変えないと、家庭も企業も国も危うい?!研究者がデータ&ファクトから語る、「働き方」と「休み方」の現在地(京都大学・柴田悠教授)
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2019年に働き方改革関連法が施行されてから、まる5年。「働き方改革」の言葉は社会にすっかり定着し、その効果は有給休暇取得率の向上など、数字にも表れ始めています。
一方で日本の労働時間は依然長く、数字に上がって見えてこないサービス残業の慣習は、根強く残っているのが実情です。業界によっては人手不足がますます深刻で、限られた従業員が長時間労働をしなければ会社が持たない、という悲痛な声も。
少子化が進み、労働人口がますます減ることが見込まれるこれからの日本で、これ以上の働き方改革・休み方改革は難しいのではないか?
そんな懸念に、データとファクトを重ねてNoと答えるのは、京都大学の柴田悠(はるか)教授です。人手不足が加速するからこそ、働き方改革をゆるめず、長時間労働を改善せねばならないのだ、と。
今の日本社会はどんな状況で、何を変える必要があるのでしょう? 柴田先生の提言を、「休める働き方」を推進するライターの髙崎順子さんが聞きました。
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柴田悠(しばた・はるか)
京都大学大学院人間・環境学研究科教授、社会学者。1978年、東京都生まれ。京都大学博士(人間・環境学)。専門は社会学、社会政策論。著書に『子育て支援が日本を救う――政策効果の統計分析』(勁草書房、社会政策学会賞受賞)、『子育て支援と経済成長』(朝日新書)など。少子化対策や社会政策の専門家として、衆議院の各種委員会や省庁の会議などにも登壇している。寄稿・番組出演多数。
問題は「フルタイム男性社員」の働き方
この連載ではいろんな職種・業種の方に「休める働き方」についてお聞きしています。
個別の例はどれも興味深いものばかりなのですが、「日本全体で見るとどうなっているのか?」を知りたくて、今日は柴田先生に取材をお願いしました。
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髙崎
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柴田
「休める働き方」については、「働き方」と「休み方」の両方を考える必要があります。
まずは「働き方」の方から、日本の現状を示すデータとファクトを見ていきましょう。
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柴田
ある国の「働き方」の特徴は、労働時間の長さを他国と並べることで浮かび上がってきます。
労働時間の統計は日本政府が発表していますが、「平均年間労働時間」の統計には、未申告分やサービス残業、いわゆる「かくれ残業」は入っていません。また、「生活時間調査」の統計には、それらは入っていますが、そのままの数字では実態が正確につかめない面があります。
と言いますと?
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髙崎
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柴田
まずこのデータでは、専業主婦などの無業者も含まれていますし、正規雇用と非正規雇用、フルタイムやパートや学生バイトなど、契約によって労働時間の差がある人々も一緒に集計されています。
より実態に近いデータを把握するためには、これらを考慮せねばなりません。他国では、働き方の実態を考慮した統計をまとめています。「フルタイム」で働いている人のデータを抽出し作成したのが、下のグラフです。
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柴田
一番新しい2021年のデータで、週休2日を仮定すると、日本の男性は1日10時間弱、女性は8時間でした。
他の先進国のデータは2023年のものですが、女性も男性も1日7〜8時間程度です。日本の男性は他国に比べ、1日2時間ほど長く働いていると分かります。
1日2時間ですと、平日5日で10時間。まる1日多く働いていることになりますね。実質的に、週休1日と変わらない労働時間では……?
