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遊び体験が柔軟性を高める? 子どもから学ぶ発想転換のコツ

子どもと接していると、その発想の柔軟さに驚かされることがあります。誰もが子ども時代を経験したはずなのに、大人になるといつのまにか頭が凝り固まってしまっているのを感じることも。

しかし、変化の激しい現代の大人社会でこそ、新規事業開発やマネジメント、新しい働き方などの面でも発想の柔軟さが求められています。

子どものように柔軟な発想をするには、どうしたらいいのでしょうか? 遊びを通して大人の柔軟性を高める社会人向け研修プログラム「Child Creative Learning ~こども視点に学ぶ発想転換法~」を運営する、こどもみらい探求社の小竹めぐみさん、小笠原舞さんにヒントを伺いました。

―小竹めぐみ(こたけ・めぐみ)
合同会社こどもみらい探求社共同代表。東京都出身。保育士として現場勤務、フリーランス、NPO法人設立の経験を経て、会社を設立。現在は京都のシェアビレッジに在住。不便な上になにかと思い通りに行かないここでの暮らしは嫌いじゃない。趣味は、俯瞰と実感。ある日ぽっくりと死ぬことを踏まえ、日々をしずかに謳歌している。

―小笠原舞(おがさわら・まい)
合同会社こどもみらい探求社共同代表。愛知県出身。大学では福祉を学び、社会人経験を経て、保育士となる。こどもたちから得た学びを広げることが、「Well-being=誰もがよりよく生きる社会」につながると思い、子育てコミュニティの立ち上げを経て、2013年に合同会社こどもみらい探求社を設立。
現在は神戸市長田区の下町情緒と多様性あふれる街に住みながら、人々とのつながりの中で私らしく、こども・家族と豊かに生きることを探求・体現中。

人間が自然じゃなくなっている?

「大人が子どものように柔軟に発想するためのヒント」をテーマに、お話を伺います。おふたりはもともと、子どもたちと接する仕事をされてきたんですよね。

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小笠原

はい。私は幼少期にハンデのある友人と出会ったことがきっかけで、大学で福祉を専攻し、子どもや障害のある人、高齢者、そしてまちづくりなどを広く学んでいました。

卒業後は会社員を経験してから、25歳で保育現場に入りました。ちょっと変わった保育現場への入り方かもしれませんね。2010年に小竹と出会って任意団体で活動を始め、2013年に合同会社こどもみらい探求社を立ち上げました。

個人としては、神戸市長田区の下町に、4歳と0歳の子ども、夫と犬と住んでいます。ご近所さんの力を借りたり、街の人たちとのつながりながら、まちぐるみで子育てをしています。

小竹

私は小笠原とすごく異なるタイプで。どこからお話ししようかな……(笑)。

「家で、家族がどう過ごしているか」に興味があったので、20歳ぐらいから世界を旅していました。完全に趣味で、ひとりでフィールドワークみたいなことを。

その経験を通して、「人間はもともと自然物のひとつなのに、あまり自然じゃないな」と感じたんです。それで、自然に戻っていくお手伝いを生業にできたらいいな、と。子どもたちは、自然な姿をしていますよね。

大人は自然でなくなってしまっているのでしょうか……。

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小竹

人間って、良くも悪くも吸収力が高いんですよね。大人になるまでに、ルールや当たり前、普通を吸収して、それを大事にしながら組織を作ったりしています。

だから、自然じゃないことが悪いとは限りません。ただ、なぜそういう風に凝り固まっているのかを深掘りしてほぐしてみると、違うやり方が見えてきたりします。

それに、まず私自身、個性の偏りが激しいんですよね。

そうなんですね。

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小竹

凸凹があるタイプなんです。保育士になってから、「ひとつの組織の中でずっとやっていくのもいいけれど、自分にとって自然なスタイルで生活や仕事をしたいな」と。

それで独立をして、フリーランスの保育士になりました。小笠原と同じタイミングで関西に引っ越し、今はシェアビレッジに住んで、オリジナルな暮らし方・働き方をしているかなと思います。

