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感性を呼び覚ませ。「使いみちのなくなったコスメ」が問う仕事の在り方

使いきれずに捨てられる一方で、次々生まれる新商品。ブランドマーケティング会社で化粧品メーカーを担当する伊藤真愛美さんには、コスメのプロモーションに関わるからこそ感じる葛藤のようなものがあった。

自分の仕事は、ただ「売って終わり」なのだろうか。また、売り方を一歩間違えれば、個性を彩るはずのコスメが、個性を殺してしまうのではないか。

コスメの存在意義と、生活者に商品が届いた『先』を改めて見つめ直したい」

そんな想いから、化粧品を色材に変えるモーンガータ社と共同で、COLOR Againプロジェクトを立ち上げた。「一人一人が自分の感性に自信を持ち、個性を自然に身に纏える世界を作りたい」と2社は語る。COLOR Againプロジェクトに込めた想いとは。

プロフィール

伊藤真愛美
2017年ブランドマーケティングエージェンシーである株式会社エフアイシーシーに、プロデューサーとして入社。 入社から4年間、美容商材のインフルエンサーやメディアタイアップなどのプロモーション領域に数多く携わる。 2020年にCOLOR Againを社内事業として立ち上げ、責任者として事業構築や展開について力を入れている。 2021年よりマーケティングコンサルチームに配属され、食品メーカーのプロモーション等に関わる。

田中寿典
2012年東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻 修士課程修了後、株式会社アルビオン(株式会社コー セー 連結子会社)に入社。研究部に配属され、メイクアップ製品の研究開発に従事する。2018年2月同社退社。2019年9月20日株式会社モーンガータ設立と共にSminkArtブランドを立ち上げ、これまでにテレビ15放映 以上、ラジオ・新聞・雑誌などへの掲載も多数。

自分の仕事は、「売って終わり」なのだろうか?

コロナ禍でリモートワークが推奨され、化粧をする頻度が激減した人は少なくないのではないだろうか。伊藤さんもその一人だった。

伊藤さん「使われないコスメが手元にたくさんあるのを見て、『もったいないな』と思ったんです。もともとアートが好きだったこともあり、何かアート作品に活用できないかなと考えるようになりました。『もったいない』という気持ちと自分の興味を掛け合わせようとしたことが始まりですね。

また、コスメは大好きだけど、そもそも私は毎日化粧をしたいとは思ってないんです。会社にも、できることならすっぴんで行きたい。自分の好きなタイミングで、好きなメイクをしたかった」

立ち止まって考えてみると、さまざまな疑問が浮かんできた。たとえば、面接官の目を気にして画一化された就活メイク。化粧品メーカーも雑誌も、こぞって「ウケるメイク」を推奨しプロモーションを組む。

伊藤さん「自分らしく美しくあるための化粧品なのに、なぜ人の目を過度に気にするのか。それをメーカーもメディアも後押ししているように見えて、本当にこれでいいのかと考えるようになりました。

私の仕事は、生活者の方にクライアントのコスメの魅力を伝え、必要な人に届けることです。でも、そこからもう一歩踏み込んで、コスメの存在意義をいま一度、考えてもいいんじゃないかと思ったんです」

そんな気持ちを抱えていたある時、インターネットでモーンガータ社の田中寿典さんの記事を見つけ、思わず連絡した。田中さんはもともと化粧品メーカーで開発者として働いており、現在は使いみちのなくなったコスメを色材として蘇らせるSminkArt(スミンクアート)を開発している。

SminkArtのmagic waterを混ぜると、コスメが色材に変化する

伊藤さん「容器を回収してリサイクルする企業活動は聞いたことがありましたが、中身のコスメ自体をアップサイクルする話は聞いたことがありませんでした。

現在、化粧品メーカー上位5社だけでも年間約20,000トンほどの粉末状コスメの中身の廃棄が想定されています。化粧品を化粧品として再利用するのではなく、余った商品を全く別のものに再生させる技術に衝撃を受けました」

「自分らしさ」の抑制、過剰生産と廃棄、社会人としての仕事への向き合い方ーー。コスメ一つに、さまざまな課題が内包されている。使いみちのなくなったコスメを軸に、他の人も巻き込みムーブメントを起こそうと、COLOR Againプロジェクトが始まった。

使いみちのなくなったコスメを起点に、感性を磨くプログラムを提供

現在、COLOR Againは一般向けに定期的にワークショップ開催、学生向けに学習プログラムの提供なども行う。

一般向けのワークショップでは、使いみちのなくなったコスメを持ち寄ってもらい、SminkArtで色材に変えてアート作品を作る。ユニークなのは、サウンドバスアーティストのHIKOKONAMI氏とコラボレーションしている点だ。美しく落ち着いた「音」を身体全体で聴いて浮かんだイメージを描く。その後、主催者があらかじめ用意した「問い」に答え、周りの人と共有。一人ひとりの考えや感情を掘り下げる。

HIKOKONAMI氏によるサウンドバス体験

ふだん何気なく感じたことや違和感などを掘り下げる機会はなかなかない。しかも、音の瞑想と言われるサウンドバスの体験をして感性を研ぎ澄ませた状態で行うため、知らず知らずのうちに押し込めてしまった感情を見つけ出すこともできる。

伊藤さん「自分の感情に向き合うことで、本当は何が好きで、何が嫌なのかをより鮮明に感じることができます。他人の評価軸で生きるのではなく、自分の軸を持ち、そこから社会とつながっていこうと、投げかけたいんです」

一般向けワークショップの様子

2022年4月からは、渋谷教育学園渋谷高等学校(以下、渋渋)の社会貢献活動教育のパートナーとして、プログラムの提供を開始。学生たちが「感性に自信を持つこと」、「自分と社会にとって理想的な未来を考え行動すること」を目的に活動している。

