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リモートワークの先駆者ソニックガーデンから学ぶ、コロナ禍における働き方のヒント ー 倉貫義人さん

新型コロナウイルスという不可抗力に押されて、一気に広がった日本企業のリモートワーク。

 

完全在宅勤務に移行したり、週の中で一定の日数だけオフィスへの出社を制限したりと、企業によって対応はさまざまですが、「ニューノーマル」と呼ばれる新しい日常になかなか慣れることができない人も少なくないのではないでしょうか。

 

WORKMILLでは、2011年からリモートワークを導入し、2016年7月からフルリモートワークを実践している株式会社ソニックガーデンの倉貫義人代表取締役にお話をうかがいました。

 

「納品のない受託開発」いわゆるサブスクリプション型の受託開発事業が特徴的な同社は、2016年にオフィス撤廃を決断しました。すべてのメンバーが物理的に離れている環境ながら、倉貫さんは「離職率はほぼゼロ」と話します。背景にはマネジメントとコミュニケーションに対する倉貫さん独自の考え方がありました。

 

ソニックガーデンが歩んできた道のりと、その実践知は、ニューノーマル2年目に向けた貴重なヒントになるはずです。

 

電話対応や郵便物も「オンライン空間」へ移転

WORKMILL:コロナ禍が起こった2020年にオフィス撤廃を表明する企業が現れ始めましたが、以前ではこうした動きは世の中ではまだ先鋭的だと捉えられていました。しかし御社では2016年時点でオフィス撤廃を決断していることに驚かされるのですが、どのような背景があったのでしょうか。

 

―倉貫義人(くらぬき・よしひと)株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長
大手SIerにて経験を積んだのち、社内ベンチャーを立ち上げる。2011年にMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。月額定額&成果契約で顧問サービスを提供する「納品のない受託開発」を展開。全社員リモートワーク、オフィスの撤廃、管理のない会社経営など新しい取り組みも行っている。著書に『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』『管理ゼロで成果はあがる』『「納品」をなくせばうまくいく』など。

 

倉貫:創業当時から、当社には在宅勤務をする社員がいたんです。そのベースがあったので、2012年7月に兵庫県西脇市在住の人を採用しました。「地元からは離れられない」と言うんだけど、優秀だからぜひ加わってほしい。それなら在宅勤務で入ってもらえばいいじゃないかという理由でリモートワークを導入しました。

 

そのメンバーが入社後、リモートワークの成果をブログなどで発信してくれて、社外のエンジニアの間でもソニックガーデンの噂が広まっていきました。リモートワーク希望の人が増え、2015年ころにはメンバーの半数近くが地方在住だったと思います。「オフィスで働く人」と「リモートで働く人」に大きく分かれ、オンラインとオフィスの両方でコミュニケーションを取っていました。ただ、それぞれにこぼれ落ちるものがあると感じるようになりました。

 

WORKMILL:こぼれ落ちる?

 

倉貫:オフィス側のちょっとした会話や雑談は、オンラインではうまく伝わりませんでした。逆も然りで、オンラインで繰り広げられる会話をオフィス側のメンバーがキャッチしきれないという課題もありました。コミュニケーションのチャンネルが2種類あることで、時としてどちらかが犠牲になるんです。

 

そこでチャンネルをシンプルにしようと考えました。今さら全員を東京に集めるのは厳しいので、オンラインに振り切りました。

 

最近では実感する人が増えていると思いますが、オンライン会議って、「自宅から1人で参加する人」と「オフィスの会議室に集まって複数人で参加する人たち」が混在していると、非常にやりづらいんですよね。そのため会議のときはオフィスにいるメンバーもそれぞれのPCから個別に接続するようにしました。

 

このようにオンラインに寄せていった結果、「もうオフィスは必要ないんじゃないか」と思うようになったんです。まずは私自身が率先して出社しないようにし、オフィスにいたメンバーのリモートワーク化を進めて、物件の契約更新のタイミングで本社オフィス撤廃を決めました。 

 

WORLMILL:電話対応や郵便物の受け取りなど、実務面での支障はなかったのでしょうか?

 

倉貫:電話対応はアウトソーシングで依頼し、受けた内容をチャットに流してもらうようにしました。今では、会社の電話番号自体、ほとんど使われていません。お客様とは別途直接連絡がとれるツールを導入しているんです。

 

契約書のやり取りなどはクラウドサインを使っていますが、それでも郵便物は届いてしまいます。これについては、社員の出張時やどうしても必要なリアル打ち合わせの際に使えるサテライトオフィスを設け、パートスタッフの人にお願いして、届いた郵便物をスキャンしてオンライン空間にアップしてもらっています。まだ少しだけ旧来の世界(オフライン空間)との接点が残っていますが、支障はまったくありません。

 

「社内YouTube」や「オフサイトミーティング」で人となりを知る

 

WORKMILL:そうした意味では、オフィス撤廃によるデメリットはないと?