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髙崎
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柴田
これでも働き方改革関連法の施行から減っていて、2016年の男性の1日の平均労働時間は10時間を超えていたんです。
労働時間の経年変化を見るグラフを作ったところ、2019年を境にようやく短縮している傾向がはっきり表れました。
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柴田
先進諸国はすでに数十年前から、日本より短い1日8時間台で推移しています。そして先ほども言いましたが、日本の女性の労働時間は、この先進諸国並みです。
日本の長時間労働の問題は、主に正規雇用やフルタイムの男性の働き方にあると言えます。
日本の休みは「固定」「強制」されている
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柴田
次に「休み方」をデータで見ていきましょう。「個人的な理由で仕事を数時間離れられるかどうか」をいくつかの国でアンケートした調査があります。
「離れられる」との回答が、他国に比べて日本はグッと低くなっています。
仕事を離れる、休むことへの精神的なハードルの高さが、はっきり数字に出るのですね。
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髙崎
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柴田
フレックスタイム制に関する他のアンケート項目などからも、日本の働き方は硬直的で、個人の事情に合わせて変えるのが難しいものだと分かります。
言われてみると、有給休暇もそうですよね。働く人の希望でいつでも取れるはずなのに、実際はゴールデンウィークやお盆、年末年始以外はまとめて取りにくくて。
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髙崎
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柴田
祝日もそうです。日本は他国に比べて「国民の祝日」が多いのですが、これはつまり「みんなでこの日に休みなさい」と固定・強制された休日が多い、ということでもあります。
そして、日本の有給休暇の付与日数は平均17.6日と先進諸国より少なめです。しかも実際の取得日数の平均は10.9日と、さらに少ない。
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柴田
他国は付与した休暇に「取る義務」がついていて、取得実態を調べたアンケートでは、取得率は8〜9割となっています。同じ調査で日本の取得率は6割ほどと、やはり低いです。
固定・強制されて、個人的な事情で変えにくく、有給休暇も使えていない……。つまり「休みにくい」というのが、日本の「休み方」の特徴と。
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髙崎
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柴田
データから読み取れる特徴としては、そう言えます。休みが固定・強制されて同じ時期に集中すると、混雑や渋滞で休みの質が低くなるのも残念な点ですね。
働き方・休み方は「法律」が決めている
それにしても、ここまで違う理由は何なのでしょう?
日本人は勤勉、ヨーロッパの人は仕事がキライ、というような、ふわっとした文化や国民性の話になりがちですが……。
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髙崎
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柴田
文化や国民性を「再生産」している仕組みの一つは、法律です。働き方・休み方をめぐって、他国と日本の労働法を比べると、違いがいくつもあります。
違いは法律ですか! まず「働き方」の方から聞かせてください。
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髙崎
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柴田
大きな違いは、次の2点です。
・「残業の扱い方」
・「勤務間インターバル」(退勤してから翌日の出勤まで一定時間休ませる制度)
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柴田
労働時間が日本より短い他の先進国は、残業させると企業側が損をする仕組みになっています。だから定時内で、効率よく仕事をしてもらう方向に行く。
一方、日本は残業を長くさせても企業側はあまり損をしないので残業させた方がいい、という判断を招いています。
「残業をさせると損な仕組み」とはどんなものですか?
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髙崎
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柴田
まず根本的に違うのは、「時間外労働割増賃金率」です。
漢字の多い言葉ですが、意味は読んで字のまま、時間外労働(残業)で、賃金が割増になる率、でしょうか。
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髙崎
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柴田
はい。アメリカでは、定時を1分でも過ぎた残業は、賃金が5割増しになります。
イギリスは平日が5割増し、休日は10割増しで、ドイツは平日1日の最初の2時間は2.5割増し、2時間を超えると5割増しと、法律で決まっています。
定時を超えると短時間で一気に、ガッツリと残業代が増えるんですね。会社としては、残業させるとすぐ人件費が膨れ上がる。
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髙崎
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柴田
日本の法律での規定は、平日は2.5割増、月の残業時間が合計60時間を超えたら5割増しです。月60時間の残業は、結構長いですよね。
週休2日では、月の勤務日がおおよそ20日。毎日3時間までなら、アメリカやイギリスの半分の割増率で残業させることができる、ということですね。日本の残業代が他国と比べて安かったとは、知りませんでした。
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髙崎
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柴田
長く残業できるのは、一般的には、独身社員、もしくは、性別分業の慣習によって家事や育児を妻に任せがちな男性社員なので、その人たちが残業を課され、長時間労働になっています。
日本の残業文化の背景には、「残業させやすい法律」があった……。これは他の国と比べないと、なかなか実感できないですね。
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髙崎
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柴田
そして欧州では、退勤してから翌日の出勤まで一定時間休ませる「勤務間インターバル」が義務化されています。
「最低11時間」の国が多く、この間隔を守るためにも、長い残業はさせられない。日本にもこの「勤務間インターバル」はあるのですが、努力義務にすぎず、厳密に義務化はされていません。
日本で激務の方々は深夜まで働いて、帰宅して数時間後にまた出勤する。だからオフィスはずっと電気がついていて不夜城、なんて話も聞きます。
これは「勤務間インターバル」が義務化されていたら不可能ですね。
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髙崎
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なぜ他国と日本を比べなくてはならないか
日本の働き方・休み方の特徴や、その特徴の仕組みは、他国と比べることでより分かりやすく理解できました。
でも、そもそもなぜ他国と比べなくちゃならないんだ?と感じる読者もいると思います。日本は日本のやり方があるだろう?と。
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髙崎
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柴田
それは本当にとても、大事な点です。実際、日本のやり方で経済成長して、1980年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていました。
その頃は日本の労働者・消費者がどんどん増える「人口ボーナス期」で、国内だけで大量生産・大量消費ができた。大量生産するために男性社員が長時間労働をして家を不在にし、家庭は専業主婦が支えるという形が、企業と経済の成長の最適解でした。
サラリーマン向けの滋養ドリンクの広告コピーが「24時間戦えますか」で、主婦向けの生活用品のCMで「亭主元気で留守がいい」というBGMが流れていた時代ですね……!
