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「やらなきゃ」を「やりたい」へ。ゴミ拾い団体・グリーンバードに聞く、人の巻き込み術&コミュニティのつくり方

仕事や属するプロジェクト、プライベートな活動でも、“誰かとの協働”は日常にあふれています。もし自分が主体となる活動において、関わる人がもっと楽しめ、なんなら「自分も参加したい!」と手があがるような巻き込み方ができたら。さらなるユニークなアイデアやシナジーが生まれるかもしれません。

約20年前に原宿・表参道からスタートしたゴミ拾いプロジェクト「green bird(グリーンバード)」。ゴミ拾いと聞くとちょっと大変そうだし、面倒と思う人もいるはず。それでも長年「参加したい」という人を生み出し、リピーターを増やし続けています。地域によってはゴミ拾いを越えた深いつながりも生まれているのだとか。

今では国内外に70ものチームが存在し、誰もが自由に申し込め、参加できる活動になっています。このようなコミュニティはどのようにしてつくられてきたのでしょうか? グリーンバードの人を巻き込む秘訣とは?

福田圭祐(ふくだ・けいすけ)
1990年生まれ。高校時代にグリーンバードのゴミ拾いに初参加。大学卒業後は広告会社で3年間勤務したのち退職。認定NPO法人グリーンバードに参画し、2019年に3代目理事に就任。日本初のタピオカ専用ゴミ箱や、海洋プラスチックゴミをアップサイクルしてプラモデルに生まれ変わらせる「RePLAMO」を開発するなど、社会課題にクリエイティブなアイデアで向き合う。

「ゴミ拾い」と「コミュニティづくり」の比重は5対5

取材に先立って原宿チームのゴミ拾いに参加したのですが、参加者のほとんどが若い方なのが印象的でした。

出勤前の美容師さん、休日を寝て過ごしたくないという不動産業の方、音楽家かな? という方もいて。

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福田

ああ、その方は音楽プロデューサーのYOKANさんですね。僕も2008年に初めてゴミ拾いに参加したときにお会いして。グリーンバード活動初期からずっと参加されている方なんです。

そうなんですか! ゴミ拾いという活動の清々しさに加えて、普段なかなか接点のない方とお話ができたのも楽しかったです。

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活動時に使うビブスや軍手、トングなどはすべてその場で貸し出し。参加者は手ぶらでゴミ拾いに参加できる。(提供写真)

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福田

グリーンバードは今、国内外に70ほどチームがあるんですが、原宿は比較的若い参加者が多いですね。この街に住んでいる人、働いている人、学生、原宿が好きな人、最近引っ越してきた人、会社のCSRの一環など、参加理由もバラバラです。

赤坂や虎ノ門だとオフィスワーカー、赤羽や下北沢は子連れが多いですね。

地域によって参加者の属性が変わるのはおもしろいですね。

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福田

歌舞伎町チームの場合は、ホストやコスプレイヤー、企業の人、サッカー選手など、毎回40人くらい集まるんです。

歌舞伎町チームの参加者たち。リーダーは現役のホストなのだとか。(提供写真)

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福田

歌舞伎町チームのコンセプトは「おいしくお酒を飲むためにゴミ拾いをしよう」なので、終わった後は皆で飲み会までしていて(笑)。

なんだか楽しそう……!

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福田

参加の理由を聞けば、「おもしろい出会いがあるから」という人が多いですね。ゴミ拾いを通じて、普段出会わないような人と出会い、コミュニティがつくられる。それが今のグリーンバードのおもしろさの一つだと感じています。

もちろん街をきれいにするのが目的ですが、5対5、もしくはそれ以上に、コミュニティづくりへの比重が大きくなっていますね。

初参加の感想は「たくさんゴミを拾った」じゃなく「いろんな人としゃべった」

現・渋谷区長である長谷部健さんが2002年にスタートさせたグリーンバード。ポイ捨てが当たり前だった当時、あふれかえるゴミを拾うメンバーを集め、街をきれいにすることで社会は変えられるのではないかと、長谷部さんの地元である原宿・表参道から活動が始まりました(提供写真)

福田さんはグリーンバード3代目の代表理事とお聞きしています。コミュニティづくりに比重が置かれるようになったのはいつからでしょうか?