こどもみらい探求社の活動の様子

一人ひとりが持っている当たり前や普通を解きほぐす

そうしたバックボーンや考えを持つおふたりが、大人向けの研修プログラムに取り組まれているんですね。

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小竹

大人たちが自分たちの限界や枠を自分で決めてしまって、なかなか柔軟にアイデアを出せずに行き詰まっているのを、私たちはもったいないと思っていました。

社会人向けの研修プログラム「Child Creative Learning」によって、一人ひとりが持っているルールや当たり前、普通を解きほぐして、無限の可能性をもう1回蘇らせることができたらいいなと考えています。

たしかに、自分の発想力の限界を決めてしまっていることはありますね……。

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小竹

外部と手をつないで発想を出すときも、コンサルタントなど他の誰かに依頼するかたちが主流だと思います。

それも良いとは思っていますが、自分たちの中にもアイデアは眠っているんですよね。

小笠原

自分を解きほぐして新しいことをやるよりも、日々のルーティンを着実にこなしていったほうが周りからの評価が高まることってありますよね。褒められたり、昇給したり。私もそういう時期がありました。

でも、そうしているうちに「本当はこっちの方がやりたい」「本当はこれにワクワクするな」といった感覚を忘れていってしまう…

だから、1回立ち止まってみて、「子どもの頃に持っていたワクワクって何だっけ?」「そういえばこういうことが好きだったな」と過去の自分にアクセスする機会として、研修プログラムを作っています。

社会人向けの研修プログラム「Child Creative Learning」

大人たちが遊びを作る

研修プログラム「Child Creative Learning」では、大人はどんなふうに学べるんでしょう?

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小笠原

いろいろな内容を用意していますが、「遊び開発」はいちばん盛り上がりますね。制限時間を設けて、日常のなんてことのないものを題材にしてチームで遊びを作るんです。

例えば、「輪ゴムで遊びを作ってみましょう」「今日は綿棒です」みたいな。それをポンと渡されて、制限時間内にアイデアを出し合って遊びを作る。

すると、みなさん必死に考えるんですよ。年齢や役職も超えて、「1本の綿棒で何ができるか」を考えていくと、本当に豊かな発想が出てきますよ。

遊びを作るワークショップの様子

「遊びを作る」って、とてもクリエイティブな作業ですね。

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小笠原

制限時間があるので、「このアイデアは楽しくないかな」なんて考えていられません。とにかく自分の思いついたことをポンポンと出す経験をするんです。

そうすると、「え、そんなおもしろいアイデアがあったんだ」「それもありなの?」など、みなさんが固定観念を飛び越えてくるんですよね。私たちがもっとも体感してほしいのはそこです。

凝り固まったものを剥いだときの気持ちよさ、そこで出てくるアイデアや発想の豊かさに触れて、「うわ、こんなもの眠ってたのか!」と自分でびっくりしたりします。

小竹

研修全体として、子どものような柔軟な発想を出せるように、いろいろな仕掛けをしています。そのひとつは、名前です。研修の日は、子どもの頃に呼ばれていた名前で参加者同士を呼びあってもらうんです。

普段の「松本部長」「田中社長」ではなく、会社の偉い人も「まっちゃん」「たく坊」なんて呼ばれて。そうすると距離が縮まって、衝撃のチームビルディングになります(笑)。

確かに、親戚にしか呼ばれない名前ってありますよね。

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小竹

なぜ呼び方を変えるかと言うと、やっぱりそれぞれの中にある子どもの部分にアクセスしてほしいからです。

そう説明すると、意図が伝わり「なるほど、それならば思い出そう」と、みなさんのとっておきのニックネームを教えてくれます。和気あいあいと、非常に盛り上がるので、私たちもいつも楽しみにしていおる時間です。

あそび開発のワークショップ

小笠原

こんなふうにさまざまな仕掛けを入れつつ、遊び開発では子どもの頃のように自由な発想を出してもらいます。

大人になると、まだ完成していないアイデアを言うのは難しくなるのですが、プログラムを通して変わっていきますね。勇気やチャレンジ精神、ひらめきなど、大人になると失ってしまいがちな力を思い出せます。

小竹

自分の経験から、思いつく限りのアイデアを全て出すんですよね。「あの人、いつもはあんなに意見言わないのにおもしろい」「私、なんかおもしろいゲームを考えちゃってる!」など新たな気づきがあります。

そんな経験値を持って仕事に戻ると、柔軟な発想ができて、パラダイムシフトが起きてくると思います。

プログラムには、ほかにはどんな内容がありますか?

