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「つながらない権利」をどう守る? 営業管理ツールcyzenの事例に見る日本の職場が抱える課題

「つながらない機能」とはどんなもの?

営業活動管理アプリ「cyzen」の開発を手掛ける御社には、「つながらない権利」に関してどんな課題や要望が寄せられていますか?

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横溝

「勤務時間外でも電話には出るように」という文化は、まだ多くの組織で残っています。とくに営業は、お客様からの要望へ緊急対応しなければならない、という考え方が広まっている会社もあるでしょう。

しかし、そこには就業規則違反のリスクがあります。人事や総務の立場としては、その文化を仕組みで解決できないか、という要望はありますね。

業種・業態によって違いはありますか?

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横溝

店舗を運営している企業では、協力会社の社員やアルバイトスタッフに連絡を取る機会が発生します。会社からデバイスを支給していない場合、プライベートの携帯電話やスマホに連絡せざるをえません。

その際、「アルバイトスタッフ個人のスマホを業務に使うのは問題ないのか?」という議論がよく挙がります。

アルバイトに専用デバイスを持たせると、会社としては経費がかかる。一方で、私用のスマホを業務に使っていいのか? 業務時間をどう切り分けるのか? という問題も出てくる、と。

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横溝

仕事とプライベートの境界線が、よりあいまいになってしまいますからね。

「BYOD(Bring Your Own Device)」という言葉があります。これは新たにデバイスを支給するのではなく、私用のスマホなどを業務でも活用しようという発想です。

従業員側としては複数デバイスを持ち歩いたり、使い分けたりする煩わしさから開放される反面、「つながらない権利をどうするのか?」という問題はさらに複雑化します。

「cyzen」は業務時間外につながらない機能を提供していると聞きました。つながらない権利にどう対応しているのでしょうか?

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横溝

cyzenは位置情報を活用した営業活動管理ツールです。各従業員がいまオフィスにいるのか、営業先にいるのかがユーザー同士、一目でわかります。

横溝

もし勤務中であれば、内線ボタンを押すだけで電話やビデオ通話がつながり、アプリ内で連絡がとれます。

しかし、「退勤済み」あるいは「業務修了」など任意に設定した特定のステータスにしておけば、電話やビデオ通話が自動でつながらなくなるという仕組みです。

横溝

ちなみに、すべてアプリ内で完結するので、私用のスマホを使っていても、個人の電話番号を仕事の関係者に教える必要はありません。

また、チャットにおいても相手が勤務中か、勤務外かを識別できます。

出勤・退勤は本人が操作するのですか?

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横溝

そうです。押し忘れさえしなければ、業務時間外は連絡できなくなります。

「9〜18時まで」など、決められた時間内だけつながる機能かと想像していました。

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横溝

もし決められた時間で自動出勤・自動退勤にすると、「体調が悪くても必ず電話に出なさい」となってしまうんです。

業務時間内であっても「電話に出る/出ない」は受信側に権利がありますから。そこはやはり本人の意思が必要になります。

「つながらない機能」をリリースしたあと、どのような反響がありましたか?

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横溝

業務時間外は仕組みとして全くつながらないので、「プライベートを侵される心配がなくなった」という声を聞いています。特に店舗管理や大きな施設を運営している企業からの反響が大きいですね。

多様な働き方に合わせた仕組みづくりが重要

今後、日本でも「つながらない権利」が浸透していくのでしょうか?

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横溝

法整備がいつ・どこまで進むかは大きなカギとなるでしょう。具体的には、就業規則に「つながらない権利」を盛り込んだガイドラインを作り、各企業へ普及させていくことが必要だと思います。

もう一つ、ツールやシステム側の「つながらない権利」への対応も重要なポイントです。

最近ではチャットツールが広く使われていますが、業務時間外に連絡できなくなる機能がより浸透したら、いろいろ発想が切り替わっていくかもしれませんね。

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横溝

はい。お客様情報やクライアント単位の細かい約束事をまとめたデータベースを作成するなど、情報共有の仕組み化が進むはずです。そうしないと困ってしまうので。

ただ、新しいシステムの導入には、反発も出てくるのでは?

WORK MILL

横溝

開発及びサービス提供会社の目線で言えば、細かい説明が必要なツールは、現場ではなかなか使われませんね。「週末に書いたメールが、このボタンを押せば今すぐではなく月曜の朝に届く」くらい簡単にならないとダメ。

そこはツール側も積極的な取り組みが求められます。

「つながらない権利」を浸透させるために、私たちが意識すべきことは?

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横溝

上司の立場でいえば、例えば業務時間外にメールするとしても「これは返信不要です」、「○日以降に見てください」といった見出しをつけるなど、部下にプレッシャーをかけないようにすることが大切です。

上司としては、忘れないうちに共有しておきたい重要事項などがあるでしょう。その場合も、基本的には自動配信や時間設定機能などを使い、業務外に連絡することを無くす配慮が必要です。

やはり「休日でも、上司から電話かかってきたら出るべきだ」「業務時間外も連絡を取れるように」といった考えを持っている人はまだ少なくありません。そこは、上司側が発想を切り替える必要があります。

なるほど。では、部下はどうすればいいのでしょうか?

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横溝

仕事への評価が賃金に紐づいていると、やはり本当に連絡に出なくてもいいのか、と心配になりますよね。

しかし、今後は部下側からも「業務時間内までは対応するけど、これ以上はできません」といった、境界線をはっきりする働きかけが重要となるでしょう。

上司・部下関係なく、従業員全員で多様な意見を受け入れる雰囲気やコミュニケーションを醸成しなければなりません。それが日本型の「つながらない権利」において重要なポイントだと思います。

横田

会社として「こういうルールを設定しましょう」というより、個人に合わせた仕組みを作っていくことが必要ですね。

会社側としては、同じルールで一律に管理したいのが本音かもしれません。しかしこれからは、多様な価値観に合わせていく努力が必要である、と。

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横溝

業務委託や副業など、多様な働き方が広まっています。「つながらない権利」も含めて、それぞれが協力しながら仕事をできる体制が、徐々に構築されていくのではないでしょうか。

多様性の文脈でも、今から「つながらない権利」への対応を検討しておくべきだと思います。

2022年5月取材

取材・執筆:村中貴士
編集:鬼頭佳代(ノオト)