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社員の多様性を「編む」仕組みづくり ― PINTEREST

この記事は、ビジネス誌「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE04 LOVED COMPANY 愛される会社」(2019/4)からの転載です。


「私も写っていい? あなたもおいでよ!」撮影中にそんな会話が生まれるほど、穏やかでフラットな社内文化。従業員たちが愛する会社の秘密は、「編む」カルチャーにあった。

サンフランシスコのSOMA地区。ここ数年で再開発が進み、新産業地区として飛躍的に生まれ変わっている場所だ。グーグル、エアービーアンドビー、アドビなどが次々と立ち並ぶ。Pinterest(ピンタレスト)のオフィスは、そこにある。月間2億5000万のアクティブユーザー数を誇るピンタレスト本社では社員の大半が働いている。中に一歩足を踏み入れると、開放的でクリエイティブな空間が、テック界随一のトレンド企業を象徴しているようだった。

個性を発揮できる職場

入社9年目のラーキン・ブラウンは、「これでも古株なの」とつぶやく。周りの社員を見ると、平均年齢は30代前半くらい。オフィス内は個性的な従業員の若いエネルギーに満ちあふれている。ラーキンは以前、グーグル本社でソーシャルメディア・アナリストとして勤務していた。知らぬ人はいない世界屈指の大企業だが、仕事に対するときめきはあまり無かったと話す。「私はずっとファッションとビューティーの仕事がしたかった。でも好きなことをして給料をもらうのは難しいと、諦めていたんです」

―ラーキン・ブラウン
ノースウエスタン大学卒業。グーグルアドワーズのアカウントストラテジスト、UXリサーチャーを経て2013年にピンタレストへ入社。個人でスタイリストの仕事も行っている。

ラーキンはグーグル勤務時代、副業で「パーソナル・ファッションコーディネーター」として活躍していた。そのキャリアを生かし自身のピンタレストボード「スタイル」は、月間約300万人のユーザーが訪れるという。「ファッションとビューティーは私のパッション。仕事であり、私の生き方そのものでもあります。魅力的な画像をキュレーションしたものに対して、ユーザーから敏速なフィードバックがあるとやりがいを感じる。好きなことがキャリアになる、自己実現ができる職場だと思います」

世界中の人々から愛されるピンタレストのサービスだが、それはすべて、自分たちのサービスを愛している従業員がいるからこそ。オフィス内を見回すと、トレーナーやキャップなどのピンタレストグッズを身につける従業員が散見される。ラーキンを含むここの従業員たちは、なぜそれほど自分の会社のことが好きなのだろうか。そのヒントは、会社の多様性と文化にあった。

会社に根付くKnitカルチャー

ピンタレストの社内文化を表す言葉に“Knit”(ニット)がある。社員の多様性を「編む」ようにつなぎ合わせ、インスピレーションを与え合い新たなアイデアの創出を目的としたカルチャーだ。これについてラーキンは「うちでは、本当に肩書きや上下関係はないんです」と話す。「異なったスキルや経験をもった従業員同士が専門知識や考え方をシェアする文化があって、そこからインスピレーションがわき、視野も広がる。一般的な企業だと、エンジニアはプロジェクトマネジャーと仕事をし、セールスは広報部門のPRと仕事をするなど、他の部署の人たちとは普段から交流することは少ないと思います。でもここでは、私はリサーチャーだけどデザイナーやプロダクトマネジャーとも交流することが多いんです」

私たちが訪れたピンタレストオフィスにはプロデューサーやデザイナーがメインで働いており、エンジニアの多くは近くにある別のオフィスで働いているそう。各フロアにはローテーブルやソファ、キッチンスペースが配置され、従業員同士の日常的な交流を促す。

ここサンフランシスコのオフィスには、多様な国籍や文化、経歴をもった人たちが集まってくる。その多様性もピンタレスト社員を引きつける魅力のひとつなのだろう。「ニット」は、“Knit Con”(ニットコン)としてイベント化もされている。年に2日間、従業員が通常の業務を離れ、おのおのの趣味や興味をもつグループを構成して社内交流を行うイベントだ。それぞれのグループには従業員の1人がリーダーとして名乗りを挙げる。ラーキンはファッションに詳しく、スタイリストでもある特徴を活かしてスタイルのクラスをつくりニットコンを盛り上げているそう。ほかにも、キックボクシングやフラワーアレンジメント、ダンスやサバイバル体験をするクラスなどバラエティーに富む内容だ。「ニットコンを通じて、普段なかなか触れ合わない人とも接する機会ができるし、私のいろいろな側面を知ってもらえる。同僚の才能やパッションを再発見できるのもすごく刺激的なんです。ユーザーの生活に役立つ新しいアイデアの発想にもつながっています」

Be Authentic

チームプロジェクトの柱となっている合言葉は“Be Authentic”。自分の意見をもち、発言することを推奨する文化だ。「チームで物事を決めていく過程では、もちろん反対意見の人もいる。でもたとえプロジェクトが失敗しても仲間を責めたりはせず、この経験を生かして次はよいものができると逆に結束が固まるんです。オーセンティック、つまり誠実で正直であることは、自分らしくあること。自分らしさを受け入れてくれる環境があるから、みな前のめりに仕事ができるし、自分のサービスのことを愛せるのだと思いますね」

オフィスづくりにも余念がない同社。この階段前に広がるカフェテリアには定期的に人が集まり、イベントを行ったりもしているそう。

夕方4時を過ぎると、仕事を終えた従業員たちが帰宅を始める。決まった終業時間もタイムカードもない。みなそれぞれの生活スケジュールに合わせた「マイ勤務時間」があるのだという。帰宅途中の従業員ふたりに声をかけた。20代半ばの女性と20代後半の男性で、入社まだ1年以内だという。ニットコンのアクティビティーで、男性は「サバイバルクラス」、バークレーに住む女性は「盆栽・植物クラス」に参加しており、「ピンタレストに入社して新しい自分が見えてきた」と言った。イキイキとした明るい表情には「自分を満たしてくれる」職場環境への満足度がうかがえた。

2020年2月26日更新
2019年2月取材

テキスト:関根絵里
写真:金東奎(ナカサアンドパートナーズ)
※『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 04 LOVED COMPANY 愛される会社』より転載