B Corp認証のこれまでとこれから | UMITO Partners編 イベントレポ―ト
「わざわざ」「ハーチ」「ファーメンステーション」「UMITO Partners(ウミトパートナーズ)」「クラダシ」。この5社に共通するキーワード、なんだと思いますか。
「パタゴニア」「オールバーズ」「ダノン」「ベン&ジェリーズ」「ボディショップ」。10社に増やしてみました。いかがでしょうか?
―― 答えは、すべて「B Corporation(Bコーポレーション)」という認証の取得企業であることです。
6月22日夜、渋谷区恵比寿の英治出版オフィスに併設されたEIJI PRESS Labにて、「B Corp認証のこれまでとこれから | UMITO Partners編」と題されたイベントが開催されました。
当記事 「B Corp認証のこれまでとこれから | UMITO Partners編」と、次回予定の 「B Corp認証のこれまでとこれから | ハーチ編」では、それぞれのイベントの様子をお伝えしつつ、同時に、急速に注目を浴びているB Corp とは一体なんなのかに迫ります。
B Corpとは | 他の認証制度と異なる「相互依存宣言」
SDGsやESGという概念が広く知られるようになり、「社会的によい企業」であることの意味や重要性がここ数年で急速に高まっています。そして、よい企業であることを認証するさまざまな制度や仕組みが生まれています。
当記事で紹介しているイベント[B Corp認証のこれまでとこれから | UMITO Partners編]の登壇者の1人、B Corp認証取得支援コンサルタントの岡 望美さんは、イベント会場でB Corpについて以下のように説明しました。
―岡 望美(おか・のぞみ) | B Corp認証取得支援コンサルタント
外資系投資銀行、国内大手メーカーでの経営企画やマーケティング、政府系金融機関での調査業務、スタートアップでのサステナビリティ推進などに従事。幅広い経験と知見を活かし、日本の企業が国際企業認証であるB Corpを取得できるよう、伴走型の支援を行う。認証取得推進に加え、認証取得支援コンサルタントの養成、認知拡大に向けたイベント企画、講演や執筆などの活動にも従事。B Corpに関する情報提供サイト
岡
基本的な情報を分かりやすくお伝えすると、B Corpはアルファベットの「B」が目印の、世界90を超える国で約7,000社が加盟しているアメリカ発の国際的な民間認証制度です。
「消費者にも株主にも、取引先にも従業員にも地域コミュニティにも、社会で暮らす全員にとってよい会社」を認証するのがB Corpであり、「B」は社会全体に利する「公益」を意味し、それを重視して社会価値を発揮していることを証明した企業にのみ認証が与えられています。
ただ、私が思うB Corpの重要なポイントは、「取得して終わり」ではなく、取得企業同士がコミュニティとなり互いに社会をより良い場所へと変えていこうという取り組みを実施している点です。ここが、数ある多くの認証制度と異なります。その考え方を象徴するように、認証取得時にはCEOによる「B Corp相互依存宣言」への署名が求められます。
参考 The B Corp Declaration of Interdependence
あなたにとってB Corpとは? | UMITO PartnersのB Corp取得ストーリー
「あなたにとってB Corpとは?」という問いかけからスタートしたイベントは、登壇者の問いへの回答と簡単な自己紹介を経て、「私にとっては”エール”ですね」と答えたUMITO Partnersの藤居 料実さんのプレゼンテーションへとつながっていきました。
藤居さんは2021年6月のUMITO Partners設立時よりバックオフィス業務全般を担当しており、同社が2023年4月に国内23社目の企業としてB Corp認証を取得した際にも、申請業務を担当されていました。
それではここからは、イベント中に藤居さんが語った言葉と、それに対する岡さんのコメントをご覧ください。
―藤居 料実 (ふじい・かずみ) | 株式会社UMITO Partners
新卒入社した食品専門商社で体験した産後の働き方に対する疑問から、産後ケアのNPOが主催する女性支援のプロジェクトに参画。対話を通した人材支援の手法を深めるためにコーチングの国際資格(Certified Professional Co-Active Coach)の取得を経て、人と組織の仕事にキャリアチェンジ。UMITO Partners設立時よりバックオフィス全般を担当する一環でB Corp認証の申請を担当。UMITO Partnersは23年4月、国内23社目の企業として認証を取得。
UMITO Partnersの創業秘話や、藤居さんのこれまでの歩みについては、こちらの記事をどうぞ:
『UMITO Partners 藤居 料実さん |ひと足さきに、ほしい未来へ – 八木橋パチの #ソーシャルグッド雑談』
藤居
UMITO Partnersは、海のサステナビリティを包括的に守るために、水産資源を未来に残し、漁業や漁師さんの生活をサステナブルにするための活動を支援しています。
その活動の特徴は、科学調査部門を社内に持ち、科学的根拠に基づいたアプローチを大切にする一方で、経験や慣習を大事にすることが多い現場の漁師さんたちとの密なコミュニケーションです。
藤居
会社立ち上げ時からB Corp認証を取ろうと代表の村上春二は言っていました。村上はパタゴニアで働いていた経験もあり、社会と環境によいことと事業活動を重ね合わせて表現・発信できるB Corpのことは相当古くから知っていたようで、他の認証制度は頭になかったそうです。
ただ、私たちは総勢6名の小さな会社であり、忙しさから書類や資料の作成は必要最低限になりがちで、BIA(B Impact Assessment)という申請の第一歩となるアセスメントを受ける際は、自分たちの活動を言語化するのに苦労しました。
藤居
B Corp認証は創業1年から申請することができます。当初そこを目標にしていましたが、自己審査を行い80点はいけそうだとなってから提出書類を用意しきるまで、半年ほどかかりました。これは業務が忙しかったのと、1つ1つの回答にすべて根拠資料をつけていくというのが大変で。
事業を通した環境へのインパクトをどう計測するかという点では、元々科学的なデータに基づいて漁師さんたちの活動計画を作成したり、数値を報告書にまとめたりしているので、補完的に資料をまとめていくだけで済んだのは幸いでした。
証拠資料の提出後、B Corpを運営するアメリカの非営利団体B Labのアナリストによるインタビューが行われ、そこでさまざまな質問に答えていきます。質問に適切に答えられるよう、取得支援の岡さんにサポートをいただきながら、B Labとのコミュニケーションを続けていきました。
ただ、高得点を取るために新たな取り組みを始めたということはあまりなかったです。むしろ、あえて設問に答えなかったものもありました。
藤居
B Corp認証取得には、200点満点の「B Impact Score」のうち、対象5分野(ガバナンス・従業員・コミュニティ・環境・顧客)の合計で80点以上が必要となるのですが、私たちは95.8点をいただきました。
多くの点を取得できたのが「顧客」です。私たちは「環境」が1番たくさんの点をいただけるだろうと思っていたのですが、岡さんからのアドバイスやB Labからもフィードバックもいただき、私たちの支援が、顧客の取り組みを通じ、具体的にどれだけ水資源に良い影響をもたらしているか、そして生物多様性を守っているかを証明したことが高く評価されました。
認証取得後の変化ですが、まず、メディアの取材が増えましたね。これはメディアの先にいらっしゃる読者や視聴者に海のサステナビリティに関する問題を知っていただける機会、そこでの私たちの取り組みを知っていただける機会が増えるという意味なので、大変ありがたいです。
それから、私の自社理解度が爆上がりしました(笑)。でも、これは私だけじゃなくて社員みんなも同じかもしれません。BIAの200の設問に答えることは、200の視点を得たということだったのだと思います。そのおかげで、自分たちの業務に対する視座や取り組みを深められたんじゃないでしょうか。
そうそう、先日、オフィスの引っ越しを祝うイベントがあったんですけど、そこでも「どうしたらイベントによる環境負荷をオフセットできるだろうか?」という話し合いが、社員間で自然と発生しました。その結果として、イベントごとに環境負荷を計測する仕組みが整いました。