 

倉貫:あるとすれば「ほんの少しのセンチメンタル」でしょうか。

 

もともとワイワイガヤガヤするのが好きなメンバーの集まる会社なんです。オフィスでイベントができない寂しさは感じました。ただ、当時と比べれば今は社員数が倍近くに増えているので、いずれにせよイベントはできなくなっていたと思います。

 

逆に言えば「つながっている感」はオフィスにいたころよりも高まっているかもしれません。東京と地方で離れていたらリアルではめったに会えませんが、オンラインなら毎日顔を合わせて話せますから。

 

WORKMILL:リモートワークでは「オフィスにいるときのようには雑談できない」という悩みがよく聞かれます。ちょっとした感情の共有や、互いの機微をつかむために工夫していることはありますか?

 

倉貫: 人が増えてきたことによる社内コミュニケーション施策として、「SGTV」と題した社内YouTube番組を作っています。新卒メンバーが司会を務め、新しく入社した(中途入社も含む)社員にインタビューしながら人となりを深堀りしていく企画です。また、オンラインで半日くらいを費やす「オフサイトミーティング」を開き、仕事とは関係のないことを話し合って互いのパーソナルな部分を共有していますね。

 

特徴的なものだと「日記」という仕組みもあります。プライベートの出来事などをどんどん書いてオンライン上で共有するんです。これは意図して取り組んでいる施策というよりは、自然に根付いた文化という側面が強いです。

 

重要なのは「内発的な動機」で仕事をすること。外からはコントロールしない

WORKMILL:リモートワークが一般的になって、多くの企業がマネジメントの難しさを感じていると思います。ソニックガーデンでは、リモート下のチームマネジメントをどのように行っているのでしょうか。

 

倉貫:前提として、私たちのチームは誰かがマネジメントするのではなく、それぞれがセルフマネジメントするものとして運営しています。

 

なぜかと言うと、そもそも私たちの仕事が「属人性が高い」からなんです。プログラマーはコンピュータに向かってソースコードを打つことではなく、お客さまやプロダクトオーナーが抱えている問題を解決することが仕事です。例えば弁護士なら法律の知識で、医師なら医療技術で問題を解決しますよね。私たちは同じようにプログラミングの知識とスキルで問題を解決します。

 

ちなみに弁護士や医師、そしてプログラマーの仕事は、誰がやっても同じ成果が出るわけではありません。かつ専門分野は個々に異なります。つまり再現性が低いんですね。私はこうした再現性が低い仕事を「クリエイティブワーク」と呼んでいます。

 

クリエイティブワークは、すべて上から指示して成果を出せるものではなく、その人自身が考えて動いていくしかありません。問題解決するとき、いいものを作ろうとするときには、その人の内発的な動機で仕事をしてもらうことが重要だと思います。外発的な動機やムチでクリエイティブな仕事はできないんです。動機付けの総量は決まっていると考えており、外発的な働きかけをすればするほど内発的な動機が薄まってしまうので、外からコントロールしようとすることをできる限り避けています。

 

ソニックガーデンのメンバーは、入社前からある程度、この考え方を理解してくれています。私のブログや取材記事などを見て、企業理念に共感した上で応募してくれているからです。社内ではセルフマネジメントの重要性が浸透していると思います。

 

WORKMILL:とはいえ、入社していきなりセルフマネジメントができるようになるかというと、難しい面もあるのではないでしょうか。

 

倉貫:そうですね。誰だって難しいと思います。

 

ソニックガーデンでは新しく入社した人に「メンター」が付き、いちばん話しやすい先輩として関わってもらっています。日頃から仕事のことや社内のことを相談できますし、週に一度は振り返りを行い、仕事のやり方や考え方について改善できる部分がないかを話し合っています。こうして徐々にセルフマネジメントができるようになっていきます。いわばOJTですね。

 

「離職率ほぼゼロ」なのは、1人でやるよりチームでやるほうが楽だから

WORKMILL:セルフマネジメント能力を身につけるためのOJTについて、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。

 

倉貫:基本としているのは「タスクばらし」です。

 

大きな仕事や大変な仕事を任されてなかなか手が付かない……という状況は誰しもあると思います。そのままにしていたらいつまでも終わらない気がするし、精神衛生上よくないですよね。とはいえ、上司に仕事の内容を分解してもらって「あなたがやるのはこれ」と指示されるのはなんだか面白くありません。

 

だから自分自身で仕事の「タスクばらし」をしていくことが大切です。1日の時間の使い方を記録して振り返り、無駄や無理があれば改善して、現実的にやりきれる予定を立てていくんです。詳しくは私のブログでも解説していますが、こうした仕事の進め方を日々の関わりの中で伝えています。

 

メンターは概ね1年くらい、社会人経験の浅い人にはもう少し長い期間をかけてサポートします。その後は自発的に、同僚同士で振り返りの時間を設けているメンバーもいますね。キャリアを積んでもルーティンになるほど重要なスキルなんです。

 

WORKMILL:昨今ではフリーランスとして働く人も増えていて、道はたくさんあると思いますが、ソニックガーデンでは「離職率がほぼゼロ」だとうかがいました。なぜ社員の皆さんは会社に残ることを選択しているのでしょうか?

