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戦略デザイナーというキャリアについて考えてみる(戦略デザイナー・佐宗邦威)

戦略デザインファームBIOTOPEを経営し、「戦略デザイナー」として働いている佐宗邦威さん。戦略デザイナーの目線には、世界がどのように映っているのでしょうか。佐宗さんが仕事や普段の暮らしの中で見えたこと、考えていることを手帖を見せてもらうようにカジュアルに公開していくビジネスエッセー連載です。

戦略デザイナーのキャリアマーケットが生まれつつある

この8月、BIOTOPEに新しい戦略デザイナーが1人入社することになった。

BIOTOPEを創業してから数年、2015〜2020年代くらいはデザインコンサルティングファームの採用マーケットもあるようでないようなもの。

海外デザインスクールに留学経験のある人や、大学時代から広義のデザインの教育を受けた人の中から、インターンなどをしてもらい会社とフィットした人を採用するという形で動いていた。他の会社がどのようにしていたのかはわからないが、概ね似たようなものなのではないかと思う。

2020年過ぎたあたりで、独立系のデザインコンサルティングファームに加え、大手コンサル系の会社がストラテジスト・ビジネスデザイナーなどのタイトルで戦略デザイナーを採用するようになった。

そういった会社の採用を支援するエグゼクティブサーチや転職エージェントなども現れ、次第に戦略デザイナーのキャリアマーケットのようなものができつつある今日この頃である。

戦略デザイナーに求める3つのスキル

BIOTOPEでも、採用についてはかなり試行錯誤してきた。うちのような理念やビジョンを起点にして、新規事業やブランディングに移行していく仕事をしている会社においては、「デザイン思考」という思考OSに加えて、以下の能力が必要だと感じている。

まず一つは、ビジネスドメインスキル。大企業でもスタートアップでもいいが、事業の現場におけるビジネス感覚や組織がどう動くかの知識を持ち、かつマーケティングや商品企画、事業企画など、企画頭を持っていること。

特にBIOTOPEではビジョンという理想を扱うからこそ、逆に組織に落とし込んでいくためのロードマップも同時に頭の中で描けることが必要で、事業会社での経験を10年は積んでいる人が望ましいと思っている。

その一方で、過去の経験上、何かしらの表現スキルもあることも大切だと思う。もとはゴリゴリのビジネスマンでも、文章や詩、写真、スケッチ、音楽の演奏など、自身も何かを表現することへ興味関心が高い戦略デザイナーやビジネスデザイナーは多いし、そういう人が比較的成功しやすいイメージがある。

クリエイティブの仕事であれば尚更で、「イラストが得意」「動画制作が得意」のように強いクリエイティブ表現スキルがあることは必須になってくる。

広義のデザインも、アウトプットは、コピーライティングやストーリー、デザイン制作物などに落ちていくことが多い。だからこそ、自分自身が何かクリエイティブ表現をやった経験があると、現場のメンバーや制作会社ともスムーズにやり取りがしやすいのではないかと思う。

それに加えて、ベースのマインドセットとしてもう一つ大事だと思うのが、かけ算をできること、それを楽しむことができるスキルだ。

たとえば、アイデアを産むときには、世の中のトレンドと対象プロダクトの特性などを考えて常にかけ算をして考える。プロジェクトの組成をする際にも、チームとクライアントのメンバーの知識や経験を踏まえた上で、そこに投げ込む視点としてかけ算したら大きくなりそうなものをエキスパートインタビューのような形で入れたりする。

戦略デザイナーはゼロイチをやる仕事とは言っても、完全にゼロからイチを産んでいるケースは少ない。どちらかというと自分たちの過去の経験やアイデアを土台に、かけ算をして、思考を飛ばしながら、筋の良いアイデアを見つけ、磨きあげ、アウトプットに落とし込んでいくことが多い。

そう考えると、いろんな組み合わせを楽しめるマインドを持っていることは、土台として非常に重要だ。そして、「デザイン思考」の思考プロセス自体も、ユーザーの理解とインサイトを技術やプロダクトの価値とかけ算して生んでいくという意味で、かけ算の思考OSを学ぶものとも言えるのではないかと思う。

業界の入り口としてのデザイン教育の選択肢が増えてきた

こういう広義のデザイン教育を受けられる場も増えてきた。古くは東京大学のi.schoolや京都大学デザインスクールがある。

最近は、
・僕自身も立ち上げに関わった多摩美術大学のTCL(3カ月の社会人向けプログラム)
・京都大学・京都市立芸術大学・京都工芸繊維大学の3大学が共同で開催しているKyoto Creative Assemblage(半年の社会人向けプログラム)
・多摩美術大学・東京工業大学・一橋大学の3大学が共同で開催しているテックリ(9カ月の社会人向けプログラム)
などのプログラムが日本でも受けられるようになっている。

修士号が欲しければ、武蔵野美術大学のクリエイティブイノベーション学科(2年の大学院)というオプションもある。

以前は、海外のデザインスクールに留学しないと、ビジネスの世界の人がデザインのキャリアを切り開くのは難しかった。

しかし、最近はこういう教育機関で自分自身の適性を探った上で、デザインコンサルティングの世界にチャレンジする選択肢も増えてきているし、実際に受け入れ側であるデザインコンサルティング会社の選択肢も増えてきている。

戦略デザイナーは、「新しい未来を考え作っていく」という意味でとても前向きで楽しい仕事だ。何より企業が新しい価値を生み出す現場に居合わせられる。まさに、これからの日本を支える大事な現場を担う仕事だと思う。

事業会社でやるにせよ、デザインコンサルティングファームでやるにせよ、素敵な人に門戸を叩いてもらい、この業界をもっと盛り上げていきたいなと思う。

提供写真

アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト