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コミュニケーションは科学? 関係性をデザインする岩永真一さんに聞く対話が生まれる場づくりのヒント

なんだか最近、職場での人間関係がうまくいかない、社内の雰囲気がよくない。もしかするとそのお悩みの原因は、コミュニケーションについての知識が足りていないからかもしれません。でも、一体何をどうやって学べばいいのでしょうか?

今回お話を伺ったのは、「関係デザイナー」の岩永真一さん。福岡市で人と人、人とまち、人と社会の“間”にある関係性をリデザインする仕事をしています。コミュニケーションを生み出すファシリテーターの役割を担う岩永さんに、対話の生まれる場づくりのコツについて伺いました。

岩永真一(いわなが・しんいち)
人と人、人と企業、人と社会を繋ぎ関係性をつくる、関係デザイナーであり、ファシリテーター。福岡テンジン大学学長。現在は、複数の組織やプロジェクトで仕事をする複業家として福岡市を拠点に活動。学び・対話・組織をファシリテーションし、関係をデザインしている。

知識があればコミュニケーションはデザインできる

岩永さんが名乗られていた「関係デザイナー」という肩書きが面白いな、と思っていて。

そもそも人と人とのコミュニケーションや関係性って、自然に生まれるものではなく、デザインできるんですか?

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岩永

僕は、コミュニケーションは科学だと思っています。たとえば、光や音の使い方などを変えれば、人の行動も変わるんですよ。

コミュニケーションは科学! とてもインパクトがある言葉ですね。

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岩永

コミュニケーションは得意な人が感覚でやっているものと思われがちですよね。でも、近年、パフォーマンスを上げるいいチームを作るコミュニケーション方法が、科学的にも解明されつつあります。

でも、それを実践している企業やビジネスマンは意外と少ない。まだまだ、浸透していないですね。

岩永さんの肌感覚では、どれくらいの企業が実践できていると思いますか?

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岩永

うーん。もちろん勉強熱心で組織づくりに力を入れている経営者さんもいらっしゃいますが、ほとんどできていないのではないでしょうか。

そもそも、社内コミュニケーションをデザインしようという視点がない会社が多い。その理由は、単なる知識不足です。知らないだけでうまくいかないのは、もったいないなと思っています。

コミュニケーション・デザインの知見が、世の中的に足りていないということですね。

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岩永

あと、戦略があっても現場で実施できる人も少ないのも課題ですね。ぜひ、多くの人にコミュニケーションを学び、実践してもらいたいなと思っています。

コミュニケーションをデザインすると生まれるメリット

コミュニケーションがデザインできると、会社にとってはどんないいことがあるのでしょうか?

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岩永

私が関わった会社の中には、営業同士でクライアントの情報や仕事の悩みを共有する場をつくったことで、売上が大幅に伸びた事例があります。生産性が上がるのが目に見えてわかりました。これは課題や会社の強みがきちんと共有されたことで、解決に向けての動きも加速したからです。

一方で、コロナを機に情報共有やめたことで、成長が止まってしまった会社もあります。

また、多様性・ダイバーシティへの対応などは、コミュニケーションがデザインできれば、もっと上手くできるはずです。

岩永

もう1社、社内コミュニケーションの良い事例があって。社員40名ほどの建設会社から、社内報を作りたいという相談を受けました。

そこで、「まず社内イベントをする際は、プロのフォトグラファーに撮影を依頼してください」と伝えました。その結果、社員のみなさんの素敵な表情をしている写真がたっぷりの社内報ができて。

建設業界は、社内報を作る文化があまりないそうです。その結果、広報活動がとても上手な会社として業界新聞にも取り上げられたそうです。

会社の目標や企業の想いがわかりやすくまとめられた社内報。社員紹介のページでは、名前と一緒に「社員の呼ばれたい名前」が書かれていて、会社の雰囲気の良さが感じられる。

岩永

社内報を作る仕事ができたことで、こういった作業が得意な社員が活躍できる機会が増え、楽しそうに働くようになったそうです。

また、採用がとてもスムーズになるなど、いい効果が生まれたとのことでした。

どちらも、すごくいい変化ですね。

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その場で生まれるコミュニケーションを変えるのは「音」

「いいコミュニケーションが生まれる場」をどういうものだと捉えていますか?

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岩永

大切なのは「同期すること」だと思っています。空間と時間を同期することで、言語以外の情報共有ができる。

たとえば、実際に会って話すときとオンライン会議では、情報量がまったく異なりますよね。

はい、取材でも違いを感じています。

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岩永

私も人間は普段の生活で五感を使い、知らないうちに様々な情報を交換しているんだなと改めて痛感しました。

そうした認知できないレベルの情報共有がチームビルディングや信頼感、一緒に何かに取り組んでいるという実感につながっていきます

岩永さんが「同期」しやすい場をつくるときに大切にしているポイントはありますか?

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岩永

キーワードは「ノイズ」ですね。特に、空間の明るさや聴こえてくる音など、普段は意識していない情報がコミュニケーションに与える影響はとても大きいと思っています。

実際、どんな工夫ができるんですか?

