働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変える。

WORK MILL

EN JP

あなたはひとり派? みんなでつくる派? 共創を始める3つの問いかけ(戦略デザイナー・佐宗邦威)

戦略デザインファームBIOTOPEを経営し、「戦略デザイナー」として働いている佐宗邦威さん。戦略デザイナーの目線には、世界がどのように映っているのでしょうか。佐宗さんが仕事や普段の暮らしの中で見えたこと、考えていることを手帖を見せてもらうようにカジュアルに公開していくビジネスエッセー連載です。

あなたは一人で作る派ですか? それとも、みんなで作る派ですか?

以前、ほぼ日がやっている「ほぼ日の學校」で糸井重里さんとの対談企画に出演したことがある。その企画の打ち合わせで、糸井さんに聞かれた。

「僕の世代だと、自分一人でクオリティの高いものを作って出すことで仕事が成り立っていた。それに対して、佐宗さんの会社BIOTOPEがやってるのは、創るのを伴走していくことですよね? それって、なんで今の時代に必要になっているんですか?」

とても、本質的な問いだ。うーん、と考えた末に出た答えが次の言葉である。

「今の時代は何が正解か、何がいいものか、というのは必ずしも自明じゃない時代ですよね。そんな中で、『自分たち』にとっての正解を作っていくことが大事になってきているし、一緒に創ることでしか自分たちの正解にならないから、そのプロセスを納得して前に進めることが大事になってるのではないでしょうか? それに、いろいろな意見がある中で一緒に創るのって、意見の対立が起こりやすい。だから、伴走する相手が大事になっているのではないでしょうか?」

さすが、糸井さん。とても本質的な問いに答えてみた時に、自分の中で出てきた答えには納得感があった。確かに、今の時代、「共に創っていく」プロセスが大事になってきている。

2000年代から今に至る「共創」の変化

よくよく考えてみると、現在のデザインファームの仕事の中で、明らかに伸びてきている需要の一つが、「共創」だ。

そもそも、BIOTOPEは自分たちのことを共創型戦略デザインファームと呼んでおり、共創を生み出すことは自分たちがお客さんに提供できるコアの価値の一つだ。

最近のプロジェクトでも、最近は大手ディベロッパーさんや建築系の会社さんが運営する共創スペースや、コンソーシアムなどの共同事業における共創を支援するという形で実施されるプロジェクトもどんどん増えている。

実は僕の共創歴は結構長い。思えば、まだ共創という言葉が全く世の中で浸透していなかった2008年頃。みんつく工房という共創マーケティング勉強会を立ち上げ、新しい形のマーケティングを模索する有志の友人と一緒に共創の手法を研究していたのがその始まりだ。

当時支援していた、今では福岡の代表的なIT会社に成長した株式会社ヌーラボさんのプロジェクト管理ツール「Backlog」のマーケティング支援として「ユーザーの集い」なる共創ワークショップを企画し、開発者とユーザーがサービスの改善点や未来の進化のビジョンについて、直接話し合う場を運営したりしていた。

BIOTOPEを立ち上げまで働いていたソニーでも、友人が立ち上げたPartyshotというデジカメ関連商品の未来の商品企画やマーケティングを考えるワークショップを非公式で実施。まだ、大きな会社では理解されない先進的な取り組みを、マイプロジェクトとしてこっそり実験していた。

そうやってアングラで実験しているうちに、2010年代になった。少しずつ「共創=Co-creation」という言葉が知られるようになってきつつも、デザイン思考が知られ始めた。前回にも書いたエスノグラフィのようなユーザーの生活に深く迫る調査手法がイノベーションプロセスに取り入れられ、ユーザーのインサイトをもとにデザイナーとクライアントが一緒に新しいイノベーションをプロトタイピングしていくようなプロジェクトが多かった。

2020年代中盤くらいから、次第にユーザーと作り手を分けずに、一緒に作っていく共創的な取り組みがより一般的になってきた。特に、B to B系の会社がデザイン思考を取り入れる際に、クライアントとの共創によって、プロジェクトのスコープを規定したり、ソリューションを一緒に作ってったりするようになって、デザイン思考の中でも共創が使われるようになった。

そして最近では、ユーザーのインサイトを理解するデザイン思考的なアプローチ以上に、共創的なアプローチが求められている感覚がある。

「共創」はネットワーク化により不可欠になってきた

今、共創的なアプローチが求められているのは、どうしてなのだろうか?