まず自分自身を知るため、哲学の専門家である吉田幸司氏の協力を得て「哲学対話」のワークショップを行った。その後、化粧品の成り立ちから業界が抱える課題についての講義を提供。月2回ほどの活動を繰り返し、学生たち自身が「課題設定と企画立案」をする形でアウトプットを行った。

渋渋の学生たちとの対話のなかで生まれた「問い」

田中さん「COLOR Againでは、個々人が感じたこと、それに対してどう考え、行動するかを尊重します。業界に対して問題提起していきたいとかではなく、『こういう風に感じている人がいますよ』と情報共有したいんです。それに対して問題と感じたり、行動するかどうかは自分の意思で選択していけば良いと思ってます」

伊藤さん「個性を素直に出せて、自然に周りにも受け入れられることが理想ですよね。個性の輪郭がはっきりしてくると、『その人である意味』が生まれ、社会に対して『自分がやらなきゃいけないこと』『アクションを起こしたいこと』が出てくるような気がします。

ルールや慣習には大事なことも沢山あるけど、なかにはくだらないこともあります。それを我慢してモヤモヤしながら生きていくのはもったいない。だから、自分が良いと思ったものを良いと言える社会の空気を作っていきたいです。

自分のことを大切にできれば、他者の価値観も尊重と受容ができるはず。そうすれば、もっと心地よい世界ができていくのではないでしょうか」

COLOR Againというプロジェクト名には、個々人が持つカラーを取り戻そうという意思を込めた。

田中さん「画一性で染められた世界には”色”が存在しません。だから、私たちはこのプロジェクトを通して『色を取り戻していこうよ』と投げかけたいんです。色を『持つ』ではなく『取り戻す』。個性って自然に身に纏っていくものなので、もともとみんな持っているんですよね。

固定概念にとらわれて、抑制されていた人・モノの可能性を解放したいんです。SminkArtは、お客さんが持つコスメとmagic waterを混ぜるだけで新しいモノが生まれ、完成する。絵だけではなく、キャンドルやネイル、アクセサリーなど、何にアップサイクルするかも自分で考えることができます。プロダクトは半製品状態で設計されていて、皆さんの感性が加わって初めて完成する。COLOR Againのプロジェクトを通して、自分の感性を表現する楽しみを感じていただけたら嬉しいです。そして楽しさは継続性につながるでしょう。

弊社の取り組みの内容からSDGsを連想される方も多いのですが、根本にあるのはSDGsではないんです。一番大切なことは楽しむこと。楽しんで取り組んだことが結果として『良いこと』につながっていったらいいですよね」

SminkArtを活用して作ったモノたち

生活者を本質的に豊かにする活動が、結果的に企業も豊かにする

現在は、個人向けのワークショップや教育機関へのプログラム提供を中心としているが、今後は企業との共創活動を視野に入れる。こういった活動を行う際、しばしば議論されるのは「収益性」だ。

伊藤さんは現在クライアントワークをストップし、このプロジェクトにフルコミットしているという。どこにKPIを置いているのか、なぜこの経営判断をしたのか気になるところだ。

伊藤さん「このプロジェクトで一緒に取り組んでいる企業や教育機関は、私と個人的な関わりがあるところが多いです。もちろんモーンガータさんのご紹介もありますが、自分が立ち上げたという使命感もあり、信頼できる身のまわりの方やこちらからお声がけした方と取り組んでいくことが初期の段階では特に大切だと考えています。

例えば、初回のイベントはSHE株式会社とご一緒したのですが、私がNewsPicksのイベントにゲスト出演した際に担当者の方と知り合い、会社や担当者のビジョンやミッションと合致していることから、意気投合して実現しました。5月から実施している渋渋さんとの取り組みも、今年2月に行われたサステナブル・ブランド国際会議に参加した際に、先生と知り合ったことがきっかけで実現しました。

私が他の会社や組織を巻き込みながら活動をすることで、自社の認知度向上や自社ビジョンの実現に繋がり、結果として考え方が近い会社さんからお声がけいただくことも増えました。採用のシーンでも、COLOR Againのプロジェクトを知って応募してくださった方もいるようです。

企業向けに共創プロジェクトの立ち上げや研修の打診なども行っているのですが『どう利益につながるの?』と聞かれることがあります。弊社の代表の森がよく口にするのは、『お金は後からついてくる。それが必ず価値になることを信じて、続けることが大切』。会社のビジョン・ミッションを体現しているので、この取り組みが広がることは会社としてもメリットがあると考えてくれています。

また、感性って、意思の源だと思うんです。意思があるからこそ、仕事に情熱が生まれる。感性が鈍っていると、時代の空気も人の感情の機微も捉えることができません。人が人として感性を持つことに重きを置かないのであれば、全部機械化で良いのでは…と思ってしまいます。いまの日本で生きているからこそ感じ取れることを、このプロジェクトを通じて育んでいきたいですし、共感していただける企業や個人の方々と一緒に取り組んでいきたいです」

ー COLOR Againについて ー
COLOR Againは、2021年よりFICCとモーンガータの2社が中心となって取り組んでいる共同事業。自分なりの美を再発見するプロジェクトであり、社会に存在する同調圧力や既成概念に疑問を投げかけ、コスメに本来宿っている創造性や自信の力で、社会によって色あせてしまった個人の色を取り戻し、一人ひとりの可能性や多様性を尊重し合える社会を目指します。 
公式サイト:https://color-again.com/

2023年1月更新
取材月:2022年11月

テキスト:佐藤まり子