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岩永

私がワークショップを開くときは、必ず場に合わせたBGMを流すようにしています。

たとえば、みんなでワイワイと話をしてほしいときには、ちょっとだけアップテンポな耳慣れないリズムの音楽を選ぶ。このBGMをかける前後では、その場の空気がまったく異なります。

シーンとした空間って、しゃべってはいけないような雰囲気が生まれますよね。特に音が響きやすい空間だと、隣の人と少しおしゃべりをするのも気を使ってしまう。きっと、張り詰めた状態を崩すきっかけになりたくないという心理が働くんだと思います。

たしかに、シーンとした空間で声を出すのって勇気が必要いります。

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岩永

そこにBGMがあると、声や音を出してもいいんだという情報が共有されて、みんなが少しずつしゃべりはじめるんです。同じように光も大事です。

細かいポイントではありますが、そういうちょっとしたところをデザインするだけで、対話の生まれやすい場になります。

この日の取材場所は、岩永さんが学長を務めるテンジン大学オフィスにあるスタジオ。大きな窓から気持ちの良い光が差し込み、明るい雰囲気の中で取材が進んだ。

最初の一歩をデザインして参加意識を生み出す

ワークショップの場合、初めましての人同士特有の緊張感があると思います。そういう場での空気の作り方やコミュニケーションを円滑に進めるコツはありますか?

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岩永

細かいコミュニケーションを考えはじめると、デザインできることって本当にたくさんあります。

まず、必ず使うのが名札です。イベントでよくあるのは、名札ケースにそのまま名刺を入れるやり方。でも、会社の名刺に書かれているのって、みなさんの仮のプロフィールだと思っていて。

私がワークショップをするときは、年齢や職業、性別のようなバイアスがかかりやすい情報を可能な限り排除し、個人の魅力が出る名札を自作してもらっています

通常の名札よりも大きいA6サイズの名札。いろいろ突き詰めた結果、岩永さんの中でベストと判断したサイズだそう。呼ばれたい名前とワークショップのテーマに関連する質問項目を手書きで埋めていく。

岩永

自分で質問の答えを書くという行動は、その場に参加する意志表示。そうやって一度動き出すと、その後の行動のハードルが下がります。

まず、最初に自分が参加するという意識があることが肝心なのですね。これは、社内会議でも応用できそうです。

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会議前のチェックインで相手の意外な一面を知る

ルールやきっかけを少し作るだけで、コミュニケーションの円滑さが全然違うのだとわかりました。

社内会議のように、知り合い同士で話すときはどうすればいいでしょうか?

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岩永

僕が場に関わるときは、一言でもいいので必ず冒頭にチェックイン(ショートトーク)をしてもらうようにしています。

チェックイン、やったことがあります。

でも、いつも同じメンバーだとなんとなくマンネリになって、いつも同じだからいいかな……という雰囲気になって続かなくて。

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岩永

わかります。なので、チェックインも参加型にしていて。

話すテーマを僕が決めると、僕=場の提供者、参加者=消費者になってしまう。だから、「今日は、あなたがテーマを決めてください!」と指名して、その場に参加してもらいます

なるほど。

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岩永

このやり方なら、毎回同じメンバーが参加する会議でも、テーマによってその人の違う一面を知れますよ。そうやって、参加者のいろいろな面を知っておくことはとても大切です。

組織全体で誰が何をできるかを知っていることを指す、「トランザクティブメモリー」という言葉があります。

組織すべての情報を社員全員が把握するのは大変です。でも、「この人はあれを知っている、あの人らこんなことを知っている」という情報がわかっていれば、誰に何を相談したらよいかがわかりますよね。

そうすることで、組織の生産性が大幅に上がるという研究があるんです。

誰に聞けばいいのか分かる状態、ということですね!

ちょっと違う悩みなのですが、意見を聞いても、しーんとなってしまって。

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岩永

これも名札と同じで、まずは考えたことをそれぞれが紙に一度書き出す時間を作ることです。

何の工夫もなく、「今から話してください!」と言っても空中分解しやすい。でも、「書いたものをもとに話してください」と言えば、みんな自分の意見をきちんと話せるし、議論が進みやすくなります。

岩永

人間は環境に慣れる生き物です。

これは日本人の特性かもしれませんが、自分だけが浮いた存在になってしまうのは嫌なんですよ。だから、自分が浮いてしまうなと感じると、ちゃんと参加しはじめるんです(笑)。

その場に参加する空気をどうやって作るかが、大事なポイントだと思います。

それぞれの考えを書き出す上で、有効なツールはありますか?

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岩永

すでによく知られていますが、ポストイットですね。改めて、これはとても素晴らしいコミュニケーションツールだと思います。

「意見の内容」ではなく、誰が書いたかでバイアスがかかってしまい、意見しづらくなってしまうことってよくありますよね。

でも、ポストイットなら自分の書いた意見を貼ったり剥がしたり、自由に動かすことができる。すると、書いた人自身の人格と意見を切り離せるんです。

会社のミーティングでよく見る光景ですね。

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岩永

誰の発言か、というバイアスを完全に取り除くことは難しいかもれません。でも、一番偉い人の意見も簡単にポストイットごと動かせますから(笑)。

ポストイットは、コミュニケーションの質を上げるいいツールです。ぜひ活用してみてください。

コミュニケーション・デザインを学ぶには?

今後、コミュニケーションや対話についての学びたい方に、おすすめの書籍はありますか?

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岩永

いろいろありますが、コミュニケーションが生まれる問いの立て方や学習力の高め方、多様性への理解などの視点で、4冊あげてみました。

『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術(安斎勇樹/ディスカバー・トゥエンティワン)』、『働く大人のための「学び」の教科書(中原淳/かんき出版)』、『教えない授業 美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方(鈴木有紀/英治出版)』、『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数視点で問題を解決する組織(マシューサイド/ディスカバー・トゥエンティワン)』

岩永

多角的なインプットをしながら、ぜひ対話やコミュニケーションをデザインしてみてください。

対話やコミュニケーションに対する考え方が大きく変わりました。今日はありがとうございました。

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2023年2月取材

取材・執筆=ユウミ ハイフィールド
撮影=西澤真喜子
編集=鬼頭佳代/ノオト