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「つながらない権利」をどう守る? 営業管理ツールcyzenの事例に見る日本の職場が抱える課題

慣れ親しんだ自宅で仕事ができるリモートワーク。その快適さから、リモートワークに取り組んだ人の70%以上が継続を希望しているという調査もあります。(リクルートワークス研究所)

その一方で、「仕事とプライベートの境界線があいまいになる」「時間に関係なく家で仕事の連絡を受けてしまう」「休憩がしづらい」といった問題も。そんなふうに世界中が働き方を変える今、ヨーロッパを中心に注目されているのが「つながらない権利」です。

スマホで使える営業活動管理サービス「cyzen」では、退勤後の社員に連絡が取れなくなる機能を実装。「つながらない状態」が確保できたことは、サービス利用者からも好反応を得ているそう。

今回はそんな「cyzen」を開発するレッドフォックス株式会社・代表取締役社長の横溝竜太郎さんと営業部 マーケティング担当の横田崚平さんに、現場から見た「つながらない権利」のリアルと課題をお聞きしました。

―横溝竜太郎(よこみぞ・りゅうたろう)
レッドフォックス株式会社 代表取締役社長
ヤマハ発動機株式会社においてブランドマネジメント、マーケティング、新規事業構築、事業企画、役員秘書などに携わる。2016年にレッドフォックス入社、マーケティング・PRの責任者を務め、2018年3月に取締役COO、2022年3月より現職。

―横田崚平(よこた・りょうへい)
レッドフォックス株式会社 営業部 マーケティング担当。2021年9月からインターンとして働いていたレッドフォックスに2022年4月新卒入社。Webサイト・SNS・広告運用といったマーケティングを担当している。

「つながらない権利」が注目されはじめた理由

そもそも「つながらない権利」とは、どういうものなのでしょうか?

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横田

簡単にいうと、「メールや電話を受信しても、就業時間外であれば従業員側で対応を拒否できる権利」です。

IT技術の発達によって働き方の自由度が高まった一方で、仕事とプライベートの境目があいまいになりつつあります。その反発が強まったことで、「つながらない権利」の概念が生まれたと考えられます。

休日や時間外でも簡単に連絡できるようになった半面、弊害も出てきた、と。コロナ禍以降はリモートワークが浸透しましたが、その影響もあるのでしょうか?

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横田

正確には、コロナ禍より前から「つながらない権利」を法律にする動きが始まっています。最初はフランスで、2017年に法制化されました。2018年には、「つながらない権利」を尊重しなかった会社に罰金の支払いを命じる判決が出されています。

コロナ禍が始まった2020年以降はその動きが加速し、メキシコやイギリス、ベルギーなど世界各国へ広がっています。

5年前から存在していたけど、コロナ禍でより注目され始めた、と。

しかし、日本ではまだあまり進んでいない印象です。

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横田

法制化はまだですが、日本も「つながらない権利」を大切にする方向へ少しずつ進んでいますよ。

2021年に厚生労働省が出した『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』の中で、「時間外、休日又は所定外深夜のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切ではない」と言及されています。

ちなみに現行の制度でも、「業務時間外に対応したのに、残業代が支払われない」「時間に関係なくいつでも上司からの連絡に備えるように、といった業務命令をしたにもかかわらず、労働時間に加算されない」などの行為は、違法になる可能性があるとされているんです。

日本で「つながらない権利」が浸透しない理由

就業時間外にメールや電話連絡をすると、どのような不都合・デメリットが発生するのでしょうか?

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横田

帰宅後や休日に仕事の指示や質問の対応に追われるなど、従業員の仕事時間が物理的に増えてしまいます。労働時間の増加という目に見える範囲でも、従業員にはデメリットが存在します。

それに加え、プライベートと仕事の境目があいまいになることで、仕事との「心理的距離」を取ることが難しくなるなど、心理的な影響もあるでしょう。

「翌日への仕事から心理的に離れられていないと、疲労回復に重要な深い眠りの時間が短くなる」「勤務時間のインターバルが長くても、仕事メールの頻度が多いと疲労回復の効果が弱まる」という調査結果もあります。

つながりやすくなったことで、「休日でも常に電話やメールを気にしながら過ごす」「気が休まらない」といった状況になってしまう、と。

WORK MILL

横溝

特に上司・部下の人間関係が心理面に与える影響は大きいですよね。その上下関係がプライベートの領域まで侵食してくると、苦痛のレベルがさらに上がってしまいます。

一方で、企業側の視点ではどうですか?

WORK MILL

横田

「残業代が発生するのに支払っていない」「契約で決められた労働時間をオーバーしているのに認識していない」などは、もちろん法律に違反する可能性が出てきます。

ただ、電話やメールの対応も仕事の時間に含まれるという認識が薄い企業もあるかもしれません。

「就業時間外だけど、5分電話するぐらいはいいだろう」とはならない、と。

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横田

そうですね。現行の法制度でも、原則として労働時間が1分でも発生したら、その分の賃金を支払わなければならないとされています。

電話対応やメールの時間もれっきとした労働時間ですし、仮に内容が仕事に関する指示だった場合、対応する時間にも残業代が発生することを認識しておかなければなりません。

日本ではまだ「つながらない権利」が浸透していません。その理由はどのあたりにあると感じますか?

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横田

おもに以下の4つが挙げられます。

  1. 仕事とプライベートの境目があいまい
  2. 上司が部下に指示するなど、上下関係による義務感
  3. 特定の社員のみ知っている情報が多く、仕事が属人化している
  4. オフでも仕事をしたい層が一定数いる

横溝

とくに属人化は、大きな原因の一つです。例えば、Aさんが急にお休みをとり、Bさんが代わりに業務にあたるとしましょう。

しかし、Aさんが持っている情報が共有されていないと、「Aさんに電話して聞かないと、Bさんの仕事が進まない」といった事態が起こります。

また日本は、欧米に比べて労働の義務と権利のルールがあいまいに捉えられがちです。上司としては「たとえ休みでも、部下に電話するくらいいいだろう」となってしまうのです。

確かに、従業員も「なんとなく対応せざるを得ない」というケースが多いような気がします。

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