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カレンダーを埋め尽くす「とりあえず」を一掃する 「予定の入れすぎ」をやめよう(澤円)

仕事でもプライベートでも、やりたいことは山のようにある。同時に、周りからのいろいろな頼まれごとにも向き合っていくと、いつの間にか予定はいつもパンパンに。この働き方、暮らし方は思っていたのと、ちょっと違う気がする……。そんなときに必要なのは、こだわりや常識、思い込みを手放すことなのかもしれません。連載「やめるための言葉」では、圓窓代表取締役・澤円さんと一緒に「やめること」について考えていきます。

「忙しい=素晴らしい」という価値観

「24時間戦えますか?」

このフレーズ、40代以上の方なら記憶にあるかもしれませんね。とても有名な栄養ドリンクのCMでのフレーズです。

時はバブル真っただ中、とにかく人々は忙しく働いていました。その分、収入もどんどんアップして、持っている土地や株などの資産が何もしなくても膨れ上がる時代。「忙しいことは素晴らしい」という価値観が醸成されても不思議ではなかったことでしょう。

そのころのスケジュール管理は、もっぱら手帳。ボクもシステム手帳を愛用していて、その予定表がぎっしりと埋まっていくことが、仕事をすることだと思っていたフシがあります。

隙間が空いていると、「何かを見落としているのではないか」とか「サボっていると思われるのではないか」と心のどこかに引っかかっていた気がします。

ボクは1993年に社会人になったので、バブルはすでに崩壊後でした。しかし、「長時間労働は悪である」という価値観は存在していなかったと思います。

そして、よくあったのが「徹夜自慢」。「いや~~、今日も徹夜だよ~」なんて嬉しそうに言う人がまぁまぁいたし、ボクもけっこう言ってたな(笑)。

システム開発の仕事では、時には深夜でなければできない作業もあったので、ある意味仕方なかったのですが、それを「よいこと」と思うのは今となってはちょっと違うよな~と感じます。

悪魔の言葉「とりあえず」

時は流れて令和の世となり、長時間労働は「昭和的な悪しき習慣」というのが共通理解になりました。

そのきっかけともいえるのが、2010年代から大流行した「働き方改革」なる考え方。「長時間労働をやめて、もっと効率的に働こう」という意識が、世間一般に広がっていきました。多くの企業の経営者が「働き方改革」を掲げ、あらゆる場面でアピールしていました。

さらに、コロナ禍は決定打になりました。なんとなくぼんやりと「リモートワークを取り入れるのは生産性向上に寄与するかな~」くらいに思いつつも、導入には消極的だった企業が、待ったなしで取り入れなくちゃいけなくなったわけです。

ということで、世論も環境も「余裕を持って働く」を実現できる状態になった……はずですが。どうでしょう、皆さんの予定表はスカスカになりましたか?

今でも会議はぎっしりあって、その隙間に資料作りもしなくちゃいけなくて、出社したらやたら話しかけられて作業に集中できなくて、相談に乗ってくれと言われたら断れなくて、飲み会やるぞと言われると顔出さないのも引け目を感じて……。

あれれ? 働き方って本当に改革されたのか? 自分の時間はどこ? みたいな状態になっている人もいるかもしれませんね。

日本のビジネス界隈では、とかく「とりあえず」で時間を使いたがる民族性があります。起点となるのは「とりあえず巻き込む」側のマインド。

「とりあえずメールのCCに入れておこう」
「とりあえず会議に呼んでおこう」
「とりあえずあの人に知らせとかないと怒られそうだな」

そして、「とりあえず巻き込まれる」側はこんな感じ。

「とりあえず受信ボックスの未読は全部なくそう」
「とりあえず呼ばれた会議には出ておこう」
「とりあえず知らされたからには意見を出しておこう」

こんな感じで、「とりあえず」が会社に充ち溢れ、結果として時間が使われていきます。その「とりあえず」がデータに化けたのが、皆さんのカレンダーツールを埋め尽くす予定表アイテムですね。

なにせ、あの予定表アイテムって、送るだけで相手の予定表を埋めるという恐ろしい威力を持っています。そして、会議開催の通知を受け取ってしまうと、「出席しないと何か言われるかも……」と思ってしまい、ついつい出席しちゃったりして。

どれだけ強力な召喚呪文なんでしょうか。ドラクエもびっくりです。

自分の予定を解像度高く見直してみる

「とりあえず」に反応してしまうと、使われるリソースは皆さんの時間です。この連載で何度も申し上げている通り、時間は一番貴重なリソースです。

「とりあえず」なんていう、居酒屋で生ビール注文するときのセリフのように気軽な言葉で皆さんの人生を目減りさせるのはもったいなくないですか?

まず、ご自身の予定表をじっくりと眺めてみてください。「とりあえず」入れていて、かつ「自分は関わらなくてもいい」予定ってありませんか?

予定表を埋め尽くす「とりあえず」は、一掃しましょう。めちゃめちゃゆとりが出てくると思います。「時間のゆとり」「心のゆとり」は、いい仕事をするために必要不可欠なものです。予定を詰め込み過ぎてしまうと、この両方が同時に失われてしまいます。

「とりあえず」って、一見すると害がなさそうなんですけど、積もっていくとどんどんゆとりを奪っていくんですよね。「とりあえず」は、悪意がないのがかえって厄介だったりします。だからこそ、解像度高く自分の予定を観察して、排除する勇気が必要なのです。

ボクが大好きな本に『死ぬ瞬間の5つの後悔』(ブロニー・ウェア/新潮社)があります。オーストラリアやニュージーランドで介護士をされていた経験のある方が書いた本なのですが、5つある後悔のうちのひとつが「働きすぎなければよかった」です。ドキッとしますね。

仕事に没頭するのは、ボクはステキなことだと思います。ただ、「とりあえず」なんていうへんてこな奴らに人生を奪われるのは、ちょっといやじゃないですか? 自分の予定表をにらめっこして、後悔のない人生の準備を始めましょう。

アイキャッチ制作:サンノ
編集:ノオト