まるで野良ネコ? ブックマンション管理人に聞く「ネコと小商い」 「TWDW2021」2日目レポート
毎年11月の「勤労感謝の日」に合わせ、7日間にわたって開催される働き方の祭典「Tokyo Work Design Week(以下、TWDW)」。9年目を迎えた今年は「ネコに学ぶ働き方」をテーマに、オンライン開催されました。
2日目のタイトルは「ネコと小商い」。TWDWオーガナイザーの横石崇さんと、吉祥寺のシェアする本屋「ブックマンション」管理人の中西功さんによる対談が行われました。
<イベント概要>
Tokyo Work Design Week 2021
11/18(木)
2日目「ネコと小商い」
■ゲスト(敬称略)
中西 功(Ko Nakanishi)|吉祥寺・ブックマンション管理人 無人古本BOOK ROAD店主
楽天在籍中に東京都武蔵野市の商店街の一角を借りて古本屋をはじめた中西さん。気に入った本があれば、設置されたガチャガチャで代金を支払う24時間無人スタイルの古本屋「BOOK ROAD」を日本で初めて実現しました。
横石:24時間無人本屋って思いついても実際やるのって大変じゃないですか。万引きされたどうしようとか、何か問題が起こったらどうなるんだろうって不安になりませんでしたか?
中西:私は東京の小平市で育ったのですが、周りの農家が無人販売をやっていて。それが原体験にあったので、無人でもいいんじゃないかと、他の人以上に考えたんだと思います。
横石:無人販売の可能性っていいですね。更にその体験がシェア型本屋につながっていったわけですね。
中西:本屋を6年間運営したら非常に楽しかったんです。もっと多くの人にも同じ経験をしてほしいという気持ちから、「シェア型本屋」というアイデアを思いつきました。シェア型本屋は、1つの店舗の中にある仕切られたいくつもの棚を、複数人で共有し、それぞれの棚主が好きな本を並べて販売するというスタイルの本屋です。
横石:楽天を辞めて起業されたわけですが、一般的には市場調査やビジネスモデルを構築して、売上目標やKPIはこれでみたいな感じで事業設計をやりそうですが、そんな感じではなかったのですか?
中西:ここ10年ぐらいで、本屋さんの数は半分ぐらいに減っています。特に新刊書店は減っていて、もっと別の形態を増やしていけないと思っていたところで、シェア型本屋を思いついたんです。プロトタイプとして世に放ち、広まったらいいなと思った気持ちが強かったので、利益を考えずに取り組みました。
この日の会場は、渋谷ヒカリエ8階にあるシェア型書店「渋谷〇〇書店」。中西さんのシェア型書店に感銘を受けた横石さんが発起人となり、今年10月にオープンしました。仕事で本屋に関わるのは初めての横石さん。やってみた感想はずばり「面白い」でした。
横石:シェア型本屋は、棚主が店番をするのが特徴的です。棚主が店番をやる日はお店をやるけど、不在の日はお店自体を閉める。
中西:通常は1人が店主としてずっとお店にいる必要があると思うのですが、コンディションもあるじゃないですか。「今日はダルい」みたいな。そういったことも、店番制ならリスクヘッジできます。あと、3カ月に1日ぐらいの店番なら楽しんでやってくれるという事情もあります。
横石:「ブックマンション」も無人本屋「BOOK ROAD」も、いかに自分の手を介さないか、コントロールしなくてもいい状況にするかみたいなところが商いのポイントだと思ったのですが、なぜそうしようと考えたんですか?