共創のニーズの背景にあるのは、インターネットによってインタラクティブな情報のやりとりをする必要が出てきたことと関係があると思う。インタラクティブとは、相互が対等な立場としてやりとりをすることだ。

ネットワーク化した時代においては、上記のような双方向の矢印の中から、新しいアイデアや取り組みが生まれることが価値づくりの基本となりつつある

この動きは、2000年代にインターネットが本格的に社会に普及し、2010年代にSNSが日常化していく中でまずプライベートの生活で自然に広がった。

そして、DXが広がっていく中で、2020年代では仕事の環境としてもインタラクティブなコミュニケーションが当たり前になりつつある。プライベートでも仕事でもオンラインで常に世界中と繋がっている時代になった以上、共創的なコミュニケーションが増えていくのも必然なのだと思う。

共創の条件・マインドセット・問いかけ

でも、皆さんは「共創ってどうやったらいいのか?」と言われたら、うーん、と頭を抱える人が多いのではないかと思う。

実際、共創って非常によく聞く言葉ではあるけど、共創が何で、どうやったらうまくできるのかって意外と言語化されていない。せっかくなので、この問いを考えてみようと思う。共に創ることの条件は、次の3つだと思う。

●共に創ることの条件

1. お互いが共通で見ている(一人では実現できない)ビジョンが共有され
2. 違う能力を持った人同士が、
3. お互いの持っている能力を掛け算すること

この前提として以下の3つのマインドセットが必要になる。

●共創のためのマインドセット

1. 相手の将来やりたいことを引き出そうとすること
2. 相手の自分には持っていない能力を探そうとすること
3. お互いの能力や強みを掛け算することで何が生まれるかを想像してみること

共創の最小単位は、2人がいた時に、お互いの能力を掛け算して新しい何かを生むことだ。これはやろうと思えば、日常の会話の中でもエクササイズできる。

そこで、共創ではない会話と、共創的な会話の違いを考えてみることで、共創が何かの輪郭をイメージしやすくしよう。

●共創的ではない会話

1. お互いの会話には明確な合意された落とし所がある(逆に“暗黙的に”)合意された落とし所)を越えたり、外れようとしたりはしない

2. お互いがお互いに提供できる明確なメリットだけを見る。会社の部署の役割や、そこで現在やっている仕事の範囲を見る。

3. お互いが合意できる最小公倍数を見つけようとする。

こう書いてみると、多くのビジネスの会議のお作法はこの共創的ではない会話ではないだろうか。むしろ、ちゃんと準備した会議はこういう形の会話になることが多い。

ただ、ちょっとした工夫でこれを共創的な会話にすることができる。大事なのは、この会話にいくつかの問いかけを活用することだ。

共創的な会話にするための問いかけ

1.    お互いの会話の先に、共有できるビジョンを発見する
問いかけ:あなたが、本当はこうなったらいいなと思っていることってどういうことですか?

2.    相手の役割を超えて、隠れた能力を探そうとする
問いかけ:あなたが、自由になったらやりたいなと思っているテーマってどのようなものですか?
問いかけ:実は、自分が興味持っているテーマやトピックってありますか?

3.    お互いの能力や強みを掛け算することをトライする
問いかけ:僕らが、一緒にやることで、何か新しく生まれそうなことってありますか?

僕の周りで共創が得意な人。たとえば、人と人をつなげて1時間の会話の中から新しい企画を産んでしまう人は、人との会話の中で共通してこういう問いかけを随所に挟んでいる気がする。

もちろん共創を本格的に進めていくときには、個人対個人の会話だけでは十分ではない。

場全体で共創を生み出していくときには、さまざまなステークホルダーを巻き込んだワークショップが有効だし、そういうワークショップを設計するときには、共通の文脈や心理的に安全な場づくり、だんだん深まっていく問いかけのプロセスなど綿密に設計する必要がある。

特に、共創では一緒に創っていくプロセスそのものを共通体験とすることが大事。話している文脈を可視化して、全員にわかりやすく見える化することは、プロの仕事としては非常に重要だ。

BIOTOPEのワークショップで、起こっている課題を全員で共有できるシステム図やグラフィックレコーディングを描いて、それらを元に議論をする。文脈を可視化することでより文脈の共有が進むと考えているからだ。

しかし、これらは誰もができることではない。それを前提とすると、共創というのはとてもハードルが高いものだと感じられてしまう気がする。

一方で、前提として日常的に先ほどあげた共創的なマインドを持って過ごすだけでも、意外と変化が生まれる

さらに毎日、あなたが会う人と常に共創的な関係を築くようにしつづければ、結果的には自分が想像もしていなかった成長を遂げたり、価値を生んだりできるんだと思う。ぜひ、日常の誰かとの会話の時に、先ほど紹介した3種類の問いかけを使ってみてほしい。

共創の力で思ってもみなかった世界へ

「早く行きたければ一人で行け。遠くに行きたければみんなで行け」

という有名な格言がある。(読み人は知らない)

一人で作るというのは、ある意味、落とし所が自分の中で明確な道を歩んでいくことだ。それに対して、共創をすると自分が思ってもいなかった世界に足を踏み入れることができる。

僕はそんな「自分が想像もしなかった世界に行けるかもしれない共創」が好きだし、BIOTOPEで仕事をするお客さんには「自分たちが想像もしていなかったところに行けた!」という自信と気持ちよさを味わってほしいなと思って仕事をしている。

日常の中で、少しでも共創、始めてみませんか?

アイキャッチ制作=サンノ
編集=鬼頭佳代/ノオト