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小笠原

「子ども大人チェック表」ですね。項目の例を挙げると、「道端に咲いている花に気づくかどうか」。

子どもは、すぐ気づくんですよね。でも、大人が道を歩いているときに頭が他のことでいっぱいだと、足元にある小さな美しさに気づきづらいんですよね。

10項目を見て、普段の自分は子どもと大人のどっちのスイッチが入りやすい人なのかを確認していきます。

子どもと大人のスイッチ……。あまり考える機会がないですね。

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小笠原

結果がどちらでも、良い・悪いはありません。あるときは、道端の花に気づけるマインドが、また別のときは大人になるまでに身につけたルールや当たり前も大事になりますから。

もっとも大切なのは、自分がどういうタイプなのかを知ること。そして、どちらにも調節できるスイッチがあるとすごく便利です。

子どもはスイッチを持ち合わせてないけれど、大人には自分の中に小さい子どもがまだ住んでいるので、どちらにも切り替えられるんです。

プログラムに参加した方々からはどんな反響が届きますか?

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小笠原

遊びを通してみんながいい意味で油断するので、お互いに知らなかった一面が見える点が好評です。

例えば、上司や経営層がいつもと違うお茶目な面を見せられたら、その後の会社でも話しかけやすくなったり、柔軟なアイデアが出やすい組織になったりしますね。

柔軟な発想は、自分の内側にある

大人が子どものように柔軟に発想するためのヒントを教えてください。

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小竹

物が飽和状態であり、すごく近くに見落としているものがある。けれど、柔軟な発想は全部、自分の内側にあるんです。そっちを生かしていく。

すでにあるものを見ないであれもこれも持ってくると、「私がこれをやる意味はどこにあるんだろう?」「この会社がやる意味は?」と迷いが生じて、もったいないんですよね。

保育がバックボーンにあることはどう生きていますか?

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小竹

クラス運営は、一人ひとりが自然で、違いのある子どもたちをどう生かすかをファシリテーションすることです。

大人になるにつれて擬態することを覚えていきますが、まずは素材に目を向けて、みんなで大事にするものを確認し合う。こういった部分はやっぱり、私たちの保育士マインドから始まっていますね。

「擬態」と「素材」はキーワードかもしれませんね。

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小竹

そうですね。評価される、ジャッジされる、色をつけられる……。そういった経験を通して、子どものときは素材だった私たちは社会への擬態を覚えていきます。

擬態も大事なことですが、可能性が失われる場合もあります。改めて自分自身の素材そのものを見つめるために、私たちのプログラムを活かしてもらいたいです。

私たち大人が発想を柔軟にするために、普段からできることはありますか?

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小竹

概念を外すこと、ワクワクすること、本音を言うことの3つを意識してもらえれば、柔軟性を高められると思います。

また、一般の社会人向け・保育士向けの研修でお伝えしていることなのですが、まずはひと休みの時間を作ってみてはどうでしょうか? ひと休みは遊びや余白そのものですから

子どもも大人も、疲れているとイライラしたりして、柔軟な発想が出ないので、柔軟に発想するための余白を持つことは大事なんです。

どうしたらひと休みをしやすくなるでしょうか?

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小竹

みなさん忙しくてToDoリストに溺れてしまうこともありますよね……。そんな時こそ「お茶を飲んでほっこりしよう」、「ヨガをしよう」「猫と触れ合おう」など何でもいいので、まずはひと休みする時間を意識的に作ることからはじめてみてほしいです。

小笠原

特に役職が高い方ほど、積極的にコーヒー休憩をとるなど、ひと休みや遊びの時間を作って、周りの社員に見せられるといいですよね。

人間関係や日常の中に、子ども時代のような遊びの要素が入ってくると、柔軟な発想が生まれやすくなると思いますよ。

2022年9月取材

取材・執筆:遠藤光太
編集:鬼頭佳代(ノオト)