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福田

実は、ここ数年なんですよ。特にコロナ禍でコミュニティの重要性を感じて。

ある日の活動に、半袖短パンのがっちり体型の男の子と、長袖長ズボンの細身の男の子が一緒に参加していたんです。「2人は友だちなの?」と話しかけると、それぞれ違う大学の学生でした。

2人の上京したタイミングはコロナ真っ只中で、入学式もサークルもない。授業はオンラインだから友だちもできない。バイトもできない。そういう状況のなかで「出会い」「コミュニティ」などで検索した結果、グリーンバードに行きついた、と。

なるほど。

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福田

趣味もタイプもまったく違う2人だけれど、たまたま同じ境遇で、ゴミ拾いで知り合った。その後、ほかのチームのゴミ拾いにも一緒に参加してみようということになったみたいで。

約20年前に「街をきれいにする」を目的に原宿・表参道で始まったグリーンバードですが、今は「人と人をつなぐ」というフェーズに入っているなと感じています。

グリーンバードは出会いの場でもあり、さまざまな人の居場所や拠り所といった役割も果たしていそうですね。

ちなみに、福田さんがグリーンバードに参加したきっかけも伺っていいですか?

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福田

僕の場合、不純な動機というか……(笑)。もともとラグビーをやっていて、スポーツ推薦で青山学院大学に入学したいと考えていました。ところが、その提出書類に「ボランティア経験の有無」を書かないといけなかったんです。

そんな経験はないけれど、「あり」にしたい。それならゴミ拾いでも、と父のパソコンを借りて検索して出てきたのがグリーンバードでした。それも原宿・表参道であるっていうんで「青学のお膝元なら評価上がるじゃん!」と思って申し込んだんですよね。

なるほど!(笑)

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福田

きっと環境問題に興味がある人が集まっているに違いないと思って、初回は単語帳に「温暖化の原因とは」などのカンペをつくって集合場所に行きました。でも、なんだか変な感じだぞ、とすぐに気づいて。

まず自己紹介のトップバッターが「お客さんを探しています」という美容師さんだったんですね。次に「原宿の占いの母です」「音楽プロデューサーのYOKANです」と続いて。その後も学校の先生、女子大生、さらには当時テレビで見ていた芸能人の方もプライベートで参加されていて。

ええ!?(笑)

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福田

結局「環境問題のために来た」って人は誰もいなかったんです。皆そんな感じだから、僕も堂々と「大学に受かるために来ました」っていったら大拍手で「いいぞ、いいぞ! 初めて高校生来た!」って喜んでくれて(笑)。

高校時代の福田さん(提供写真)

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福田

帰宅して母に話したのは「めっちゃゴミ拾ったよ」じゃなくて「いろんな人としゃべったよ」だったんです。高校の時分にしゃべる相手って、学校の友だち、先生、親くらい。

だから、普段出会わない大人とこうやって話せたっていうことがとてつもなくおもしろかった。それがグリーンバードの第一印象だったんですね。

初回からかなり惹き込まれたんですね。大学に入ってからも参加を?

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福田

ラグビーをやったり、遊んだりする合間にときどき参加していました。

あるとき、同じ青学のちょっと有名な女の子にグリーンバードを紹介して一緒に参加したんです。それをSNSに自慢気に投稿したら、「うらやましい!」という反応はひとつもなくて。「私もゴミ拾いに参加したい」「意外だね」というコメントばっかりなんですよ。

そのときに「あ、こういうことかも」と思ったんです。

どういうことですか?