BIAの評価軸は実は2つあるんですよ。1つは、日常業務や行動に対して加点していく評価。そしてもう1つは、「IBM」(Impact Business Model)と呼ばれるその企業のビジネスモデル評価です。
前者が1問あたり0.1〜3点程度の配点なのに対し、IBMは一気に10〜30点程度を獲得できる可能性があります。ただ、そのビジネスモデルの社会的な意義とそれがしっかり売上につながっていることを証明するのが難しいんです。
でも、一方で、ここにしっかりと取り組み自分たちの活動を突き詰めるプロセス自体が、自社をよりよいビジネスへと導いていくものではないかと思っています。UMITO Partnersさんは「顧客」のIBMで高得点を取っているんです。
岡
参考: 初めの一歩はB Impact Assessment (BIA)から
参考: 【BIA対策】秘密の扉、IBM
ディーセントな会社であること | B Corpたらしめているもの
最後のディスカッションタイムでは、なにがB CorpをB Corpたらしめているのか、そして今後のB Corpに何を期待するかが話し合われました。
筆者の問いかけと、それに対する各登壇者のコメントをご覧ください。
環境問題や社員のウェルビーイング、地域復興やマイノリティ支援など、テーマを絞ってそれに取り組む企業や組織も重要だけど、それだと他のものがおざなりになってしまったり、それこそ下手したら、ないがしろにされてしまったりすることもありますよね。
だからこそ、「ディーセントな会社であること」を包含的に評価するB Corpの仕組みがとても重要だと思うし、それが自分にとってはB Corpの最大の特徴です。では、あなたにとってのB Corpの特徴と愛されポイントはどんなところでしょうか。まずは廣畑さんいがですか?
パチ
―廣畑 達也(ひろはた・たつや) | 英治出版株式会社
編集者、プロデューサー。駆け出しの頃、社会起業家という存在に出会い、事業を通して「経済性」と「社会性」を両立させるそのあり方に感銘を受ける。以来、12年以上にわたり「ソーシャルイノベーション」とB Corpをはじめとした「よい企業」について取材を続け、人が持つ可能性を解き放つためのコンテンツづくりに取り組んでいる。これまでの担当書。
廣畑
認証制度そのものは本当に数多くあるので、探せばB Corpに似たようなものもあるかもしれませんね。
でも、深く突っ込んだ200もの設問を通じて企業としての在り方と実際の行動を問うてくるものが他にあるかというと、それはないんじゃないかと思う。そしてこの200という設問の数は、そのまま「共感ポイント」の数ではないでしょうか。
よい会社とそれを評価する仕組みや制度を長いこと取材していますが、これだけたくさんの共感ポイントを社員やコミュニティにしっかり提示してくるものを、僕は他には知りません。
「聖人君子じゃないんだから、こんなの全部なんてできないよ」と誰もが思うと思います。その通りです。でも、社員はこの中に、自分が取り組みたいものや役割を見つけることができるはず。
B Corpはそんな社員たちの「共通言語」となり、お互いの背中を押し合うことを容易にしてくれるものではないでしょうか。
―吉備 友理恵(きび・ゆりえ) | 株式会社日建設計
2017年日建設計NAD室に新卒入社、一般社団法人FCAJの出向を経て現職。都市におけるマルチステークホルダーの共創、場を通じたイノベーションについて研究実践を行う。共創を概念ではなく、誰もが取り組めるものにするために「パーパスモデル」を考案し、書籍化。日建設計本社にある共創の場PYNT(ピント)の企画運営も手掛ける。
吉備
B Corp認証を取ろうとするかどうかはともかく、200の質問を社内でみんなで見て、話し合うだけでも大きな意味があると思う。そして一緒に長期的な何かを行う仲間を見つけるための「コ・クリエーション支援ツール」のような見かたをしてもいいんじゃないでしょうか。
次回のイベント「ハーチ編」は、私の所属する日建設計本社にある共創の場PYNTで開催するんですが、PYNTではB Corp認証を昨年取得した、環境にもやさしいアメリカンベイクショップのovgoさんのクッキーなどを販売しています。そこでの社員の反応は「B Corp? 知らないけど、クッキーおいしいね」という感じなんですね。
でも、社内でB Corpイベントが開催されたり、自分の身近なところでB Corpについて熱く語られているのを目にする社員が増えれば、興味を持つ社員も増えていくんじゃないかという期待があるんです。