 

倉貫:「1人でやるよりもチームでやるほうが楽だから」です。チームって、パズルのように凸と凹を組み合わせる発想で成り立っていますよね。自分の苦手なところは、それを得意としている人に任せればいいんです。それができる組織なら、1人でやるよりも一緒にやったほうが絶対に楽ですよ。何かあれば助けてもらえるというリスクヘッジにもつながります。

 

「他の会社の仕事も経験してみたい」と考える人に向けては副業を容認していますし、フルフレックス制を採用して業務時間も自由に組み立てられるようにしています。ソニックガーデンという会社は、従来の会社のように資産家としてのオーナーがいて、労働者がいるという形ではありません。所属する人が自由に働きながら、それぞれのできることを持ち寄り、助け合っている組織です。だから辞める理由がないのだと思います。

 

不公平を避けてリモートワークを否定するよりも、「リアル手当」を出すほうが健全

WORKMILL:ソニックガーデンがそうした働き方を実現できるのは、「納品のない受託開発」という事業の独自性が背景にあると思います。全員がリモートワークをしていると聞いて「それはソニックガーデンだからできるんでしょ?」と感じる人もいそうです。

 

倉貫:確かに「うちの業種ではリモートワークはできない」と考えている人も少なくないですよね。現実問題として、どうしてもリモートワークができない業種はあります。ただ、一方では「本当に仕事の本質で考えているか? 業界や職種でくくって考えていないか?」と問い直してみることも必要だと感じます。

 

どうしてもリモートワークができない人とは、「現実の場所に存在する価値のある仕事」をしている人だと思うんですよ。物流を担うドライバーさんや、店頭で実物を確かめなければ購入できない商品の説明をする店員さんは、現実(リアル)の場所に存在する価値のある仕事です。

 

逆に言うと、必ずしも現実の場所に存在する価値がない仕事はリモートワークにできる可能性があります。医師の仕事においても、まだロボットが手術に対応できない部分はありますが、問診を通じて病気や症状を診断する仕事は必ずしも現実に存在する価値があるわけではありません。初回の問診はオンラインでも対応できるし、実際にコロナ禍で一時的に解禁されましたよね。

 

「この職種だからできない」ではなく、仕事ごとに見直していくことで、「リモートで対応できる・できない」に分けられるはずです。仕事の中身を価値で捉え直すことが大切だと思います。

 

WORKMILL:昨今では大企業の働き方も大きく変わりつつあります。とはいえ、「緊急事態宣言が出たからリモートワーク」「緊急事態宣言が解除されたから再び出社」といったように、方針が揺れ動くケースも少なくありません。大企業が本質的に働き方を見直していくためには何が必要でしょうか?

 

倉貫:日本最大の大企業といえる政府は今、「はんこ文化を廃止する」という方針を示して動いていますよね。規模の大小に関わらず、トップが本気で言い出せば物事は動くということです。ソニックガーデンが全員リモートワークになったのは、私自身がオフィスへ出社するのをやめたから。トップがどこまで本気になれるかが問われているのだと思います。

 

また、私自身が大企業で働いた経験から言うなら、何かをやろうとするときに「全社員が公平に」「足並みをそろえて」と考えすぎなのかもしれません。リモートワークを進めようとしても、本社で働く人と工場で働く人では事情が違います。現実の場所に存在する価値のある仕事をしている人は、その現場を離れられないので。

 

そうした意味では、「現場を離れられない仕事に価値があるのだ」ということを明確に示すのも大切だと思います。危険度の高い仕事をする人に特別手当が付くように、現場で働かなければならない人へは「リアル手当」を出してもいいかもしれません。

 

一部の不公平を避けるために全体のリモートワークを否定するのではなく、現場で働くリスクに感謝して手当を出す。その発想のほうが、健全に世の中が回っていく気がします。

 

WORKMILL:ソニックガーデンの組織もさらに拡大していくと思いますが、将来に向けてはどのような取り組みを考えていますか?

 

倉貫:「クリエイティブな仕事を楽しく続けていく」というビジョンは変わらないと思いますが、「これだけの規模になったらこうしよう」といった目標は立てていません。社員数が30人規模のときは30人なりにやってきたし、今は50人規模で50人なりのやり方です。この先、何人まで増やすかも考えていません。その時々に合わせて、進化したテクノロジーを取り入れながら考えていきたいですね。

 

私は「方法の原理」を大切にしているんです。取るべき方法は、状況や目的によって変わるという考え方です。それはソニックガーデンに限った話ではないと思うんですよね。最近はリモートワークばかりが注目されていますが、会社の置かれた現状や目的から考えれば、正解はリモートワークじゃないのかもしれません。どんなときでも、方法に縛られずに発想することが大切だと思っています。

 

2020年12月22日更新
2020年11月取材

 

テキスト:多田 慎介
イラスト:矢野 愛
写真:株式会社ソニックガーデン提供

 

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