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福田

当時の僕は一見するとゴミを拾わなさそうなタイプ。そういう人間が活動の輪の中にいることで、なにかインパクトを生み出すことができると思ったんです。

当時、何か悪さをしてしまって、そのペナルティでグリーンバードに参加した同世代の人がいたんです。その時に僕みたいなヤツがいることで、彼らもちょっと心を開いてくれたという実感があった。

そういうところに、なにか使命感みたいなものも感じたりして、だんだんとグリーンバードの活動に惹かれていきましたね。

大学卒業後は就職されたそうですが、その後NPO法人であるグリーンバードで働くことになった経緯とは?

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福田

新卒で広告会社に入って、3年間営業として働いたんです。退職したときに初代と2代目代表に呼ばれて「3代目をやらないか」と打診されて。

ゴミ拾いを仕事にすること、グリーンバードで働くことが純粋に面白そうだと思ったし、この団体を自分で背負ってみたいと心のどこかでは思っていました。だから、迷わず即決でしたね。その後、2019年に代表に就任しました。

ゴミを拾う行為に「意味」を持たせる

活動がスタートして20年以上になるグリーンバードですが、参加者が「また参加したい」と思えるなにかがあるからこそ、続いてきた活動だと思います。

参加者に「次も」と思わせる仕組みみたいなものはあるのでしょうか?

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福田

各チームに月1~2回は活動することを約束していますけど、それ以外には厳格なルールや仕組みはありません。基本的に、曜日も場所も各チームにお任せなんです。

ただ、「やる意義」はすべてのリーダーに共通認識として持ってもらっていますね。

その「やる意義」とは?

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福田

グリーンバードに参加することによって、参加者にどんなメリットがあるか、という視点です。

ゴミを拾う行為に意味を持たせないと、ただやらされているという義務になってしまう。そうなると絶対に続かないし、また参加したいとも思わない。

確かにそうかもしれません。

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提供写真

福田

実際に、参加することで得られるものっていっぱいあると思うんです。新しい友だちができるかもしれないし、いい出会いがあるかもしれない。実際にこの20年間で、グリーンバードをきっかけに20組くらい結婚していて。

20組も!

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福田

ようは、自分にも見返りがないと、ものごとって続かないんです。それは個人でも企業でも同じだと思うんですよね。

なるほど。

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福田

僕が代表になってからは、企業から「社員50人でゴミ拾いしたい」というオファーがあったときには、「30分でもいいからグリーンバードはこういう団体で、その意義はこうで、どんなことができるのかを話す時間をください」と伝えています。

それがないと、社員の皆さんもただ会社の方針でやらされているだけになってしまうんで。もしかしたら、ゴミ拾いをやっている間に違う部署の人とつながれるかもしれないし、活動のなかで自分のアイデアを生かせるものがふと出てくるかもしれない。

意義が明確化されることで、参加者の活動時の視点も変わりそうですね。

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福田

チームにおいても、毎年6月10日には各地のリーダーを集めて会議をします。僕らが持つべき大切な視点を共通認識としてもらう。その徹底こそが約20年間うまく展開できている理由なのかもしれないですね。

参加する意味をそれぞれが考え、実際にそこに楽しさを見つけた人が「次も」と続くのかもしれないですね。

ところで、コミュニティをつくるリーダーの共通点はどんなところにあると思いますか?

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福田

グリーンバードの場合、「人を巻き込みたい」という思いの強い人ですかね。話すのが得意じゃなくてもコミュニケーションが好きだったり、皆で集まったり、参加者同士が仲良くなるのがうれしい人。そういう共通点はあるかもしれません。

人を巻き込むために必要な視点とは?

なにかおもしろいアイデアが浮かんできて、人を巻き込みたい、コミュニティをつくりたい、と思ったとします。

でも、人をどうやったらうまく巻き込めるかわからない、という人もいるはず。そんな方に向けたアドバイスはありますか?

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福田

う~ん……。活動のなかで得られる付加価値を伝えてあげることじゃないですかね。

僕らの活動なら、「ゴミ拾いの後のビール、めっちゃうまいですよ」とか「すてきな出会いがあるかもしれない」とか。

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福田

さらに例えるなら、サッカー強豪校の中学受験を控えた子どもに「勉強しなさい」じゃなくて「合格したら、中学校の広いグラウンドでハイレベルのサッカーが思いっきりできるよ」など、楽しいことにイメージが向くような誘い方をしてみたり。

なるほど、直接的に誘うのではなく、そこで得られる楽しさといった付加価値を伝えると。子どもに向けてどういうか、という考え方はわかりやすいです。

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福田

巻き込む側は、楽しさやメリットといった手札をたくさん用意しておいて、戦略的に「やってみようかな」と思わせることが重要かもしれません。僕らがやっていることも、結局はそういうことだと思います。

その話でいうと、こんな事例があって。「ラグビーワールドカップ2019」の開催時、組織委員会から試合後のゴミ拾いをしてほしい、というオファーがあったんです。

スポーツ観戦後の日本人のゴミ拾いはたびたび話題になりますよね。

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福田

はい。でも、僕らはゴミを拾うのではなく、試合後にゴミ拾いをする人がいないスタジアムを目指したんですね。

試合後にゴミ拾いをしない?

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福田

ゴミを拾うのが目的の場合、ポイ捨てされることが前提になってしまっています。それはゴミ捨ての抑止にも、解決にもならない。

では、捨てる人をどう巻き込んでいくか。考えた結果、ラグビーボールのイラストを施したゴミ袋をつくって配布したんですね。

「ラグビーワールドカップ2019」でのグリーンバードの活動の様子(提供写真)

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福田

ゴミを入れて袋の上と下を結ぶと、ラグビーボールのような楕円球型になるんです。

さらに、これを捨てたくなる仕掛けとして、芝生のコートとボールポストを設置して「トライ」ができるスペースを用意したんです。名付けて「ごみ袋でトライプロジェクト」です。

そうすると、皆トライしたいがために一生懸命ゴミを拾ってボールをつくるんですよ。僕たちもゴミを拾う必要がなくなるわけです。

戦略的かつ、楽しい仕掛けですね!

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福田

2019年のタピオカブーム時には、こちらもただタピオカ容器を拾い続けるのではなく、飲んだ後にカップを捨てたくなる“インスタ映え”するゴミ箱を原宿の街中に設置することで、ポイ捨てを抑止し、回収率を上げることができました。

また、2021年には近年の海洋プラスチックゴミ問題を解決すべく「RePLAMO(リプラモ)」というアップサイクルプロジェクトを立ち上げました。

提供写真

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福田

これは日本各地の海岸で子どもたちとビーチクリーンを行い、そこで回収したゴミをウミガメのプラモデルに生まれ変えるという仕掛けです。疲労だけでなく、拾った先にも価値を見出す。子どもたちが前向きに環境問題を考えるきっかけを提供する。

そうやって「おもしろい!」「たのしい!」と思わせる巻き込み方を近年のグリーンバードでは考えているんです。

なにか新しいことをやりたいという人は、そういった発想や視点を持つことで、「私も参加したい」と手をあげる人がでてくるかもしれませんね!

それにしても、グリーンバードが行っている取り組みは、どれも秀逸でおもしろいです。

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福田

社会問題を深刻に捉えすぎないことも僕らの活動のポイントかもしれないですね。どうしよう、大変だ、とネガティブに考えがちなところを、ポジティブに転換するというか。

僕らが今やっているのは「マイナス」から「0」にするんじゃなくて、「マイナス」を「プラス」にすること。その「プラス」にするまでを戦略的に熟考しています。それはどの職場の皆さんにも通ずるものなんじゃないかなって思います。

何ごとも「おもしろく、楽しくやろう」という視点で考えてみると、アプローチも変わって、人を巻き込みやすくなるかもしれませんね。

2022年5月取材

取材・執筆=林貴代子
撮影=塩谷哲平
編集=鬼頭佳代/ノオト