―我有 才怜(がう・さいれい) | 株式会社メンバーズ 脱炭素DX研究所
2017年メンバーズ新卒入社。社会課題解決型マーケティングを推進するほか、気候変動への危機感や市民運動への興味から国際環境NGOでも活動中。2023年4月1日、メンバーズ社内に開設された「脱炭素DX研究所」の初代所長に就任。IDEAS FOR GOODと共に「Climate Creative」(創造力で気候危機に立ち向かうコミュニティ)を運営中。最近の関心テーマは気候変動・民主主義・土。
我有
私にとって、B Corpは「旗」、フラッグですね。企業規模が大きい会社にとって、みんなが同じ方向を向き続けることは本当に難しいことだなと感じています。だからこそ、環境やジェンダーや地域コミュニティなど自分の取り組みたいことをその中に見いだせるB Corpは、社員が目指したくなる、そして集いたくなる旗にふさわしいものだと思います。
B Corp取得企業はまだ日本に20数社でほんのわずかですが、ここ10年で「サステナビリティ推進室」の存在が日本で急速に広がったように、今後10年で「ベネフィット推進室」が広がるかもしれません。
社会運動の成功の分水嶺が人口の3.5%と言われますが、B Corpがそれくらいの規模感のムーブメントになると社会や暮らしも大きく変わるかもしれないですね。
―松田 共代(まつだ・ともよ) | ハーチ株式会社
株式会社ベネッセコーポレーションでの勤務を経て、2019年にハーチ株式会社に入社。日本のサステナビリティを世界に発信する英語メディア「Zenbird」等のWebメディア企画・運営、企業向けサステナビリティ支援などに携わる。B Corp取得に向けた動きに中心メンバーとして関わったことを機に、自社のサステナビリティ経営推進に着手。ステークホルダーダイアログの実施など、さまざまな取り組みを進めている。
松田
認証取得に向けてここ数年活動してきた私にとって、B Corpは自分たちの向かう道や行動の先を常に示し続けてくれる「みちしるべ」でした。そして「こういう価値があったのか!」と自分たちの活動に対する自らの発見もたくさん与えてくれました。
やってきたことを真っ当に評価してもらえるのがB Corpだと思います。
これはB Corpに限らない話ですが、「よいことをやってる会社に光を当てよう」という考えが広がっていって欲しいなと強く思いますね。そしてB Corp認証をいただいた私たちハーチ自体が、その広がりを作っていくというような活動もしていくべきかもしれないとも感じています。
私にとっては「エール」とオープニングで言いましたが、UMITO Partnersの取り組みはあまり光が当たることのない裏方作業に近いもので、かつ、説明も難しいものが多いんです。だから、自分たちの想いや苦労も、なかなか表に出ることがない。知ってもらえる機会が少ないんですね。
B Corp認証取得の取り組みは、そんな自分たちの活動の意義を自らが見つめ直すものであったし、取得はそんな我々の活動に「それでいいんだ。迷わず進め」とエールを送ってもらったような気持ちでした。そしてこのエールのバトンを、漁業の現場でサステナビリティに取り組む人たちに、今度は送る側として届けていきたいですね。
藤居
次回 [B Corp認証のこれまでとこれから | ハーチ編]のイベント・レポートでは、ハーチ社でB Corp認証取得業務を担当されていた松田さんのプレゼンテーションを中心にご紹介します。お楽しみに!
Happy Collaboration!
著者プロフィール
八木橋パチ(やぎはしぱち)
日本アイ・ビー・エム株式会社にて先進テクノロジーの社会実装を推進するコラボレーション・エナジャイザー。<#混ぜなきゃ危険> をキーワードに、人や組織をつなぎ、混ぜ合わせている。2017年、日本IBM創立80周年記念プログラム「Wild Duck Campaign - 野鴨社員 総選挙(日本で最もワイルドなIBM社員選出コンテスト)」にて優勝。2018年まで社内IT部門にて日本におけるソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。 twitter.com/dubbedpachi
2023年8月16日更新