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髙崎
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柴田
はい。ですが1993年から、日本は生産年齢人口の割合が減る「人口オーナス期」に入りました。生産年齢人口が減るにつれて、国内の需要も消費も減り、大量生産をしても、かつてのように売れなくなったのです。
少なくなった消費者に売るためには、商品の質を上げていかなくてはならない。国外の消費者に売るには、国際競争の中で選ばれるために、やはり質の高い商品を生み出す必要があります。
日本経済はすでに、ゲームチェンジしている。80年代と同じようには、もうできない状況なのです。
その「質の高い商品を作る」には、何が必要なのでしょう?
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髙崎
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柴田
良質なイノベーションは、多様な人材から起こります。さまざまな視点や背景を持った人たち、女性や高齢者など、これまで長時間労働の職場にはいられなかった人たちがアイデアを出し合うことが必要です。
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柴田
ですが、日本では今でも多くの職場で長時間労働が根強く、フルタイム正規雇用の男性なみに働けない人は、参入しにくい状況が続いています。
その結果どうなったかと言いますと、90年代以降、日本の生産性は国際競争の相手である諸外国と比べて、ずっと最低レベルにとどまってしまいました。90年代にはそこまで差がなかったのに、続く30年間でどんどん差が開いたのです。
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生産性を伸ばすことができた他国は、この30年間で何をしたのでしょう。
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髙崎
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柴田
デジタル化やDXなどによって業務を効率化することで、労働時間を減らし、多様な人が働けるようにしたことが大きいです。その改善策の中に、先ほどお話しした勤務間インターバルや、休暇の取得しやすさがあります。
そうして短い時間、より少ない勤務日数でも生産できるようにした。日本の競争相手の先進国は、90年代からそれをやってきたんです。
日本でもペーパーレスやDX化が急務、と言われてはいますが、つい最近のことですよね。
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髙崎
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柴田
はい。男性社員に残業前提の長時間労働をさせながら、「生産性なんか上げなくてもその分長く働けばいい」という古いやり方を続けてしまった。
「長く働けない人は要りません」と多様な人材を排除して、DXでの効率化をしなかった。そうして質も、生産性も上げられないまま、国際競争に負けてしまっています。
働き方と休み方をこのまま変えられなかったら?
ここまでのお話だけでも、「やばい!一刻も早く長時間労働をやめよう!」と叫びたくなります。
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髙崎
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柴田
国際競争が避けられない人口オーナス期をうまく乗り越えている国から学んで、日本も生産性を上げるべきです。
より短い時間でも生産的に、多様な人材が働けるように、働き方改革で長時間労働を改善し続ける必要があります。
あまり考えたくないですが、もし働き方改革が停滞して、日本社会が長時間労働を変えられなかったら、どうなってしまうのでしょう?
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髙崎
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柴田
日本全体の生産性を上げられないと、消費だけではなく、他国からの投資も入ってこなくなります。
日本は石油やガスなどの天然資源がないので、産業のためにエネルギーを他国から買わざるを得ない、という特徴もあります。
投資を呼び込む力が落ち、日本円の価値が下がると、エネルギーを買うのも難しくなり、さらに生産力が落ちて、どんどん貧しくなっていきます。
うう……、厳しいですね……。
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髙崎
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柴田
長時間労働は少子化にも影響していますが、減った労働人口を外国からの労働者で補おうにも、日本が貧しくなってしまったら、出稼ぎ先に選ばれなくなります。そうするとますます、人手不足が深刻化していくでしょう。
また個人への影響ももちろん大きいです。家庭を離れて長時間労働をしてきた日本の男性は、熟年離婚がとても多いんです。長時間労働は老年期の孤立リスクに直結していますし、離婚後の男性は自殺率も高いのです。
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法律でルールを変えていく大切さ
長時間労働の負のスパイラルから抜けるには、どうしたらいいでしょう?
