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年16日間の祝日を、可動式に。勤務日と休日を個人に合わせて変えられる「フレックス休暇制度」とは?

他の先進国と比較しても日数の多い、日本の「国民の祝日」。休みがあるのは嬉しいけれど、繁忙期や週の真ん中に重なって「ああ〜、今日じゃなければ……!」と思うこと、ありませんか?

そんな声に呼応するのが「フレックス休暇制度」。国民の祝日を“動かせる休日”として扱い、従業員が業務や私生活の都合に合わせて取得日を変えられる、目からウロコの仕組みです。しかも、その導入に必要なのは「社内カレンダーの設定変更」と「従業員向けの周知」だけ、というシンプルさ!

最小限の対応で休み方の自由度を上げる策を考案したのは、企業向けソフトウエア開発を手掛ける株式会社ワークスアプリケーションズです。同社人事本部の本部長・平山俊大さんと熊田原彩夏さんのお二人に、この制度の運用と背景にある考え方を『休暇のマネジメント』(KADOKAWA)の著者・髙崎順子さんが伺いました。

株式会社ワークスアプリケーションズ
1996年創業のIT企業。大企業の業務効率化・生産性向上に役立つソフトウエアの開発・提供を事業とする。日本・中国・シンガポールに拠点を持ち、約900名の従業員が働く。祝日を動かせる「フレックス休暇制度」を2018年より導入・運用している。

人事本部 本部長 平山 俊大さん
大手ソフトウェア会社人事部を経て、2017年ワークスアプリケーションズ入社。2021年より現職。

人事本部 熊田原 彩夏さん
2012年、ワークスアプリケーションズへ新卒入社。営業部を経て2017年より人事本部で勤務。

「国民の祝日」を自由に動かせる

所定休日の一部を任意の日に取得できる「フレックス休暇制度」がどのような仕組みなのか、詳しく教えてください。

熊田原

日本の大多数の職場では、土・日の週休二日と年末年始、お盆、そして年間16日の「国民の祝日」(以下祝日)を合わせて、年間の所定休日を設定しています。

当社はそのうち、週末の105日分を全社共通の休業日として固定し、祝日の16日分をフレックス休暇日として、従業員の希望で動かせる休業日の扱いにしています。

祝日休みを国のカレンダーで決められた日ではなく、別の日にずらすことができるのですね。

熊田原

はい。具体的に説明しますと、まず年始に国のカレンダー通りに、祝日を全従業員の休業日として割り当てます。そこで何もしなければ、祝日はそのまま休日です。

ただ、「この祝日は勤務をしたい」と申し出て、上長の許可が取れたら、祝日が出勤日になります。そうして働いた祝日の休業権を別日に振り替えて、取得できるようにしているのです。

「国民の祝日」のおかげで1日休めること自体は変わらないけれど、それを「いつにするか」を自分で決められる、つまり休み方の選択肢が増える、ということですね。

熊田原

そうです。

ルールとしては、
・フレックス休暇日数は「1月1日〜12月31日の1年の中で使うこと」
・原則として「同月の祝日を動かすこと」
・近い祝日であれば、前倒す日程での移動も可能
としています。

当社は国外に中国とシンガポールにも現地法人がありますが、この制度は日本とシンガポールの従業員約600人を対象にしています。

「祝日に休まない、別の日に休む」なんてことができるんですね……! まず「祝日を動かす」という考え方自体、全くの盲点でした。

熊田原

業種によっては、週末を営業日として社内カレンダーを設定する企業もありますよね。

祝日も同じように、会社独自のカレンダーとして設定できるのでは? と考えた制度です。

祝日に働き別日に休むメリット

熊田原

利用率は全フレックス休暇日の4%と多くはないですが、私自身も毎年5月に活用しています。

ゴールデンウィークは人事の繁忙期なので、その頃は出勤したい。代わりに5月の中〜下旬に「マイゴールデンウィーク」を作っているんです。

私は海外旅行が好きなので、料金の高い時期からずらして休んでいます。

(提供写真)

マイゴールデンウィーク、いいですね!

ゴールデンウィークは全国の休暇が集中し、交通機関やレジャー・宿泊施設の混雑が毎年のように話題になります。

地域別に祝日の設定を分けるべき、などの声も出ていますが、フレックス休暇制度でも十分、対応できるのですね。

熊田原

2024年2月も業務日が少ない上に、祝日が増えたので、フレックス休暇制度で休みをずらせるのがありがたかったです。

1カ月にするべき仕事量は変わらないのに祝日があっても、仕事が溜まるだけなので。

平山

私は子どもがいるので、平日に行われる子どもの行事の日に、一番近い祝日を移動させて使っています。

お子さんがいると通院や看病などで有給が消えていくので、その節約のためにも、行事のときに祝日を使えるのはいいですね。

平山

独身時代は、飛び石連休で火曜日が祝日に当たる時などに、その祝日を月曜日に移動して「オリジナル3連休」を作っていました。祝日に出勤すると、ゆっくり集中して仕事ができるんですよね。

「マイゴールデンウィーク」に続き、また魅力的なパワーワードが……! その「オリジナル3連休」は、どのように過ごしていましたか?

平山

そう遠くない温泉地に積読の本を持って出かけて、宿にこもってひたすら読む休日にしていました。平日はいい旅館も少し安くなるので、2泊3日で。

1泊2日だと移動だけで時間を取られてしまい、宿でゆっくりするには足りないんですよね。2泊できると、時間の感覚が大きく違いました。

温泉地での1泊2日と2泊3日は、全然違いますよね……! 1泊2日だと、行って帰って終わってしまう気がします。

熊田原

あと有給休暇の付与日数は勤続年数で変わるので、まだ勤続期間の短い人たちは、このフレックス休暇制度を「有給がなくなった時のプール」として使う人もいます。

平山

国外出身のスタッフは、出身国の祝日に合わせてフレックス休暇を取得して、里帰りに活用したりも。使い方の自由度は高いです。

「カレンダー設定」を変えただけの費用ゼロ改革

平山

この制度が生まれたきっかけは、海外の子会社とのスケジュール調整だったんです。

日本の動きが止まる年末年始とゴールデンウィークは、子会社のある国では平日。ビジネスのタイミングがずれる問題に「そろそろ対応しないと」となったのが2017年の年末。そして、2018年の4月からフレックス休暇制度が導入されました。

日本では新しいことを始めるとなると「変える」というだけで反発があったりしがちですが……。社内の反応はいかがでしたか?

平山

特にありませんでしたね。祝日を年始に割り当ててしまい、「変えたかったら変える、変えたくなかったらそのまま」という方式にしたので、多くの人にとってはそれまで通り何も変わらなかったので。

ただ祝日をフレックスに置き換えたことで、書類上の所定休日数は減って、勤務日が増えたように見えます。この点に関しては、制度導入の背景も含め、当時の代表取締役から丁寧に説明してもらいました。

制度の導入にあたり、どの程度の費用や工程がかかりましたか?

熊田原

費用はかかっていません。フレックス休暇導入に必要だったのは、「会社カレンダーの休日設定の変更」と「社員への周知」だけでしたので。

えっ、それだけでいいんですか!?

熊田原

どの企業さんでも、勤怠管理システムには会社ごとのカレンダーがありますよね。その設定を変えるだけでいいので、導入のハードルはそこまで高くないと思います。

ただ使用している勤怠システムによっては、当社のように年始に祝日を「のちに動かせることを想定し、あらかじめ全員に割り当てる」という設定ができないものがあるかもしれません。

システム自体よりも、「祝日は会社や従業員の都合で動かせるもの」と、人間側の発想の転換が鍵になるのですね。

休みに対する心理的安全性の高さ

祝日を従業員主導で動かせるようにすることで、何か問題はありましたか? 休まれたら困る日に休む人がいたり、同じ日に多くの人が休んだり……。

熊田原

今のところ、人事本部に届く問題は起こっていません。

当社は元々コアタイムのないフルフレックスタイム制ですし、従業員が自分で考え、裁量を持って働き方を自分で決める企業風土があるからでしょう。

仕事はもちろんしっかりする必要がありますが、休むための業務調整の相談はしやすいです。

そのような企業風土は、どう作られてきたのでしょうか?

平山

創業当時から、柔軟な働き方を推進していて。それは「サボるためではなく、生産性を上げるため」とのメッセージングが常になされてきました。それがこの働き方の文化を醸成してきたのかと思います。

熊田原

当社は男性育休の取得率も7割と高い方です。それも、休みを取ることへの心理的安全性が担保されていることの表れですね。

そして休みの取りやすさが、社歴の長さにも関係ない。「うちの会社はいいなぁ〜」と、私も思いますよ(笑)。

平山

お互い持ちつ持たれつ……のバランスの良さはありますね。休みを取りあうための関係性が築きやすい、そういう文化が元々社内にある。これは転職を防ぐエッジにもなっていると感じます。

いいですね……。この連載の読者には、休みやすさを基準に会社を選びたいと考えている方もいそうです。

平山

働きやすさ・休みやすさについては、採用面接でも実際に言われることがあります。「御社は社員を大切にしていますよね。それが志望動機の大きな部分を占めています」と。

休める制度が、採用率にも影響していると。働き方の改善が人手不足問題のソリューションになる、まさにその実例ですね。

ポイントは「上司・役員から休むこと」

休みやすい企業文化があるからその制度ができるのか、柔軟な休暇制度によって企業文化がつくられるのか……。卵が先か、ひよこが先かを考えさせられます。

休みやすい企業文化がない会社で、それを醸成するにはどうしたらいいでしょう?

熊田原

難しいけれど、「上司や役員がまず、上手に休む」のが重要ではないかなと思います。

重要な役職の方が職場に混乱をもたらさずに休んでくれたら、「あの人が数日いなくても、仕事が回るんだ!なら私たちも休めるかな」と、部下が安心する。そして、自分たちの休みを考えられるようになるので。

上が休まないから休めない、という雰囲気はまだまだありますよね。

熊田原

上司が上手に休むことによる「休める安心感」を、職場に繰り返し起こしていくしかないのかな、と思います。

平山

あと、「国民の祝日」には、休みの取りにくい人たちも「この日ならば、誰にも文句を言われずに休める」という効能がある。

そういった方々から貴重な休みを奪う結果にならないよう、注意が必要です。

熊田原

せっかくのフレックス休暇も、会社都合を押し付けるためだけに使われたら、働き方が悪化してしまうリスクがあります。

システムを変える費用的・実務的なハードルは、高くないのですものね。

それを使うために心理的に安全な環境を整えることが、さらに重要である、と。具体的なお話、とても参考になりました。今日はありがとうございました!

2024年2月取材

取材・執筆=髙崎順子
アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト