目的を達成するために、ニュースの話が必要であればニュースの話をするべきです。つまり、天気の雑談が無駄か否かと考えるより、目的を持ってその話をするか否かと考えることのほうが重要だと思います。

僕も天気の話をするんですよ。でも僕の場合は、商談に繋げるためのアイスブレイクとして切り出しているだけです。

たとえば、お客さん先に行くときに「今日は暑いですね」と切り出したら、「そうですね」とたいてい返ってきます。すると、「午前中に伺ったお客様先でもこんな話をしまして……」と、「暑い」という話題から膨らませて、お客様から信頼を獲得するために「この人はお客さんといろいろ会っていて、たくさん事例を話せる人なんだ」とか、「いろんなお客さんが付くぐらい信頼ができる人なんだ」と思ってもらえるように話します。

新入社員がまずやることは挨拶と笑顔。これが最強

若手社員の中には、他社の方からポジティブな印象を持ってもらいたい人が、おそらくたくさんいることでしょう。初対面の人と相対したときに、良い印象をもってもらうためにはどうすればいいでのしょうか?

先ほど、「話さないと気まずい場合は無理して喋らなくていい」とは言ったものの、僕も初対面の人ときちんと話せたほうがよいとは思っています。

人間は大体6〜7秒で人の印象を判断すると言われています。かつ、その印象は半年間ほど持続します。逆にいえば、その時間だけでも相手が「この人、好印象だな」と思えるくらいに笑顔を絶やさないようにすることが重要です。

これから他社の方に好印象に思ってもらいたい若手社員は、やはりまずは明るく、わかりやすく隠しごとのない雰囲気を出していったほうがよいでしょうか。

若手社員、特に新入社員が行うとしたら、最初は2つしかありません。それは挨拶と笑顔でいること。

次に重要なのが、相手から何か話してもらったことに対して、ニコニコと笑って場繋ぎをすることです。ニコニコ笑うことがなぜ重要なのかというと、自分から人が話しやすい空気を作ることができるため、場をいかようにもデザインできるからです。

商談だって雑談の一部。雑談という枠組みそのものを疑え

主体的に場をデザインする話、もう少し詳しく教えてください。

自分が営業担当だとしてもお客さんだとしても、「この人、ちょっと話しやすいな」と思われることが、ビジネスの前提条件だと思っていて。

人と人が出会う場では、話しかけやすい雰囲気を自分で意識的に作っていかないといけません。相手が沈黙したり、人の話を途中で遮ったりしてしまう人は、そもそも聞き方が結構悪かったりするんですよ。

たとえば、「親ガチャ」ならぬ「上司ガチャ」というアンケート結果があります。いわゆる「今まで職場で、上司で外れを引いたことがありますか?」という質問です。すると、81%の人が「今まで外れを引いたことがある」と答える。ランダムに調査をすると、70%ぐらいの人が「当たりを引いたことがある」とも答えているんです。

この「上司がいいな」と思った理由が、ものすごくシンプルで。実は「コミュニケーションが取りやすい」ということが一番大きな理由となっています。人の話の聞き方がよくて、話しかけやすいことが、部下と上司の関係性でも「当たり」だと思われる。何を話すか以前に、笑顔でどう主体的に場をデザインするかが重要です。

とはいえ、雑談というテーマですと、アイスブレイクで何を話すかという論点になりやすいですよね。

そうなんですよ。でも、「何を喋るか」って、改めて考えてもキツく感じませんか?

株式会社 俺を6年経営して、今まで数千人の前で話す機会をいただきましたけれど、こんな僕でも「何を喋るか」から考えはじめると、結構キツいんですよね。たとえどんなによい内容をこちらから話したとしても、相手に話してもらってからこちらの話をしないと、よいリアクションは得られないと思っているんです。

商談の場合、笑顔できちんと挨拶をしながら、本日の打ち合わせの目的を伝え、何のためにこの場が設定されているのかを明確にする。その上で「今日のお話はこの目的で大丈夫ですか?」「はい、大丈夫です」と確認をして、「他に何かお困りごとはありませんか?」と話す内容を引き出してから、雑談に入っていく流れですよね。だから、相手の方に先に話していただいて、その後にこちらが喋るようにします。

よく若手社員の困りごととしてよく聞かれる「沈黙になったとき、どうしたらいいですか?」という問いも同じで。自分から質問をして話を引き出し、自分が主体となって雰囲気をデザインすることが大切です。

「商談の目的を明確にしてから雑談に入る」ということは、場合によっては雑談は商談が始まった後からするもの、と思っておいても良さそうですね。

おっしゃる通りですね。雑談自体をある程度幅広く捉えるのであれば、日常的な会話も、会社同士の情報交換も、雑談といえば雑談じゃないですか。商談も雑談の一部ぐらいに捉える考え方もあると思うんですよね。雑談は、あくまでも目的を達成するための1つのパーツでしかないので。

価値観の違いを感じても、世代で括るな。個人で話そう

芸人を辞めてコンサルティング会社に入ったとき、中北さんは27歳だったと伺いました。当時のことも思い出していただいて、20代の若手社員が世代の違う40〜50代と話をする際に、気をつけていたことはどんなことですか?

世代の違う方と話すときも、やはり相手が興味のあることを引き出す質問が大切です。「何を話す?」というフワフワした段階では、そもそも雑談は成立しないんですよね。ニーズのない中で、何かを当てに行っても外れるに決まっているからです。

だから、まず相手は何に興味があるのかを探る。人材育成に興味がある人ならば、それについて話せばいい。世代関係なく話せるはずです。ただ、「若手はこうあるべきだ」など世代ギャップは存在しているので、ギャップが見えたらそこに合わせてテーマを差し出せばいいんですよね。

中北さんご自身は世代ギャップを感じたことがありますか?

僕は正直、世代ギャップを感じたことがないんですよ。でも、主語が大きい会話は、基本的に合わなくなると思っていて。

たとえば、「若い人ってTikTokが好きだよね」とか、「コスパ重視で、タワマンとか興味ない世代でしょ」「出世欲ないんでしょ? すぐ会社を辞めるんでしょ?」みたいに言われたら、若手の人は腹が立つし、違和感があるでしょう。

同様に50代でも、TikTokをチェックしている人はいるわけですよね。人それぞれ価値観が違う中で、主語が大きい語りはダメで。「この人は何を考えているんだ?」と、世代で一括りにせず、個人個人と考えて接していくことが僕は重要かなと思っています。

とはいえ、僕も価値観の違いを感じることはあるんです。最近、弊社に20歳のインターンの子が入ってきました。僕はもう40歳なので、彼とは20歳差です。彼はVTuberで、付き合っている彼女はもともとVTuberのお客さんだったそうで。恋愛1つとっても、すごい価値観の違いですよ。

価値観は大きく違うけれど、話を聞いているととにかく面白いんですよね。だから、世代で一括りにしたりしないで、やっぱり年齢が離れていても、個人として話すことが重要なんじゃないかなと思いますよね。

2024年2月取材

取材・執筆:横山由希路
アイキャッチ制作:サンノ
編集:鬼頭佳代(ノオト)