中西:一つは、僕が本当に怠惰な人だから。あと、何か続けようとするなら、何もしなくても継続する仕組みにしておいたほうがいいかなと思ったんです。過去にはずっと店番していたときもあったけど、やっぱりつらかった。楽しいと思えるレベルをみんなで持ち寄って、運営していくのがいいなって。
あとは、みんなの“楽しい”を奪わないようにしています。自分が「これやっておいたよ」をすると、実はそれをやるのを楽しみにしていた人もいることがある。だから、なるべく何もしないことで、みなさんに自発的に動いてもらうように意識しています。
横石:すごくコレクティブ(共同体)な発想ですよね。実際に僕も管理人なんですが、お店に行かなくても運営がまわっています。
ここから、この日のテーマ「小商い」を深堀りしていきます。シェア型書店のように、新しいことを始めるポイントは何か?という質問に、中西さんは「新規性」と「継続性」だと答えました。
中西:楽天市場に出店するお店や企業のサポートをしていたのですが、その時も新規性が重要だと伝えていました。何か新しいことを取り組むと、周りの人から比較的注目してもらいやすいので。
たとえば、無人本屋も店舗を借りて全部まるっとやったのは僕しかいなかったので、その瞬間、日本で一番の専門家になったんです。本屋さんって、上には上がいますよね。でも、新しいことには比較対象がない。小資本で何か取り組むなら、新規性は抜きん出るための武器になります。
新しいお店のオープンさせるなら、自分自身が気に入った場所にこだわりたいという中西さん。その話を聞いた横石さんは、シェア型店舗を広めていくなら、大阪や福岡といった大きな商圏に進出するのが一般的では?という疑問を投げかけました。
中西:教えるよりも、教わるほうが好きで。教わると「それがどこかで使えないかな」と思うことがあるんです。
たとえば、ブックマンションで店番をしていた時に、個人が作る小冊子の「ZINE」について教えてもらいました。その話はとてもよかったけど、僕は作るのが苦手なので、ZINEを作っている人たちを集めて、吉祥寺のパルコの屋上でイベントを開いたんです。70人ぐらい参加してくれて、教わり放題。主催者の立場を利用して、自身の興味がつながっていきました。
横石:中西さんは「ZINEの人」としても界隈では認知されていますよね。
中西:ずっとZINEの話をしていたら、取材が入るようになったんです。その記者には3カ月ぐらいずっとZINEが面白いと伝えていた。そしたら、少しずつ理解を示してくれて、取材に来てくれることになったんです。
横石:商売っ気があまりないエピソードのように思いますが、儲かる・儲からないの物差しで測る感じではない?
中西:僕の場合はそうです。ただ、目先が儲からなくても、何か副次的に仕事になることはあります。
楽天時代の話ですが、すべての事業を見ると、利益を出しているところと、出していないところがあるのを知りました。なるほど、会社ってすべての事業で利益を出さなくてもいいんだ、と。なので、自分がやるときは、自分のキャパシティの数分の1でできることをちょっとずつ取り組むみたいな感じでやっています。
たとえばイベントをやるとき、1カ月準備してやらないといけないとなると、それ以外のことができなくなってしまう。だから、小商いも一つのことに専念するより、何個もやってずっと続けていられるような感じにする。そして、どれかの利益が出ればいいと考えています。
横石:そこが大事にする2つ目のポイント「継続性」ですね。
中西:人件費削減という言葉は嫌いですが、そもそも人件費が発生しないようなやり方、手伝ってもらうけど楽しんでもらえるようなやり方を意識しています。
TWDWを9年続けてきた横石さんも、ウェブサイト更新やプログラム編成をシンプルにしたことでスタッフの負担軽減になり、心が楽になったことで継続につながったと考えているそうです。
中西:ずっと全力投球できる人ならいいんですが、そんな人ばかりじゃない。いい本屋さんができたなと思っていたら、数年後になくなっているとかもあって、そこにはモチベーションの問題もある。だから、モチベーションが極端にない状態でも続けられるものがいいんです。
中西さんは確信をもって行動しているのか、直感で行動して後から考えているのか。参加者からは、こんな質問が出てきました。
中西:段取りは全くなくて、何となく行動しています。甲府の新店舗の話も、5年くらいずっと甲府が好きで行っていただけですから。
パルコの屋上で開催したイベントも、いきなりパルコに相談しても無理だったと思うのですが、以前からお世話になっている不動産屋さんに、イベントの話をしていたら連絡してくれて。それも、不動産屋さんに何となく話をしていただけなんです。すでに理解のある間柄だったから、手伝ってもらえることになったというのもありますね。
横石:中西さんは、いわゆるイヌ型が主流の社会とは違う世界線にいますよね。そして組織のネコ、組織のトラとも異なって、組織から飛び出した「野良ネコ」みたいな印象を受けます。
中西:組織から離れると、自分ですべてを決められて、好きなことだけできる。だから、時間が余って、他の人以上に何か新しいことができたり、不安定な状態を楽しめたりするのかもしれません。
自分の好きなことやっているので、一定の安心感があるんです。ここに自分が楽しめる領域があるから、だからこそ不安定な状況になってもいっぱい作り出して、いっぱい実験していける。そして、またどんどん好きなことが増えていったり、違う世界が見えていったりするのかなと。
違う世界が見えていくというのは、その人自身の解像度が高くなっていることだと思うんです。その中で、どんどん攻めていって、振り返ってみたら周りから注目される状態になっている。こういうのがループしていったら、人生が面白いですよね。
Tokyo Work Design Week 2021 レポート
2021年11月取材
2022年1月18日更新
執筆:黒宮丈治
編集:有限会社ノオト
グラフィックレコーディング:しおりん