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髙崎
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柴田
文化や社会はすぐには変わらないですが、やはりなるべく早く、法律でルールを変えていくしかないな、と考えます。
第一歩は「時間外労働割増賃金率」を、欧米並みに上げることでしょう。
残業代が上がって企業が残業をさせにくくなると、定時で帰りやすくなり、業務も効率化される、との期待できます。が、長時間労働が定着した職場が、そのように変わるのはハードルが高そうです。
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髙崎
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柴田
変化の後押しをする、もう一つの要素があります。それは若い世代の意識の変化です。OECDの調査によれば日本の若者の知的能力は世界トップレベルですから、その若者の能力を活かすこと、若者から選ばれる企業になることが、経営上は重要です。
18〜25歳の意識調査では、「仕事とプライベートの両立を意識して会社を選ぶ」と答えた人は、男女とも全体の8割にもなっています。
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柴田
残業を強要したり、残業をしないと手取り給与が維持できない会社には、若い人材は来てくれないようになる。この先は人手不足が進むので、残業文化を変えられない企業は倒産リスクが上がっていきます。
逆に長時間働かせない、仕事とプライベートを両立できる企業には若い働き手が集まってくる、と。
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髙崎
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柴田
加えて、残業削減によって作業効率化が進むと、その企業の生産性が上がるので、賃金や時給も上がっていきます。
働きやすく給与も良い職場では、社員が生き生きと活躍でき、働きがいがあるので、社としての業績もよくなっていきます。
おお、それは正のスパイラルですね!
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髙崎
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柴田
これは今の日本で実際に起こりつつある現象です。日本経済新聞が「プラチナ企業」という名称をつけ、記事にしています。
社員の働きやすさと働きがいを両立させている「ウェルビーイング経営」の企業では、実際に売り上げや株価が上がっているんです。もちろん離職率も低い。
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柴田
そのような企業では、定期的に「働き方」に関するミーティングを社員と経営者の間で行っています。しかも形だけではなく、本音で語り合えるように管理職が「心理的安全性」の研修を受けるなど、環境を整えているそうです。
家庭崩壊のリスクにも繋がっている
今日はたくさん、視野の広がるお話を聞かせてくださりありがとうございます!
最後に、柴田先生がこの働き方の研究に力を注ぐようになったきっかけなど、お聞かせください。
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髙崎
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柴田
育児がきっかけです。祖父母が遠方の状況で、子ども3人を共働きの夫婦で育てているので、働き方をしっかり考えないと家庭に無理が生じてきます。
私と妻は双方、自分で働き方を決められる「裁量労働制」です。自分で働き方に融通を利かせられるはずなのに、育児に支障が出るほど仕事にかかりきりになった時期がありました。
そこで妻との分担のバランスが崩れ、妻の負担が過大になってしまい……。
あああ〜、共働き夫婦のあるあるですね……。
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髙崎
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柴田
私の場合、その原因は自分のキャパを超える仕事を引き受けていたことでした。自分の限界や家族の状況をあまり考えず、来た仕事を最大限やっていた。
仕事は好きだし、楽しい。やっている間はハイになっていたんです。周りが見えなくなって、妻に負担を押し付けてしまっていました。
「やっているうちにハイになる」、仕事が楽しい人にはもう、心底わかりみが深い状態でしょう……!
残業で職場に残る人の中にも、思い当たる人は多そうです。
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髙崎
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柴田
ですがそれでは、家族関係は壊れてしまいます。
睡眠不足などによって自分の健康に悪影響が出てきましたし、妻にも過大な負担によって健康に悪影響を与え、結果的に子どもたちにもしわ寄せがいってしまいます。
これはまずい、と思って「働き方」を変えました。そして、研究においても「男性の働き方」に関心を持つようになりました。
先生の研究は、実感と実体験に基づいているのですね。今はいかがですか?
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髙崎
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柴田
夫婦で定期的に、家事育児の分担についてどう思うかを話し合い、その時々の互いの状況に合わせて、家事育児分担や仕事量を調整しています。
互いの仕事やキャリアを尊重し合えるようになり、それぞれしっかり睡眠もとれるようになって、子どもたちも含めて家族全体がより健康になったと思います。
それによって、夫婦関係・親子関係も安定し、家族がより幸せになってきたと思います。睡眠は本当に大事ですね。
働き方・休み方は本当に、人生全体、社会全体に関わる深い問題ですね……。
今回は長時間労働の当事者の方々に、ぜひ読んでほしいです。貴重なお話をありがとうございました!
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髙崎
2025年1月取材
取材・執筆=髙崎順子
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト